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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成28年2月|

「北海道、四国、九州各旅客鉄道株式会社の経営状況等について」


4 所見

(1)検査の状況の概要

三島会社は、累次の閣議決定により、経営基盤の確立等諸条件が整い次第、できる限り早期に純民間会社とすることとされている。そして、会計検査院は平成14年度決算検査報告に特定検査状況として三島会社の経営状況を掲記したところであるが、28年度には、JR九州の完全民営化も見込まれていることなどから、14年度以降の三島会社の経営状況、経営安定基金の運用状況、国土交通省及び機構の財政支援等の実施状況等について検査を実施した。その状況は次のとおりである。

ア 三島会社は、14年度以降も業務の効率化等に取り組んできているものの、JR北海道及びJR四国については、輸送密度の低迷している線区の営業キロの状況は改善しておらず、両社とも必ずしも線区等の経営状況を対外的に提示できる状況とはなっていなかった。また、修繕や設備投資については、景気の後退等の外部的な要因による経常収入等の減少の影響を受けている状況が見受けられた。そして、JR北海道の子会社等において、営業収益が増加したことなどにより26年度末では剰余金が282億円生じている一方、JR四国の子会社等においては、26年度末の剰余金は35億円となっているものの、14年度と26年度を比べて営業収益が減少している。

イ 三島会社は、経営安定基金の運用に当たり、リスク管理のためのポートフォリオ等を定めているが、19年度から22年度までの間に、各社とも経営安定基金運用収益が減少したり減損処理による特別損失が発生したりする状況が見受けられた。また、26年度末では、株価等の上昇により、経営安定基金資産の時価評価差額がJR北海道では1195億円、JR四国では259億円、JR九州では672億円となっている。

ウ 三島会社に対しては、国土交通省及び機構からの様々な財政支援等が実施されており、経営安定基金の設置計1兆2781億円のほか、経営安定のための支援措置として計5666億円、設備投資等に係る支援措置として計1547億円が交付されている。また、税制特例措置として地方税の軽減計2162億円(試算額)を三島会社は受けている。そして、三島会社の鉄道事業における損失は補填され、経常損益が黒字となっている年度が多く見受けられた。しかし、三島会社における経営安定基金の運用、設備投資のための無利子貸付・助成金交付事業、税制特例措置のそれぞれにおいて、必ずしもその効果が十分に上がっているとはいえないなどの状況も見受けられた。

エ JR九州は、株式上場に伴い、省令に基づいて、経営安定基金を取り崩して、機構に支払うこととされている新幹線貸付料の全額を一括して支払ったり、機構からの借入金の全額を一括して返済したりすることができるようになる。そして、JR九州はJR会社法の適用対象から除外されるため、長期資金の借入れなどに係る認可等、国による後見的な関与の対象から除外されることとなり、より機動的かつ自主的な経営を行うことが可能となる。また、機構は、審議会答申を受け、JR九州の株式について、公正かつ簡明な手続により効果的に売却することなどが求められている。

(2)所見

国鉄分割・民営化による国鉄長期債務等のうち国に承継されている残高は、10年10月の日本国有鉄道清算事業団解散後の10年度末時点で24.0兆円となっており、25年度末時点では18.1兆円となっている。一方で三島会社には、昭和62年4月の国鉄分割・民営化時に経営安定基金計1兆2781億円が設置され、その後も国土交通省及び機構による多額の財政支援等が行われている。また、三島会社を含む旅客鉄道株式会社については、平成18年度までにJR本州三社が完全民営化された後、27年6月にJR会社法の一部改正法が成立し、28年度にはJR九州の完全民営化が見込まれているが、JR北海道及びJR四国については完全民営化の見込みは立っていない状況となっている。

ついては、三島会社並びに国及び機構において、引き続き次の点に留意しながら、完全民営化に向けた経営基盤の確立等に取り組んでいく必要がある。

ア JR北海道及びJR四国は、鉄道事業の営業損失が多額となっていることから、引き続き経営の効率化に努めるとともに、鉄道事業の損益の改善に向けて、国、地方自治体、利用者等を含む関係機関等と地域の公共交通ネットワークの確保を前提とした幅広い議論ができるよう、輸送密度が低迷している線区等の経営状況を提示できるように整理しておくこと。また、計画的な修繕や設備投資が行われるよう、経営安定基金運用収益の一部を積み立てたり、経営安定基金資産の時価評価差額や子会社等の剰余金の活用を検討したり、グループ関連事業の経営の健全性を保ちつつ幅広い分野で事業展開を行うなどしたりして、景気の後退等に対応できるような経営基盤を確立すること

イ JR北海道及びJR四国は、経営安定基金の運用に当たり、今後更に自主運用の割合が増加することが見込まれることから、引き続きリスク管理の徹底に努めた上で更に効率的な運用を図ること。また、多額な経営安定基金資産の時価評価差額については、経営安定基金資産として引き続き運用に充てることも考えられるが、景気の動向も踏まえ、修繕や設備投資を計画的に行うための財源とするなど、経営基盤の確立に向けて、経営安定基金資産のより有効な活用を検討すること

ウ JR北海道及びJR四国は、国土交通省及び機構からの財政支援等の効果がより発揮されるように努めること。また、国土交通省及び機構は、JR北海道及びJR四国への財政支援等に当たり、その効果がより発揮されるよう、引き続き財政支援等の制度設計並びにJR北海道及びJR四国の指導・監督を行うこと

エ JR九州は、経営安定基金が、経営環境が厳しいJR九州の鉄道ネットワークの維持・向上を図るための収益調整措置として設置されたという経緯と趣旨を踏まえ、省令に基づいて、経営安定基金の鉄道資産等への振替を確実に行うこと。そして、完全民営化以降は、機動的に動けるようになることから、純民間会社としての責任のもと事業の効率性を高めるなどして収益力を上げ、経営基盤をより一層強化するよう努めること。また、機構は、JR九州の株式について、審議会答申に沿って、株式市場の状況、経済の動向等にも留意しつつ適切に処分すること

会計検査院としては、JR北海道及びJR四国の経営、両社に対する財政支援等、また、JR九州の株式売却の手続、経営安定基金の振替等について、引き続き注視していくこととする。