我が国において、原子力事業者が原子炉の運転を行う施設や核燃料物質の加工等を行う事業所等(以下「原子力事業所」という。)は、昭和30年代から順次設置されてきており、このうち実用発電用原子炉施設(以下「原子力発電所」という。)は、図表1のとおり、平成27年9月末現在で18か所あり、13道県に立地している。
図表1 原子力発電所の立地状況(平成27年9月末現在)
道県名 | 原子力発電所名 | 運転開始年月 注(1) | |
---|---|---|---|
北海道 | 北海道電力株式会社泊発電所 | 平成元年6月 | |
青森県 | 東北電力株式会社東通原子力発電所 | 平成17年12月 | |
宮城県 | 東北電力株式会社女川原子力発電所 | 昭和59年6月 | |
福島県 | 東京電力株式会社福島第一原子力発電所 | 注(2) | 昭和46年3月 |
東京電力株式会社福島第二原子力発電所 | 昭和57年4月 | ||
茨城県 | 日本原子力発電株式会社東海発電所 | 注(3) | 昭和41年7月 |
日本原子力発電株式会社東海第二発電所 | 昭和53年11月 | ||
新潟県 | 東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所 | 昭和60年9月 | |
石川県 | 北陸電力株式会社志賀原子力発電所 | 平成5年7月 | |
福井県 | 日本原子力発電株式会社敦賀発電所 | 昭和45年3月 | |
関西電力株式会社美浜発電所 | 昭和45年11月 | ||
関西電力株式会社大飯発電所 | 昭和54年3月 | ||
関西電力株式会社高浜発電所 | 昭和49年11月 | ||
静岡県 | 中部電力株式会社浜岡原子力発電所 | 注(4) | 昭和51年3月 |
島根県 | 中国電力株式会社島根原子力発電所 | 昭和49年3月 | |
愛媛県 | 四国電力株式会社伊方発電所 | 昭和52年9月 | |
佐賀県 | 九州電力株式会社玄海原子力発電所 | 昭和50年10月 | |
鹿児島県 | 九州電力株式会社川内原子力発電所 | 昭和59年7月 | |
計13道県 | 計18か所 | / |
原子力事業所から放射性物質が異常な水準で放出されることなどにより国民の生命、身体及び財産に生ずる被害(以下「原子力災害」という。)については、従来、自然災害に係る対策等を定めた災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)と核物質や原子炉の取扱い等について定めた「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和32年法律第166号)の二つの法律の枠組みの中で各種の対策を講ずることとなっていた。
しかし、11年に茨城県那珂郡東海村で発生した株式会社ジェー・シー・オーのウラン加工工場における臨界事故を受けて、原子力災害対策については、災対法等の枠組みを用いつつ、原子力災害の特殊性を考慮した特別の措置を講ずることとされ、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号。以下「原災法」という。)が制定された。そして、原災法により、迅速な初期体制や国と地方公共団体との有機的な連携の確保、国の緊急事態対応体制の強化、原子力事業者の責務の明確化等が図られることになった。
その後、23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波の際に、東京電力株式会社福島第一原子力発電所において、全ての交流電源が失われ、冷却機能を喪失するという重大な事故(以下「23年原発事故」という。)が発生し、大量の放射性物質が放出される事態に至った。そして、従来の原子力防災体制には、住民等の視点を踏まえた対応の欠如、複合災害や過酷事象への対処を含む教育及び訓練の不足、緊急時における情報提供体制の不備、避難に関する計画や資機材等の事前準備の不足、各種対策の意思決定の不明確さ等、多くの問題点があることが、23年原発事故に関する国会、政府及び民間の各事故調査委員会の報告等により明らかになった。このようなことを受けて、新たな原子力災害対策に係る制度を構築するために、24年に原災法の改正が行われるとともに、災対法に基づく「防災基本計画(原子力災害対策編)」(平成9年6月中央防災会議作成)の修正や、原災法に基づく原子力災害対策指針(平成24年10月原子力規制委員会決定。以下「原災指針」という。)の決定等、関連する法令等の整備が行われた。
原子力災害対策に係る法令等の関係の現況は、図表2のとおりである。
図表2 原子力災害対策に係る法令等の関係の現況
上記法令等の整備に伴い、24年9月に、内閣府に設置されていた原子力安全委員会及び経済産業省資源エネルギー庁に設置されていた原子力安全・保安院が廃止され、原子力規制委員会設置法(平成24年法律第47号)等に基づき、環境省に原子力規制委員会(以下「規制委員会」という。)及びその事務局である原子力規制庁(以下「規制庁」という。)が設置された。
原子力利用における「推進」と「規制」を分離し、原子力規制に関して専門的な知見に基づき中立公正な立場から独立して職権を行使する組織として設置された規制委員会は、オンサイト(注1)における原子力安全規制、オフサイト(注1)も含めた放射線モニタリング等の事務を一元的に担うこととされた。そして、24年9月及び25年4月に文部科学省が担っていた放射線モニタリング等に係る事務が規制委員会に移管され、26年3月に原子力事業所に関する検査事務等を行っていた独立行政法人原子力安全基盤機構が規制委員会に統合された。
一方、24年9月以降、内閣府に設置された原子力災害対策担当室の職員に主に規制庁の職員が併任され、オフサイトにおける原子力災害対策に係る事務を担っていたが、政府全体の原子力防災体制の充実及び強化を目的として、26年10月に、内閣府に政策統括官(原子力防災担当)が設置され、専任の職員が配置された。
原子力事業所が所在する道府県には、緊急時に国、当該道府県、原子力事業者等の原子力防災に係る関係者が集合して現地の応急対策を講ずるための拠点として原災法等に基づき内閣総理大臣が指定する緊急事態応急対策等拠点施設(以下「オフサイトセンター」という。)が設置されている。
そして、原子力事業所外へ放射性物質又は放射線が異常な水準で放出される事態(以下「原子力緊急事態」という。)において原災法等に基づき内閣総理大臣から原子力緊急事態宣言が発せられると、原子力災害対策の総合調整を行うために、内閣総理大臣官邸に内閣総理大臣を本部長とする原子力災害対策本部が設置され、内閣総理大臣官邸及び規制庁にそれぞれ原子力災害対策本部事務局が設置されることとなっている。
また、オンサイトの事故収束のために原子力事業者において原子力施設事態即応センターが設置され、住民等に対する放射線被ばくの防護措置等のために、オフサイトセンターに内閣府副大臣又は内閣府大臣政務官を本部長とする原子力災害現地対策本部が設置されることとなっている。あわせて、原子力発電所が立地する道県及び市町村並びに関係する府県及び市町村に道府県災害対策本部及び市町村災害対策本部が設置され、上記の原子力災害現地対策本部と共に原子力災害合同対策協議会を組織することとなっている。
そして、これらの各機関が調整し連携して、原子力事業者の監督、支援等や住民の避難指示、支援等を行うことになっている。
原子力安全委員会は、原子力発電所等の周辺における防災活動を円滑に実施するために必要な専門的・技術的事項について取りまとめた指針として「原子力施設等の防災対策について」(昭和55年6月原子力安全委員会決定。以下「旧指針」という。)を定めており、国や地方公共団体は、旧指針に示された考え方や手順に沿って原子力災害対策を行ってきた。
その後、同委員会は、23年原発事故を契機として旧指針を見直すために、24年3月に「『原子力施設等の防災対策について』の見直しに関する考え方について 中間とりまとめ」を発表した。
そして、新たに発足した規制委員会は、旧指針及び上記の中間取りまとめの内容を精査するとともに、前記の各事故調査委員会からの報告等を考慮するなどして、国、地方公共団体、原子力事業者等が行う原子力災害対策の円滑な実施を確保するための新たな考え方を取りまとめて、24年10月に原災指針を決定した。
旧指針においては、防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲(Emergency Planning Zone)を原子力発電所等から半径約8kmから10km圏内の区域と定めていた。
一方、原災指針においては、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)の国際基準や23年原発事故の教訓等を踏まえて、原子力発電所については、原子力発電所からおおむね半径5km圏内の区域を予防的防護措置を準備する区域(Precautionary Action Zone。以下「PAZ」という。)、原子力発電所からの距離がおおむね半径30km圏内の範囲の区域を緊急時防護措置を準備する区域(Urgent Protective Action Planning Zone。以下「UPZ」という。)として、これらを目安として原子力災害対策重点区域を設定することとされた(図表3参照)。
そして、PAZにおいては、放射線被ばくによる確定的な影響等を回避するために即時に避難するなどして放射性物質の環境への放出前の段階から予防的な防護措置を執ることとされた。また、UPZにおいては、放射線被ばくの確率的な影響によるリスクを最小限に抑えるために、緊急時における放射線モニタリング(以下「緊急時モニタリング」という。)の結果等を基に範囲を特定した上で状況に応じた防護措置を執ることとされた。
図表3 原子力発電所に係る原子力災害対策重点区域の設定
これにより、原子力発電所に係る原子力災害対策重点区域が設定されている市町村及び当該市町村が所在する道府県(以下、原子力災害対策重点区域が設定されている市町村が所在する道府県のうち、原子力発電所が立地している道県を「立地道県」といい、立地道県に隣接したその他の府県を「隣接府県」という。また、立地道県、隣接府県及び原子力災害対策重点区域が設定されている市町村を合わせて「立地道県等」という。図表4及び図表5参照)の総数が増えて、住民等への対策の周知、住民等への迅速な情報連絡手段の確保、緊急時モニタリングの体制整備、屋内退避・避難等の方法や医療機関の場所の周知、避難経路及び避難場所の明示、緊急用移動手段の確保、原子力防災のために使用される資機材(以下「防災資機材」という。)等の整備等、放射線被ばくに対する防護措置の準備を従来よりも広い地域で平時から行うことが必要となった。
図表4 原子力発電所に係る原子力災害対策重点区域が設定されている市町村が所在する道府県(平成27年9月末現在)
図表5 原子力発電所に係る原子力災害対策重点区域が設定されている市町村(平成27年9月末現在)
区分 | 道府県名 | 市町村名 |
---|---|---|
立地道県 | 北海道 | 泊村、共和町、岩内町、神恵内村、寿都町、蘭越町、ニセコ町、倶知安町、積丹町、古平町、仁木町、余市町、赤井川村(13) |
青森県 | 東通村、むつ市、六ヶ所村、横浜町、野辺地町(5) | |
宮城県 | 女川町、石巻市、登米市、東松島市、涌谷町、美里町、南三陸町(7) | |
福島県 | 大熊町、双葉町、浪江町、富岡町、広野町、楢葉町、川俣町、川内村、いわき市、田村市、南相馬市、葛尾村、飯舘村(13) | |
茨城県 | 東海村、日立市、那珂市、ひたちなか市、常陸太田市、常陸大宮市、城里町、水戸市、茨城町、大洗町、高萩市、大子町、笠間市、鉾田市(14) | |
新潟県 | 柏崎市、刈羽村、長岡市、上越市、小千谷市、十日町市、見附市、燕市、出雲崎町(9) | |
石川県 | 志賀町、七尾市、輪島市、羽咋市、かほく市、宝達志水町、中能登町、穴水町(8) | |
福井県 | 敦賀市、美浜町、小浜市、おおい町、高浜町、南越前町、鯖江市、越前市、越前町、池田町、福井市、若狭町(12) | |
静岡県 | 御前崎市、牧之原市、菊川市、掛川市、吉田町、袋井市、焼津市、藤枝市、島田市、森町、磐田市(11) | |
島根県 | 松江市、出雲市、安来市、雲南市(4) | |
愛媛県 | 伊方町、八幡浜市、大洲市、西予市、宇和島市、伊予市、内子町(7) | |
佐賀県 | 玄海町、唐津市、伊万里市(3) | |
鹿児島県 | 薩摩川内市、いちき串木野市、阿久根市、鹿児島市、出水市、日置市、姶良市、さつま町、長島町(9) | |
計13道県 | 計115市町村 | |
隣接府県 | 富山県 | 氷見市(1) |
岐阜県 | 揖斐川町(1) | |
滋賀県 | 長浜市、高島市(2) | |
京都府 | 舞鶴市、京都市、福知山市、綾部市、宮津市、南丹市、京丹波町、伊根町(8) | |
鳥取県 | 米子市、境港市(2) | |
山口県 | 上関町(1) | |
福岡県 | 糸島市(1) | |
長崎県 | 松浦市、佐世保市、平戸市、壱岐市(4) | |
計8府県 | 計20市町 | |
合計21道府県 | 合計135市町村 |
前記旧指針の見直しに係る中間取りまとめによれば、旧指針においては、オフサイトで防護措置が必要となる過酷事故の事態が実質的に想定されておらず、防護措置の実施に係る基本的な考え方や具体的な実施手順は示されていなかったとされている。
一方、原災指針においては、原子力緊急事態等の緊急時に放射線被ばくに対する防護措置としてどのような行動を取るべきかを判断するために緊急時活動レベル(Emergency Action Level。以下「EAL」という。)と運用上の介入レベル(Operational Intervention Level。以下「OIL」という。)という2種類の判断基準が設けられ、状況に応じた防護措置の内容が定められている。
EALは、地震や津波の発生状況、オンサイトにおける設備の状態等に基づく判断基準であり、図表6のとおり三つに区分されている。この判断基準に基づき、原子力事業者はオンサイトにおける事象の発生等について国等に報告し、国は緊急事態の発生を確認して立地道県等や国民に情報提供を行い、全面緊急事態の場合には内閣総理大臣が原子力緊急事態宣言を行うこととなっている。
図表6 緊急事態とEALの区分
緊急事態の区分 | EALの主な内容 |
---|---|
警戒事態 |
|
施設敷地緊急事態 |
|
全面緊急事態 (原子力緊急事態宣言) |
|
そして、緊急事態の区分に応じた放射線被ばくに対する防護措置の内容は、図表7のとおりとなっている。
図表7 緊急事態の区分に応じた放射線被ばくに対する防護措置の内容
区分 | PAZにおける措置 | UPZにおける措置 |
---|---|---|
警戒事態 | 要配慮者注(1)等の避難準備 | - |
施設敷地緊急事態 | 要配慮者等の避難実施注(2) 住民の避難準備 |
屋内退避の準備 |
全面緊急事態 | 住民の避難実施 安定ヨウ素剤の予防的服用 |
屋内退避の実施 安定ヨウ素剤の配布準備 |
一方、OILは、オフサイトにおける空間放射線量率等の計測可能な数値の状況に基づく判断基準であり、立地道県等に設置されたモニタリングポストや緊急時モニタリングで把握された空間放射線量率等を基に判定される。
OILの主な区分と、これらに応じた放射線被ばくに対する防護措置の内容は図表8のとおりとなっている。
図表8 OILの主な区分に応じた放射線被ばくに対する防護措置の内容
主な区分 | PAZにおける措置 | UPZにおける措置 |
---|---|---|
OIL1 (空間放射線量率が500μSv/hを超えたとき) |
(EALにより対応) | 数時間以内に対応が必要な区域を特定して避難実施 |
OIL2 (空間放射線量率が20μSv/hを超えたときから起算しておおむね1日後の時点で、20μSv/hを超えているとき) |
1日以内に対応が必要な区域を特定して、1週間以内に一時移転(注)実施 |
防災基本計画は、災対法に基づき、防災に関する長期的な計画、防災業務計画及び地域防災計画において重点を置くべき事項その他防災業務計画及び地域防災計画の作成の基準となるべき事項で必要と認めるものについて、内閣総理大臣を会長として設置された中央防災会議が作成することとなっている。そして、都道府県防災会議及び市町村防災会議は、災対法に基づき、防災基本計画の内容を基礎として、それぞれ都道府県地域防災計画又は市町村地域防災計画を作成することとなっている。
この防災基本計画の中には、原子力災害対策の基本となる計画として「原子力災害対策編」があり、24年の修正において、原子力緊急事態が発生するなどした場合に実施する緊急時モニタリングの体制整備等による住民防護の強化、オフサイトセンターにおける放射線防護対策の強化等に係る事項が新たに定められた。
国、立地道県等及び原子力事業者は、災対法及び原災法に基づき、防災基本計画(原子力災害対策編)及び原災指針の内容を基礎として、それぞれ緊急時に備えて行動計画を作成することとなっており、国は防災業務計画や原子力災害対策マニュアル(平成24年10月原子力防災会議幹事会作成)を、立地道県等は地域防災計画(原子力災害対策編)を、原子力事業者は原子力事業者防災業務計画を作成している。
このうち、国の原子力災害対策マニュアルにおいては、関係省庁等の役割や内閣総理大臣官邸を中心とした事務局体制、オンサイト及びオフサイトにおける業務手順等が記載されている。一方、災対法等によれば、立地道県等は、地域防災計画(原子力災害対策編)において原子力災害対策に関して処理すべき事務又は業務についての大綱等を定めることとされ、避難や原子力災害対策に係る施設等の整備等について、図表9のとおり事項別の計画を記載することとされている(以下、地域防災計画に記載される事項のうち避難に関する事項を取りまとめた計画を「避難計画」という。)。
図表9 地域防災計画(原子力災害対策編)に記載することとされている内容
1.総則 | 3.緊急事態応急対策 |
---|---|
|
|
2.原子力災害事前対策 | 4.原子力災害中長期対策 |
|
|
24年の原災法の改正と時期を合わせて、原子力基本法(昭和30年法律第186号)が改正され、同法に基づき、内閣に平時から原子炉の運転等に起因する事故の発生に備えて政府の総合的な取組を確保するための施策の実施を推進する組織として、内閣総理大臣を議長とする原子力防災会議が設置された。そして、25年9月に開催された第2回原子力防災会議において、内閣府は、原子力発電所が所在する地域ごとに、課題解決のためのワーキングチームを速やかに設置し、関係省庁と共に立地道県等の地域防災計画(原子力災害対策編)及び避難計画の充実化を支援することとされた。これを受けて、内閣府は、原子力発電所が立地する13地域ごとに、関係府省庁、立地道県等から構成されるワーキングチームを設置し、ワーキングチームは27年3月に地域原子力防災協議会と改称され、防災基本計画に規定される組織となった。防災基本計画によれば、地域原子力防災協議会は、内閣府が原子力防災会議決定に基づき原子力発電所が所在する地域ごとに関係府省庁、立地道県等を構成員として設置することとされており、各地域における地域防災計画(原子力災害対策編)及び避難計画の具体化及び充実化の支援を行って、各地域における原子力災害対策の充実強化を図ることとされている(図表10参照)。
図表10 地域防災計画及び避難計画の作成と支援体制
立地道県等は、地域防災計画(原子力災害対策編)等に基づき原子力災害対策を実施しており、内閣府は、立地道県等が行うオフサイトセンターの整備、後述する「一時退避施設等」の放射線防護対策及び防災資機材等の整備について、立地道県等に対して交付金等を交付することにより支援している。
これら原子力災害対策に係る施設等の整備等に関する事業の概要は次のとおりである。
原災法第12条第1項の規定によれば、内閣総理大臣は、原子力事業所ごとに、緊急事態応急対策の拠点及び原子力災害事後対策の拠点となる施設をオフサイトセンターとして指定することとされている。
オフサイトセンターについては、23年原発事故の際に、地震、津波等の自然災害に対する頑健性に乏しく、非常用発電機や通信設備の地震による故障等により機能不全に陥ったり、交通遮断等により要員の参集が遅れたりしたことなどから、原子力安全・保安院が意見聴取会を開催するなどしてその在り方についての検討が行われた。国は、この検討を踏まえて、24年9月に「原子力災害対策特別措置法に基づく緊急事態応急対策等拠点施設等に関する省令」(平成24年文部科学省・経済産業省令第3号。25年9月12日以降は「原子力災害対策特別措置法に基づく緊急事態応急対策等拠点施設等に関する内閣府令」。以下「内閣府令」という。)を定めるとともに、「オフサイトセンターに係る設備等の要件に関するガイドライン」(平成24年9月内閣府作成。以下「ガイドライン」という。)を示した。そして、内閣府令及びガイドライン(以下、これらを合わせて「内閣府令等」という。)により、オフサイトセンターの最適な立地要件として原子力事業所からの距離を5km以上30km未満とすること、オフサイトセンターが使用できない場合にこれを代替することができる施設(以下「代替オフサイトセンター」という。)をオフサイトセンターごとに複数設置することなどとされたほか、オフサイトセンターの放射線防護対策に関して、建屋は被ばく放射線量を低減させるコンクリート壁とすることや換気設備、窓等の気密性の向上、活性炭素繊維等のフィルター(除去率99.5%以上)等を用いた空気浄化フィルター等による放射性物質を遮断する機能を具備することなどが必要であるとされた。また、複合災害に対して重要設備の機能を保つよう電源を安定的に確保するために非常用電源装置を設置することなどとされた。そして、内閣府は、放射線防護対策を実施するための詳細な設計基準等がなかったことから、25年2月に参考資料として「オフサイトセンター放射線防護方法に関する考え方」(以下「OFC参考資料」という。)を作成して立地道県に対する説明会の際に配布するなどしている。
また、オフサイトセンターの建物等の整備や維持管理については、立地道県(東通村防災センターについては東通村)が原子力発電施設等緊急時安全対策交付金(以下「緊急時交付金」という。)により国からの財政支援を受けて緊急事態応急対策等拠点施設整備事業として行っている。そして、内閣府令等を踏まえてオフサイトセンターを移転する場合の建設費用、既存のオフサイトセンターの放射線防護対策を行う場合の費用等について、平成24年度予算では原子力施設等防災対策等交付金、平成25年度予算からは緊急時交付金 により、それぞれ立地道県に対して財政措置が講じられている。
原災指針によれば、原子力緊急事態が発生した場合、原子力災害対策重点区域の住民等は、放射線被ばくに対する防護措置として、避難、一時移転等を行うこととされている。そして、病院や社会福祉施設においては避難時の移動等により健康面のリスクが高まるため避難よりも屋内退避を優先することが必要になる場合があり、高齢者、障害者、乳幼児等、防災上必要な措置を考慮するに当たり特に配慮が必要な者(以下「要配慮者」という。原災指針の27年8月26日改正前は「要援護者」)や避難が遅れた住民等が一時的に退避できるようにするために、病院、社会福祉施設、学校、公民館等の避難所として活用可能な施設等(以下「一時退避施設」という。)については、気密性の向上等の放射線防護対策を講じておくことが必要であるとされている。また、地域防災計画(原子力災害対策編)の作成に当たっては、気密性等の条件を満たす建屋の準備等について検討し、その内容を住民に情報提供することが必要であるとされている。
そして、立地道県等が実施する一時退避施設、代替オフサイトセンター等(以下、これらを合わせて「一時退避施設等」という。)の放射線防護対策を支援するために、平成24年度一般会計補正予算(第1号)において111億円、平成25年度一般会計補正予算(第1号)において200億円が財政措置され、内閣府は、PAZに所在する一時退避施設、UPZにある離島及び半島に所在する一時退避施設、UPZに所在する代替オフサイトセンター等に対する放射線防護対策の強化に係る事業等に対して原子力災害対策施設整備費補助金を交付することとした。
その後、上記の補助事業は、26年6月に、平成26年度内閣府行政事業レビュー公開プロセスの対象となり、「各自治体における避難計画が完成していない中で、緊急対策として始まった事業であるため、整備すべき施設の選定基準が明確になっていない」など、事業の在り方そのものに関する問題点が指摘された結果、同事業は一旦廃止とされ、必要な見直しを行った上で新たな制度として立案すべきとされた。
これを受けて、内閣府は、26年8月に「放射線防護対策に係る基本的な考え方について」(内閣府大臣官房原子力災害対策担当室作成。以下「防護対策基本文書」という。)を取りまとめて補助の対象となる施設を明確にするなどして新しい制度の考え方を示した。そして、26年度から新たに原子力災害対策事業費補助金として財政措置が行われることとなり、平成26年度一般会計補正予算(第1号)における同補助金の歳出予算額は90億円となっている。
原災指針等によれば、原子力災害対策重点区域において平時から実施しておくべき対策として、防災業務関係者等の個人の被ばく線量の評価を行うための個人線量計、放射性物質による汚染を防止するための防護服やマスク等の防護器具、空間放射線量率や汚染状況の測定等を行うための放射線測定器等、様々な防災資機材等の整備等が必要であるとされている。そして、内閣府は、立地道県等がこれらの防災資機材等の整備等を行う防災活動資機材等整備事業に対して緊急時交付金を交付している。
防災資機材等の整備は昭和55年度に創設された緊急時交付金により58年度から行われているが、23年原発事故後は、原子力災害対策の内容を拡充し、またUPZの概念が導入されて立地道県等の総数が増えて従来よりも広い地域で防災資機材等の整備を行うことが必要になったことから、更に多くの防災資機材が緊急時交付金により整備されている。 なお、緊急時交付金は、上記防災資機材等の整備、1(4)アに示したオフサイトセンターの整備や維持管理等の原子力災害対策に係る幅広い事業に充てることができる交付金であり、平成26年度における緊急時交付金の歳出予算額は120億余円となっている。
また、防災基本計画(原子力災害対策編)によれば、国、地方公共団体等は、平常時から住民に対して放射線防護等に関する正しい知識の普及啓発に努めることとされている。そして、平成24年度一般会計補正予算(第1号)により原子力発電施設周辺地域防災対策交付金(以下「周辺対策交付金」という。)17億余円が財政措置されて、25、26両年度に立地道県及び隣接府県に対して交付されている。
「原子力発電施設周辺地域防災対策交付金交付要綱」(平成25年3月府原対第176号内閣総理大臣決定)によれば、周辺対策交付金は、公共施設等への放射線測定器の配備及びこれに伴う説明会、講習会等の開催を通じて原子力発電所の周辺住民が身近に放射線を測定できる環境づくりを進め、放射線に対する周辺住民の理解を深めることなどによって、住民への迅速かつ適切な防護措置に資することを目的として交付される交付金であるとされている。そして、内閣府は、周辺対策交付金により立地道県及び隣接府県が購入し配備した放射線測定器を普及啓発に活用することとしているが、緊急時交付金により立地道県及び隣接府県が整備した放射線測定器と同様に必要に応じて緊急時にも活用できるとしている。
前記のとおり、国は、原子力災害対策に対する財政支援として、23年原発事故前は、立地道県等が行う事業に対して緊急時交付金を交付していた。そして、国は、23年原発事故を受けて、財政支援を行う事業の範囲を広げて、図表11のとおり、立地道県、隣接府県等に対して各種の交付金及び補助金を交付しており、24年度から26年度までの間に計475億余円を交付している。このうち立地道県及び隣接府県の計21道府県に対して交付された額は468億余円となっている。
図表11 原子力災害対策に係る施設等の整備等に対する交付金及び補助金の概要
通番 | 交付金等の名称 | 交付対象事業名 | 交付対象事業の主な内容 | 補助率等 | 事業主体 | 交付金・補助金の交付額 (平成24年度~26年度) (百万円) |
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補助事業者 | 間接補助事業者 | ||||||
① | 原子力発電施設等緊急時安全対策交付金 | (a)緊急時連絡網整備等事業 |
立地道県と国の機関、原子力事業所が所在する市町村とを結ぶ電気通信設備であって、緊急時において連絡の用に供するためのものの設置、維持に係る事業 | 定額 | 立地道県、隣接府県、その他の府県 | - | 21,229 |
(b)防災活動資機材等整備事業 |
緊急時における住民の安全を確保するための施設、防災業務に従事する者の安全を確保するための物品の整備及び緊急時において必要となる医療に用いられる施設及び物品の整備に係る事業 | 内閣総理大臣が適当と認めたもの | |||||
(c)緊急時対策調査・普及等事業 |
緊急時における住民の安全の確保に関する調査、緊急時における安全の確保に係る知識の住民に対する普及及び緊急時における防災業務に従事する者の住民の安全の確保に係る知識の習得に係る事業 | ||||||
(d)緊急事態応急対策等拠点施設整備事業 |
オフサイトセンターの整備又は維持に係る事業 | ||||||
② | 原子力発電施設周辺地域防災対策交付金 | 公共施設等への放射線測定器の配備並びにこれに伴う説明会及び講習会等の開催に係る事業 | 定額 | 立地道県、隣接府県 | - | 984 | |
③ | 原子力施設等防災対策等交付金 | 東日本大震災で被災したオフサイトセンターの再建及び専用回線を用いた衛星通信の整備、避難シミュレーションの実施、オフサイトセンターの再建に係る土地及び建物の調査設計等に係る事業 | 定額 | 立地道県、隣接府県、その他の府県 | - | 3,357 | |
④ | 原子力災害対策施設整備費補助金 | 要援護者施設等のうちPAZ内に所在するもの並びにUPZ内にある離島及び半島に所在するものに対する放射線防護対策の強化に係る事業等 | 定額 | 立地道県、隣接府県 | 市町村及び要援護者施設等を所有する民間団体 | 21,962 | |
⑤ | 原子力災害対策事業費補助金 | PAZ及び原子力発電所の周囲おおむね10kmまでの区域内に所在する一時退避施設や、おおむね10kmまでの区域内に所在する立地道県等が緊急時に応急の対策を実施するための施設(消防署や警察署等の現地災害対策拠点施設)に対する放射線防護対策の強化に係る事業、おおむね10kmの区域内にある放射線防護対策の強化を行った(又は行う)施設において屋内退避の実施に必要となる防災資機材の整備及び物資の備蓄に係る事業等 | 定額 | 立地道県、隣接府県 | 市町村及び要援護者施設等を所有する民間団体 | - | |
①~⑤の計 | 47,533 | ||||||
うち、立地道県及び隣接府県の計21道府県に対して交付された分 | 46,887 |