我が国において、原子力事業者が原子炉の運転を行う施設や核燃料物質の加工等を行う事業所等(以下「原子力事業所」という。)は、昭和30年代から順次設置されてきており、このうち実用発電用原子炉施設(以下「原子力発電所」という。)は、平成27年9月末現在で18か所あり、13道県に立地している。そして、原子力事業所から放射性物質が異常な水準で放出されることなどにより国民の生命、身体及び財産に生ずる被害(以下「原子力災害」という。)については、自然災害に係る対策等を定めた災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)等の枠組みを用いつつ、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号。以下「原災法」という。)により、原子力災害の特殊性を考慮した特別の措置を講ずることとされていた。
しかし、23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波の際に、東京電力株式会社福島第一原子力発電所において、全ての交流電源が失われ、冷却機能を喪失するという重大な事故(以下「23年原発事故」という。)が発生し、従来の原子力防災体制には多くの問題点があることが、23年原発事故に関する国会、政府及び民間の各事故調査委員会の報告等により明らかになった。このようなことを受けて、24年に原災法の改正が行われるとともに、災対法に基づく「防災基本計画(原子力災害対策編)」(平成9年6月中央防災会議作成)の修正や、原災法に基づく原子力災害対策指針(平成24年10月原子力規制委員会決定。平成27年8月最終改正。以下「原災指針」という。)の決定等、関連する法令等の整備が行われた。
原子力事業所が所在する道府県には、緊急時に国、当該道府県、原子力事業者等の原子力防災に係る関係者が集合して現地の応急対策を講ずるための拠点として原災法等に基づき内閣総理大臣が指定する緊急事態応急対策等拠点施設(以下「オフサイトセンター」という。)が設置されている。
そして、原子力事業所外へ放射性物質又は放射線が異常な水準で放出される事態(以下「原子力緊急事態」という。)において原災法等に基づき内閣総理大臣から原子力緊急事態宣言が発せられると、原子力災害対策の総合調整を行うために、内閣総理大臣官邸に内閣総理大臣を本部長とする原子力災害対策本部が設置され、内閣総理大臣官邸及び原子力規制庁にそれぞれ原子力災害対策本部事務局が設置されることとなっている。また、オンサイト(注1)の事故収束のために原子力事業者において原子力施設事態即応センターが設置され、オフサイト(注1)における住民等に対する放射線被ばくの防護措置等のために、オフサイトセンターに内閣府副大臣又は内閣府大臣政務官を本部長とする原子力災害現地対策本部が設置されることとなっている。
原災指針においては、原子力発電所からおおむね半径5km圏内の区域を予防的防護措置を準備する区域(Precautionary Action Zone)、原子力発電所からの距離がおおむね半径30km圏内の範囲の区域を緊急時防護措置を準備する区域(Urgent Protective Action Planning Zone。以下「UPZ」という。)として、これらを目安として原子力災害対策重点区域を設定することとされた。
これにより、原子力発電所に係る原子力災害対策重点区域が設定されている市町村及び当該市町村が所在する道府県(以下、原子力災害対策重点区域が設定されている市町村が所在する道府県のうち、原子力発電所が立地している道県を「立地道県」といい、立地道県に隣接したその他の府県を「隣接府県」という。また、立地道県、隣接府県及び原子力災害対策重点区域が設定されている市町村を合わせて「立地道県等」という。)の総数が増えて、住民等への対策の周知、原子力防災のために使用される資機材(以下「防災資機材」という。)等の整備等、放射線被ばくに対する防護措置の準備を従来よりも広い地域で平時から行うことが必要となった。
災対法等によれば、立地道県等は、地域防災計画(原子力災害対策編)において原子力災害対策に関して処理すべき事務又は業務についての大綱等を定めることとされ、避難や原子力災害対策に係る施設等の整備等について、事項別の計画を記載することとされている(以下、地域防災計画に記載される事項のうち避難に関する事項を取りまとめた計画を「避難計画」という。)。
内閣府は、関係省庁と共に立地道県等の地域防災計画(原子力災害対策編)及び避難計画の充実化を支援するために、原子力発電所が立地する13地域ごとに、関係府省庁、立地道県等から構成されるワーキングチームを設置し、ワーキングチームは27年3月に地域原子力防災協議会と改称され、防災基本計画に規定される組織となった。
そして、立地道県等は、地域防災計画(原子力災害対策編)等に基づき原子力災害対策を実施しており、内閣府は、立地道県等が行うオフサイトセンターの整備、後述する「一時退避施設等」の放射線防護対策及び防災資機材等の整備について、立地道県等に対して交付金等を交付することにより支援している。
これら原子力災害対策に係る施設等の整備等に関する事業の概要は次のとおりである。
国は、24年9月に「原子力災害対策特別措置法に基づく緊急事態応急対策等拠点施設等に関する省令」(平成24年文部科学省・経済産業省令第3号。25年9月12日以降は「原子力災害対策特別措置法に基づく緊急事態応急対策等拠点施設等に関する内閣府令」。以下「内閣府令」という。)を定めるとともに、「オフサイトセンターに係る設備等の要件に関するガイドライン」(平成24年9月内閣府作成。以下「ガイドライン」という。)を示した。そして、内閣府令及びガイドライン(以下、これらを合わせて「内閣府令等」という。)により、オフサイトセンターの最適な立地要件として原子力事業所からの距離を5km以上30km未満とすること、オフサイトセンターが使用できない場合にこれを代替することができる施設(以下「代替オフサイトセンター」という。)をオフサイトセンターごとに複数設置することなどとされた。また、オフサイトセンターの建物等の整備や維持管理については、立地道県(東通村防災センターについては東通村)が原子力発電施設等緊急時安全対策交付金(以下「緊急時交付金」という。)により国からの財政支援を受けて行っている。
原災指針によれば、高齢者等の防災上必要な措置を考慮するに当たり特に配慮が必要な要配慮者や避難が遅れた住民等が一時的に退避できるようにするために、病院、社会福祉施設、学校、公民館等の避難所として活用可能な施設等(以下「一時退避施設」という。)については、気密性の向上等の放射線防護対策を講じておくことが必要であるとされている。そして、立地道県等が実施する一時退避施設、代替オフサイトセンター等(以下、これらを合わせて「一時退避施設等」という。)の放射線防護対策を支援するために、内閣府は、24年度から原子力災害対策施設整備費補助金を交付することとした。
内閣府は、立地道県等が放射線測定器等、様々な防災資機材等の整備等を行う事業に対して緊急時交付金を交付している。
また、放射線に対する周辺住民の理解を深めることなどによって、住民への迅速かつ適切な防護措置に資することを目的として、平成24年度一般会計補正予算(第1号)により原子力発電施設周辺地域防災対策交付金(以下「周辺対策交付金」という。)が財政措置され、25、26両年度に立地道県及び隣接府県に対して交付された。
本院は、立地道県等が交付金等の交付を受けて行う原子力災害対策に係る施設等の整備等の状況について、合規性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
ア 原子力災害対策を実施する立地道県等に対する国の財政支援等の状況はどのようになっているか。
イ 立地道県等における地域防災計画(原子力災害対策編)等の作成及び修正の状況はどのようになっているか。
ウ 交付金の交付を受けて新たな設備の増強等が進められている全国のオフサイトセンターは、内閣府令等の要件を満たし機能が十分に発揮できるように整備されているか。また、オフサイトセンターに整備された設備や防災資機材が有効に機能するための態勢は整っているか。
エ 一時退避施設等の放射線防護対策は、どのような施設を対象として実施されているか。同対策により整備された一時退避施設等が備えている機能はどのようなものになっているか。また、一時退避施設等に設置された設備の維持管理や設備の機能を発揮させるための訓練等は適切に行われているか。
オ 国の交付金等による防災資機材等の整備状況はどのようになっているか。このうち、平常時から放射線に関する知識の普及啓発のために活用することとされている周辺対策交付金により公共施設等に配備された放射線測定器の活用状況等はどのようになっているか。
検査に当たっては、24年度以降に交付された国の交付金等により立地道県及び隣接府県の計21道府県において原則として27年9月末までに実施された原子力災害対策に係る施設等の整備等に関する事業(交付金及び補助金の24年度から26年度までの間の交付額計468億余円)を検査の対象とした。
検査の実施に当たっては、予算書、決算書、立地道県等の地域防災計画(原子力災害対策編)等の内容を確認し分析するとともに、立地道県及び隣接府県の計21道府県のうち18道府県(注2)から、オフサイトセンターの整備状況、一時退避施設等の放射線防護対策の実施状況及び周辺対策交付金により配備された放射線測定器の活用状況に係る調書の提出を受けてその内容を分析し、さらに、16道府県(注3)、内閣府及び原子力規制委員会において、上記の調書及び補助金等の交付申請書、実績報告書等の関係書類を基に説明を聴取したり、現地の状況を確認したりするなどして会計実地検査を行った。
原子力災害対策に係る施設等の整備等に対する交付金及び補助金の22年度の予算額は29億余円、23年度は31億余円であったが、23年原発事故後にUPZの概念が導入されて立地道県等の総数が増えたことや一時退避施設等に対する放射線防護対策を行うことにしたことなどに伴い、24年度は218億余円、25年度は337億余円となり、24年度以降増大している。
そして、24年度から26年度までの上記の交付金及び補助金の合計は、歳出予算額が786億余円であるのに対して、支出済歳出額が475億余円になっており、不用額が137億余円になっていた。
上記支出済歳出額の合計475億余円は、原子力発電所以外の原子力事業所(注4)が立地する大阪府、神奈川県及び岡山県を含んだ全国24道府県に対して交付された交付金及び補助金の交付額である。このうち、原子力発電所の立地道県及び隣接府県である21道府県に対しては、計468億余円が交付されている(表1参照)。
表1 原子力発電所の立地道県及び隣接府県である21道府県が行う原子力災害対策に係る施設等の整備等に対する交付金及び補助金の交付額等の状況(平成24年度~26年度)
地域 | 区分 | 道府県名 | 原子力災害対策重点区域に係る市町村数 | ①原子力発電施設等緊急時安全対策交付金 | ②原子力発電施設周辺地域防災対策交付金 | ③原子力施設等防災対策等交付金 | ④原子力災害対策施設整備費補助金 | ⑤原子力災害対策事業費補助金 | 計 |
3(3)、(5)ア 参照 |
3(5)イ 参照 |
3(3) 参照 |
3(4) 参照 |
||||||
泊 | 立地 | 北海道 | 13 | 2,749 | 80 | 94 | 1,092 | ― | 4,016 |
東通 | 立地 | 青森県 | 5 | 976 | 22 | 75 | 2,626 | ― | 3,701 |
女川 | 立地 | 宮城県 | 7 | 527 | 54 | 122 | 1,167 | ― | 1,872 |
福島 | 立地 | 福島県 | 13 | 972 | 26 | 2,102 | ― | ― | 3,101 |
東海第二 | 立地 | 茨城県 | 14 | 984 | 124 | 79 | 1,095 | ― | 2,283 |
柏崎刈羽 | 立地 | 新潟県 | 9 | 1,292 | 67 | 66 | 1,134 | ― | 2,560 |
志賀 | 立地 | 石川県 | 8 | 2,594 | 43 | 85 | 2,131 | ― | 4,854 |
隣接 | 富山県 | 1 | 267 | 9 | 47 | 198 | ― | 523 | |
福井エリア | 立地 | 福井県 | 12 | 1,955 | 39 | 61 | 2,153 | ― | 4,209 |
隣接 | 岐阜県 | 1 | 121 | 12 | 21 | ― | ― | 156 | |
滋賀県 | 2 | 272 | 11 | 63 | ― | ― | 347 | ||
京都府 | 8 | 507 | 68 | 58 | 577 | ― | 1,212 | ||
浜岡 | 立地 | 静岡県 | 11 | 952 | 46 | 55 | 569 | ― | 1,622 |
島根 | 立地 | 島根県 | 4 | 882 | 135 | 68 | 4,412 | ― | 5,499 |
隣接 | 鳥取県 | 2 | 704 | 62 | 48 | 1,040 | ― | 1,855 | |
伊方 | 立地 | 愛媛県 | 7 | 2,185 | 30 | 98 | 601 | ― | 2,915 |
隣接 | 山口県 | 1 | 172 | ― | 21 | ― | ― | 194 | |
玄海 | 立地 | 佐賀県 | 3 | 728 | 21 | 48 | 1,998 | ― | 2,797 |
隣接 | 福岡県 | 1 | 246 | 6 | 22 | 171 | ― | 446 | |
長崎県 | 4 | 494 | 22 | 27 | 307 | ― | 851 | ||
川内 | 立地 | 鹿児島県 | 9 | 1,033 | 100 | 48 | 681 | ― | 1,863 |
計 | 135 | 20,621 | 984 | 3,318 | 21,962 | ― | 46,887 |
内閣府は、地域原子力防災協議会(25年9月から27年3月まではワーキングチーム)を設置して、関係省庁と共に、原子力災害対策の継続的な充実及び強化を実現するための取組を行っており、25年9月の設置以降27年12月末までの各地域原子力防災協議会の会議の開催状況についてみると、最も開催回数が多い福井エリア地域原子力防災協議会は20回開催されている一方で、開催回数が2回や3回の地域もあった。
また、それぞれの地域の緊急時における対応を取りまとめたもの(以下「緊急時対応」という。)の了承等の状況をみると、13地域のうち、27年12月末までに福井エリア(高浜)、伊方、川内各地域について緊急時対応の了承が行われている。そして、各地域における原子力発電所の原子力総合防災訓練の直近の実施状況をみると、13地域のうち、23年原発事故後は志賀、伊方、川内各地域において実施されている。
原災指針は、24年10月の決定以降、27年12月末までに5回の改正が行われており、原災指針を補足するマニュアル等にも、複数回の修正が行われているものがある。一方、地域防災計画(原子力災害対策編)を作成済みとしている130市町村について、28年2月20日現在における同計画の直近の修正の時期をみると、25年中が27市町村、26年中が36市町村、27年以降が67市町村となっている。
オフサイトセンターを整備した道県等は、23年原発事故の教訓を踏まえて機能強化のための新たな要件が盛り込まれた内閣府令等に対応するために、移転、放射線防護対策等の工事を行っており、これらの工事に対して緊急時交付金等が交付されていて、その実績額は25年度13億余円、26年度60億余円、計74億余円となっている。
オフサイトセンターの立地要件については、内閣府令等により23年原発事故後の検討を踏まえて原子力事業所との距離に係る具体的な要件が示されているが、27年9月30日までは従前の例によるとする経過措置が規定されている。立地要件を満たすようにするために、北海道、石川県及び愛媛県の各オフサイトセンターについては新築移転等を27年9月末までに完了しているが、静岡県のオフサイトセンターについては上記の経過措置期限を越えて移転工事中であり、28年3月末にしゅん工予定となっている(表2参照)。
表2 オフサイトセンターの立地状況等
道県名 | オフサイトセンター名 | 原子力事業所との距離
(km) |
原子力事業所からの方角 | 標高 (m) |
海岸線からの距離(km) | ヘリポート夜間照明設備の有無 | 左に係る電源確保の状況 |
北海道 | 北海道原子力防災センター 注(1) | 10.4 | 南東 | 47.0 | 7.2 | 有 | 有 |
(2.0) | |||||||
青森県 | 東通村防災センター | 11.0 | 北北西 | 39.2 | 7.0 | 有 | 有 |
新潟県 | 新潟県柏崎刈羽原子力防災センター | 8.0 | 南南西 | 6.0 | 2.5 | 有 | 有 |
茨城県 | 茨城県原子力オフサイトセンター | 11.0 | 南南西 | 28.0 | 4.0 | 有 | 有 |
静岡県 | 原子力防災センター 注(2) | 19.6 | 北北東 | 166.0 | 19.0 | 有 | 有 |
(2.3) | |||||||
石川県 | 石川県志賀オフサイトセンター 注(1) | 8.7 | 南東 | 20.5 | 2.5 | 有 | 有
(消防署から受電) |
(5.0) | |||||||
福井県 | 福井県敦賀原子力防災センター | 13.0 | 南 | 16.0 | 3.5 | 有 | 有 |
福井県美浜原子力防災センター | 9.0 | 南 | 14.0 | 0.7 | 有 | 有 | |
福井県大飯原子力防災センター | 7.0 | 南西 | 2.0 | 0.1 | 有 | 有 | |
福井県高浜原子力防災センター | 7.0 | 南東 | 4.0 | 0.5 | 有 | 有 | |
島根県 | 島根県原子力防災センター | 8.5 | 南東 | 2.0 | 8.7 | 有 | 有 |
愛媛県 | 愛媛県オフサイトセンター 注(1) | 24.0 | 南東 | 200.0 | 4.8 | 有 | 有 |
(4.5) | |||||||
佐賀県 | 佐賀県オフサイトセンター | 13.2 | 南東 | 3.9 | 0.2 | 有 | 有 |
鹿児島県 | 鹿児島県原子力防災センター | 11.0 | 東南東 | 4.0 | 11.0 | 有 | 有 |
また、各オフサイトセンターにおいてヘリポートの夜間離発着のための照明設備等の防災資機材の整備を行っているが、このうち北海道のオフサイトセンターでは、移転前の施設において会計実地検査を行った26年12月時点で、訓練実績がないなど、防災資機材を適切に使用するための準備態勢が十分でない事態が見受けられた。
内閣府令等によれば、オフサイトセンターの建屋は、気密性を高め、空気浄化フィルターにより放射性物質を遮断する機能を具備することとされており、この機能を付加するための工事が各オフサイトセンターにおいて行われている。そして、空気浄化フィルターにより捕集することができない放射性希ガス(注5)の監視については、内閣府が参考資料として作成した「オフサイトセンター放射線防護方法に関する考え方」(平成25年2月内閣府作成)によれば、サンプリング装置とガスモニタを設置するなどの対応が必要であるとされている。しかし、27年9月末現在、上記装置の設置を完了しているオフサイトセンターは1か所にとどまっており、その他のオフサイトセンターを整備する道県等においては今後整備する予定であるとしている。
内閣府は、26年6月に各立地道県宛てに発出した通知によりガイドラインを改定することとし、緊急時における燃料優先供給協定等において担保されている場合を除き、おおむね1週間(168時間)稼働するための燃料の備蓄を行うこととした。オフサイトセンターの機能維持のための非常用電源装置等の整備状況についてみると、原則どおりおおむね1週間稼働するために必要な燃料を備蓄する設備が導入されているオフサイトセンターは4か所であり、増設工事中としているものが7か所、増設工事を行わずに燃料優先供給協定を地元の石油製品を販売する者で組織する団体等との間で締結するなどの措置により対応することとしているものが3か所となっていた。
内閣府令等によれば、代替オフサイトセンターは原子力事業所との距離が30km以上でオフサイトセンターからの陸路での移動が可能であり、かつ、原子力事業所からオフサイトセンターの方向とは異なる場所に複数設置することとされている。そして、27年9月30日までの間は従前の例によることとする経過措置が認められているが、経過措置経過後も2か所目の代替オフサイトセンターの設置が完了していないオフサイトセンターが5か所、30km未満に立地する代替オフサイトセンター4か所のうち必要とされる放射線防護対策が行われていないものが2か所となっている。
一時退避施設等の放射線防護対策事業については、24年度の一般会計補正予算から事業が開始され、24、25両年度は原子力災害対策施設整備費補助金、26年度からは原子力災害対策事業費補助金として財政措置が行われて、これにより事業が実施されている。27年12月末までの一時退避施設等140か所に係る事業費は25年度44億余円、26年度163億余円、27年度38億余円、計246億余円となっている。
施設の種類別では特別養護老人ホーム等の社会福祉施設が60か所と最も多くなっており、民間・公共の別では公共施設が86か所と民間施設に比べて多くなっている。
上記の一時退避施設等140か所が備えている機能の状況について整理すると、原子力発電所からの距離の状況については10kmを超え30km以下のものが57か所と最も多くなっている。
耐震性能についてはいずれの施設も原子力災害対策事業費補助金交付要綱(平成27年府政原防第24号内閣総理大臣決定)において要件とされている耐震基準に適合する耐震性能を有することが確認されている施設となっており、対津波性能についてはいずれの施設も想定される浸水高よりも上層階を放射線防護区画としている施設となっていた。
建屋構造については、鉄筋コンクリート造が120か所となっていた。そして、放射線遮蔽能力をコンクリート壁と比較する必要性の有無について検討を要すると考えられる構造の施設が7か所、車いすを利用する要配慮者等が利用することを想定しているのに、エレベーターが設置されていない建屋の2階以上を放射線防護区画としているため、緊急時に速やかな一時退避を行うに当たって、避難行動の方法等について工夫を要すると考えられる施設が3か所見受けられた。
利用者の想定については「入所者等」としているものが71か所となっており、収容人員数については100人以上の規模のものが69か所と最も多くなっていた。
屋内退避等の期間については7日間としている施設が80か所と最も多かった。また、空気浄化フィルターの連続使用可能期間及び非常用電源装置の連続稼働日数は、原則として屋内退避等期間を上回っている必要があるが、下回っている施設が59か所見受けられた。
そして、検査対象とした140か所の一時退避施設等に設置された陽圧化設備136台の差圧設定の状況について、陽圧化設備を稼働することにより実際に発生させることができた差圧(以下「実測差圧」という。)の状況を整理したところ、全体的に大きなばらつきがある状況となっていた。また、差圧設定は、最低限、年間を通じた平均風速に耐え得ることとされていることから、平均風速の風が吹き付けた際に施設の建物の壁に生ずる風圧と実測差圧との関係を検証するための試算を行った。試算に当たっては、風が建屋に吹き付けることにより建屋の壁面に生ずる風圧と風速との関係を、「空気調和衛生工学便覧」(平成22年2月社団法人空気調和・衛生工学会編)に示された鋼製窓サッシの隙間風量を求める際に用いられる計算式を用いることとした。また、風圧の算出に用いる風速については、当該一時退避施設が設置された地域に所在する原子力発電所に最も近い気象観測所における過去10年分(平成18年から27年まで)の年間平均風速の平均値とした。このようにして求めた風圧と実測差圧とを単純に比較した試算の結果を道府県別に整理した各施設の実測差圧の状況と共に示すと表3のとおりとなり、いずれの道府県についても、全ての施設の実測差圧が年間平均風速から求めた風圧を上回る計算結果となっており、また、多くの施設の実測差圧が「20Pa以上40Pa未満」の前後に集中している道県と「100Pa以上120Pa未満」の前後に集中している府県とに大きく二分される状況となっていた。
表3 道府県別にみた風圧と実測差圧との関係の状況
地域 | 区分 | 道府県名 | 設備数 | 年間平均風速から求めた風圧(Pa)
(A) |
0Pa以上20Pa未満 | 20Pa 以上40Pa 未満 |
40Pa 以上60Pa 未満 |
60Pa 以上80Pa 未満 |
80Pa 以上100Pa 未満 |
100Pa 以上120Pa 未満 |
120Pa
以上 |
差圧計なし | |
0Pa以上 (A)未満 |
(A)以上 20Pa未満 |
||||||||||||
泊 | 立地 | 北海道 | 7 | 5.2 | 0 | 4 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
東通 | 立地 | 青森県 | 15 | 3.5 | 0 | 8 | 2 | 2 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 |
東海第二 | 立地 | 茨城県 | 8 | 1.9 | 0 | 0 | 0 | 5 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 |
柏崎刈羽 | 立地 | 新潟県 | 7 | 2.3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 4 | 2 | 0 |
志賀 | 立地 | 石川県 | 13 | 2.8 | 0 | 0 | 0 | 1 | 3 | 0 | 1 | 8 | 0 |
隣接 | 富山県 | 1 | 2.8 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
福井エリア | 立地 | 福井県(敦賀) | 7 | 7.2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 5 | 1 | 0 |
立地 | 福井県(美浜) | 5 | 1.4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 2 | 0 | |
立地 | 福井県(小浜) | 8 | 4.9 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 5 | 2 | 0 | |
隣接 | 京都府 | 5 | 4.9 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 | 0 | 0 | |
浜岡 | 立地 | 静岡県 | 4 | 9.9 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 |
島根 | 立地 | 島根県 | 21 | 2.1 | 0 | 2 | 13 | 5 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
隣接 | 鳥取県 | 3 | 2.1 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
伊方 | 立地 | 愛媛県 | 7 | 8.3 | 0 | 0 | 0 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 |
玄海 | 立地 | 佐賀県 | 13 | 2.1 | 0 | 1 | 0 | 4 | 0 | 0 | 8 | 0 | 0 |
隣接 | 福岡県 | 1 | 2.1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
隣接 | 長崎県 | 5 | 2.1 | 0 | 0 | 3 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
川内 | 立地 | 鹿児島県 | 6 | 1.4 | 0 | 1 | 4 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
計 | 136 | ― | 0 | 16 | 28 | 24 | 10 | 3 | 36 | 17 | 2 |
---|
また、陽圧化設備の設計に当たり、実測差圧の大きさを決定付ける重要な要素の一つである送風機の送風量をどのような考え方に基づいて算定しているかについて三つの設計方法に分類して、設計計算上必要な数値として設定されている差圧(以下「設計差圧」という。)の状況との関係についてみたところ、80Pa以上の設計差圧が設定されている施設では、建屋の壁に吹き付ける風の風速を考慮して設計差圧を求める方法を用いている場合が多い状況となっていた。
さらに、設計差圧の状況に対して原子力発電所からの距離の状況及び施設の種類別の状況がどのように対応しているかについてみたところ、原子力発電所からの距離や施設の種類に応じて設計差圧が設定されているなどの明確な傾向は特に見受けられなかった。また、設計差圧の状況に対して建屋構造の状況がどのように対応しているかについてみたところ、建屋構造が鉄骨造であるものの多くは設計差圧が「20Pa以上40Pa未満」の前後に集中している状況となっていた。
放射線防護対策を行った施設においては、陽圧化設備の維持管理を行う必要があるが、陽圧化設備のフィルターのうち活性炭素繊維フィルターについては、性能保持についての理解が十分でなかったため、密封包装を開封して設置していて、必要な性能が保持されるとされていた期間(おおむね10年)が数年程度にまで短くなるおそれがあるのに、対策を講じていなかった施設が31か所あるなどの状況が見受けられた。また、設備を使用した訓練を実施していなかった施設は42か所となっており、このうち12か所については今後の訓練時期についても未定としている状況となっていた。
そして、放射線防護対策が実施された一時退避施設の避難計画等における位置付け等についてみると、一時退避施設が所在する16道府県のうち5県において避難計画等に記載がないなどの状況が見受けられた。
緊急時交付金の交付を受けた道府県は、防災活動資機材等整備事業を実施している。そして、内閣府は緊急時交付金の交付対象となる防災資機材等の用途等を具体的に示しており、道府県は地域防災計画(原子力災害対策編)等を考慮して、必要な防災資機材等を整備している。同事業に係る緊急時交付金の交付状況をみると、24年度から26年度までの間の交付額は計74億余円となっている。
周辺対策交付金の交付を受けた18道府県は、周辺対策交付金により放射線測定器計8,672台(購入費8億9537万余円、交付金交付額同額)を購入している。
しかし、18道府県における放射線に関する知識の普及啓発のための放射線測定器の活用についての考え方を確認したところ、6道府県が緊急時のみに活用することとしていることにより放射線測定器の全部又は一部を普及啓発に活用しないとしていた。また、25年度に購入されてから27年9月末までの放射線測定器の活用状況を確認したところ、表4のとおり、放射線測定器計8,672台中、6,729台(購入費5億4071万余円、交付金交付額同額)は一度も普及啓発に活用されていなかった。
表4 普及啓発のための放射線測定器の活用状況
放射線測定器の種類 | 一度でも活用されたことのある台数(注) | 購入された台数 | 活用されていなかった台数 | ||||||
県庁・市役所等 | 消防署・警察署等 | 学校等 | 公民館等 | 社会福祉施設等 | その他 | 計 | |||
(A) | (B) | (B)-(A) | |||||||
簡易サーベイメータ | 620 | 10 | 398 | 427 | 160 | 60 | 1,675 | 6,408 | 4,733 |
22.0% | 7.0% | 23.5% | 35.9% | 35.2% | 52.6% | 26.1% | |||
NaIシンチレーション式サーベイメータ | 117 | 3 | 2 | 12 | ― | ― | 134 | 426 | 292 |
33.4% | 8.1% | 10.5% | 60.0% | ― | ― | 31.4% | |||
電離箱式サーベイメータ | 61 | 1 | 0 | 12 | ― | ― | 74 | 828 | 754 |
11.1% | 0.4% | 0.0% | 60.0% | ― | ― | 8.9% | |||
GM管式サーベイメータ | 0 | 0 | ― | ― | ― | ― | 0 | 100 | 100 |
0.0% | 0.0% | ― | ― | ― | ― | 0.0% | |||
可搬型モニタリングポスト | 8 | ― | ― | 16 | ― | ― | 24 | 36 | 12 |
40.0% | ― | ― | 100.0% | ― | ― | 66.6% | |||
個人線量計 | 0 | 0 | ― | ― | ― | ― | 0 | 800 | 800 |
0.0% | 0.0% | ― | ― | ― | ― | 0.0% | |||
その他 | 17 | ― | 13 | 6 | ― | 0 | 36 | 74 | 38 |
62.9% | ― | 37.1% | 75.0% | ― | 0.0% | 48.6% | |||
計 | 823 | 14 | 413 | 473 | 160 | 60 | 1,943 | 8,672 | 6,729 |
18.2% | 2.4% | 23.3% | 37.7% | 35.2% | 50.8% | 22.4% |
一方、内閣府は、道府県が周辺対策交付金により購入し配備した普及啓発のための放射線測定器を必要に応じて緊急時に活用することができるとしている。そして、道府県が緊急時に活用するとしている放射線測定器計4,107台中、配備先等において緊急時に活用するとされている放射線測定器は3,743台となっていたが、そのうち3,508台については、緊急時に誰が測定し、その測定値を何に活用するかなど、具体的な活用方法が定められていなかった。
原子力災害対策に係る施設等の整備等に対する交付金及び補助金の24年度から26年度までの合計は、歳出予算額が786億余円であるのに対して支出済歳出額が475億余円になっており、このうち立地道県及び隣接府県である21道府県に係る交付額は計468億余円となっている。
内閣府は、地域原子力防災協議会を設置して、関係省庁と共に、原子力防災対策の継続的な充実及び強化を実現するための取組を行っており、緊急時対応の原子力防災会議における了承等の状況をみると、13地域のうち、27年12月末までに福井エリア(高浜)、伊方、川内各地域について緊急時対応の了承が行われている。
地域防災計画(原子力災害対策編)を作成済みとしている130市町村について、28年2月20日現在における同計画の直近の修正の時期をみると、25年中が27市町村、26年中が36市町村、27年以降が67市町村となっている。
検査の対象としたオフサイトセンター14か所のうち、立地要件を満たすようにするために新築移転等が行われたオフサイトセンターは4か所あり、このうち1か所は経過措置期限を越えて移転工事中でしゅん工予定が28年3月末となっている。
非常用電源装置等の整備状況についてみると、原則どおりおおむね1週間稼働するために必要な燃料を備蓄する設備が導入されているオフサイトセンターは4か所であり、増設工事中としているものが7か所、増設工事を行わずに燃料優先供給協定を地元の石油製品を販売する者で組織する団体等との間で締結するなどの措置により対応することとしているものが3か所となっていた。また、2か所目の代替オフサイトセンターの設置が完了していないオフサイトセンターが5か所、30km未満に立地する代替オフサイトセンター4か所のうち必要とされる放射線防護対策が行われていないものが2か所となっている。
検査の対象とした一時退避施設等140か所のうち、放射線遮蔽能力をコンクリート壁と比較する必要性の有無について検討を要すると考えられる構造の施設が7か所、車いすを利用する要配慮者等が利用することを想定しているのに、エレベーターが設置されていない建屋の2階以上を放射線防護区画としているため、緊急時に速やかな一時退避を行うに当たって、避難行動の方法等について工夫を要すると考えられる施設が3か所見受けられた。また、空気浄化フィルターの連続使用可能期間や非常用電源装置の連続稼働日数が屋内退避等期間を下回っている施設が59か所見受けられた。
そして、検査対象とした140か所の一時退避施設等に設置された陽圧化設備136台を稼働することにより実際に発生させることができた実測差圧について整理したところ、多くの施設の実測差圧が「20Pa以上40Pa未満」の前後に集中している道県と「100Pa以上120Pa未満」の前後に集中している府県とに大きく二分される状況となっていた。また、80Pa以上の設計差圧が設定されている施設では、建屋の壁に吹き付ける風の風速を考慮して設計差圧を求める方法を用いている場合が多い状況となっていた。
施設の維持管理の状況についてみると、陽圧化設備の活性炭素繊維フィルターの密封包装を開封して設置していて、必要な性能が保持されるとされていた期間が短くなるおそれがあるのに、対策を講じていなかった施設が31か所あるなどの状況が見受けられたほか、設備を使用した訓練を実施していなかった施設は42か所となっており、このうち12か所については今後の訓練時期についても未定としている状況となっている。
周辺対策交付金の交付を受けた18道府県における放射線に関する知識の普及啓発のための放射線測定器の活用についての考え方を確認したところ、6道府県が緊急時のみに活用することとしていることにより放射線測定器の全部又は一部を普及啓発に活用しないとしていた。また、25年度に購入されてから27年9月末までの放射線測定器の活用状況を確認したところ、放射線測定器計8,672台中、6,729台は一度も普及啓発に活用されていなかった。
一方、道府県が緊急時に活用するとしている放射線測定器計4,107台中、配備先等において緊急時に活用するとされている放射線測定器は3,743台となっていたが、そのうち3,508台については、緊急時に誰が測定し、その測定値を何に活用するかなど、具体的な活用方法が定められていなかった。
緊急時に原子力発電所の周辺住民等を安全かつ確実に避難させるための原子力災害対策に係る施設等の整備等を平素から適切に実施するとともに、周辺住民等に対してその取組の状況を適時適切に情報提供することは、周辺住民等の生活に安心をもたらすために極めて重要である。
ついては、内閣府は、立地道県等における原子力災害対策の充実強化を推進する役割を担うことを踏まえて、次の点に留意して立地道県等が行う原子力災害対策に係る施設等の整備等に対する財政支援等の支援を実施する必要がある。
本院としては、今後とも原子力災害対策に係る施設等の整備等の状況について引き続き注視していくこととする。