国土交通省は、下水道法(昭和33年法律第79号)等に基づき、下水道事業を行う地方公共団体等(以下「事業主体」という。)に対して、毎年度、多額の社会資本整備総合交付金等を交付している。そして、事業主体は、雨水を排除するための雨水管等の整備として、道路を開削して函渠(かんきょ)を埋設し、その埋戻し、舗装の復旧等を行う工事(以下「函渠埋設工事」という。)を多数実施している。
函渠埋設工事を行う場合は、道路法(昭和27年法律第180号)等によれば、道路占用の許可(以下「占用許可」という。)を道路管理者から受ける必要があるとされ、占用許可の申請に当たっては、下水道管等の道路の占用場所、下水道管等の構造、道路の復旧方法等を記載した申請書(以下「占用許可申請書」という。)を提出しなければならないとされている。また、必要によりこれを補足するための位置図、施設の構造図等の添付書類を道路管理者に提出することとされている。
事業主体は、函渠埋設工事の設計を「下水道施設計画・設計指針と解説」(社団法人日本下水道協会編。以下「設計指針」という。)等に基づき実施している。
設計指針によれば、函渠の埋設に当たっては、適切な流速を確保するために必要な勾配としなければならないとされ、函渠を埋設する位置及び函渠を埋設する道路表面から函渠頂部までの深さ(以下「埋設深さ」という。)は、公道に埋設する場合は道路管理者と協議しなければならないとされている。そして、最小の埋設深さの決定に当たっては、路盤厚、占用許可の条件等を考慮して適切な埋設深さとする必要があるとされている。
道路の構造は、道路法によれば、当該道路の交通状況等を考慮して、安全かつ円滑な交通を確保することができるものでなければならないことが原則とされている。そして、舗装の構造は、「舗装の構造に関する技術基準・同解説」(社団法人日本道路協会編)によれば、道路管理者は、自動車の交通量が少ない場合その他の特別の理由がある場合においても、道路の状況と交通の状況を勘案して、可能な限り、安全かつ円滑な交通を確保することができる構造とするよう努めるべきであるなどとされている。また、道路管理者は、道路法の原則に従って、道路に下水道管等を埋設しようとする事業者に対して路面の機能を損なわないよう指導する必要があるとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、函渠埋設工事において、道路の復旧について事業主体と道路管理者との間で十分な協議が実施されているか、道路の復旧により路面の機能は損なわれていないかなどに着眼して、27都道府県(注1)の181事業主体が実施し、平成25年度から27年度までの間にしゅん功した函渠埋設工事計645件(工事費計534億4517万余円、交付金交付額計245億4955万余円)を対象として、占用許可申請書、設計図書等の書類及び現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
181事業主体が実施した函渠埋設工事計645件のうち、73事業主体が実施した165件の工事は、占用許可申請書等において、道路の復旧について路面の機能を開削前の機能と同等にすることとしており、路面の機能を損なわないとする内容で事業主体が占用許可の申請を行い、道路管理者の許可を受けていた。しかし、これらの工事について、設計図書等により確認したところ、函渠が舗装の一部である路盤等に入り込む設計となっており、開削前と同じ舗装厚又は道路管理者が定めた道路の復旧に係る基準に基づいた舗装厚(以下、これらの舗装厚を「開削前舗装厚等」という。)とはなっていなかった。
そこで、上記165件の工事についてみたところ、33事業主体が実施した83件の工事は、事業主体において道路管理者と協議を実施して、道路の復旧について舗装の構成を変更するなどの路面の機能を損なわないようにするための措置が執られていた。
一方、45事業主体(注2)が実施した82件の工事は、路面の機能を損なわないようにするための措置について、道路管理者との協議が十分に実施されておらず、舗装の構成を変更するなどの路面の機能を損なわないようにするための措置が執られていなかった。このため、これらの工事について、改めて事業主体を通じて道路管理者に対して、当該道路の交通状況等を考慮した安全かつ円滑な交通が確保されているかを確認した。
その結果、82件のうち3事業主体が実施した3件の工事については、道路管理者において、自動車の交通量が多いことなどを踏まえ、函渠が路盤等に入り込んでいる箇所とそれ以外の箇所とでは舗装厚が異なっていて、舗装構造が一様でなく、不同沈下に伴う路面の不陸等が生じて路面の機能が損なわれ、安全かつ円滑な交通が確保されていないおそれがあるとされ、路面の機能を損なわないようにするための措置として舗装の構成を変更するなどの対策工事を実施する必要があるとされた。そして、3事業主体は、これを受けて、対策工事を実施することとした(「函渠(かんきょ)埋設工事の設計が適切でなかったもの」参照)。
また、82件のうち43事業主体が実施した79件の工事については、道路管理者において、自動車の交通量が少ないことなどを踏まえ、舗装の構成を変更するなどの対策工事を直ちに実施する必要はないものの、上記と同様に舗装構造が一様でないことから、安全かつ円滑な交通が確保されないおそれがあるとされ、道路管理者はもとより、事業主体においても路面の機能を損なわないようにするための措置として、路面の不陸等について確実に点検を実施し、必要に応じて対策工事を迅速に実施できるようにするなど今後の維持管理を徹底することが必要であるとされた。そして、43事業主体は、これを受けて、今後の維持管理を徹底することとした。
上記のように、前記82件の工事(安全かつ円滑な交通が確保されていないなどのおそれがある道路延長に係る工事費相当額計15億3064万余円、交付金相当額計7億0945万余円)は、舗装の構成を変更するなどの対策工事や今後の維持管理の徹底が必要な状況となっていた。
このように、函渠埋設工事の実施に当たり、道路の復旧について、事業主体と道路管理者との間における協議が十分に実施されていなかったことなどから、安全かつ円滑な交通が確保されていないなどのおそれがある事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、事業主体において、函渠埋設工事の設計に当たり、函渠を道路に埋設する際に路面の機能を損なわないようにすることについての理解が十分でなかったことにもよるが、国土交通省において、事業主体に対して、道路の復旧について、開削前舗装厚等が確保されていない設計を行う場合において、路面の機能を損なわないようにするための措置に関して道路管理者との間で協議を十分に実施することを明確に示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、28年8月及び9月に、当該道路の交通状況等を考慮した安全かつ円滑な交通が確保されるよう、事業主体及び道路管理者に対して事務連絡を発するなどして、道路の復旧について、やむを得ず開削前舗装厚等が確保されない設計となる場合においては、路面の機能を損なわないようにするための措置に関して事業主体と道路管理者との間で協議を十分に実施することなどを明確に示すなどの処置を講じた。