日本郵政グループは、今後の株式売却に向けて日本郵政グループ全体として企業価値を維持向上させることなどにより、復興財源の確保に貢献すること、また、日本郵政及び日本郵便は、情報通信手段の多様化等によって国民の生活様式等が変化する中でユニバーサルサービスを提供すること、郵便局ネットワークを維持することなどが求められている。
そこで、日本郵政グループの経営状況等について、郵政省から現在の日本郵政グループに至るまでの間に、郵政事業の運営に係る組織形態、制度等はどのように変遷しているか、また、そうした変遷の中で、日本郵政グループの損益等の推移及び現状はどのようになっているか、また、日本郵政グループ内における取引等の状況はどのようになっているか、各種の規制の下で、郵便・物流事業、金融窓口事業、銀行業、生命保険業等の各業務の実績等の推移及び現状はどのようになっているか、さらに、日本郵政及び金融2社の株式売却に係る手続等並びに国が保有する日本郵政の株式売却収入の復興財源への充当はどのように行われているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況となっていた。
郵政事業の公社化及び民営化に伴って、その運営に係る組織形態、制度等は大きく変遷しており、公社化後は、財政状態及び経営成績をより明らかにするために、企業会計原則による会計処理が導入されるなどしている。また、従業員数は14年度の約27万人から26年度の約22万人に減少しているが、郵便局ネットワークの水準を維持することを旨とすることが規定されていることなどから、郵便局数は14年度から19年度までの間に僅かに減少した後、おおむね横ばいで推移しており、26年度には24,470局となっている(6012_3_1リンク参照)。
公社の連結決算及び日本郵政連結決算における経常収益等の推移をみると、経常利益及び当期純利益については、経常費用の減少等により、民営化後においても黒字基調で推移しているものの、経常収益については減少傾向が続いている。26年度には経常収益が14兆2588億余円、経常費用が13兆1430億余円、経常利益が1兆1158億余円、当期純利益が4826億余円となっている。
総資産当期純利益率については、民営化後、僅かながら上昇傾向にあるが、自己資本当期純利益率については、公社時代に急激に低下し、民営化後は緩やかな低下傾向にある。
そして、民営化後の当期純利益及び総資産額の推移をみると、19年度から26年度までの銀行業の額の日本郵政連結決算の額に対する割合が、それぞれ、54.2%から76.5%、64.2%から70.3%となっていて、銀行業の業績及び財政状態は長期にわたって日本郵政グループの経営に大きな影響を与えてきた。
また、日本郵政グループ内における取引の状況をみると、日本郵便は、ゆうちょ銀行との間で代理店契約を、かんぽ生命との間で保険募集契約をそれぞれ締結しており、26年度分として、これらの契約に基づいてゆうちょ銀行から6024億余円、かんぽ生命から3603億余円の手数料の支払を受けているなど、日本郵政グループ内における取引に係る支払額及び受取額は多額に上っている。日本郵政グループ内における取引については、日本郵政が基本方針を定めており、各社の業務の健全かつ適切な遂行に支障を及ぼすことのないよう、アームズ・レングス・ルールにのっとって公正に行うこととしている。
さらに、日本郵便、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命は、日本郵政に対してそれぞれ配当を行っており、その合計額は、26年度には1195億余円となっている。一方、日本郵政は、26年度に、株主に対する配当として435億円、法人税として2723億余円、計3158億余円を国に支払っており、19年度から26年度までに、配当、法人税等として、合計2兆3194億余円を国に支払っている(6012_3_2リンク参照)。
郵便・物流事業では、情報通信手段の多様化等により郵便物の引受物数は長期的に減少傾向にあるものの、荷物の引受物数は増加しており、26年度には、郵便物の引受物数が約181億通、荷物の引受物数が約38億個となっている。損益等の推移をみると、公社は、15年度から18年度までは当期純利益を確保していた。民営化後、郵便事業会社が宅配便事業を承継させる目的で20年6月に設立したJPEXの経営状況が悪化したこと、21年度にJPEXが日本通運株式会社から承継して行っていた宅配便事業を、22年7月に郵便事業会社が承継したため、人件費及び委託費が増大したことなどにより、郵便事業会社は21年度から23年度までの間は、当期純損失を計上していた。また、業務運営の効率化の状況を測る指標である事業経費率をみると、郵便事業会社及び日本郵便の郵便・物流事業では、22年度以降、それまでと比べて高くなっており、26年度には100.5%となっている。そして、郵便物の引受物数の減少等により、26年度には、郵便・物流事業で103億余円の営業損失を計上しているが、金融2社からの手数料等が主な収益源である金融窓口事業の209億余円の営業利益等により、日本郵便等の連結決算は営業利益が125億余円、経常利益が228億余円、当期純利益が221億余円となっている。
郵便物等に係る営業収益等の推移をみると、郵便物に係る営業収益及び営業費用は、それぞれ14年度の1兆8832億円、1兆8996億円から、26年度の1兆3174億円、1兆3058億円へと減少しており、営業収益及び営業費用の規模が縮小する中、営業損益については、15年度以降、利益の規模は変動しているものの、毎年度、営業利益を計上しており、26年度の営業利益は115億円となっている。一方、荷物に係る営業収益は増加しているものの、営業費用も上記の承継に伴って22年度に急増するなどしており、20年度以降は営業損失を計上していて、26年度には営業収益が4444億円、営業費用が4651億円、営業損失が208億円となっている。このような状況に対して、日本郵便は、25年度から郵便・物流ネットワーク全体の生産性の向上等を図っており、郵便・物流ネットワーク再編に向けた取組を実施している。
金融窓口事業では、日本郵政グループ内における取引である代理店契約や保険募集契約等に基づく各種手数料に係る営業収益が減少しているが、近年、物販事業や不動産事業等にも取り組んでおり、連結決算の数値が公表されている25年度及び26年度のこれらの事業に係る「その他の営業収益」(連結決算)は、25年度の1024億余円から26年度には1394億余円へと増加していて、金融窓口事業の営業収益(連結決算)も、25年度の1兆0768億余円から26年度には1兆1023億余円へと増加している(6012_3_3_1リンク参照)。
ゆうちょ銀行には、新規業務の制限、貸出業務の範囲の制限等、他の銀行にはない規制が課せられている。ゆうちょ銀行の貯金残高の推移をみると、22年度まで減少傾向にあり、23年度以降は増加に転じたものの、他の銀行と比較するとその増加率は小さくなっており、26年度末には177兆7107億余円となっている。ゆうちょ銀行の資金運用の状況をみると、財政投融資改革により資金運用部への預託義務が廃止された13年度以降は全額自主運用になったため、財政融資資金預託金が減少し、また、ゆうちょ銀行は個人及び法人向け貸出業務の範囲が制限されているため、公社時代の16年度以降は、償還される財政融資資金預託金と比べて利回りが低くなっていた国債等の有価証券が運用の中心となった。また、運用資産額については、22年度まで貯金残高が減少していたことなどにより減少していたが、その後、貯金残高の増加等に伴って増加し、26年度末には205兆8654億余円となっている。
そして、経常収益等の推移をみると、公社時代は、資金運用収益及び経常収益が大幅に減少し、経常利益及び当期純利益も大幅に減少した。民営化後は、資金運用収益及び経常収益が減少しているものの、営業経費の削減等により経常費用がそれ以上に減少しており、経常利益及び当期純利益はそれぞれ増加する傾向にある。26年度には、資金運用収益が1兆8932億余円、経常収益が2兆0781億余円、経常費用が1兆5086億余円、経常利益が5694億余円、当期純利益が3694億余円となっている。
ゆうちょ銀行と都市銀行とを26年度の運用資産の構成等について比較すると、ゆうちょ銀行は、個人及び法人向けの貸出業務の範囲が制限されていることなどから、運用資産に占める貸出金の割合が1.3%となっており、都市銀行の48.9%と比較して小さく、また、預貸率は1.5%となっており、58.6%から75.4%となっている都市銀行と比較して低くなっている。一方、有価証券、特に国債を中心とする資金運用が行われているため、運用資産に占める有価証券の割合が75.8%と都市銀行の25.7%よりも高くなっていて、また、預証率は87.8%となっており、16.0%から38.9%となっている都市銀行より高くなっている。そして、ゆうちょ銀行では、有価証券利息配当金が資金運用収益の96.4%を占めており主な収益源泉となっている。
そして、ゆうちょ銀行は26年度の資金の運用利回りが0.95%、自己資本当期純利益率が3.2%となっていて、それぞれ0.94%から1.42%、5.8%から11.9%となっている都市銀行と比べておおむね低くなっている。一方、運用資産に占める国債の割合が高くなっていることなどにより、銀行の健全性を示す単体自己資本比率が26年度末には38.4%となっていて、13.1%から18.8%となっている都市銀行と比べて高くなっている。
また、ゆうちょ銀行は物件費の削減を進めていて、業務運営の効率化の状況を測る指標である貯金経費率が、20年度に上昇した後、おおむね低下傾向にあり、26年度には0.62%となっている。
そして、公社時代及び民営化後は、顧客の満足度を高めるサービスの充実、業務運営の効率化及び経営管理の高度化を図るために、各種の取組が行われている(6012_3_3_2リンク参照)。
かんぽ生命には、新規業務の制限、加入限度額等の他の生命保険会社にはない規制が課せられている。かんぽ生命が保有する保険契約件数の推移をみると、長期にわたり減少傾向が続いており、26年度末には、個人保険の保険契約件数は約3348万件、個人年金保険の保険契約件数は約426万件となっているが、かんぽ生命は、29年度以降の保険契約件数の底打ち、反転を目指すとしている。生命保険業の経常収益等の推移をみると、経常収益の過半を占める保険料等収入が減少傾向にあったため経常収益は減少しているものの、経常費用も減少するなどしていて、民営化後においても黒字基調で推移しており、26年度には、経常収益が10兆1692億余円、経常費用が9兆6766億余円、経常利益が4926億余円となっている。また、公社時代には、経常利益に特別損益等を加減した残余額を契約者配当準備金として繰り入れていたため生じていなかった当期純利益は、民営化後、26年度には813億余円となっている。そして、かんぽ生命の資産運用の状況をみると、保険料等収入の減少、満期による保険契約の消滅等に伴う責任準備金の戻入により責任準備金が減少したことに伴って、運用資産額が減少しており、26年度末の責任準備金は75兆1126億余円、運用資産額は84兆9119億余円となっている。運用資産額が減少する中、19年夏に表面化したいわゆるサブプライム・ローン問題に端を発した世界的な金融・経済環境の大幅な悪化を背景として、リスク性資産を圧縮することとしたため、15年度から18年度まで資産運用収益の3割から4割程度を占めていた金銭の信託の運用額が大きく減少したことなどに伴って、資産運用収益も減少しており、26年度の資産運用収益は1兆4607億余円となっている。
かんぽ生命と他の生命保険会社及びGPIF等の年金運用機関とを26年度末における運用資産の構成等について比較すると、国内債券については、かんぽ生命では運用資産に占める割合は75.7%となっていて他の生命保険会社及び年金運用機関と比べて高くなっている。一方、国内株式については、かんぽ生命では運用資産に占める割合は1.2%、外国債券及び外国株式等については、同2.7%となっていて、いずれも、他の生命保険会社及び年金運用機関と比べて低くなっている。保険会社の健全性を示すソルベンシー・マージン比率をみると、かんぽ生命は、危険準備金が多額であることや運用資産に占める国債の割合が大きい一方、国内株式及び外国株式等の割合が小さいため、資産運用リスクが小さいことなどにより、26年度末には1641.4%となっていて、4保険会社と比べて高くなっている。業務運営の効率化の状況を測る指標である事業費率については、かんぽ生命では、民営化後上昇していて、26年度には8.60%となっているものの、4保険会社と比べて低くなっている。
そして、かんぽ生命は、顧客のニーズに対応した商品を開発するなどして、新規業務等の申請を行い、認可を受けるなどしている(6012_3_3_3リンク参照)。
総務大臣は、日本郵政及び日本郵便をそれぞれ監督し、業務に関して監督上必要な命令をすることができることとなっている。そして、日本郵政及び日本郵便に提供責務が課されているユニバーサルサービスの提供水準については、日本郵政公社法施行時の郵便差出箱数(約18万本)を維持すること、郵便物について差し出された日から原則として3日以内に送達すること、過疎地において19年10月から24年9月までは19年10月時点の郵便局ネットワークの水準を、民営化法改正法が施行された24年10月からは同月時点の当該水準を、それぞれ維持することを旨とすることなどが規定されている。ユニバーサルサービスの提供状況をみると、郵便差出箱数は民営化後18万本以上で推移していて26年度末には181,521本となっており、郵便物の送達日数達成率は、民営化後、公社時代の目標値であった97%以上で推移しており、過疎地における営業中の郵便局数は民営化された19年度末は7,346局、26年度末は7,692局となっているなど、必要なユニバーサルサービスの提供水準はおおむね維持されていると考えられる。
一方、26年度には、郵便・物流事業で103億余円の営業損失を計上しており、金融窓口事業では209億余円の営業利益を計上しているものの、主な収益源である金融2社からの手数料は減少する傾向にある。また、ユニバーサルサービスコストについて、総務省情報通信審議会による総務大臣への答申における試算によれば、その計算過程や集配局エリア単位での損益については公表されていないものの、郵便の業務が1873億円、銀行窓口業務が575億円、保険窓口業務が183億円となっていて、それぞれ多額に上っている。そして、郵便の業務については、約8割の集配局エリアが赤字となっていて、その赤字を約2割の黒字の集配局エリアの利益によって賄っており、銀行窓口業務及び保険窓口業務については、約4割の集配局エリアが赤字となっていて、その赤字を約6割の黒字の集配局エリアの利益によって賄っているという試算結果が報告されている。また、15年4月の信書便法の施行により、信書便事業として民間事業者の全面的な参入が可能となったものの、これまでのところ、信書の大半を占める1通当たり4㎏以下等の信書の送達を全国で行う事業は、事実上、日本郵便の独占となっている(6012_3_3_4リンク参照)。
病院事業については、日本郵政が、26年度末現在で14逓信病院を運営しているが、患者数の減少傾向が続いていて、26年度の外来患者数は延べ約82万人、入院患者数は延べ約30万人となっている。そして、毎年度営業損失を計上していて、26年度の営業損失は60億余円となっており、厳しい経営状況となっている。経常収支率をみると、20年度以降、いずれの逓信病院も50%以上、全体の平均については各年度とも80%前後で推移していて、26年度には78.7%となっているなど、昭和53年度の30.3%と比べて改善がみられる。
また、宿泊事業については、日本郵政が、平成26年度末現在でかんぽの宿等64施設及びメルパルク11施設を運営するなどしており、かんぽの宿等については、経営改善のための取組が行われており、23年度以降、宿泊単価が上昇するなどしているものの、宿泊利用人数の減少傾向が続いていて、26年度の宿泊利用人数は約169万人となっている。そして、毎年度営業損失を計上していて、26年度の営業損失は29億余円となっており、厳しい経営状況となっている。19年度に公社から承継したかんぽの宿等71施設のうち、休館等のため、営業損益等の比較ができない5施設を除いた66施設について、民営化後の営業損益の状況をみると、19年度に営業損失を計上していた54施設のうち45施設は、24年度から26年度までの3年平均損益においても営業損失を計上している。そして、当該45施設のうち27施設は19年度営業費用率よりも3年平均営業費用率の方が大きくなっていて更に悪化している(6012_3_3_5リンク参照)。
国が保有する日本郵政の株式については、復興財源確保法により、その売却収入を復興財源に充てることとなっている。27年11月4日の日本郵政及び日本郵政の資産の大半を占める金融2社の株式の上場においては、ブックビルディング方式により売出価格が決定され、いずれの株式も仮条件の上限となる価格を売出価格として売却された。日本郵政、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命のそれぞれの株式の売出価格1,400円、1,450円、2,200円にそれぞれの売却株式数4億9500万株、4億1244万2300株、6600万株を乗じた金額から引受手数料を除くなどした金額は6807億余円、5881億余円、1428億余円となっている。
そして、同年12月3日に、日本郵政が、上記の金融2社の株式売却収入を原資として、国が保有する日本郵政の株式のうち3億8290万1700株を7301億余円で国から取得し、国はこの収入から売却手数料788万余円を除いた7301億余円と上記の6807億余円を合わせた1兆4109億余円を復興財源に充当した(6012_3_4リンク参照)。
日本郵政グループは、郵便・物流事業、金融窓口事業、銀行業、生命保険業等の業務を実施している。そして、前記のとおり、日本郵政は、民営化後の厳しい経営環境や各種の制度改正を踏まえて、26年中期計画及び27年中期計画を策定しており、各業務における収益力及び経営基盤の強化、ユニバーサルサービスの責務の遂行、日本郵政グループの企業価値の向上等を経営方針として掲げるなどしている。一方、国が保有する日本郵政の株式の売却収入は復興財源に充当されることとなっており、前記のとおり、日本郵政及び金融2社の株式が上場されたことにより、日本郵政及び金融2社の株式の一部については、それぞれ少数株主が保有することとなった。
ついては、日本郵政グループ及び国において、郵政事業の運営がより効率的、効果的なものとなるよう、また、企業価値を維持向上できるよう、今後、次のような点に留意して取り組む必要がある。
会計検査院としては、日本郵政グループの経営状況等について引き続き注視していくこととする。