独立行政法人農畜産業振興機構(以下「機構」という。)は、酪農経営における労働負担の軽減及び休日の確保を図り、酪農家が持続性の高い酪農経営を実現するために、酪農家に代わり搾乳作業等を行う者(以下「酪農ヘルパー」という。)の出役等を実施する酪農ヘルパー利用組合(以下「組合」という。)の強化等を総合的に推進することを目的として、酪農経営安定対策補完事業実施要綱(平成23年22農畜機第4555号。以下「要綱」という。)等に基づき、酪農経営安定化支援ヘルパー事業(以下「ヘルパー事業」という。)を実施していて、平成26年度の事業費は計9億0643万余円(機構の補助金計4億8399万余円)となっている。
機構は、都道府県を区域として事業を実施する団体(以下「都道府県団体」という。)を通じて組合に対して補助金を交付しており、都道府県団体は、組合に対して事業の円滑な推進を図るための推進指導を行ったり、組合が作成した実績報告書等を取りまとめて機構に提出したりなどしている。そして、組合は、主に酪農ヘルパーの広域利用等による出役調整を行っている。
広域利用等による出役調整は、要綱等によれば、組合が酪農ヘルパーの出役先及び日程を調整した上で行われる、組合の活動区域外の酪農家への出役、活動区域内であって出役距離が片道15kmを超える出役等であるとされており、出役は、組合が酪農ヘルパーから車両借上契約により借り上げた車両(以下「ヘルパー所有車」という。)、組合がリース会社からリース契約により借り上げた車両(以下「リース車」という。)又は組合が所有する車両(以下「組合所有車」という。)により行われている。そして、補助対象となるのは、広域利用等による出役調整に要する経費とされており、具体的には、燃料費、車両借上料(組合所有車による出役を除く。)、高速道路利用料金等の交通費及び宿泊料(以下、これらの経費を「出役活動費」という。)とされており、このうち燃料費及び車両借上料が大部分を占めている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、ヘルパー事業における出役活動費の算定は適切なものとなっているかなどに着眼して、26年度に37道府県(注1)の都道府県団体に所属する184組合が実施した出役に係る出役活動費計2億3671万余円(機構の補助金計1億1790万余円)を対象として、機構本部、20道県(注2)の都道府県団体及び125組合において、実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、上記37道府県の都道府県団体から全184組合に係る出役活動費に関する調書の提出を受けて、その内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、機構は、出役活動費の算定方法を要綱等において明確に定めていなかった。そして、出役活動費のうち、高速道路利用料金等の交通費及び宿泊料については、いずれの組合も実支出額を基に算定していたが、燃料費及び車両借上料については、多くの組合が実支出額ではなく、当該組合等が定めた単価に補助対象となる走行距離(以下「補助対象距離」という。)等を乗じて算定していた。
そこで、燃料費及び車両借上料についてみたところ、次のような事態が見受けられた。
前記184組合のうち、ヘルパー所有車を出役に使用していたのは144組合となっており、その全てが、酪農ヘルパーがヘルパー所有車を私的に使用する場合もあることから燃料費及び車両借上料の実支出額を把握するのは困難であるとして、あらかじめ当該組合等が定めた単価に補助対象距離等を乗ずることにより算定するなどしていた。
上記の単価について、各組合は、燃料費及び車両借上料のそれぞれについて定めていたり、両者を合算した単価(以下「合算単価」という。)として定めていたりしており、また、単価の単位も、1km当たり、1日当たりなど様々となっていた。これらのうち、最も多くの組合(53組合)が適用していた1km当たりの合算単価についてみたところ、19円から52円と組合間で大きな差がある状況となっていた。
そこで、ヘルパー所有車に係る経費の実態を検証するために、上記53組合のうち、当該組合が所属する都道府県団体の区域内でリース車のリース契約を行っている組合がある15組合を対象として、地域の実態に即した合算単価(注3)を試算した上で、この単価と実際に適用している単価を比較したところ、10組合の合算単価が試算した単価より割高となっていた。
また、1km当たりの燃料費単価を適用している23組合についても同様に試算して比較したところ、14組合の燃料費単価が試算した単価より割高となっていた。
このように、組合が適用している単価には実態に即して試算した単価と比較して割高となっているものが多数見受けられたことから、上記以外の定め方をしている組合も含めた前記の144組合全てについて、都道府県団体ごとに、地域の実態を勘案して選定した車種に係るリース車の車両借上料及び燃費並びに平均燃料価格を基に、燃料費及び車両借上料に係る上限となる単価(以下「上限単価」という。)を設けて、組合が適用した単価と比較して低い方の額を適用するなどしてヘルパー所有車に係る燃料費及び車両借上料を試算したところ、88組合において、実績報告書における燃料費及び車両借上料の額を下回っていた。その結果、これらの88組合における実績報告書の額計1億1124万余円は、計8176万余円となり、2947万余円が過大となっていた。
前記184組合のうち、リース車又は組合所有車を出役に使用していたのは64組合となっており、そのうち56組合は、燃料費及び車両借上料(組合所有車は燃料費のみ)について、実支出額を基に算定していた。
しかし、残りの8組合は、燃料費及び車両借上料の実支出額を把握していたにもかかわらず、あらかじめ当該組合等が定めた1km当たりの合算単価に補助対象距離を乗じて燃料費及び車両借上料を算定していた。
上記8組合の燃料費及び車両借上料について実支出額を基に算定すると、6組合において、実績報告書における燃料費及び車両借上料の額を下回っていた。その結果、これらの6組合における実績報告書の額計1171万余円は、計514万余円となり、657万余円が過大となっていた。
この中には、組合所有車について、補助の対象となっていない車両借上料を含めた単価により燃料費を算定していたため、補助対象事業費を過大に精算していて不当と認められる事態がある(不当事項参照)。
(1)及び(2)の組合には重複しているものがあるので、これを除いた計28都道府県団体に所属する92組合において、前記の方法により算定した実態に即した燃料費及び車両借上料に、高速道路利用料金等の交通費及び宿泊料を合わせた出役活動費を算定すると計1億0830万余円となり、実績報告書において出役活動費として計上していた計1億4436万余円との差額3605万余円(機構の補助金相当額1758万余円)が過大となっていた。
このように、組合において、実態に即して試算した単価と比較して割高な単価により算定していたり、実支出額を把握していたにもかかわらず組合等が定めた単価を適用したりしていて、その結果、出役活動費が過大となっていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、組合において、燃料費及び車両借上料を実態に即して算定することについての理解が十分でなかったことにもよるが、主として、機構において、その具体的な算定方法を定めていなかったことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、28年7月に要綱を改正するなどして、ヘルパー事業における出役活動費について、地域の実態に即した上限単価を設けたり、実支出額を把握できるリース車及び組合所有車については実支出額を基にして算定したりするなどの具体的な算定方法を定めて、同年4月1日に遡及して28年度の事業から適用することとし、同年7月から9月までの間にこれを都道府県団体に対して周知し、指導するとともに、都道府県団体を通じて組合に対しても周知し、指導する処置を講じた。