国土交通省は、地方公共団体等(都道府県、市町村(特別区を含む。)又は地方自治法(昭和22年法律第67号)の規定による一部事務組合若しくは広域連合をいい、港湾法(昭和25年法律第218号)の規定による港務局、都市再生特別措置法(平成14年法律第22号)の規定による市町村都市再生協議会及び地域における多様な需要に応じた公的賃貸住宅等の整備等に関する特別措置法(平成17年法律第79号)の規定による地域住宅協議会を含む。以下同じ。)が行う社会資本の整備その他の取組を支援することにより、交通の安全の確保とその円滑化、経済基盤の強化、生活環境の保全、都市環境の改善及び国土の保全と開発並びに住生活の安定の確保及び向上を図ることを目的として、平成22年度から「社会資本整備総合交付金交付要綱」(平成22年国官会第2317号国土交通事務次官通知。以下「要綱」という。)等に基づき、地方公共団体等が作成した社会資本の整備その他の取組に関する社会資本総合整備計画(以下「整備計画」という。)に基づく事業又は事務の実施に要する経費に充てるために、社会資本整備総合交付金(以下「総合交付金」という。)を交付している。
総合交付金は、国土交通省所管の地方公共団体等向けの個別補助金を一括した、地方公共団体等にとって自由度が高く、創意工夫を生かせる総合的な交付金として創設されたもので、同省によればその特長は、①地方公共団体等において整備計画に位置付けた事業の範囲内で国費を自由に充当することができること、②ソフト事業についても地方公共団体等の創意工夫を生かして実施することができること、③従来は国が詳細に事前審査していたものを地方公共団体等が自ら目標を設定して、事後に評価を実施するとともにその結果を公表するものにしたこと、④従来は個々の事業のアウトプット(事業実績)に着目していたものを整備計画全体としてのアウトカム(成果)に着目するものにしたことなどとなっている。
総合交付金の交付対象事業は、要綱によれば、整備計画の目標を実現するために交付金事業者(注1)が実施する基幹的な事業(以下「基幹事業」という。)と、整備計画の目標を実現するために基幹事業と一体的に実施する関連事業に大別されている(以下、これら事業の個々の交付対象事業を「要素事業」という。)。
基幹事業は、道路事業等16事業(注2)から構成されている。関連事業は、整備計画の目標を実現するために基幹事業と一体的に実施することが必要な社会資本整備重点計画法(平成15年法律第20号。以下「重点計画法」という。)第2条第2項各号に掲げる事業及び住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成19年法律第112号)第2条第1項に規定する公的賃貸住宅の整備に関する事業である関連社会資本整備事業と、整備計画の目標を実現するために基幹事業と一体となってその効果を一層高めるために必要な事業又は事務である効果促進事業から成っている。効果促進事業の事業費は、整備計画ごとに交付対象事業の全体事業費の20%を目途とすることとなっており、これに係る国の負担割合は基本的に交付対象事業費の50%となっている。そして、交付金事業者の運営に必要な人件費、賃借料その他の経常的な経費への充当を目的とする事業又は事務、交付対象となる地方公共団体の区域を著しく超えて運行される公共交通機関に係る事業又は事務及びレクリエーションに関する施設の整備事業は総合交付金の交付対象外となっている。
また、基幹事業のうち都市再生整備計画事業、広域連携事業及び地域住宅計画に基づく事業については、都市再生特別措置法、広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律(平成19年法律第52号)及び地域における多様な需要に応じた公的賃貸住宅等の整備等に関する特別措置法並びに要綱において、基幹事業と一体となってその効果を増大させるために必要な事業又は事務を提案事業として実施できることとなっている。そして、提案事業は、効果促進事業と同様に基幹事業と一体となってその効果を増大させるために実施するものであり、事業を実施するための要件、実施できる事業の内容もほぼ同様となっていることから、提案事業と効果促進事業を併せて実施する場合には、両者に係る事業費の合計額は、効果促進事業のみを実施する場合と同様に整備計画ごとに交付対象事業の全体事業費の20%を目途とすることとなっている。
総合交付金の交付を受けて交付対象事業を実施しようとする地方公共団体等は、要綱に基づいて整備計画を作成して国土交通大臣に提出することとなっている。そして、整備計画における交付対象事業には、基幹事業のうちいずれか一つ以上を含むこととなっていて、複数の基幹事業を実施する整備計画を作成することも可能となっており、さらに、整備計画は、複数の地方公共団体等が共同で作成することも可能となっている。これにより、個別の事業分野にとらわれず、防災・減災等の一定の政策目的を達成するために、関係機関が共同して広域的かつ横断的に事業に取り組むことが可能となっている。
また、整備計画には、要綱において、整備計画の名称、整備計画の目標、整備計画の期間、整備計画の目標を達成するために必要な交付対象事業とこれに係る全体事業費、整備計画の目標の実現状況等を評価するための指標(以下「評価指標」という。)等を記載することとなっている。そして、「社会資本整備総合交付金に係る計画等について」(平成22年国官会第2318号国土交通事務次官通知。以下「計画通知」という。)で示された整備計画の参考様式において、交付対象事業については要素事業ごとの事業種別、事業箇所、事業内容、事業実施期間、全体事業費等を、評価指標については当初現況値、交付期間の中間年度における中間目標値及び交付期間の終了時における最終目標値を記載することとなっている。
整備計画の作成に当たっては、要綱において、①整備計画の目標は計画の期間内(おおむね3年から5年まで)における事業又は事務の実施によって実現しようとするものであること、②評価指標が定量的指標により適切に設定されており、これにより交付対象事業の目的が適切に表現されていること、③整備計画の目標及び評価指標の設定内容に対して交付対象事業の構成が妥当であること、④交付対象事業は一定の期間内に重点的、効果的かつ効率的に行われる必要があると認められるものであること、⑤交付対象事業は早期に事業効果の現れるものであることに留意することとなっている。
なお、要綱の施行の際に、現に国土交通省に提出されていて、整備計画に記載することとなっている事項に相当する事項を含む特定計画(都市再生整備計画等)については、当該計画の計画期間に限り整備計画とみなす経過措置が講じられている。
整備計画を作成して国土交通大臣に提出しようとする地方公共団体等は、計画通知において、整備計画の目標の妥当性、整備計画の実現可能性等について、自主的・主体的に検証(以下「事前評価」という。)した結果(以下、事前評価の結果を記載した書面を「事前評価書」という。)を整備計画に添付することとなっている。事前評価の検証項目については、国土交通省が公表している「計画等提出・交付申請に関するQ&A」(以下「Q&A」という。)において、①上位計画等との整合性、②地域の課題への対応、③整備計画の目標と定量的指標の整合性、④定量的指標の明瞭性、⑤整備計画の目標と事業内容の整合性、⑥事業の効果の見込みの妥当性、⑦円滑な事業執行の環境(事業熟度、地域住民等の合意形成を踏まえた事業実施の確実性)、⑧地元の機運(地域住民、民間等の活動及び関連事業との連携等による事業効果発現の確実性)の8事項が例示されている。
そして、地方公共団体等は、要綱において、整備計画を作成したときはこれを公表することとなっており、整備計画の公表と併せて事前評価の結果も公表することとなっている。なお、特定計画については、要綱等において、事前評価の実施、事前評価書の提出及び事前評価の結果の公表並びに整備計画の公表の規定を適用しないことができることとなっている。
地方公共団体等は、要綱等において、交付期間の終了後又は交付期間の最終年度中に、整備計画の目標の実現状況等について評価(以下「事後評価」という。)を行い、事後評価の結果(以下、事後評価の結果を記載した書面を「事後評価書」という。)を遅滞なく公表するとともに、国土交通大臣に報告しなければならないこととなっている。そして、必要に応じて、交付期間の中間年度の終了後においても評価(以下「中間評価」という。)を行い、中間評価の結果(以下、中間評価の結果を記載した書面を「中間評価書」という。)についても事後評価の場合と同様に遅滞なく公表するとともに同大臣に報告することとなっている。事後評価及び中間評価については、総合交付金を充てた要素事業の進捗状況、事業効果の発現状況及び今後の方針について評価を実施することとなっており、事後評価にあっては評価指標の最終目標値の実現状況、中間評価にあっては評価指標の中間目標値の実現状況についての評価も実施することとなっている。
事後評価又は中間評価の実施に当たっては、評価の透明性、客観性及び公正性を確保するために、学識経験者等の第三者の意見を求めたり、地方公共団体独自の評価制度を活用したりすることができることとなっており、また、事業の成果を地域住民等に対してより分かりやすく示すよう留意することとなっている。
22年度の総合交付金の創設以降、次のとおり、関連する制度の創設、廃止等が行われている。
地域の自由裁量を拡大するために、「地域主権戦略大綱」(平成22年6月閣議決定)等に基づいて、23年度に、各府省所管の都道府県向けの投資に係る補助金等の一部を内閣府予算に一括計上する地域自主戦略交付金が創設された。地域自主戦略交付金は、「地域自主戦略交付金制度要綱」(平成23年国官会第2614号等国土交通事務次官等通知)に規定された交付対象事業から都道府県が自主的に事業を選択して作成した事業実施計画に基づいて実施する事業に要する費用に対して国が交付するものであり、地域の実情に即した事業の的確かつ効率的な実施を図ることを目的とするものである。そして、総合交付金の交付対象事業のうち年度間及び地域間の変動及び偏在が小さい事業等は、23年度に創設された地域自主戦略交付金の交付対象事業の国土交通省が所管する社会資本整備に関する事業に移行した。また、23年度は都道府県のみが交付対象であったが、24年度は政令指定都市も交付対象となり、交付対象事業も拡大した。
しかし、地域自主戦略交付金は、「日本経済再生に向けた緊急経済対策」(平成25年1月閣議決定)を踏まえて、24年度をもって廃止されたため、社会資本整備に関する事業は、25年度以降、再び総合交付金の交付対象事業として実施することとなっている。
また、沖縄振興の重要性に鑑み、23年度予算において、地域自主戦略交付金とは予算上区分した形で沖縄振興自主戦略交付金が創設され、沖縄県については、23年度は地域自主戦略交付金及び沖縄振興自主戦略交付金の両方で事業を実施していた。そして、24年度予算において、地域自主戦略交付金と同様に交付対象事業を拡大するとともに、交付対象を市町村まで拡大した沖縄振興公共投資交付金が創設され、沖縄振興自主戦略交付金は廃止された。
24年度補正予算において、総合交付金の交付対象事業として、防災・安全交付金事業が創設された。同事業は、要綱等において、老朽化対策、事前防災・減災対策であるインフラ再構築又は生活空間の安全確保に資する整備計画の目標の実現のために実施する事業となっている。
国土交通省が、地方公共団体等に対して交付した総合交付金、地域自主戦略交付金、沖縄振興自主戦略交付金及び沖縄振興公共投資交付金の額(以下、これらの額を「交付金交付額」という。)についてみると、表1のとおり、22年度1兆5347億余円、23年度2兆2701億余円、24年度2兆2258億余円、25年度2兆7011億余円、26年度2兆4958億余円、計11兆2277億余円と毎年度多額に上っている。
交付金名 | 平成 22年度 |
23年度 | 24年度 | 25年度 | 26年度 | 計 | |
社会資本整備総合交 付金 |
1兆5347 | 2兆0675 | 1兆7454 | 2兆4764 | 2兆4413 | 10兆2655 | |
社会資本整備総 合交付金事業 (注) |
1兆5347 | 2兆0675 | 1兆7245 | 1兆3411 | 1兆1389 | 7兆8069 | |
防災・安全交付 金事業 |
- | - | 209 | 1兆1353 | 1兆3023 | 2兆4586 | |
地域自主戦略交付金 | - | 1952 | 4500 | 1775 | 15 | 8243 | |
沖縄振興自主戦略交付 金 |
- | 74 | 62 | - | - | 136 | |
沖縄振興公共投資交付 金 |
- | - | 240 | 470 | 529 | 1241 | |
計 | 1兆5347 | 2兆2701 | 2兆2258 | 2兆7011 | 2兆4958 | 11兆2277 |
国土交通省は、25年度の「国土交通省政策評価年次報告書」(以下「年次報告書」という。)において同省全体の政策評価の考え方を示している。年次報告書において、同省は、政策の企画立案及び実施に当たっては、国民にとっての成果に着目するとともに、最大限の成果を挙げるためには戦略に基づく明確な目標を掲げることが重要であるとしている。そして、これらの目標は、国民の真のニーズに対応したものでなくてはならないとしている。また、同省全体の政策を評価するために設定した業績指標については、政策目標の達成度を適切に表す指標であり、その性格は、①アウトカムに着目した指標といえるもの、②アウトプットに着目した指標の場合は、当該アウトプットとアウトカムとの因果関係について説明可能であるもの、③顧客満足度に着目した指標といえるものなどとしている。そして、今後も適切なアウトカムに着目した指標を考案し、アウトカムの発現に至る因果関係やその影響度合いを明確にする必要があるなどとしている。