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  • 平成27年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

<参考:報告書はこちら>

第1 介護保険制度の実施状況について


要請を受諾した年月日
平成27年6月23日
検査の対象
厚生労働省
検査の内容
介護保険制度の実施状況についての検査要請事項
報告を行った年月日
平成28年3月25日

1 検査の背景及び実施状況

(1) 検査の要請の内容

会計検査院は、平成27年6月22日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月23日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

  • (一) 検査の対象

    厚生労働省

  • (二) 検査の内容

    介護保険制度の実施状況に関する次の各事項

    • ① 介護保険の財政状況
    • ② 介護サービス等の実施状況

(2) 介護保険制度の概要等

ア 介護保険制度の概要

厚生労働省が所管する介護保険制度(注1)は、介護保険法(平成9年法律第123号。以下「法」という。)に基づき、高齢者の介護を社会全体で支える仕組みとして12年4月から実施されているものである。そして、介護保険は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により、常時、介護を要すると見込まれる状態(以下「要介護状態」という。)又は継続して日常生活を営むのに支障があると見込まれるなどの状態(以下「要支援状態」という。)になった者に対して、それらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービス(以下「介護サービス」という。)に係る保険給付(以下、要介護状態又は要支援状態になった者に係る保険給付を「介護給付等」という。)を行い、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的としている。

(注1)
主に平成21年度から26年度までの間における介護保険制度の実施状況について検査したことから、同制度については、原則として26年度以前の法令等に基づき記述している。

介護保険では、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が保険者となっている。また、被保険者は、当該市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者(以下「第1号被保険者」という。)及び当該市町村の区域内に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者となっている。

要介護状態又は要支援状態になった被保険者は、居宅サービス(注2)、施設サービス及び地域密着型サービス(注3)(後述1(2)イ(ア)参照。以下、これらを合わせて「介護3サービス」という。)の提供を受けることができることとなっている。また、当該被保険者は、サービスの適切な利用等をすることができるように、利用するサービスの種類等を定めた居宅サービス計画の作成等を行う居宅介護支援又は介護予防サービス計画の作成等を行う介護予防支援(後述1(2)イ(イ)参照)の提供を受けることができることとなっている。

(注2)
居宅サービスには、介護予防サービスを含む。
(注3)
地域密着型サービスには、地域密着型介護予防サービスも含む。

市町村は、介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施に関する計画(以下「介護保険事業計画」という。)を、12年度以降、3年ごとに5年を1期として定めることとなっていたが、18年度以降は、3年を1期として策定することとなっており、21年度から23年度までを第4期、24年度から26年度までを第5期として策定している。そして、保険者は、介護保険に係る歳入歳出について特別会計(以下「介護保険事業特別会計」という。)を設けることとなっており、介護保険事業計画の計画期間ごとに保険料基準額を算定することとなっている。また、保険者は、介護保険事業特別会計の剰余金を管理するために、条例で定めるところにより介護給付費準備基金を設けることができることとなっている。

そして、都道府県は、管内の保険者の介護保険事業特別会計に財政上の不足が生じた場合に備えて、財政安定化基金を設け、保険者に対し資金の貸付け及び交付を行うこととなっている。

被保険者は、介護給付等を受けるに当たっては、要介護状態にあること及びその該当する要介護状態の区分、又は要支援状態にあること及びその該当する要支援状態の区分(以下、これらを合わせて「要介護度等」という。)について、保険者である市町村の認定(以下「要介護認定等」という。)を受けることが必要となっている。要介護認定等は、保険者が、被保険者の心身の状況等の調査(以下「認定調査」という。)を行うとともに主治医に意見書の提出を求め、これを当該保険者の介護認定審査会に提出して審査・判定を依頼し、その審査・判定に基づき行うこととなっている。

認定調査のうち、既に要介護認定等を受けている被保険者で、要介護認定等の更新又は要介護度等の変更の申請をした者に対して実施する認定調査(以下「更新等認定調査」という。)については、保険者である市町村は、職員に実施させるほか、都道府県知事等の指定を受けた居宅介護支援を提供する事業者(以下「支援事業者」といい、支援事業者が運営する事業所を「支援事業所」という。)等に委託して実施することができることとなっている。

都道府県知事等の指定等を受けた介護サービス事業者が、要介護認定等を受けた要介護者又は要支援者(以下、これらを合わせて「要介護者等」という。)に対して介護サービスを提供した場合に請求することができる報酬の額(以下「介護報酬」という。)は、厚生労働大臣が定める基準に基づき、介護サービスの種類別に定められた単位数に所定の単価を乗ずるなどして算定することとなっている。

保険者は、法に基づき、要介護者等が介護3サービスの提供を受けたときは、介護3サービス事業者に対して、原則として、介護報酬の100分の90に相当する額を、また、要介護者等が居宅介護支援等の提供を受けたときは、支援事業者等に対して介護報酬の全額をそれぞれ支払うこととなっている(以下、保険者が支払うこれらの費用を「介護給付費」という。)。また、要介護者等は、介護3サービスの提供を受けたときは、介護3サービス事業者に対して、原則として、介護報酬の100分の10に相当する額を支払うこととなっている。

居宅サービス及び地域密着型サービスのうち一定のサービスに係る介護報酬については、要介護度等別に区分支給限度基準額が設けられていて、当該額を超過してサービスの提供を受けた分の介護報酬については、要介護者等がその全額を負担することとなっている(以下、要介護者等が区分支給限度基準額を超過してサービスの提供を受けた分について負担する額を「10割負担額」という。)。

イ 介護サービスの概要等

(ア) 介護3サービスの種類

前記のとおり、介護保険により提供される介護3サービスには、居宅サービス、施設サービス及び地域密着型サービスがある。居宅サービスは居宅の要介護者等に対して提供されるサービスであり、施設サービスは介護保険施設の入所者等に対して当該施設において提供されるサービスである。また、地域密着型サービスは、要介護者等が住み慣れた自宅又は地域での生活を継続できるようにするために提供されるサービスであり、18年度に導入されたものである。

(イ) 居宅介護支援及び介護予防支援

居宅介護支援は、居宅の要介護者がサービスの適切な利用等を行うことができるように、介護支援専門員(以下「ケアマネジャー」という。)が、居宅サービス計画を作成するとともに、当該計画に基づく居宅サービス及び地域密着型サービス(以下「居宅サービス等」という。)の提供が確保されるよう、連絡調整その他の便宜の提供(以下「ケアマネジメント」という。)を行うものである。また、介護予防支援は、居宅の要支援者がサービスの適切な利用等を行うことができるように、ケアマネジャー等が、介護予防サービス計画の作成その他の便宜の提供を行うものである。

ケアマネジャーは、要介護者等からの相談に応じ、ケアマネジメント等を行う者であり、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識及び技術を有するものとして都道府県から介護支援専門員証の交付を受けた者である。そして、法第69条の34第1項及び「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第38号。以下「運営基準」という。)第1条の2第3項の規定によれば、ケアマネジャーは、居宅介護支援を行うに当たっては、その担当する要介護者の人格を尊重し、常に当該要介護者の立場に立って、当該要介護者に提供されるサービスが特定の種類又は特定の事業者に不当に偏ることのないよう、公正・中立にその業務を行わなければならないことなどとされている。また、運営基準第25条の規定によれば、支援事業者は、居宅サービス計画の作成又は変更に関し、その運営する支援事業所のケアマネジャーに対して、特定の居宅サービス等事業者による居宅サービス等を居宅サービス計画に位置付けるべき旨の指示等を行ってはならないとされている。

居宅介護支援を行うケアマネジャーの多くは、居宅サービス等事業所に併設されている支援事業所に所属して業務を行っており、そのような支援事業所は、併設されている居宅サービス等事業所を運営する事業者と同一の事業者により運営されている場合が多くなっている。このため、ケアマネジャーが居宅サービス計画に位置付ける居宅サービス等が特定の居宅サービス等事業者が提供するものに不当に偏ることのないようにするなどして、ケアマネジメントの公正・中立を確保することが重要な課題となっている。

(ウ) 特定事業所集中減算

支援事業所は、居宅介護支援に係る介護報酬の算定に当たり、各年度の前期又は後期の判定期間(注4)に作成した居宅サービス計画の中で、対象となるサービス(27年8月までは訪問介護等の三つの居宅サービス。以下、これらを「3居宅サービス」という。)が位置付けられた居宅サービス計画の数をそれぞれ算出した上で、最も利用者数の多い事業者を位置付けた居宅サービス計画の数の占める割合(以下「集中割合」という。)を計算し、いずれかのサービスの集中割合が正当な理由なく90%を上回った場合には、各月の介護報酬について所定単位数から200単位を減算することとされている(以下、この制度を「特定事業所集中減算」という。)。そして、特定事業所集中減算の適用を受ける支援事業所については、居宅介護支援に係る介護報酬の請求に当たり、特定事業所加算(注5)を算定することができないこととなっている。

(注4)
判定期間  前期は3月1日から8月末日まで、後期は9月1日から翌年2月末日まで
(注5)
特定事業所加算  常勤の主任介護支援専門員の配置、24時間連絡体制の確保等を行った場合には、介護報酬の請求に当たり、300単位又は500単位(平成27年4月以降は300単位、400単位又は500単位)を加算して算定することができるとされているもの

特定事業所集中減算は、18年度の介護報酬改定の際に導入されたものであり、ケアマネジメントの公正・中立を確保するための施策の一つであるとされている。

また、厚生労働省は、27年度の介護報酬の改定において、特定事業所集中減算の集中割合の基準を90%超から80%超に引き下げるとともに、集中割合の判定の対象となるサービスについても3居宅サービスのみであったものを地域密着型サービスの一部も含めた計17の居宅サービス等に拡大する変更を行っている(以下、この変更を「27年度改定」という。)。

(エ) 介護3サービス事業所の指定等

居宅サービスを提供する事業所等及び介護保険施設の指定等については、都道府県知事(24年4月以降は都道府県知事に加えて政令指定都市及び中核市の長)及び道府県の条例により道府県知事の権限に属する当該事務の一部について委任を受けた市町村の長が行うこととなっている。そして、要介護者等は、その居住する地域に限定されることなく、居宅サービス又は施設サービスの提供を受ける事業所又は施設を自由に選択できることとなっている。

これに対して、地域密着型サービスを提供する事業所又は施設(以下「地域密着型サービス事業所」という。)の指定については、市町村の長が行うこととなっている(以下、介護3サービス事業所及び支援事業所の指定等を行う者を「指定権者」という。)。そして、地域密着型サービスを利用することができるのは、原則として、地域密着型サービス事業所の指定を行った市町村の管内に住所を有する要介護者等となっている。

ウ 介護給付等の適正化の取組

都道府県及び保険者は、都道府県が策定する介護給付適正化計画(以下「介護給付適正化計画」という。)等に基づき、介護給付等の適正化の取組を実施している。介護給付適正化計画は、都道府県及び保険者が実施する介護給付等の適正化に係る具体的な事業内容、実施目標等を定めるものであり、「「第2期(平成23年度~平成26年度)介護給付適正化計画」に関する指針について」(平成23年老介発0331第2号厚生労働省老健局介護保険計画課長通知。以下「適正化通知」という。)等に基づき策定することとなっている。

適正化通知によれば、介護給付等の適正化の取組としては、要介護認定等の適正化、縦覧点検(同一被保険者に係る重複請求等の点検をいう。以下同じ。)、医療情報との突合(被保険者ごとに医療給付と同時に請求できない介護給付等と医療給付との突合を行うことをいう。以下同じ。)等がある。

このうち、要介護認定等の適正化は、支援事業者等に更新等認定調査を委託して実施した場合に、その調査状況等について、保険者自らが点検を行うなどするものである。そして、要介護認定等が適切かつ公平に行われるためには、更新等認定調査の公正・中立が確保される必要があることなどから、厚生労働省は、保険者に対して、可能な限り同一事業者等による認定調査(被保険者に居宅介護支援等を提供する支援事業者等と、当該被保険者の更新等認定調査を委託された支援事業者等とが同一である場合の更新等認定調査をいう。以下同じ。)を実施しないように求めている。

また、介護給付等の適正化の取組を推進するため、国民健康保険中央会は、厚生労働省から補助金の交付を受けて、国保連合会介護給付適正化システム(以下「適正化システム」という。)を整備し、16年2月から運用している。そして、国民健康保険団体連合会(以下「国保連合会」という。)は、都道府県及び保険者に対して適正化システムから出力される介護給付等の適正化に資する各種の帳票(以下「適正化帳票」という。)を電子情報で配信している。

厚生労働省は、保険者が適正化帳票を活用した縦覧点検や医療情報との突合(以下、これらを合わせて「縦覧点検等」という。)を行うに当たっては、その効率的な実施を図るため、各保険者が国保連合会に委託して実施することを推進している。

(3) これまでの会計検査の実施状況

本院は、介護保険制度については、介護給付費の支払に係る国の負担は適切かなどについて毎年検査を実施し、その検査結果を不当事項、意見を表示し又は処置を要求した事項等として検査報告に掲記している。

(4) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、主に21年度から26年度までの間における介護保険制度の実施状況に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次のような点に着眼して検査を実施した。

ア 介護保険制度における介護給付等及び国の財政負担の状況はどのようになっているか、保険者における保険料基準額の設定や介護保険事業に係る経理の状況はどのようになっているか、財政安定化基金からの貸付け及び交付の状況や、財政安定化基金からの交付金の精算の状況はどのようになっているか。

イ 介護3サービスの実施状況はどのようになっているか、特に、地域密着型サービスの実施状況はどのようになっているか。

ウ ケアマネジメントの実施状況はどのようになっているか、特に、特定事業所集中減算は、その運用実態に照らし、当該目的を実現するための施策として合理的で有効なものとなっているか。

エ 介護給付等の適正化の取組の実施状況はどのようになっているか、特に、更新等認定調査は適切な実施方法により行われているか、また、適正化システムの利活用の状況はどのようになっているか。

そして、介護保険制度の実施状況について、厚生労働本省、21都県(注6)、183保険者及び国民健康保険中央会において、347.3人日を要して会計実地検査を行った。

検査に当たっては、主に第4期及び第5期(21年度から26年度まで)の介護保険制度の実施状況について厚生労働本省、各都県及び各保険者から各種資料等の提出を受けて、その内容の比較分析等を行うとともに、支援事業所の指定権者である上記の21都県及び26市等(注7)を通じてこれらの地方公共団体の区域内に所在する支援事業所から、また、21都県を通じて21国保連合会から、それぞれ説明を聴取するなどして検査した。

(注6)
21都県  東京都、秋田、栃木、群馬、神奈川、富山、石川、山梨、岐阜、愛知、三重、兵庫、和歌山、広島、山口、徳島、愛媛、福岡、佐賀、熊本、沖縄各県
(注7)
26市等  秋田、宇都宮、前橋、高崎、横浜、川崎、相模原、富山、滑川、金沢、岐阜、名古屋、豊橋、岡崎、神戸、和歌山、広島、呉、福山、三次、下関、松山、北九州、熊本、那覇各市、佐賀中部広域連合

2 検査の結果

(1) 介護保険の財政状況

ア 介護給付費等及び介護保険事業特別会計における経理の状況

21年度に全国計で6兆4975億余円であった介護給付費は、25年度には8兆0163億余円となり1.23倍に増加している。そして、21年度には全国計で1兆6347億余円であった国が都道府県及び保険者に対して負担することとなっている各負担金等は、25年度には2兆0464億余円に増加している。また、介護保険の被保険者数の推移についてみると、21年度末に2891万余人であった第1号被保険者数は、25年度末には3201万余人となっていて、310万余人増加している。

介護給付費、第1号被保険者数等が年々増加傾向にある中で、第1号被保険者が負担する保険料に係る保険料基準額がどのように設定されているかなどについてみたところ、第1期は2,911円であった全国平均の保険料基準額は、第6期には5,514円となり1.8倍に増加していた。この保険料基準額の主な算定要素である標準給付費(注8)等の第1号被保険者負担分の予想額(計画期間内の各年度の合算額)について、183保険者における第4期又は第5期の予想額と計画期間終了後の実績額を比較すると、実績額が予想額以下となっていた保険者は、第4期は99保険者、第5期は127保険者となっていた。

(注8)
標準給付費  計画期間内の各年度における介護給付等に要する費用

そして、保険料は、おおむね3年を通じ介護保険の財政の均衡を保つことができるものでなければならないこととなっていることなどから、介護保険事業特別会計に係る歳入歳出の状況等についてみたところ、183保険者における介護保険事業特別会計の収支差については、第4期においては支出済額が収入済額を上回る支出超過となっていた保険者が一部で見受けられたが、第5期の24年度から26年度までの間の各年度においては、支出超過となっていた保険者は見受けられなかった。

また、保険者は、介護保険事業特別会計の剰余金を管理するために条例で定めるところにより介護給付費準備基金を設けることができることとなっており、183保険者における介護給付費準備基金の残高の状況についてみたところ、26年度末において残高がない保険者は26保険者となっていて、このうち、26年度に財政安定化基金から貸付けを受けていたのは15保険者となっていた。

さらに、市町村の一般会計からの介護保険事業特別会計への繰入れについて、法の規定に基づき介護給付費のうち市町村が負担することとなっている割合を超えてこれを行うことは、本来、第1号被保険者の保険料で負担することとなる費用について制度上想定されない市町村の一般財源を充てることになることから費用負担の公平性を損なうおそれがあるものと考えられるが、このような繰入れを行っていた保険者が、第4期では5保険者、第5期では10保険者見受けられた。

イ 財政安定化基金からの貸付け及び財政安定化基金からの交付金の精算の状況

介護保険事業特別会計に財政上の不足が生じた場合に備えて、都道府県は財政安定化基金を設けることとなっていることから、183保険者に対する財政安定化基金からの貸付状況についてみたところ、第4期又は第5期の期間中に財政安定化基金から貸付けを受けていた保険者は80保険者となっており、そのうち第4期及び第5期のいずれにおいても貸付けを受けていたのは11保険者となっていた。

また、財政安定化基金からの交付金は、保険料の収納率の低下等により実績保険料収納額が予定保険料収納額に不足すると見込まれるなどの場合に、保険者に対して、計画期間の最終年度に算定した見込額を交付するものである。23年度又は26年度に財政安定化基金から交付金の交付を受けた24保険者についてみたところ、財政安定化基金からの貸付け及び交付に関して必要な事項を定めた県の要綱等に交付金の精算条項が定められていた2県の管内に所在する2保険者は、23年度の決算終了後の実績額に基づき交付金を精算し、生じた交付超過額(3年間の計画期間の最終年度の決算終了後の実績額に基づき計算した交付金の額が、交付申請の段階で算定した額を下回る場合のそれらの開差額をいう。以下同じ。)を県に返還していた。一方、上記2県の管内に所在する3保険者を除いた21保険者を対象として、23年度又は26年度に交付を受けた交付金の額と、本院において当該保険者の実績額に基づき試算した額を比較したところ、17保険者において、実績額に基づき試算した額が交付を受けた交付金の額を下回っており、合計1億7556万余円の開差額が生じていた。

財政安定化基金の財源は、国、都道府県及び保険者がそれぞれ3分の1を負担しているものであること、また、財政安定化基金からの交付金は、当期の借入額を次期介護保険事業計画の計画期間中に全額償還する借入金とは性格が異なるものであることなどを踏まえると、交付超過額が生じた場合にその精算を行わないとする取扱いは合理性を欠くものと考えられる。

(2) 介護サービス等の実施状況

ア 介護3サービスの実施状況

(ア) 居宅サービスの実施状況

居宅サービスについては、近年、訪問介護及び通所介護を提供する事業所の数がいずれも増加し続けている。各保険者の管内における居宅サービスの提供能力とニーズとの関係について、適切であると判断している保険者及び提供能力が多いと判断している保険者は、訪問介護で90保険者、通所介護で102保険者となっているのに対して、提供能力が少ないと判断している保険者は、訪問介護で13保険者、通所介護で7保険者となっていた。

このような状況と合わせて、地域密着型サービス事業所が保険者管内に所在しないことなどの理由として既存の居宅サービス又はその組合せにより対応が可能であるとしている保険者が少なからず見受けられたことなども踏まえると、今回検査した範囲内では、保険者管内で居宅サービスを提供する事業所が著しく不足している状況とはなっていないと考えられる。

また、居宅サービスについては、一部の地域密着型サービスを含めて複数のサービスを組み合わせて利用するのが一般的となっているが、複数のサービスを組み合わせて利用する要介護者等が10割負担額も含めて実際に負担する費用の総額について的確に把握することは必ずしも容易でない状況となっている。そこで、これについて調査したところ、26年2月に10割負担額が生じている要介護者のうち10割負担額が50,000円以上となっている者の10割負担額を含む実際の負担額は、約73,000円から約158,000円までの範囲となっていた。そして、これらの要介護者については、平均要介護度が3.00以上で、かつ、平均利用サービス数が3以上となっていた。

(イ) 施設サービスの実施状況

施設サービスについては、25、26両年度(通算)分の全事業所平均利用率(183保険者管内のそれぞれの事業所又は施設の延べ定員数、延べ利用者数を算定し、これらの事業所又は施設の延べ利用者数の計を延べ定員数の計で除して得た率。以下同じ。)は、介護福祉施設サービスが94.6%、介護保健施設サービスが91.1%、介護療養施設サービスが90.1%となっていて、いずれも高い状況となっていた。

(ウ) 地域密着型サービスの実施状況

地域密着型サービスについては、それぞれのサービスの内容、提供場所等に応じた分類が可能であることから、本院において、同サービスを、①居宅系3サービス(認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護及び複合型サービス)、②入居・入所系3サービス(認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護及び地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護)、及び③訪問系2サービス(定期巡回・随時対応型訪問介護看護及び夜間対応型訪問介護)の3類型に分類するなどして、その実施状況についてみたところ、次のような状況となっていた。

地域密着型サービスを利用することができるのは、原則として、地域密着型サービス事業所の指定権者である市町村の管内に住所を有する要介護者等となっていることから、同サービスを利用する前提として、管内に地域密着型サービス事業所が所在していることが必要となる。そこで、183保険者における地域密着型サービス事業所の所在状況等についてみたところ、地域密着型サービスの事業所所在率(183保険者のうち、25、26両年度のいずれかの時点において管内にそれぞれの地域密着型サービス事業所が所在していた保険者の割合をいう。以下同じ。)は、認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護及び認知症対応型通所介護については80%を超えている一方で、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)及び地域密着型特定施設入居者生活介護については30%を下回っている状況となっていた。

事業所所在率は、保険者及び事業者が想定するサービスの利用見込みを反映していると考えられ、17年度以前は居宅サービスに位置付けられていた認知症対応型共同生活介護の事業所所在率は高い割合となっていた。一方、管内に事業所等が所在しない理由として、利用者側において既存のサービスで十分であると考えていること、また、利用者側においてサービスを知らないのでニーズがないことなどとしている保険者が多数見受けられた。

そして、地域密着型サービスのうち、事業所所在率が98.3%となっている認知症対応型共同生活介護以外の7サービスを提供する事業所等が管内に所在しない保険者に対して、当該7サービスの必要性についての考え方を調査したところ、その必要性については判断できないとしている保険者が相当数見受けられた。これらの中には、地域密着型サービスの必要性について検討を行うための情報収集等を十分に行っていない保険者も見受けられることなどから、このように判断できないとしているのは、指定権者でもある市町村において、地域密着型サービスの展開についての意識が必ずしも十分でないことなどが関係していると考えられる。

また、入居・入所系3サービスの25、26両年度(通算)分の全事業所平均利用率は、それぞれ94.7%(地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護)、94.4%(認知症対応型共同生活介護)及び89.5%(地域密着型特定施設入居者生活介護)となっていて、高い状況となっていた。一方、居宅系3サービスについては、それぞれ69.5%(小規模多機能型居宅介護)、58.9%(複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護))及び54.2%(認知症対応型通所介護)となっていて、入居・入所系3サービスと比べて低い状況となっていた。そして、居宅系3サービスの利用率が低い理由としては、利用者、ケアマネジャー等のサービスに対する理解が不足していて利用に結びつかないこと、ケアマネジャー等の交代を利用者等が好まないことなどが考えられるとしている保険者が見受けられた。

サービスの全事業所平均利用率は利用者等のニーズの直接的な反映であると考えられること、また、入居・入所系3サービスについては利用を希望していながら利用に至っていない者が少なくないことなどを踏まえると、地域密着型サービスのうち特に入居・入所系3サービスについては、高いニーズが存在していると考えられる。

また、居宅系3サービスについて、利用状況を把握しているとしている保険者は30%から40%程度、入居・入所系3サービスについて、利用の申込みを行っていながら利用に至っていない者の状況を把握しているとしている保険者は50%程度、訪問系2サービスについて、利用状況を把握しているとしている保険者は10%から20%程度となっていた。

地域密着型サービスは、要介護者等の居宅又は地域において身近にサービスを提供するために導入されたものであり、地域包括ケアシステムの核となるサービスであると位置付けられていること、原則として、保険者の管内でサービスを提供するものであることなども踏まえると、保険者における地域密着型サービスの利用状況等の把握は十分であるとはいえない状況にあると考えられる。

そして、地域密着型サービスの普及促進等に当たっては、指定権者であり保険者でもある市町村において、要介護者等の利用者や家族及びケアマネジャーに対してそのニーズの前提となるサービスの内容等の周知や、サービスの利用状況等の一層の把握等が求められていると考えられる。

(エ) 施設サービス等における介護職員の確保の状況

介護老人福祉施設等への入所等を希望しながら入所等に至っていない者が相当数見受けられた一方で、介護職員が不足しているため定員利用となっていない施設等が、11保険者の管内で15施設等見受けられた。

イ 特定事業所集中減算とケアマネジメントの公正・中立の確保

(ア) 集中割合の状況等

21都県に所在する支援事業所18,605事業所のうち24年度後期又は25年度前期の判定期間に居宅サービス計画を作成していた支援事業所から抽出した2,230事業所について、その作成した居宅サービス計画に位置付けられた3居宅サービスの中で集中割合が最も高いサービスの集中割合の状況を調査したところ、24年度後期及び25年度前期のいずれの判定期間においても、集中割合が70%超90%以下となっている支援事業所が最も多くなっていた。そして、25年度前期の判定期間における集中割合が最も高いサービスについて、最も多くの居宅サービス計画に位置付けられた居宅サービス事業者が、当該居宅サービス計画を作成した支援事業所を運営する支援事業者と同一であるものが多数見受けられた。

また、24年度後期又は25年度前期の判定期間において21都県又は26市等に対して特定事業所集中減算届出書を提出していた1,609事業所のうち1,279事業所(79.4%)及び1,594事業所のうち1,280事業所(80.3%)については、その作成した居宅サービス計画に位置付けられた3居宅サービスのうちいずれかのサービスの集中割合が90%を上回っていることについて正当な理由があると認められていて、特定事業所集中減算の適用を受けていなかった。さらに、正当な理由の認定状況については、各都県等間で差異が見受けられる状況となっていた。

(イ) 特定事業所集中減算の効果

厚生労働省は、特定事業所集中減算の導入に際して、ケアマネジメントの公正・中立の確保と集中割合に一定の基準を設けることとの合理的関連性及びケアマネジメントの公正・中立を確保するために集中割合の基準を90%超とした根拠については、現在、いずれも明らかではないとしている。

そして、前記2,230事業所のうち、24年度後期及び25年度前期のいずれの判定期間においても集中割合が80%超90%以下となっている306事業所について、居宅サービス計画の作成に当たり、所属するケアマネジャーが特定事業所集中減算の適用を受けないようにするために居宅サービス計画の内容を変更するなどして、意図的に集中割合を低下させること(以下「集中割合の調整」という。)を行ったことがあるかどうかについて調査したところ、調査に回答した216事業所のうち76事業所(35.1%)において、ケアマネジャーが居宅サービス計画の作成に当たり、特定事業所集中減算の適用を受けないようにするために集中割合の調整を行ったことがあると回答した。

このように、集中割合の調整が行われる場合には、ケアマネジャーは必ずしも利用者の心身の状況、希望等を勘案して居宅サービス計画を作成していないことになり、このようなケアマネジメントは、ケアマネジャーはその担当する利用者の人格を尊重し、常に当該利用者の立場に立って業務を行わなければならないとしている運営基準等の趣旨に反すると考えられる状況となっていた。

また、前記2,230事業所のうち、24年度後期及び25年度前期のいずれの判定期間においても集中割合が100%となっている支援事業所が16事業所見受けられた。そして、この16事業所における居宅サービス計画の作成方針等について調査したところ、調査に回答した11事業所のうち、支援事業所の方針として単一の居宅サービス等事業者を居宅サービス計画に位置付けることとしていた支援事業所が3事業所あり、また、今後も、特定事業所集中減算の適用を受けないようにするために居宅サービス等事業者を分散させる予定はないとしている支援事業所が4事業所あった。

このように、支援事業所の方針として、居宅サービス計画の作成に当たり特定の居宅サービス等事業者を位置付けることとしていることは、運営基準等の趣旨に反すると考えられる状況となっており、特定事業所集中減算は、支援事業所の方針として単一の居宅サービス等事業者を居宅サービス計画に位置付けるなどとしている一部の支援事業所に対しては、厚生労働省が期待できるとしている、居宅サービス計画に位置付けられる居宅サービスが特定の居宅サービス事業者の提供するものに不当に偏らないようにする牽(けん)制効果が十分に生じていないと考えられる。

(ウ) 27年度改定に対する支援事業所の対応等

厚生労働省は、27年度改定に当たり、新たに特定事業所集中減算の適用を受ける可能性がある支援事業所が実際に特定事業所集中減算の適用を受けることとなった場合における当該支援事業所の減収額については、試算していなかったとしている。そこで、本院が、前記の24年度後期及び25年度前期のいずれの判定期間においても集中割合が80%超90%以下となっている306事業所について、仮に特定事業所集中減算の適用を受けることとなった場合における介護報酬の減収額を試算したところ、1事業所当たりの平均で、介護報酬が14.4%減額され、1年間で312万余円の減収になるという結果となった。また、306事業所のうち193事業所については特定事業所加算の請求が認められているが、これらの193事業所が特定事業所集中減算の適用を受けることとなった場合には特定事業所加算を算定できなくなることから、これに伴う減収分も合わせて試算すると、1事業所当たりの平均で、介護報酬が34.6%減額され、1年間で961万余円の減収になるという結果となった。

また、27年度改定を踏まえた対応方針について回答した132事業所のうち66事業所(50.0%)は、集中割合が80%以下となるように集中割合の調整を既に行っているか又は今後行うことを検討していると回答しており、27年度改定は、ケアマネジメントの公正・中立の確保を推進するものとはならないおそれがある状況となっていた。

上記調査の過程では、ケアマネジャーから、①個々の利用者の人格を尊重し、利用者の立場に立って居宅サービス計画を作成した結果として集中割合が高くなる場合があることなどを踏まえると、特定事業所集中減算のケアマネジメントの公正・中立を確保するための制度としての有効性については疑問がある、②ケアマネジメントの公正・中立を確保するためには、ケアマネジャーの地位の安定・向上を図ることが不可欠である、③特定事業所集中減算の適用を受けることにより特定事業所加算を算定できなくなる場合には、特定事業所加算を算定するための要件である常勤の主任介護支援専門員の配置、24時間連絡体制の確保等のケアマネジメントの質の向上に対して消極的となる支援事業所が増えるおそれがあるなどの意見があった。一方で、特定事業所集中減算はケアマネジメントの公正・中立を確保する制度として有効であるという意見もあった。

以上を踏まえると、集中割合に一定の基準を設け、これを正当な理由なく上回る場合には介護報酬を減額するという特定事業所集中減算は、ケアマネジメントの公正・中立を確保するという所期の目的からみて、必ずしも合理的で有効な施策であるとは考えられず、むしろ一部の支援事業所においては、集中割合の調整を行うなどの弊害を生じさせる要因となっていると考えられる状況となっていた。

ウ 介護給付等の適正化の取組の実施状況

要介護者等が増加傾向となっている中で、都道府県及び保険者は、介護給付適正化計画に基づき、要介護認定等の適正化等の介護給付等の適正化の取組を実施している。

(ア) 要介護認定等の状況

要介護認定等が適切かつ公平に行われるためには、更新等認定調査の公正・中立を確保する必要があることなどから、厚生労働省は、保険者に対して、可能な限り同一事業者等による認定調査を実施しないように求めている。

しかし、更新等認定調査の全部又は一部を支援事業者等に委託して実施していた177保険者のうち115保険者は、特に同一事業者等による認定調査を行わない取扱いとはしておらず、このうち108保険者において同一事業者等による認定調査が行われていた。また、当該保険者から抽出した40保険者についてみたところ、委託先の支援事業者又は介護老人福祉施設の大部分で、更新等認定調査の対象である要介護者等の居宅サービス計画等の作成等を担当しているケアマネジャーによる当該要介護者等の更新等認定調査(以下「担当ケアマネジャーによる認定調査」という。)が行われていた。

そして、厚生労働省は、このような保険者における更新等認定調査の実施状況の実態について把握しておらず、また、これらの保険者に対して、可能な限り同一事業者等による認定調査や担当ケアマネジャーによる認定調査を行わないようにすることについて文書による助言等を行っていなかった。

(イ) 適正化システムを活用した取組の実施状況

適正化システムを活用した取組の実施状況についてみたところ、適正化帳票を活用した縦覧点検等を実施するに当たり、自ら又は国保連合会に委託して実施している保険者が見受けられた一方、縦覧点検等を実施していない保険者が見受けられた。また、適正化システムから配信される給付実績を活用した情報提供帳票(以下「実績帳票」という。)を用いた介護サービス事業者に対する指導監督の充実や、不適切な給付の発見及び適正な介護サービスの提供による介護給付費の効率化等(以下「給付実績の活用」という。)について、実績帳票を活用することにより具体的な効果を上げている保険者等が見受けられた一方、実績帳票を活用していない保険者等が見受けられた。

3 検査の結果に対する所見

我が国の急速な高齢化に伴い介護給付費は増大しており、これに伴い国、都道府県及び市町村の費用負担は増大し、保険料も上昇していて、介護保険制度の実施状況に対する国民の関心はますます高まっている。

また、近年の法改正等に基づき、今後も順次介護保険制度の改正が行われることとなっている中で、給付と負担の均衡を図りつつ、介護保険制度の持続可能性を確保していくことが求められている。

このような状況及び今回の本院の検査結果を踏まえて、今後、介護保険制度については、厚生労働省、各都道府県、各保険者等において、次の点に留意することなどにより、適切かつ効果的に実施するよう努める必要がある。

(1) 介護保険の財政状況について

  • ア 介護保険事業特別会計における経理の状況等を踏まえ、各保険者及び各都道府県において、今後の高齢化の一層の進行等に伴い、各種の介護サービスの利用が増大して介護給付費が増大した場合に備えて、介護保険財政の健全化について引き続き留意すること、また、厚生労働省において、介護保険制度が持続可能なものとなるよう、その運営に十分に留意すること
  • イ 厚生労働省において、財政安定化基金からの交付金については、保険者間の負担の公平性を確保するために、交付超過額が生じた保険者から当該交付超過額を返還させる取扱いとすることなどについて検討すること

(2) 介護サービス等の実施状況について

ア 介護3サービスの実施状況について

  • (ア) 地域密着型サービスは地域包括ケアシステムの核とされているサービスであり、地域密着型サービス事業所の設置については、事業所等の指定権者であり保険者でもある市町村の関与が可能となっていることなども踏まえて、市町村において、管内における地域密着型サービスの必要性の有無を適切に判断していくよう努めること、また、地域密着型サービスの普及及び利用を促進することにより、要介護者等が住み慣れた自宅又は地域で生活を継続できるようにしていくために、指定権者であり保険者でもある市町村において、サービスの内容等の周知や、地域密着型サービス事業所の利用状況等の一層の把握に努めるとともに、厚生労働省において、訪問系2サービスや居宅系3サービスを利用することができることなども含めて、その特性又は利便性等について、保険者、事業所、ケアマネジャー、要介護者等に対して一層の周知等を行うこと
  • (イ) 介護サービスのニーズの拡大に伴い、今後、介護職員が不足しているため定員利用となっていない事態が増加していくことが想定されることを踏まえ、厚生労働省、都道府県及び保険者が、保険者の管内における施設サービス等の利用状況等について的確な把握に努めるとともに、介護職員の確保に向けた取組を引き続き推進していくこと

イ 特定事業所集中減算とケアマネジメントの公正・中立の確保について

厚生労働省において、ケアマネジメントの公正・中立の確保に関する各方面の意見等について十分に把握するとともに、十分な検証を行った上で、ケアマネジメントの公正・中立を確保するための合理的で有効な施策の在り方等について、特定事業所集中減算の見直しも含め、十分に検討すること

ウ 介護給付等の適正化の取組の実施状況について

  • (ア) 厚生労働省において、保険者に対して、更新等認定調査を支援事業者等に委託して実施する場合には、更新等認定調査の公正・中立を確保して要介護認定等の適正化を図る見地から、原則として同一事業者等による認定調査を行うことがないようにすること、また、担当ケアマネジャーによる認定調査を行うことがないようにすることなどの技術的助言等を文書により行うことについて検討すること
  • (イ) 都道府県及び保険者において、適正化システムを活用した保険者による縦覧点検等の実施や都道府県及び保険者による給付実績の活用について積極的に取り組むとともに、都道府県において、国保連合会との連携を強化し、保険者に対する支援を積極的に推進するなどの取組を検討する必要があるが、厚生労働省においても、適正化システムから配信される実績帳票の活用について、有効な活用事例を都道府県及び保険者に紹介するなどして、保険者に対する支援を一層推進していくこと

本院としては、以上の結果に留意しつつ、今後とも介護保険制度の実施状況が適正かつ適切となっているかについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。