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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(2)都市防災総合推進事業における防災情報通信ネットワークの設備について、耐震性が確保されていない建物等に設置されているなどのものを地震発生時に有効に機能させるために必要な措置を講ずるための計画を策定させるよう適宜の処置を要求し、設備の設置場所の耐震性を確保しなければならないことを周知するよう是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費
(項)東日本大震災復旧・復興推進費 等
東日本大震災復興特別会計
(組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費
部局等
15都道府県
交付金等の根拠
予算補助、東日本大震災復興特別区域法(平成23年法律第122号)
補助事業者
事業主体
市59、区9、町25、村2、計95事業主体
都市防災総合推進事業の概要
市街地の防災性の向上及び被災地の早期復興を図るため、都市の防災構造化、被災地における復興まちづくりなどを総合的に推進するもの
検査の対象とした20都道府県管内における防災行政無線の設備の基数及び交付金等交付対象事業費
14,093基   251億0179万余円(平成20年度~27年度)
上記に対する交付金等相当額
126億5229万余円
耐震性が確保されていない建物等に防災行政無線の設備を設置した事業主体数及び設備の基数
27事業主体 87基
上記に係る工事費相当額
4億9284万余円(平成21年度~27年度)
(交付金等相当額  2億4046万円)
耐震性が確保されていない建物等に設置されている親局から防災情報を受信する屋外拡声子局等の設備を設置した事業主体数及び設備の基数
4事業主体 732基
上記に係る工事費相当額
19億7786万余円(平成21年度、24年度~27年度)
(交付金等相当額 11億2550万円)(背景金額)

(「防災行政無線の親局の設備を耐震性が確保されていない建物に設置していたもの」参照)

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

都市防災総合推進事業における防災情報通信ネットワークの整備について

(平成28年10月20日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 都市防災総合推進事業の概要等

(1) 都市防災総合推進事業の概要

貴省は、都市防災推進事業制度要綱(平成20年国都防第76号)、社会資本整備総合交付金交付要綱(平成22年国官会第2317号)、東日本大震災復興交付金制度要綱(平成24年国官会第2357号等)等(以下、これらを合わせて「要綱」という。)に基づき、平成20年度から、市街地の防災性の向上及び被災地の早期復興を図るために、都市の防災構造化、被災地における復興まちづくりなどを総合的に推進する都市防災総合推進事業(以下「都市防災事業」という。)を実施する地方公共団体等に対して、社会資本整備総合交付金等を交付している。

要綱によれば、地方公共団体等は、都市防災事業として、地区の防災性向上や大規模な災害により被災した地区における復興のために、防災上緊急に整備する必要があるなどの施設、防災まちづくりの拠点や災害時の活動拠点として機能する施設等の整備等を行うこととされている。そして、市区町村が地震防災対策として今後5年間で緊急に整備すべき事業に関する計画として策定した「地震に強い都市づくり推進五箇年計画」に基づく場合は、交付対象施設の特例として、災害時の情報通信を確保するために情報の送受信等を行うのに必要な施設(以下「防災情報通信ネットワーク」という。)を都市防災事業で整備することができるとされている。

(2) 防災情報通信ネットワークとして整備した防災行政無線の設備の設置場所

建物の耐震設計のための基準(以下「耐震基準」という。)は、建築基準法(昭和25年法律第201号)、建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)等において示されており、同施行令は、建物の耐震性を向上させるため昭和56年に改正されている(以下、この改正後の耐震基準を「新耐震基準」といい、改正前の耐震基準を「旧耐震基準」という。)。また、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(平成7年法律第123号)等によれば、旧耐震基準に基づき建設されている建物のうち、大規模な地震が発生した場合にその利用を確保することが公益上必要な建物の所有者は、当該建物について、耐震診断を行い、その結果を都道府県知事等へ報告しなければならないとされており、耐震性の向上を図る必要があると認められるときは、耐震改修を行うよう努めなければならないとされている。

そして、都市防災事業により整備される防災情報通信ネットワークは、「地震に強い都市づくり推進五箇年計画」の一部として定められた防災情報通信ネットワークに係る整備の計画(以下「整備計画」という。)に基づくものであり、地震発生時における迅速な避難等に必要な情報を伝達するためのものである。このため、防災情報通信ネットワークの整備として防災行政無線の設備を建物に設置する場合は、地震発生時に有効に機能するよう、新耐震基準に基づき建設されている建物又は耐震診断により耐震性が確保されていることが確認できている建物に設置する必要がある。

また、防災行政無線は、防災情報の発信元である親局から、各地に配置されている屋外拡声子局(以下「子局」という。)等に対して防災情報を送信して伝達し、子局等が周辺地域に対して拡声放送等を行うものであるため、親局が地震発生時に破損したり、操作できなくなったりした場合には、親局から子局等へ防災情報の送信ができなくなるなど、防災情報を伝達するためのネットワークとして十分に機能しなくなる。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、防災行政無線の設備は地震発生時に機能するよう適切な場所に設置されているかなどに着眼して、20都道府県(注1)管内において、95市区町村が平成20年度から27年度までの間に設置した防災行政無線の親局の設備72基、子局等の設備14,021基、計14,093基(交付金等交付対象事業費計251億0179万余円、交付金等相当額計126億5229万余円)を対象として、防災行政無線の設備の設置状況について、都市防災事業計画、地震に強い都市づくり推進五箇年計画等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
20都道府県  東京都、北海道、大阪府、宮城、福島、埼玉、千葉、神奈川、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、奈良、和歌山、広島、徳島、愛媛、高知各県

(検査の結果)

12市区(注2)の防災行政無線の親局の設備2基、子局等の設備23基、計25基(工事費相当額計1億9922万余円、交付金相当額計1億0543万余円)は、各市区の整備計画により、旧耐震基準に基づき建設され、耐震診断の結果、地震の震動等に対して倒壊等する危険性が高いなどと判定された耐震性が確保されていない建物に設置されていた。また、20市区町(注3)の防災行政無線の親局の設備2基、子局等の設備60基、計62基(工事費相当額計2億9361万余円、交付金等相当額計1億3502万余円)は、各市区町の整備計画により、旧耐震基準に基づき建設されているのに耐震診断が行われておらず耐震性が確保されているか確認できない建物に設置されていた。

このため、これらの27市区町(注4)における防災行政無線の設備計87基(工事費相当額計4億9284万余円、交付金等相当額計2億4046万余円)は、地震発生時に建物が倒壊等することにより、破損したり、操作できなくなったりするおそれがある状況となっていた。

また、前記の耐震性が確保されていない建物に設置されている親局の設備2基及び耐震性が確保されているか確認できない建物に設置されている親局の設備2基、計4基を設置した4市町(注5)は、子局等の設備計732基(工事費相当額計19億7786万余円、交付金等相当額計11億2550万余円)を、耐震性が確保されている建物等に設置していた。しかし、地震発生時に、親局が、破損したり、操作できなくなったりすると防災情報の送信ができなくなることから、防災情報を伝達するネットワークの設備であるこれらの子局等は、親局からの防災情報を受信して、周辺地域に対して拡声放送等を行うことができなくなるなどのおそれがある状況となっていた。

このように、27市区町が設置した親局、子局等の設備計819基(工事費相当額計24億7071万余円、交付金等相当額計13億6596万余円)について、地震発生時に有効に機能しないおそれがある事態が見受けられた(表参照)。

(注2)
12市区  相馬、八潮、市川、日野、半田、東大阪、鳴門、阿南、西条、西予、香南各市、大田区
(注3)
20市区町  和光、新座、伊那、東大阪、阪南、奈良、新宮、福山、鳴門、阿南、西予、室戸、香南各市、葛飾区、釧路郡釧路、安房郡鋸南、足柄下郡湯河原、東牟婁郡串本、安芸郡海田、海部郡美波各町
(注4)
27市区町  相馬、和光、新座、八潮、市川、日野、伊那、半田、東大阪、阪南、奈良、新宮、福山、鳴門、阿南、西条、西予、室戸、香南各市、大田、葛飾両区、釧路郡釧路、安房郡鋸南、足柄下郡湯河原、東牟婁郡串本、安芸郡海田、海部郡美波各町
(注5)
4市町  相馬、新宮、香南各市、安芸郡海田町

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

東京都大田区は、平成22年度から26年度までの間に、防災行政無線の親局の設備1基、子局等の設備609基、計610基を整備するなどの工事を、工事費計11億1614万余円で実施している。これらの工事は、災害発生時に区内全域に避難勧告するなどのために、同区の区役所本庁舎に親局の設備を、また、災害時の避難所等の施設に子局等の設備を設置するものである。

しかし、子局計2基(工事費相当額計766万余円、交付金相当額計383万余円)の設備が設置された仲六郷保育園の建物(昭和44年建設)及び蒲田西特別出張所の建物(昭和41年建設)は、同区が平成8年度に行った耐震診断の結果によると、建物の耐震性能を数値化した構造耐震指標が目標値0.75に対して、それぞれ0.35及び0.51となっていて、地震時における耐震性が確保されていない状況となっていた。

表 地震発生時に有効に機能しないおそれがある防災行政無線の設備

(単位:基)
都道府県名 市区町名 耐震性が確保されていない建物に設置されている防災行政無線の設備 耐震性が確保されているか確認できない建物に設置されている防災行政無線の設備 耐震性が確保されていない建物等に設置されている親局から防災情報を受信する設備
親局 子局等 親局 子局等 子局等
北海道 釧路郡釧路町 1
福島県 相馬市 1 467
埼玉県 和光市 2
新座市 1
八潮市 1
千葉県 市川市 1
安房郡鋸南町 1
東京都 大田区 2
葛飾区 2
日野市 1
神奈川県 足柄下郡湯河原町 4
長野県 伊那市 2
愛知県 半田市 1
大阪府 東大阪市 6 14
阪南市 1
奈良県 奈良市 1
和歌山県 新宮市 1 97
東牟婁郡串本町 4
広島県 福山市 1
安芸郡海田町 1 22
徳島県 鳴門市 2 18
阿南市 1 3
海部郡美波町 1
愛媛県 西条市 5
西予市 2 2
高知県 室戸市 1
香南市 1 1 1 146
27市区町 2 23 2 60 732
(12市区) (20市区町) (4市町)

(是正及び是正改善を必要とする事態)

防災行政無線の設備が、耐震性が確保されていない建物又は耐震性が確保されているか確認できない建物に設置されているなどして、地震発生時に有効に機能しないおそれがある事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、地方公共団体等において、防災行政無線の設備の設置場所に係る耐震性の確保の必要性についての理解が十分でないことにもよるが、貴省において、地方公共団体等に対して、都市防災事業により整備する防災情報通信ネットワークが地震発生時に有効に機能するために、その設備を設置する建物の耐震性を確保しなければならないことを周知していないことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

貴省は、今後も、市街地の防災性の向上及び被災地の早期復興を図るために、都市防災事業により、都市の防災構造化、被災地における復興まちづくりなどを総合的に推進する地方公共団体等に対して、社会資本整備総合交付金等を交付していくことが見込まれる。

ついては、貴省において、防災行政無線が地震発生時に有効に機能するよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

  • ア 27市区町に対して、防災行政無線の設備のうち耐震性が確保されていない建物等に設置されている設備について、地震発生時に有効に機能させるために、耐震診断、設備の移設等の各設備に応じた必要な措置を講ずるための計画を策定させること(会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求するもの)
  • イ 地方公共団体等に対して、都市防災事業により整備する防災情報通信ネットワークを地震発生時に有効に機能させるために、その設備の設置場所に係る耐震性を確保しなければならないことを周知すること(同法第34条の規定により是正改善の処置を求めるもの)