ページトップ
  • 平成27年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

<参考:報告書はこちら>

第4 北海道、四国、九州各旅客鉄道株式会社の経営状況等について


検査対象
(1) 北海道旅客鉄道株式会社
(2) 四国旅客鉄道株式会社
(3) 九州旅客鉄道株式会社
北海道、四国、九州各旅客鉄道株式会社の概要
北海道、四国、九州の各地域において、旅客鉄道事業及びこれに附帯する事業を経営することを目的とする株式会社
損益計算書計上額(平成26年度)
(1) 鉄道事業営業損益 △414億円
  経常損益 43億円
(2) 鉄道事業営業損益 △115億円
  経常損益 84億円
(3) 鉄道事業営業損益 △140億円
  経常損益 163億円
北海道、四国、九州各旅客鉄道株式会社に対する国等による財政支援等の実施額
経営安定基金 計1兆2781億円(昭和62年度)
経営安定のための支援措置 計5666億円(平成9年度~26年度)
設備投資等に係る支援措置 計1547億円
(平成10、11両年度、23年度~26年度)

1 検査の背景

(1) 旅客鉄道株式会社の概要

ア 国鉄分割・民営化の経緯

昭和24年に発足した日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)は、39年度から赤字決算となり、経営の再建を促進するために、日本国有鉄道経営再建促進特別措置法(昭和55年法律第111号)が施行され、経営改善計画を定めて実施して60年度までに経営の健全性を確保するための措置を確立し、経営努力に努めることとしたが、収支の改善には至らなかった。

一方、政府の臨時行政調査会は、国鉄の経営状況は破産状況にあり、その膨大な赤字はいずれ国民の負担となることから、57年7月に、国鉄の民営化を図るとともに、分割は地域分割を基本とする旨の答申を行った。同答申を踏まえて58年6月に発足した日本国有鉄道再建監理委員会において、国鉄の経営する事業に関する効率的な経営形態の確立のために必要な事項、国鉄の長期債務の償還等に関する事項等が審議され、同委員会は、60年7月に「国鉄改革に関する意見」(以下「最終意見」という。)を取りまとめて、内閣に提出した。国は、最終意見を受けて、60年10月に「国鉄改革のための基本的方針について」を閣議決定し、旅客鉄道会社は、経営基盤の確立等諸条件が整い次第、逐次株式を処分し、できる限り早期に純民間会社とすることとした。

そして、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和61年法律第88号。以下「JR会社法」という。)の施行に伴って、62年4月に、旅客鉄道事業及びこれに附帯する事業を経営することを目的として、北海道、東日本、東海、西日本、四国及び九州の地域ごとの旅客鉄道株式会社が発足した。

イ 国鉄長期債務等

最終意見において、国鉄において生じた累積債務等(以下「国鉄長期債務等」という。)についてその処理方針が示されるとともに、分割・民営化への移行に伴って、北海道旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社及び九州旅客鉄道株式会社(以下、それぞれ「JR北海道」「JR四国」「JR九州」といい、これら3社を合わせて「三島会社」という。)については、いずれも営業損益で赤字が生ずることが見込まれるため、発足時において国鉄長期債務等を引き継がないこととした上で、将来における維持更新投資にも配慮して、なお生ずる営業損失に対して何らかの措置を講ずることが安定的な経営を維持していくためには必要であるとされた。そして、営業損失を補填し得る収益が生み出されるような基金(以下「経営安定基金」という。)を三島会社の発足時に設けることとし、経営安定基金の設置等も併せて国鉄長期債務等として処理することが適当とされた。国鉄長期債務等の処理については、新事業体(注1)の負担するものと新事業体を分離した後に国鉄が移行する事業体(以下「旧国鉄」という。)において処理するものとに区分され、経営安定基金は旧国鉄において処理するものとされた。旧国鉄における国鉄長期債務等の処理は、国鉄所有地の売却収入、新事業体への出資株式の売却収入及び新幹線保有主体(注2)からの収入(以下、これらの収入を合わせて「国鉄清算事業収入」という。)を充てるものとされた。

そして、62年4月の国鉄分割・民営化時の国鉄長期債務等は37.1兆円となっており、このうち、11.6兆円は新事業体及び新幹線保有主体で負担し、残りの25.5兆円を国鉄分割・民営化の実施に伴って国鉄から移行した日本国有鉄道清算事業団において処理することとされた。

しかし、日本国有鉄道清算事業団における土地その他の資産の処分等による国鉄長期債務等の処理が困難となったことから、平成10年10月の「日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律」(平成10年法律第136号。以下「債務等処理法」という。)の施行により、日本国有鉄道清算事業団は解散し、その時点で28.3兆円に増加していた国鉄長期債務等のうち日本国有鉄道清算事業団の借入金及び債券に係る有利子債務16.0兆円は国の一般会計に承継され、同事業団の国の一般会計に対する無利子債務8.1兆円は返済が免除された。

なお、昭和61年度から平成9年度までの間に国が承継していた有利子債務を含めた国鉄長期債務等の残高は10年度末時点で24.0兆円(注3)であったものが、25年度末時点で18.1兆円となっている。

(注1)
新事業体  北海道、東日本、東海、西日本、四国及び九州の地域ごとに設立する旅客鉄道会社、鉄道貨物会社等。ただし、北海道、四国及び九州の三島の旅客鉄道会社は国鉄長期債務等を引き継がないこととされた。
(注2)
新幹線保有主体  国鉄分割・民営化に伴い、新幹線の車両等を除く資産を一括して保有し、各旅客鉄道会社から使用料を徴収して国鉄長期債務等の処理に充てる業務を行うための組織であり、国鉄分割・民営化時には新幹線鉄道保有機構として設立されている。
(注3)
24.0兆円  国の一般会計に承継された有利子債務16.0兆円と、昭和61年度から平成9年度までの間に国が承継していた有利子債務9.0兆円に係る残高8.0兆円との合計額

ウ 経営安定基金の設置

最終意見において三島会社に設けることとされた経営安定基金の額は、営業収益のおおむね1%程度の経常利益が出るような調整措置が必要とされ、計1兆2781億円(JR北海道6822億円、JR四国2082億円、JR九州3877億円)とされた。

そして、経営安定基金は、昭和62年4月の国鉄分割・民営化時に三島会社に対して旧国鉄が債務を負担することにより設置され、その債務の償還は、平成元年度から8年度までに、国鉄清算事業収入を財源として行われた。

エ 国鉄分割・民営化以降の財政支援等

国鉄分割・民営化以降、三島会社に対しては、経営安定基金の設置以外の財政支援等として、経営安定のための支援措置や設備投資等に係る支援措置のほか、固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)や事業税の軽減措置(以下、これら諸税の軽減措置を「税制特例措置」という。)が実施されている。

そして、これら財政支援等は、国土交通省(13年1月5日以前は運輸省。以下同じ。)が制度設計を行い、主に独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(10年10月22日から15年9月30日までは日本鉄道建設公団。10年10月21日以前は日本国有鉄道清算事業団。以下、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構並びにその前身である日本鉄道建設公団及び日本国有鉄道清算事業団を含めて「機構」という。)が実施しており、その詳細は次のとおりである。

(ア) 経営安定のための支援措置

三島会社に対する経営安定基金の債務の償還が8年度に終了して経営安定基金の全額を三島会社が運用することになったが、運用利回りが国鉄分割・民営化時に想定していた利率に比べて低下していたことなどから、経営安定基金の運用益の下支え措置として、9年度以降、機構が経営安定基金の一部を借り受けて、その借入利子を28年度まで三島会社に支払うことにした(以下、この方式による経営安定基金の運用を「機構貸付け」という。)。そして、借入利子は、長期国債等の金利よりも高い利回りになっている。また、23年8月の「日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律等の一部を改正する法律」(平成23年法律第66号。以下、この一部改正を「債務等処理法附則の改正」という。)の施行に伴い、経営安定基金の実質的な積増しを目的として、機構は、JR北海道に対して2200億円、JR四国に対して1400億円、計3600億円を無利子で貸し付けると同時に、両社は、その資金により償還期間20年の機構が発行する同額の特別債券を購入し、これに係る債券利子を毎年度受け取っている。

(イ) 設備投資等に係る支援措置

10年10月の債務等処理法の施行に伴い、機構は、経営基盤がぜい弱である三島会社に対して、10、11両年度に設備投資を促進して経営基盤の強化を図るための無利子資金を計680億円(JR北海道292億円、JR四国81億円、JR九州306億円)貸し付けた。また、23年8月の債務等処理法附則の改正に伴い経営自立を図るために、機構は、三島会社に対して、23年度から32年度までに、老朽化した鉄道施設等の更新等のための無利子資金の貸付け及び助成金の交付(以下「無利子貸付・助成金交付事業」という。)を計1500億円(JR北海道600億円、JR四国400億円、JR九州500億円)行うこととした。さらに、JR北海道及びJR四国は、27年3月に「安全投資と修繕に関する5年間の計画」等を策定し、最大限の自助努力を前提としつつなお及ばない部分について国等に支援を求めたことから、国土交通省は、機構を通じて、両社に対して、28年度から、それぞれ30年度及び31年度までに、安全投資及び修繕に係る追加的支援措置を計1400億円(JR北海道1200億円、JR四国200億円)行うこととした。

(ウ) 税制特例措置

三島会社は、国鉄から承継するなどした鉄道事業に係る固定資産(以下「鉄道事業固定資産」という。)等に対して、会社発足以降、税制特例措置を受けている。昭和61年度には、三島会社が所有する鉄道事業固定資産に対して賦課される固定資産税等の課税標準を2分の1とする特例措置(三島特例)及び、三島会社が国鉄から承継した鉄道事業固定資産、管理施設等の固定資産に対して賦課される固定資産税等の課税標準を2分の1(平成14年度以降は5分の3)とする特例措置(承継特例)がそれぞれ創設されている。また、16年度には、三島会社の資本準備金に係る商法の特例を適用した金額を事業税の資本割の課税標準から控除する特例措置(外形標準課税特例)が創設されている。

(2) JR会社法及びその改正

東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社及び西日本旅客鉄道株式会社(以下、これら3社を合わせて「JR本州三社」という。)は、前記の閣議決定を受けて、JR会社法の一部改正が平成13年12月に施行された後、順次、完全民営化されたが、三島会社に対しては、引き続き、国土交通大臣への財務諸表の提出、経営安定基金の取扱い、国土交通大臣の監督等について定めているJR会社法が適用されている。そして、JR九州の完全民営化に向けた「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律」(平成27年法律第36号。以下「JR会社法の一部改正法」という。)が、27年6月に成立した。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

本院は、平成14年度決算検査報告において特定検査対象に関する検査状況として、「北海道、四国及び九州各旅客鉄道株式会社の経営状況について」(以下「14年度報告」という。)を掲記しているところであるが、20年のリーマン・ショックを契機とした景気の後退もあり、三島会社を取り巻く経営環境も変化しており、また、22年度末にJR九州では九州新幹線(鹿児島ルート)が全線開業したり、23年度には、JR北海道の石勝線車両火災事故等が発生したり、JR北海道及びJR四国に対する経営安定基金の実質的な積増しや三島会社に対する無利子貸付・助成金交付事業が実施されたりしている。さらに、27年度末にJR北海道では北海道新幹線の一部開業、28年度にはJR九州の株式上場も見込まれている。

そこで、本院は、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、三島会社の経営状況は14年度報告の掲記以降に向上しているか、経営安定基金の運用状況はどのようになっているか、国土交通省及び機構の財政支援等がその目的に照らして適正かつ有効に機能しているかなどに着眼して検査した。

(2) 検査の対象及び方法

本院は、国土交通本省、機構本社及び三島会社本社において、会計実地検査を行った。このうち、国土交通省及び機構においては、昭和62年度から平成26年度までの三島会社に対する財政支援等を対象として、その目的や実施状況等について、説明を聴取するなどして検査した。また、三島会社においては、14年度から26年度までの各社の経営状況や経営安定基金の運用状況等について、財務諸表等の書類によりその内容を分析するとともに、経営状況、設備投資計画、経営安定基金の運用状況等に関する調書の提出を求めてその内容を確認するなどして検査した。

3 検査の状況

(1) 三島会社の経営状況等

ア 三島会社の経営資源の状況

三島会社は設立時に国鉄から鉄道事業固定資産等を承継し、また、相当数の社員を雇用している。三島会社の鉄道事業固定資産について、昭和62年度末、平成14年度末及び26年度末を比較すると、JR北海道では増加し、JR四国では減少し、JR九州では14年度は減少したものの26年度は増加している。次に、鉄道事業以外の不動産、ホテル、飲食等の事業(以下「関連事業」という。)に係る固定資産について、14年度末と26年度末を比較すると、JR九州では22年度末の九州新幹線の全線開業等に伴う駅ビル等の設備投資が積極的に行われたため増加しているが、JR北海道ではほぼ横ばいとなっており、JR四国ではホテル事業の低迷に伴う減損処理等により減少している。

また、三島会社は、業務の効率化等により、社員規模を縮小し、人件費の抑制を図っており、26年度における社員数及び人件費についてみると、14年度と比較していずれも減少している。

イ 三島会社の経営状況

(ア) 営業損益等

JR北海道及びJR四国では、鉄道事業営業損益は毎年度大幅な赤字となっており、26年度において、その額は、それぞれ414億円、115億円であり、鉄道収益に対する赤字の割合は54.8%、44.4%となっている。また、両社では関連事業で利益が計上されているものの、20年度から23年度までは、景気の低迷を背景とした鉄道収益や経営安定基金運用収益の減少により、経常損益が赤字となっている年度も見受けられた。そして、24年度以降は、株価等の上昇により経営安定基金運用収益が増加したことなどから、26年度の経常損益は、JR北海道では43億円、JR四国では84億円となっており、14年度以降の中では高い収益を計上している。一方、JR九州では、鉄道事業営業損益は毎年度赤字となっており、その額は26年度で140億円であるが、上記のJR北海道及びJR四国と比べると鉄道収益に対する赤字の割合は8.6%と低い状況となっている。また、JR九州では、関連事業における不動産事業において大幅な利益を計上している。このため、経常損益は、14年度以降の全ての年度において黒字となっており、100億円以上を計上している年度もあり良好な状況となっている。

(イ) 鉄道収益及び鉄道営業費

鉄道収益は、各社とも20年度以降、景気の後退や高速道路料金の割引の影響等を受けて減少していたものと思料される。また、輸送密度(注4)は、JR九州では22年度以降おおむね増加しているのに対して、JR北海道及びJR四国では21年度以降ほぼ横ばいで推移している。

(注4)
輸送密度  営業キロ1km当たりの1日平均旅客輸送人員

JR北海道及びJR四国では、輸送密度に係る情報の一部開示や、地域における鉄道ネットワークの在り方についての議論が行われているものの、輸送密度が低迷している線区の営業キロの26年度の状況は14年度と比べて改善しておらず、鉄道事業で大幅な赤字となっている。このため、JR北海道及びJR四国においては、鉄道事業の損益の改善に向けて、輸送密度が低迷している線区や、線区の一部分の輸送密度が低迷している区間について、国、地方自治体、利用者等を含む関係機関等と地域の公共交通ネットワークの確保を前提とした望ましい交通の在り方について更に検討し、その中で鉄道がどのような役割を果たすべきかなどについて幅広い議論をすることが望まれる。その前提として、輸送密度が低迷している線区等の収益、費用等の経営状況が両社において把握されている必要があるが、両社とも必ずしも線区等の経営状況を対外的に提示できる状況とはなっていなかった。

三島会社は、会社発足以降、基本的には、鉄道営業費に係る支出や設備投資を、鉄道収益、経営安定基金運用収益等に係る収入(以下、これらを「経常収入」という。)で賄っている。また、鉄道営業費は、鉄道営業のための施設等の維持修繕に要する人件費、修繕費、減価償却費等で構成されており、これらの費用は、鉄道運輸における安全性に大きく影響する軌道や変電設備の保守等、設備を保有している限り経年劣化により必然的に生じたり、各社が策定する修繕計画等の会社内部の要因によりその支出額に変動が生じたりする。そこで、14年度から26年度までの三島会社の経常収入と鉄道営業費の推移についてみると、JR九州では、関連事業で大幅な利益を上げていることなどから経常収入が鉄道営業費を上回っており、資金的な余裕が生じている。一方、JR九州と比べて関連事業の利益が少なく経営安定基金運用収益への依存度が高いJR北海道では、経常収入と鉄道営業費がほぼ同額の状況となっており、経常収入が減少すると、鉄道営業費が抑えられている状況が見受けられる。また、JR四国では、23年度まではJR北海道と同様の状況であるが、24年度以降は、機構特別債券受取利息や経営安定基金運用収益の増加により、鉄道営業費と比べて経常収入が上回っている。

さらに、JR北海道及びJR四国の鉄道営業費のうち修繕費の推移の詳細をみると、20、21両年度は低くなっている。これは、景気の後退等の影響により経常収入が減少したことなどに伴い、両社において緊急性を要さず直ちに安全性に影響しないと判断した軌道の道床交換やレール交換等の修繕を先送りしたことが要因にあると考えられ、景気の後退等の外部的な要因による経常収入の減少が修繕費の支出にも影響を及ぼしている状況が見受けられた。

(ウ) 設備投資

三島会社は、基本的には、設備投資を、経常損益、減価償却費等の設備投資等に充てることのできる資金(以下「設備投資等資金」という。)により行っている。そして、この設備投資等資金は、外部的な要因の影響を受ける鉄道収益や経営安定基金運用収益等の経常収入の一部から成っている。そこで、三島会社の設備投資額について、景気の後退等により設備投資等資金が減少した20年度から22年度までの3か年が含まれる各社の中期の設備投資計画(計画期間は、JR北海道及びJR九州は19年度から23年度までの5か年、JR四国は20年度から23年度までの4か年)とその実績を比較すると、関連事業により鉄道事業営業損益の赤字の多くを補填できるJR九州では、実績が計画を超えている。これに対して、関連事業の利益が少なく経営安定基金運用収益への依存度が高いJR北海道及びJR四国では、実績が計画を下回っていて、設備投資は、景気の後退等による設備投資等資金の減少に影響される状況も見受けられた。

ウ 三島会社のグループ経営の状況

(ア) 連結決算等の状況

三島会社の14年度から26年度までの各年度の連結決算についてみると、JR四国の22年度を除き、連結経常損益が黒字となっている。そして、JR北海道では、子会社等で上げる利益の方が大きい状況となっている。一方、JR九州では、単体で上げる利益と子会社等で上げる利益とが同程度となっている。また、JR四国では、子会社等で上げる利益が他の2社と比べて少なくなっている。

これら連結決算の状況について業種別に14年度と26年度を比較すると、JR北海道では、不動産事業が大きく伸びたことなどにより、運輸業以外の業種の営業利益が増加し、26年度においては運輸業の営業損失に対する運輸業以外の営業利益の割合(以下「補填率」という。)が23.3%となっている。また、JR四国では、運輸業以外の業種の営業利益はほぼ横ばいとなっていて補填率が10%程度となっている。そして、JR九州では、不動産事業及び建設業の営業利益が大幅に増加しており、補填率は203.7%と運輸業の営業損失を十分に補っているものとなっている。

(イ) 子会社等の状況

三島会社の子会社等の数について昭和62年度と平成14年度を比較すると、各社とも大きく増加している。14年度と26年度を比較すると、子会社等の数は、JR北海道では減少し、JR四国及びJR九州では同数となっており、また、営業収益は、JR北海道及びJR九州では大きく増加しているが、JR四国では減少している。これは、JR北海道及びJR九州では、子会社等の統合・整理を実施しながらも、グループ関連事業を拡大する方針を継続しており、既存の子会社等における事業規模の拡大、特にターミナル駅の再開発により、不動産事業等における子会社等の営業収益が増加していることなどが要因と考えられる。JR四国については、自ら行っていた関連事業の子会社化がほぼ終了し、他の2社のようなターミナル駅の再開発が行われておらず、既存の子会社等の26年度の営業収益は14年度と比べて減少しているため、引き続きグループ関連事業における経営の健全性を保ちつつ幅広い分野で事業展開することなどが望まれる。

また、三島会社の子会社等の積立金等を除いた利益剰余金(14年度は未処分損益、26年度は繰越利益剰余金。以下「剰余金」という。)についてみると、各社とも14年度においてはマイナスとなっていたが、26年度においてはプラスとなっており、特に、JR北海道及びJR九州では、不動産事業における営業利益の拡大等に伴いそれぞれ282億円、221億円となっている。

このように、JR九州では、子会社等の剰余金も増加しているが、単体における関連事業の利益も増加させており、鉄道事業の赤字を補填できる状況となっている。これに対して、JR北海道及びJR四国では、子会社等に剰余金が生じている状況となっているが、単体の関連事業の利益がそれほど増加しておらず、鉄道事業の赤字も多額となっている。両社は、前記のとおり、経常収入等の減少が修繕や設備投資に影響を及ぼしている状況も見受けられ、また、設備投資等に係る財政支援も引き続き行われることから、今後は、グループ経営の状況に応じて、剰余金の状況を踏まえた上で株主資本に着目した子会社等からの特別配当等の更なる検討を含め、会社本体の経営に寄与することが望まれる。

(2) 経営安定基金の運用状況等

経営安定基金は、JR会社法で「確実かつ有利な方法により基金を運用しなければならない」などとされており、三島会社は、毎年度、基本方針等を策定して、リスク管理のための運用対象に対する投資割合(以下「ポートフォリオ」という。)等を定めている。

ア 経営安定基金運用収益の状況

経営安定基金運用収益についてみると、三島会社では、20年度のリーマン・ショックを契機とした景気の後退により、運用収益が減少したことから、同年度の市場での有価証券の売買等による運用(以下「自主運用」という。)に係る利回りは落ち込んでいる。さらに、各社とも、経営安定基金資産の自主運用における株式等の評価額の減少による減損処理を行うこととなり、JR北海道は20年度に21億円、JR四国は20、22両年度に計87億円、JR九州は19、20両年度に計112億円の特別損失を計上している。その後、24年度から26年度までに、円安等を背景とした株価等の上昇により、経営安定基金運用収益が増加傾向にあり、JR北海道及びJR四国では、株式等を売却して売却益が計上されたことなどにより、自主運用の利回りが高くなっている。

一方、経営安定基金資産の中に未実現収益として含まれる時価評価差額は、26年度末で、JR北海道では1195億円、JR四国では259億円、JR九州では672億円と多額に上っている。JR北海道及びJR四国では、前記のとおり、経常収入等の減少が修繕や設備投資に影響を及ぼしている状況も見受けられ、また、設備投資等に係る財政支援も引き続き行われることから、時価評価差額について、引き続き運用に充てることも考えられるが、景気の動向も踏まえ、修繕や設備投資を計画的に行うための財源とするなど、経営基盤の確立に向けて、経営安定基金資産のより有効な活用を検討することが望まれる。

イ 経営安定基金の運用状況

三島会社の経営安定基金資産に係る運用状況についてみると、JR北海道及びJR九州では、19年度以降、機構貸付けの割合が大きく減少していて、株式等の高い利回りが期待できるものの価格変動等のリスクが高い資産(以下「市場性等資産」という。)での運用の割合が多くなってきている。JR四国では、他の2社よりも機構貸付けの割合が多く、23年度までは経営安定基金資産の8割以上を機構貸付けとしていたが、24年度以降、市場性等資産での運用が増加している。

経営安定基金の運用については、JR九州は28年度の株式上場により経営安定基金の取崩しが見込まれているが、JR北海道及びJR四国は、28年度末に機構貸付けも終了し、経営安定基金の全額が自主運用となり、市場性等資産の増加も見込まれることから、より一層のリスク管理に努めることが重要となる。

(3) 財政支援等

ア 財政支援等の実施状況

三島会社に対しては、国土交通省及び機構からの様々な財政支援等が実施されており、経営安定基金の設置計1兆2781億円のほか、昭和62年度から平成8年度までに経営安定基金の債務に対する支払利子として計6184億円が機構から支払われている。そして、経営安定のための支援措置として、9年度から26年度までに機構貸付け分及び特別債券に係る支払利子計5666億円が機構から支払われている。また、設備投資等に係る支援措置として、10年度から26年度までに無利子貸付金及び助成金計1547億円が機構から交付されている。さらに、税制特例措置として、元年度から26年度までに地方税の軽減計2162億円(試算額)を三島会社は受けている。

イ 財政支援等の効果等

三島会社の経営状況については、各社とも経営の効率化等に取り組んではいるものの、鉄道事業営業損益は赤字であり、経常損益も経営安定基金運用収益がなければJR九州の23、26両年度以外は赤字となっている。すなわち、経営安定基金運用収益が、三島会社の営業損失を補填することなどにより、三島会社が発足した昭和62年度から平成26年度までの28回の決算のうち、JR北海道では20回、JR四国では23回、JR九州では27回の決算において経常損益が黒字となっていることから、三島会社の経営を安定させる役割を担っていて、一定の効果が上がっている。

一方、各種財政支援等については、経営安定基金の運用において、JR北海道が子会社を経由して民間金融機関に対して行っている貸付けの利息の一部が子会社の収益となっており、経営安定基金の趣旨に照らせば必ずしもその効果が上がっているとはいえない事態が見受けられた。また、無利子貸付・助成金交付事業において、助成金に係る圧縮記帳が行われておらず、助成金の全額が一度に課税対象となっている事態、子会社からの資材調達により子会社の利益相当額が多額となり、剰余金が増加する一因となっていると思料される事態が見受けられた。さらに、税制特例措置において、JR北海道及びJR四国では、撤去した資産の減額処理が行われておらず、課税標準額が過大となっている事態が見受けられた。

(4) JR九州の株式上場等

ア 上場等の経緯

国土交通省は、26年10月にJR九州の経営状況や株式上場に関する課題等を検討した。そして、JR会社法の対象からJR九州を除外することなどを定めたJR会社法の一部改正法は、27年6月に成立した。

この法律では、①国土交通大臣は、国鉄改革の経緯を踏まえ、利用者の利便の確保、地域の経済及び社会の健全な発展の基盤の確保等を図るため、JR九州が事業を営むに際し、配慮すべき事項に関する指針を定め、公表すること、②JR九州は、国土交通省令で定めるところにより、事業の運営に必要な費用に充てるため、経営安定基金の全額を取り崩すことなどが定められている。

東京証券取引所の上場審査基準は、現行、連結経常利益が上場直近2期で5億円以上等となっており、JR九州は、現行基準を満たしている。

JR九州の株式の売却について、JR九州の全株式を保有している機構に設置された資産処分審議会は、27年9月9日の答申(以下「審議会答申」という。)において、①JR九州の完全民営化の推進及び旧国鉄職員の年金等の支払原資に充当する観点から、JR九州の株式をできる限り早期かつ効果的に売却を行い、②売却に当たっては公正な価格の決定を行うとともに、公正かつ簡明な手続、方法によって実施し、③市場動向に十分配慮するとともに、投資家保護及び適正な価格形成の観点から必要かつ十分な情報を適切に開示することとしている。

イ 経営安定基金の使途

国土交通省は、「九州旅客鉄道株式会社の経営安定基金の取崩しに関する省令」(平成27年国土交通省令第61号。以下「省令」という。)を定めて、経営安定基金の資金を、①福岡市と鹿児島市とを連絡する新幹線鉄道に係る鉄道施設の貸付料全額の一括支払、②機構からの借入金全額の一括返済及び③鉄道網の維持向上に資する鉄道事業用の資産への設備投資に充てるものとした。

ウ 上場後の経営について

JR九州は、経営安定基金を振り替えて、機構に支払うこととされている新幹線貸付料の全額を一括して支払うことや、機構からの借入金の全額を一括して返済することができることになり、資金面での余裕が生ずる一方で、より一層の経営の効率化や関連事業の強化等により収益の確保に努めることが課題になると思料される。また、JR会社法の適用対象から除外されるため、より機動的かつ自主的な経営を行うことが可能となるとともに、純民間会社としての責任が求められる。

4 所見

(1) 検査の状況の概要

三島会社の経営状況、経営安定基金の運用状況、国土交通省及び機構の財政支援等の実施状況等について検査したところ、次のような状況となっていた。

ア 三島会社は、14年度以降も業務の効率化等に取り組んできているものの、JR北海道及びJR四国については、輸送密度の低迷している線区の営業キロの状況は改善しておらず、両社とも必ずしも線区等の経営状況を対外的に提示できる状況とはなっていなかった。また、修繕や設備投資については、景気の後退等の外部的な要因による経常収入等の減少の影響を受けている状況が見受けられた。そして、JR北海道の子会社等において、営業収益が増加したことなどにより26年度末では剰余金が282億円生じている一方、JR四国の子会社等においては、26年度末の剰余金は35億円となっているものの、14年度と26年度を比べて営業収益が減少している。

イ 三島会社は、経営安定基金の運用に当たり、リスク管理のためのポートフォリオ等を定めているが、19年度から22年度までの間に、各社とも経営安定基金運用収益が減少したり減損処理による特別損失が発生したりする状況が見受けられた。また、26年度末では、株価等の上昇により、経営安定基金資産の時価評価差額がJR北海道では1195億円、JR四国では259億円、JR九州では672億円となっている。

ウ 三島会社に対しては、国土交通省及び機構からの様々な財政支援等が実施されており、経営安定基金の設置計1兆2781億円のほか、経営安定のための支援措置として計5666億円、設備投資等に係る支援措置として計1547億円が交付されている。また、税制特例措置として地方税の軽減計2162億円(試算額)を三島会社は受けている。そして、三島会社の鉄道事業における損失は補填され、経常損益が黒字となっている年度が多く見受けられた。しかし、三島会社における経営安定基金の運用、設備投資のための無利子貸付・助成金交付事業、税制特例措置のそれぞれにおいて、必ずしもその効果が十分に上がっているとはいえないなどの状況も見受けられた。

エ JR九州は、株式上場に伴い、省令に基づいて、経営安定基金を取り崩して、機構に支払うこととされている新幹線貸付料の全額を一括して支払ったり、機構からの借入金の全額を一括して返済したりすることができるようになる。そして、JR九州はJR会社法の適用対象から除外されるため、長期資金の借入れなどに係る認可等、国による後見的な関与の対象から除外されることとなり、より機動的かつ自主的な経営を行うことが可能となる。また、機構は、審議会答申を受け、JR九州の株式について、公正かつ簡明な手続により効果的に売却することなどが求められている。

(2) 所見

国鉄分割・民営化による国鉄長期債務等のうち国に承継されている残高は、10年10月の日本国有鉄道清算事業団解散後の10年度末時点で24.0兆円となっており、25年度末時点では18.1兆円となっている。一方で三島会社には、昭和62年4月の国鉄分割・民営化時に経営安定基金計1兆2781億円が設置され、その後も国土交通省及び機構による多額の財政支援等が行われている。また、三島会社を含む旅客鉄道株式会社については、平成18年度までにJR本州三社が完全民営化された後、27年6月にJR会社法の一部改正法が成立し、28年度にはJR九州の完全民営化が見込まれているが、JR北海道及びJR四国については完全民営化の見込みは立っていない状況となっている。

ついては、三島会社並びに国及び機構において、引き続き次の点に留意しながら、完全民営化に向けた経営基盤の確立等に取り組んでいく必要がある。

  • ア JR北海道及びJR四国は、鉄道事業の営業損失が多額となっていることから、引き続き経営の効率化に努めるとともに、鉄道事業の損益の改善に向けて、国、地方自治体、利用者等を含む関係機関等と地域の公共交通ネットワークの確保を前提とした幅広い議論ができるよう、輸送密度が低迷している線区等の経営状況を提示できるように整理しておくこと。また、計画的な修繕や設備投資が行われるよう、経営安定基金運用収益の一部を積み立てたり、経営安定基金資産の時価評価差額や子会社等の剰余金の活用を検討したり、グループ関連事業の経営の健全性を保ちつつ幅広い分野で事業展開を行うなどしたりして、景気の後退等に対応できるような経営基盤を確立すること
  • イ JR北海道及びJR四国は、経営安定基金の運用に当たり、今後更に自主運用の割合が増加することが見込まれることから、引き続きリスク管理の徹底に努めた上で更に効率的な運用を図ること。また、多額な経営安定基金資産の時価評価差額については、経営安定基金資産として引き続き運用に充てることも考えられるが、景気の動向も踏まえ、修繕や設備投資を計画的に行うための財源とするなど、経営基盤の確立に向けて、経営安定基金資産のより有効な活用を検討すること
  • ウ JR北海道及びJR四国は、国土交通省及び機構からの財政支援等の効果がより発揮されるように努めること。また、国土交通省及び機構は、JR北海道及びJR四国への財政支援等に当たり、その効果がより発揮されるよう、引き続き財政支援等の制度設計並びにJR北海道及びJR四国の指導・監督を行うこと
  • エ JR九州は、経営安定基金が、経営環境が厳しいJR九州の鉄道ネットワークの維持・向上を図るための収益調整措置として設置されたという経緯と趣旨を踏まえ、省令に基づいて、経営安定基金の鉄道資産等への振替を確実に行うこと。そして、完全民営化以降は、機動的に動けるようになることから、純民間会社としての責任のもと事業の効率性を高めるなどして収益力を上げ、経営基盤をより一層強化するよう努めること。また、機構は、JR九州の株式について、審議会答申に沿って、株式市場の状況、経済の動向等にも留意しつつ適切に処分すること

本院としては、JR北海道及びJR四国の経営、両社に対する財政支援等、また、JR九州の株式売却の手続、経営安定基金の振替等について、引き続き注視していくこととする。