独立行政法人農業者年金基金(以下「基金」という。)は、65歳に達する前に後継者等に経営移譲を行うなどした農業者に対して、経営移譲年金を給付する事業を実施している。後継者等に経営移譲を行う場合は、実体を伴った経営移譲が行われていることを確保するために、米の生産調整に係る助成金の申請名義等(以下「諸名義」という。)を経営移譲を行う者から後継者等に変更することとなっている。また、経営移譲年金の給付を受ける権利を有する者(以下「受給権者」という。)が農業経営を再開するなどして支給停止事由に該当していると認められた場合には、基金は経営移譲年金の支給を停止することとなっている。しかし、受給権者に対して、支給停止事由に該当した場合には遅滞なく支給停止事由該当届を提出しなければならないことについて周知が十分に行われていなかったり、基金から業務の委託を受けた市町村の農業委員会において、受給権者から経営移譲年金の支給開始後に毎年提出される農業者年金受給権者現況届(以下「現況届」という。)について、第1回目の提出時に点検する際には、諸名義の保有状況を関係機関に照会するなどして確認を行っていたが、第2回目以降は同様の確認を行っていなかったりしており、その結果、支給停止事由に該当している受給権者に対して経営移譲年金が支給されている事態及び受給権者が支給停止事由に該当しているかの確認が取れていない状況となっている事態が見受けられた。
したがって、独立行政法人農業者年金基金理事長に対して平成27年10月に、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めた。
本院は、基金において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、基金は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。
ア 28年5月までに、支給停止事由に該当していた受給権者55人について、支給停止事由に該当した日が属する月の翌月に遡及して支給停止の処分を行うとともに、農業経営を再開するなどしているかの確認が取れていなかった受給権者116人について調査を実施し、調査の結果、支給停止事由に該当していたことが判明した受給権者49人について同様の処分を行った。
イ 28年3月に農業委員会等に対して発した通知において、受給権者が支給停止事由に該当した場合に遅滞なく支給停止事由該当届を提出しなければならないことなどについての受給権者に対する具体的な指導の方法を定めて、農業委員会等に指導を行わせることとするとともに、現況届の様式を改正して当該事項等を記載するなどした。
ウ イの通知により、農林水産省の協力を得て米の生産調整に係る助成金の制度加入者等の情報と受給権者のデータを照合した結果重複した者から第2回目以降の現況届が提出された場合にも、受給権者の農業所得に係る納税申告状況等について農業委員会から関係機関に照会させるなどして、受給権者が支給停止事由に該当していないかの確認を行う体制を整備した。