労働者災害補償保険は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)に基づき、休業補償給付、休業給付(以下、これらを合わせて「休業補償給付等」という。)等の保険給付等を行うものである。労災保険法によれば、休業補償給付等は、業務上又は通勤による傷病に係る療養のため労働することができない労働者がその支給の原因となった傷病と同一の事由により、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)の規定による障害厚生年金又は国民年金法(昭和34年法律第141号)の規定による障害基礎年金の支給を受ける場合には減額して支給することとされている(以下、これらの取扱いを「併給調整」という。)。そして、厚生労働本省は、労災保険法に基づく年金給付(以下「労災年金」という。)については、日本年金機構(以下「機構」という。)との間で協定を締結して、機構から障害厚生年金、障害基礎年金等の受給権者情報(以下「年金等受給権者情報」という。)の提供を受けて、同本省が保有する労災年金の受給者データと年金等受給権者情報とを照合して、併給調整を行う必要があるか否かなどについて確認を行うべき者(以下「併給調整の確認対象者」という。)を抽出したリストを作成し、労働基準監督署(以下「監督署」という。)に対して配信している。しかし、休業補償給付等の支給決定に当たり、労災年金のように、併給調整の確認対象者を把握するための仕組みが構築されておらず、監督署の審査担当者等の個別的な判断により併給調整の確認対象者を把握しているため、併給調整が適正に行われず、その支給が適正となっていない事態が見受けられた。
したがって、厚生労働省において、休業補償給付等の併給調整に係る事務を適切かつ効率的に行うために、機構との間で締結している協定を改正するなどし、休業補償給付等の受給者データと年金等受給権者情報とを照合し、併給調整の確認対象者を抽出するなどして、それらの者に係る情報を監督署に配信するなどするとともに、都道府県労働局に対して、監督署が上記の情報を活用するなどして併給調整の確認対象者を適切に把握することなどについて指導するよう、厚生労働大臣に対して平成27年10月に、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を求めた。
本院は、厚生労働本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、厚生労働省は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。
ア 日本年金機構法(平成19年法律第109号)第38条の規定に基づき機構から年金等受給権者情報の提供を受け、休業補償給付等の受給者データと年金等受給権者情報とを照合し、併給調整の確認対象者を抽出するなどして、28年4月からそれらの者に係る情報を監督署に配信することを開始し、今後も毎年これらを継続していくこととした。
イ 28年4月に通達等を発出し、都道府県労働局に対して、監督署が上記の情報を活用して併給調整の確認対象者を適切に把握することなどについて指示した。