農林水産省における各種農業施策のうち主要食糧である米の管理等に係る施策については、昭和17年7月から平成7年10月までは食糧管理法(昭和17年法律第40号。以下「食管法」という。)等に基づき、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」(平成6年法律第113号。以下「食糧法」という。)が施行された7年11月から16年3月までは食糧法等に基づき、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律等の一部を改正する法律」(平成15年法律第103号。以下「15年改正法」という。)が施行された16年4月以降は15年改正法による改正後の食糧法(以下「改正食糧法」という。)等に基づき、それぞれ行われてきた。
米全体の需給状況等の推移をみると、昭和40年産米(以下、「年産米」についても「年度」と表記する。)までは生産量が需要量をおおむね下回っていたが、42年度から45年度までは豊作となり生産量が需要量を大幅に上回ったことから、食管法に基づき政府が買い入れた米の在庫量が急増することになり、政府において米の売買に伴う多額の損失が生ずることになった。このような状況の中で、米(主食用米)の生産量の調整(以下「生産調整」という。)を実施するとともに、水田において主食用米以外の作物への作付転換(以下「転作」という。)等を実施した農業者に対して交付金等を交付するなどの施策(以下、生産調整と交付金等の交付等の施策を合わせて「生産調整対策」という。)が44年度に試行的に、また、45年度は緊急措置として実施され、46年度から本格的に実施されることとなった。平成7年には、食管法が廃止されるとともに食糧法が制定されて生産調整が食糧法上に明文化され、政府は、米の需給の均衡を図るための生産調整の円滑な推進を図ることなどとなった。
農林水産省は、14年に水田農業政策・米政策の大転換を図ることを目的とした米政策改革大綱(平成14年12月農林水産省省議決定)を策定し、これを受けて15年改正法が制定され、同省は、16年度から米政策改革大綱による改革を実施することとなった。改正食糧法においては、政府は、生産調整の円滑な推進に関する施策を講ずるに当たっては、生産者の自主的な努力を支援することを旨とするとともに、地域の特性に応じて行うよう努めなければならないこととなった。また、米政策改革大綱により、農林水産省は、消費者重視及び市場重視の考え方に立って、需要に応じた米づくりの推進を通じて水田農業経営の安定を図ることとなった。
昭和44年度から平成26年度までの間に農業者に対して交付された生産調整対策に係る交付金等の交付額は、表のとおり、昭和44年度の稲作転換対策から平成26年度の経営所得安定対策等までの計15の生産調整対策を合計すると約9兆0576億円に上っている。
交付金等の助成対象や交付要件は生産調整対策ごとに異なっており、15年度以前は、米の生産量を削減する数量等の目標値以上の削減を行った場合に、転作等を実施した水田の面積(以下「転作等面積」という。)を助成対象として交付金等が交付された。また、16年度以降は、主食用米の生産量をその目標値以下とした場合に、転作等面積(16年度から21年度まで)及び主食用水稲の作付面積(22年度以降)を助成対象として交付金が交付された。さらに、22年度以降は、主食用米の生産量をその目標値以下としたか否かにかかわらず、麦、大豆、飼料用米等への転作を行い水田を活用した場合にも、当該転作を実施した水田の面積(以下「転作面積」という。)を助成対象として交付金が交付された。
表 生産調整対策に係る交付金等の交付額
年度等 | 生産調整対策名 | 交付額 | 年度等 | 生産調整対策名 | 交付額 | ||
食管法施行期 | 昭和44 | 稲作転換対策 | 10 | 食糧法施行期 | 平成8 | 新生産調整推進対策 | 1359 |
45 | 米生産調整対策 | 1124 | 9 | 1363 | |||
46 | 米生産調整及び稲作転換対策 | 1711 | 10 | 緊急生産調整推進対策 | 1156 | ||
47 | 1809 | 11 | 1137 | ||||
48 | 1806 | 12 | 水田農業経営確立対策 | 1440 | |||
49 | 1105 | 13 | 1736 | ||||
50 | 928 | 14 | 1857 | ||||
51 | 水田総合利用対策 | 759 | 15 | 1973 | |||
52 | 925 | 改正食糧法施行期 | 16 | 水田農業構造改革対策 | 1443 | ||
53 | 水田利用再編対策 | 2600 | 17 | 1443 | |||
54 | 2827 | 18 | 1442 | ||||
55 | 3578 | 19 | 1475 | ||||
56 | 3567 | 20 | 1475 | ||||
57 | 3592 | 21 | 2236 | ||||
58 | 3381 | 22 | 戸別所得補償モデル対策 | 4958 | |||
59 | 2409 | (3068) | |||||
60 | 2225 | 23 | 農業者戸別所得補償制度 | 3751 | |||
61 | 2322 | (1533) | |||||
62 | 水田農業確立対策 | 1946 | 24 | 3775 | |||
63 | 1924 | (1552) | |||||
平成元 | 1833 | 25 | 経営所得安定対策 | 3720 | |||
2 | 1677 | (1559) | |||||
3 | 1648 | 26 | 経営所得安定対策等 | 3245 | |||
4 | 1374 | (747) | |||||
5 | 水田営農活性化対策 | 975 | 計 | 15対策 | 9兆0576 | ||
6 | 697 | ||||||
7 | 840 | (5対策(平成16年度~26年度)) | 2兆8963 |
昭和46年度から50年度までは国から都道府県に、都道府県から市町村に、市町村から農業者に対して、それぞれ転作等を行うことにより米の生産量を削減する数量の目標を配分するなど行政主体の生産調整対策が実施されており、51年度からは配分対象が、水稲の作付けが可能な水田において転作等を行うことにより水稲の作付けを行わないこととする水田の面積の目標に変更され、62年度には行政のほか農業者団体も生産調整対策に関与するよう生産調整対策の実施方法が変更された。
改正食糧法に基づき、生産出荷団体等(注1)は、「米穀の生産調整に関する方針(注2)」(以下「生産調整方針」という。)を作成することとなり、生産出荷団体等は、作成した生産調整方針に従って生産を行う農業者に係る主食用米の生産量の目標値(以下「生産数量目標」という。)の設定方針等が生産数量目標を確実に達成するために適切なものであることなどの要件を満たす場合には、農林水産大臣から当該生産調整方針について適当である旨の認定を受けることができることとなった(以下、認定を受けた生産調整方針を「認定方針」といい、認定方針を作成した生産出荷団体等を「認定方針作成者」という。)。
また、平成16年度に、配分対象が生産数量目標に変更されるとともに、都道府県は都道府県協議会(注3)の助言を受けて、都道府県別の生産数量目標の範囲内で市町村別の生産数量目標を決定することとなった。
そして、18年11月に、農業者等の自主性を尊重するために配分等の対象が生産数量目標から需要量に関する情報(以下「需要量情報」という。)に変更され、生産調整対策の実施体制については、市町村から地域協議会(注3)に、地域協議会から認定方針作成者に需要量情報をそれぞれ提供し、認定方針作成者から認定方針に参加する農業者(以下「参加農業者」という。)に対して、認定方針作成者が需要量情報を基に算定した農業者別の生産数量目標及び生産数量目標の面積換算値(以下「生産数量目標面積換算値」という。)を配分する方式に変更された。
しかし、19年度には、生産調整対策の実効性が確保できていなかったことなどにより米価が大幅に下落したことを受けて、米緊急対策(平成19年10月農政改革三対策緊急検討本部決定)が決定され、34万tの米を備蓄米として買い入れるとともに、生産調整対策の実効性を確保するために、20年度から行政が強力に指導していく体制に再び改められることとなった。そして、米緊急対策により、同年度に、国から認定方針作成者に至るまでの配分等の対象については、需要量情報に加えて、当該需要量情報の面積換算値(以下「需要量面積換算値」という。)を都道府県、市町村及び地域協議会の各段階においてそれぞれ提供された需要量面積換算値の範囲内で設定して併せて提供するよう変更されることとなった。
22年度には、需要量情報は、生産数量目標に名称が変更されるとともに、生産数量目標の提供と併せて、生産数量目標面積換算値を各段階において提供された生産数量目標面積換算値の範囲内で引き続き設定して提供することとなった(以下、生産数量目標及び生産数量目標面積換算値には、それぞれ名称変更前の需要量情報及び需要量面積換算値を含む。)。また、認定方針に参加しない農業者(以下「非参加農業者」という。)に対しても地域協議会から生産数量目標を配分し、認定方針への参加を促すとともに、生産数量目標を達成したことに対するメリット措置として、22年度以降、非参加農業者を含め、各農業者に対して米の直接支払交付金等が交付されることとなった。さらに、生産数量目標の達成又は不達成にかかわらず、麦、大豆、飼料用米等への転作を行った農業者に対して、水田活用の直接支払交付金等が交付されることとなった。
このように、生産調整対策は、生産数量目標等の主食用米の生産量等の目標値(以下「生産調整目標」という。)を指標として、数々の変遷を経て、昭和44年度から現在に至るまで実施されてきた。
平成25年5月に内閣に設置された農林水産業・地域の活力創造本部は、同年12月に、行政による生産数量目標の配分を前提とした米の生産調整対策が、農業の担い手の自由な経営判断や市場戦略を採っていくことを著しく阻害し、意欲のある担い手の効率的な生産を大きく妨げる原因となっているとして、30年度を目途に、米の生産調整の見直しを含む米政策の改革や米の直接支払交付金の廃止等を内容とする農林水産業・地域の活力創造プランを決定した。
同プランにおいて、米政策は、需要に応じた生産を推進するために、きめ細かい需給情報の提供等の環境整備を進めることなどとされ、この定着状況をみながら、30年度を目途に、行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、国が策定する需給見通し等を踏まえつつ生産者や集荷業者・団体が中心となって円滑に需要に応じた生産が行える状況になるよう、行政、生産者団体及び現場が一体となって取り組むこととなった。また、生産数量目標を達成したことに対するメリット措置である米の直接支払交付金については、30年度に廃止することとなった。
米の生産調整対策は、45年以上にわたって実施されており、26年度までに計約9兆0576億円もの多額の交付金等が投入されてきている。そして、農林水産省は、30年度を目途に、行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、生産者等が中心となって円滑に需要に応じた米の生産が行われることを目指した生産調整の見直しを含む米政策の改革を進めている。
このような状況の中で、これまで実施されてきた生産調整対策の内容、成果、課題等を分析して検証することは、今後の改革の着実な実施に向けて有益と考えられる。
そこで、本院は、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
ア 生産調整対策は、関係法令等の趣旨に沿って適切に行われていたか、生産調整目標の達成状況はどのようになっていたか、特に、16年度以降は、米政策改革大綱等を受けて、どのように実施されているか。
イ 生産調整対策に係る事後評価は適切に行われてきたか。
ウ 生産調整対策の実施により、米の生産コストや転作等の水田活用状況等にどのような影響が生じていたか。
エ 30年度を目途とする生産調整の見直しに向けてどのような取組が行われているか。
昭和44年度から平成26年度までの間に実施された計15の生産調整対策(交付金等交付額計約9兆0576億円)を対象として、農林水産本省において会計実地検査を行い、関係資料を徴するなどして国全体の状況について分析等を行った。また、上記生産調整対策のうち、米政策改革大綱等を受けて16年度から26年度までの間に実施された改正食糧法施行期の計5の生産調整対策(同計約2兆8963億円)を対象として、8農政局等(注4)管内の27道府県における27道府県協議会(注5)及び同道府県管内の160市町村における160地域協議会(地域協議会が設置されていない1市を含む。以下同じ。)において会計実地検査を行い、調書等を徴するなどして更に分析等を行った。
生産調整対策の実施による生産調整目標の達成状況について、国段階、都道府県段階及び市町村段階の各段階別にみると、次のとおりとなっていた。
国段階の生産調整目標は、食管法施行期においてはおおむね達成されていたが、食糧法施行期においては達成と不達成が繰り返されており、改正食糧法施行期においては26年度まで達成されていなかった。そして、生産調整目標の達成状況は、交付金等の交付額の多寡のほか、行政の関与の度合い、助成対象や配分対象の変更等の影響を複合的に受けてきたと考えられる。
47都道府県について、16年度から26年度までの間に生産調整目標を達成した都道府県の割合をみると、最大でも約6割にとどまっていた。
なお、農林水産省は、全国の需要見通しに加えて、各産地における販売及び在庫の状況等に関するきめ細やかな情報提供や、水田活用の直接支払交付金による飼料用米等の生産に対する支援を進めており、27年度は、国段階で生産調整目標を達成し、16年度から26年度までの間に生産調整目標を達成しなかった府県の一部において、生産調整目標を達成したとしている。
検査の対象とした前記の27道府県協議会に係る27道府県管内の全市町村について、22年度から26年度までの間に生産調整目標を達成した市町村の割合をみると、おおむね7割前後で推移していた。
また、検査の対象とした前記の160地域協議会に係る160市町村のうち、22年度から26年度までの間における生産数量目標面積換算値に対する主食用水稲の作付面積の割合を把握できた市町村について、同割合の市町村別の推移をみると、毎年度、市町村間で大きな開差が生じていた。前記160地域協議会のうち、22年度から26年度までの各年度において生産調整目標を達成した農業者(非参加農業者を含む。)の数を把握できた地域協議会全体について、全農業者に占める生産調整目標を達成した農業者の割合(以下「達成者率」という。)をみると、7割弱で推移しており、また、達成者率が100%となっていた地域協議会が毎年度2割程度あった一方で、達成者率が10%未満となっていた地域協議会が約4%から約8%までの間で推移しており、各年度とも、地域協議会間で達成状況に大きな差が生じていた。
改正食糧法において、政府は、地域の特性に応じて生産調整の円滑な推進に関する施策を講ずるよう努めなければならない旨が規定されており、16年度以降の生産調整対策の実施方法について定めた「米の数量調整実施要綱」(平成16年15総食第825号農林水産事務次官依命通知)等(以下「生産調整要領」という。)によれば、16年度以降、都道府県段階及び市町村段階ともに、改正食糧法の趣旨を踏まえて、需要に応じた米づくりの観点から生産数量目標を決定することなどとされている。
国段階において、16年度以降における生産数量目標面積換算値(都道府県別)の水田面積(同)に対する割合についてみると、毎年度、都道府県間で大きな差が生じていた。
検査の対象とした前記の27道府県協議会に係る27道府県について、16年度以降における市町村別の生産数量目標の配分方法の推移をみると、担い手となる農業者の割合が高い市町村に対して重点配分するなど何らかの要素を考慮して算定した生産数量目標を配分する方式を採用する道府県が毎年度多くを占めていたが、22年度には、各市町村の水田面積等に一定の割合を一律に乗じて算定した生産数量目標を配分する方式(以下、一律に算定した生産数量目標を配分する方式を「一律配分方式」という。)を採用する県が増加した。
検査の対象とした前記160地域協議会のうち、16年度から26年度までの各年度における農業者別の生産数量目標の配分方法を把握できた地域協議会について、地域協議会ごとの配分方法の推移をみると、一部の年度を除き過半数の地域協議会が、生産数量目標面積換算値(市町村別)の水田面積(同)に対する割合を各農業者の水田台帳上の水田面積に乗ずるなどして算定した生産数量目標を配分する一律配分方式を採用しており、特に、22年度の戸別所得補償モデル対策以降、一律配分方式を採用する地域協議会が増加傾向となっていた。また、従来、地域協議会内の農業者間においては、生産数量目標の授受による補正(以下「農業者間調整」という。)が行われていた。
このように、生産数量目標の配分方法は、都道府県ごと及び地域協議会ごとに区々となっていた。これは、改正食糧法において、政府が生産調整の円滑な推進に関する施策を講ずるに当たっては、地域の特性に応じて行うよう努めなければならないこととなっており、生産数量目標の具体的な配分方法については、地域の裁量に委ねられていることによるものである。
一方、生産数量目標は、主食用水稲を作付けする全農業者を対象とした米の直接支払交付金の交付判定にも用いられており、生産数量目標の配分方法が都道府県ごと及び地域協議会ごとに区々となっていることによって、農業者ごとの生産数量目標の配分割合に高低が生ずる場合には、水田面積の規模が同じ農業者であっても、主食用水稲を作付けすることができる面積に差が生じ、米の直接支払交付金の交付額にも差が生ずることになる。
検査の対象とした前記の160地域協議会による26年度の生産数量目標の達成又は不達成の判定方法をみると、農業者間調整により他の農業者から生産数量目標の供出を受けた農業者のうち、生産数量目標を達成して米の直接支払交付金の交付を受けた者の中には、農業者間調整後の生産数量目標面積換算値と水田台帳上の水田面積とが同一となり、さらに、当該水田面積と実際に作付けした主食用水稲の作付面積とが同一となっていて、主食用米の生産量が全く抑制されていない者が見受けられた。
また、一部の地域協議会において、集落単位で生産数量目標を達成した場合は、当該集落内の全農業者を達成と判定する一方で、集落単位で生産数量目標を達成しなかった場合は、当該集落内の全農業者を不達成とはせず農業者ごとに達成又は不達成を判定するなど、判定方法が統一されていないものが見受けられた。
認定方針作成者は、生産調整要領に基づき、参加農業者に対して生産数量目標及び生産数量目標面積換算値を配分することとなっているため、参加農業者を把握することが必要となるが、検査の対象とした前記160地域協議会のうち、参加農業者の全農業者に対する割合(以下「参加率」という。)を把握できた地域協議会について、22年度から26年度までの間における地域協議会ごとの参加率の推移をみると、参加率が1.4%にとどまっているなど著しく低い地域協議会が見受けられた。また、26年度の地域協議会ごとの参加率と達成者率を対比すると、達成者率が参加率を下回っていて、参加農業者であるのに不達成農業者がいた地域協議会が113地域協議会見受けられた。
上記を踏まえて、160地域協議会において、主にどのような農業者を参加農業者としているかについてみると、農業者が認定方針に参加する意思があるかどうかを確認していなかったと認められる地域協議会が77地域協議会見受けられた。
このように、参加農業者であるのに不達成農業者がいたり、生産数量目標を配分した農業者を全て参加農業者としていたりしていて、生産調整要領において求められる運用が行われていないと認められる地域協議会が見受けられた。
生産調整要領によれば、農業者が生産数量目標の配分を受けた場合、当年度の主食用水稲の作付面積等を記載した水稲生産実施計画書(以下「計画書」という。)を認定方針作成者等へ提出することとされている。
そこで、検査の対象とした前記160地域協議会のうち、提出農業者の全農業者に対する割合(以下「提出率」という。)を把握できた地域協議会について、22年度から26年度までの間における地域協議会ごとの提出率の推移をみると、提出率が100%の地域協議会の割合が2割から3割までの間で推移している一方で、提出率が0.1%と著しく低い地域協議会も見受けられた。
また、26年度の地域協議会ごとの参加率と提出率を対比すると、提出率が参加率を下回っていて、参加農業者であるのに計画書を提出していない農業者(以下「未提出農業者」という。)がいた地域協議会が96地域協議会あり、この中には参加率が100%となっていたのに提出率が1.2%と著しく低くなっていて、生産調整要領において求められる運用が行われていないと認められる地域協議会が見受けられた。
地域協議会は、生産調整要領に基づき、現地確認等により当年度における当該地域全体の主食用水稲の作付面積の適正な把握に努めることとなっており、計画書に記載された主食用水稲の作付面積について現地を確認するなどして確認を行っている。
そこで、検査の対象とした前記160地域協議会のうち、26年度において未提出農業者がいた122地域協議会について、未提出農業者に係る主食用水稲の作付面積の確認をどのように行っているかをみたところ、81地域協議会は、過去の主食用水稲の作付面積をそのまま当年度の作付面積とみなすなどしていて、主食用水稲の作付面積を現地確認等により確認しておらず、市町村全体の主食用水稲の作付面積を正確には把握していなかった。
農林水産省は、生産調整対策は、需要に応じた主食用米の生産が行われたか、すなわち毎年度の主食用米の生産量が生産数量目標を達成したかを確認することにより評価できるとしており、また、毎年度の生産調整対策の効果は、当年度の主食用米等の生産量に反映されることになるとしている。
16年度から26年度までの間を対象に農林水産省が実施した生産調整対策に係る事後評価の状況をみると、一部の年度を除き、政策評価の中で米政策に重点を置いた評価指標を設定して評価を行っていた。政策評価以外では、同省は、国段階及び都道府県段階の生産数量目標の達成状況を確認することにより評価した上で、その効果を翌年度の米の需給見通しや支援体系の定期的な見直しの検討に反映してきたとしているが、生産調整対策の直接の評価や所見は明示されていないことから成果目標や評価指標の設定内容は明らかではなく、また、評価結果がどのように活用されたのかが必ずしも明らかではなかった。
26年度の米の生産コスト及び単収(10a当たりの収穫量)の状況について、水稲の作付規模別にみると、作付規模が大きいほど生産コストは低くなり、また、作付規模が1ha以上の経営体では1ha未満の経営体よりも単収が高くなる傾向が見受けられた。
そして、現在実施されている生産調整対策において、米の生産コストとの関係についてみると、特に、農業者に対する生産数量目標の配分が一律配分方式によって行われ、かつ、大規模農業者に生産数量目標を供出する農業者間調整が行われなかった場合、農業者ごとに同一の比率で主食用水稲の作付面積が削減されることになるため、大規模農業者は作付規模を更に拡大できず、生産コストの削減を図ることができない。このような場合、生産調整対策には、作付規模の拡大による米の生産コストの低減に寄与しない側面があると考えられる。
麦又は大豆への転作に係る交付金の交付を受けていた農業者のうち、大部分の農業者においては、交付金による収入が転作作物の麦又は大豆に係る農業者収入(農作物の生産を行った場合の収入をいう。以下同じ。)において大きな割合を占めており、転作に係る交付金は、農業者による転作の実施に大きな影響を与えていたと考えられる。
全体的な傾向として、転作面積と交付金等の交付額は、連動して増減が繰り返されていた。主食用米の需要は依然として減少傾向にあり、今後においても、転作の重要性が見込まれることから、転作に係る交付金等が転作の実施に効果的、効率的に結び付いているかなど、転作に係る交付金等の交付額の動向についても留意する必要があると考えられる。
都道府県別の米以外の作物への転作の状況について、水田面積に対する転作面積の割合(以下「転作率」という。)の推移をみると、毎年度、都道府県間で大きな差が生じていた。また、地域協議会ごとに転作率と水田面積全体に占める荒廃水田等の面積の割合を対比してみると、転作率が低い地域協議会の中には、荒廃水田等の面積の割合が高くなっている地域協議会が見受けられた。
これまで実施されてきた生産調整対策のメリット及びデメリットについて、検査の対象とした前記の160地域協議会に聴取したところ、104地域協議会が「米価が安定し、農業者の収入の安定につながっている」としたり、87地域協議会が「転作が奨励されることで水田の有効活用につながっている」としたりするなど、多くの地域協議会が一定のメリットがあったと考えていた。一方、131地域協議会が「制度が複雑で、頻繁に変更されたことが、農業者の不信感につながっている」としたり、72地域協議会が「米を作れないことが非作付地の拡大につながっている」としたり、56地域協議会が「米を作れないことで転作に適さない水田にも転作を行わざるを得ない」としたり、35地域協議会が「出荷団体や農業者が主体的に判断する機会が失われてきた」としたりするなど、多くの地域協議会が一定のデメリットもあったと考えていた。
なお、農林水産省は、従来、麦や大豆等の米以外の転作作物の作付けに適さないとされてきた産地においても、近年は、飼料用米が転作の選択肢として認識されるようになり、主食用以外の米を軸にした生産調整対策に取り組むことができるようになっているとしている。
農林水産省は、30年度を目途とした生産調整の見直しに向けての環境整備として、「米に関するマンスリーレポート」(以下「マンスリーレポート」という。)において、米穀等に関する需給情報を毎月公表するなどしており、26年4月からは、各生産者の経営判断等に資する情報の拡充を図っている(以下、これらの取組を「30年度に向けた取組」という。)。また、27年度においては、27年5月15日時点の飼料用米の中間的な取組状況を公表し、さらに、28年度においては、中間的な取組状況の公表対象に麦、大豆等を追加するなど、新たな30年度に向けた取組を行っている。
そこで、27年8月末時点における30年度に向けた取組の状況について、検査の対象とした前記の160地域協議会に聴取したところ、マンスリーレポートを活用したり、主食用米のブランド化を推進したりするなど具体的な取組を進めている地域協議会がある一方で、30年度以降の具体的な方向性が示されていないなどの理由により、30年度に向けた取組を意識的には行っていない地域協議会も多く見受けられるなど、地域協議会ごとにその取組状況は区々となっていた。また、マンスリーレポートを活用していなかった地域協議会にその理由を聴取したところ、具体的な活用方法が分からないとしたり、マンスリーレポートの存在自体を知らないとしたりしている地域協議会もあった。
国段階の生産調整目標は、食管法施行期においてはおおむね達成されていたが、食糧法施行期においては達成と不達成が繰り返されており、改正食糧法施行期においては26年度まで達成されていなかった。また、都道府県段階では、16年度から26年度までの間に最大で約6割の達成にとどまっており、市町村段階では、22年度から26年度までの間に、おおむね7割前後の達成で推移していた。
生産数量目標の配分方法は、地域の裁量に委ねられており、都道府県ごと及び地域協議会ごとに区々となっていた。
認定方針への参加状況及び計画書の提出状況を地域協議会ごとにみると、参加率や提出率が著しく低くなっている地域協議会が見受けられた。
農林水産省が実施した生産調整対策の事後評価の状況をみると、一部の年度を除き、政策評価の中で事後評価を行っていた。同省は、政策評価以外に、国段階及び都道府県段階の生産数量目標の達成状況を確認することにより評価した上で、その効果を翌年度の米の需給見通しや、支援体系の定期的な見直しの検討に反映してきたとしているが、生産調整対策の直接の評価や所見は明示されておらず、また、評価結果がどのように活用されたのかが必ずしも明らかではなかった。
農業者に対する生産数量目標の配分が一律配分方式によって行われるなどした場合には、大規模農業者は作付規模を更に拡大できないため、生産調整対策には、作付規模の拡大による米の生産コストの低減に寄与しない側面があると考えられる。
転作作物の麦及び大豆についてみると、交付金による収入が麦又は大豆に係る農業者収入において大きな割合を占めていた。また、転作面積と交付金等の交付額は、連動して増減が繰り返されており、今後も、転作の重要性が見込まれることから、転作に係る交付金等の交付額の動向についても留意する必要があると考えられる。
農林水産省は、マンスリーレポートにおいて、26年4月から、各生産者の経営判断等に資する情報の拡充を図っている。27年8月末時点における30年度に向けた取組の状況についてみると、マンスリーレポートの活用等の具体的な取組を進めている地域協議会が見受けられる一方で、30年度に向けた取組を意識的には行っていない地域協議会が見受けられるなど、地域協議会ごとにその取組状況は区々となっていた。
我が国の農業は、農業者の高齢化の進展、荒廃農地の増加等を背景として、攻めの農業に向けた取組や生産調整の見直しを含む米政策の改革等の各種改革を着実に進めていくことが急務となっている。そして、45年以上にわたって実施されてきた生産調整対策については、30年度を目途に、行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、生産者等が中心となって円滑に需要に応じた米の生産が行われることを目指した改革の実施に向けて、大きな節目を迎えている。また、28年2月に、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が参加国の代表により署名されるなど、米政策を取り巻く環境は大きく変化している。
このような状況の中で、農林水産省は、飼料用米等の作付けに対する助成を今後も引き続き行うこととしているほか、農林水産業・地域の活力創造プランや日本再興戦略(平成25年6月閣議決定)等において、米の生産コストを今後10年間で現在の4割削減することなどを目標として掲げている。
16年度から施行された改正食糧法において、政府は、生産調整の円滑な推進に関する施策を講ずるに当たっては、生産者の自主的な努力を支援することを旨とするとともに、地域の特性に応じて行うよう努めなければならないとされており、行政による生産数量目標の配分に頼らずに各産地において需要に応じた米の生産が行われることを推進するに当たっては、各産地における生産数量目標の達成状況、配分方法、認定方針への参加状況等の生産調整対策の実施状況を踏まえて推進を図っていくことが重要であると考えられる。
ついては、農林水産省において、米の生産調整の見直しを含む米政策の改革を確実に実行するために、改正食糧法の趣旨を踏まえつつ、次の点に留意して30年度に向けた取組を推進していくことが肝要である。
本院としては、これまでの生産調整対策の実施状況等を踏まえつつ、30年度を目途とした米の生産調整の見直しを含む米政策の改革の実施状況について、引き続き注視していくこととする。