国立大学法人は、国立大学法人法(平成15年法律第112号)に基づき、平成16年4月1日、大学の教育研究に対する国民の要請にこたえるとともに、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図るために設立された。そして、それまで、国立学校設置法(昭和24年法律第150号。平成16年廃止)に基づき文部科学省に設置されていた各国立大学は、それぞれ独立した国立大学法人に設置されることとなった。
27年度末現在、86国立大学法人のうち42国立大学法人は、大学に附属病院(以下「国立大学附属病院」という。)を設置し、運営している。附属病院は、大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第39条等の規定に基づき、医学又は歯学に関する学部又は附置研究所を置く大学に当該学部等の教育研究に必要な施設として設置されるものであり、国立大学には、図表0-1のとおり、計45病院が設置されている。
図表0-1 国立大学附属病院一覧(平成27年度末現在)
国立大学法人名 | 国立大学附属病院名 | 国立大学法人名 | 国立大学附属病院名 |
---|---|---|---|
北海道大学 | 北海道大学病院 | 滋賀医科大学 | 滋賀医科大学医学部附属病院 |
旭川医科大学 | 旭川医科大学病院 | 京都大学 | 京都大学医学部附属病院 |
弘前大学 | 弘前大学医学部附属病院 | 大阪大学 | 大阪大学医学部附属病院 |
東北大学 | 東北大学病院 | 大阪大学歯学部附属病院 | |
秋田大学 | 秋田大学医学部附属病院 | 神戸大学 | 神戸大学医学部附属病院 |
山形大学 | 山形大学医学部附属病院 | 鳥取大学 | 鳥取大学医学部附属病院 |
筑波大学 | 筑波大学附属病院 | 島根大学 | 島根大学医学部附属病院 |
群馬大学 | 群馬大学医学部附属病院 | 岡山大学 | 岡山大学病院 |
千葉大学 | 千葉大学医学部附属病院 | 広島大学 | 広島大学病院 |
東京大学 | 東京大学医学部附属病院 | 山口大学 | 山口大学医学部附属病院 |
東京大学医科学研究所附属病院 | 徳島大学 | 徳島大学病院 | |
東京医科歯科大学 | 東京医科歯科大学医学部附属病院 | 香川大学 | 香川大学医学部附属病院 |
東京医科歯科大学歯学部附属病院 | 愛媛大学 | 愛媛大学医学部附属病院 | |
新潟大学 | 新潟大学医歯学総合病院 | 高知大学 | 高知大学医学部附属病院 |
富山大学 | 富山大学附属病院 | 九州大学 | 九州大学病院 |
金沢大学 | 金沢大学附属病院 | 佐賀大学 | 佐賀大学医学部附属病院 |
福井大学 | 福井大学医学部附属病院 | 長崎大学 | 長崎大学病院 |
山梨大学 | 山梨大学医学部附属病院 | 熊本大学 | 熊本大学医学部附属病院 |
信州大学 | 信州大学医学部附属病院 | 大分大学 | 大分大学医学部附属病院 |
岐阜大学 | 岐阜大学医学部附属病院 | 宮崎大学 | 宮崎大学医学部附属病院 |
浜松医科大学 | 浜松医科大学医学部附属病院 | 鹿児島大学 | 鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 |
名古屋大学 | 名古屋大学医学部附属病院 | 琉球大学 | 琉球大学医学部附属病院 |
三重大学 | 三重大学医学部附属病院 | 42法人 | 45病院 |
国立大学附属病院は、医学又は歯学に関する学部等の教育研究に必要な施設として設置され、主として、次の三つの機能を果たすことが求められている。
① 教育機関としての機能
優れた医療従事者を養成するために、医学部学生等の臨床実習や卒後の医師の初期・専門研修等を行う。
② 研究機関としての機能
新しい医薬品、医療機器等を開発したり、難治性患者の病態を解明したりするための研究等を行う。
③ 診療機関としての機能
医療法(昭和23年法律第205号)上の病院として、医師又は歯科医師が公衆又は特定多数人のために、医業又は歯科医業を行う。
そして、国立大学附属病院長会議(注1)が24年3月に提言した「国立大学附属病院の今後のあるべき姿を求めて」(以下「病院長会議提言」という。)では、国立大学附属病院がこれまで果たしてきた教育、診療、研究の三つの使命に地域貢献・社会貢献と国際化の二つの新たな使命を加えた五つの使命が国立大学附属病院の使命として掲げられている。
また、文部科学省は、病院長会議提言等を踏まえ、「今後の国立大学附属病院施設整備に関する検討会・報告書」(以下「検討会・報告書」という。)を26年3月に取りまとめ、この中で、上記五つの使命(機能・役割)を踏まえて、国立大学附属病院の施設整備を行うことが重要であるとしている。
病院のうち、高度の医療の提供、高度の医療技術の開発及び評価並びに高度の医療に関する研修を実施する能力を備え、それにふさわしい人員配置、構造設備等を有するものは、医療法第4条の2第1項の規定に基づき、厚生労働大臣の承認を得て、特定機能病院と称することができることとなっている。特定機能病院として承認された病院は、高度の医療の提供等を実施する役割を果たすものとして、診療報酬が加算されるなどの措置を受けている。
27年度末現在、全国で84病院が特定機能病院として承認されていて、このうち、国立大学附属病院は41病院(全特定機能病院の48.8%)、私立大学を設置している学校法人が大学の附属施設として設置している病院は28病院(同33.3%)、公立大学法人が大学の附属施設として設置している病院は8病院(同9.5%)、その他の病院は7病院(同8.3%)となっており、国立大学附属病院が特定機能病院の約半数を占めている。
病院が特定機能病院として承認を受けるためには、医療法、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)等において定められている、高度の医療の提供や高度の医療技術の開発及び評価等に関する各種の要件を満たす必要があり、27年度末現在の主な承認要件は、図表0-2のとおりとなっている。なお、厚生労働省は、後述する大学附属病院の医療事故等を受けて、特定機能病院の承認要件の見直しを行ったところである。
図表0-2 特定機能病院の主な承認要件(平成27年度末現在)
主な承認要件 | |
---|---|
高度の医療の提供 | 先進医療の提供を行うこと |
高度の医療技術の開発及び評価 | 病院に所属する医師等の行う研究が、国等からの補助金の交付又は委託を受けたものであること |
高度の医療に関する研修 | 専門的な研修を受ける医師等の数が、年間平均30人以上であること |
診療科目 | 内科、外科等の所定の16診療科名全てを標ぼうすること |
病床数 | 病床数が400床以上であること |
紹介率・逆紹介率 | 紹介率が50%以上であること、逆紹介率が40%以上であること |
医療安全管理 | 医療に係る安全管理を行う部門を設置すること |
国立大学附属病院を設置する国立大学法人に対する国等からの主な財政支援は、次のとおりである。
国立大学法人法第35条において準用される独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「準用通則法」という。)第46条の規定に基づき、政府は、予算の範囲内において、国立大学法人の業務の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額を交付することができることとなっており、文部科学省は、各国立大学法人に対して、国立大学法人運営費交付金(以下「運営費交付金」という。)を交付している。
そして、運営費交付金の算定上、医学部等に所属する教員の人件費、研修医の教育経費、研究費等の教育研究に係る経費は、一般運営費交付金の算定対象となっているが、医療費や患者給食費等の診療経費及び施設整備等に係る借入金等の債務償還経費は、原則として、附属病院収入で賄われることとなっている。ただし、附属病院収入で診療経費及び債務償還経費を賄えない場合は、附属病院運営費交付金が交付されることとなっている。さらに、国立大学附属病院の機能強化やプロジェクト等の特別経費について、特別運営費交付金が交付されている。
国立大学法人法第33条の規定によれば、国立大学法人は、政令で定める土地の取得、施設の設置若しくは整備又は設備の設置に必要な費用に充てるため、文部科学大臣の認可を受けて、長期の借入れを行うことなどができることとされている。
そして、国立大学法人は、借入れを行うに当たって、文部科学大臣の認可を得た上で、独立行政法人国立大学財務・経営センター(28年4月1日以降は、独立行政法人大学評価・学位授与機構と統合し、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構。以下「支援機構」という。)に対して、国立大学附属病院の施設整備等に必要な資金の借入申請を行い、審査を受けた後に借入れを行うこととなっている。
国立大学附属病院の施設整備等については、総事業費の1割を国が施設整備費補助金として交付し、残りの9割を財政融資資金の借入れにより支援機構が国立大学法人に貸し付けることなどとなっている。
さらに、厚生労働省は、地域の中核的な医療機関としての役割に応じて、地域医療に係る各種の補助金等を地方自治体を通じて国立大学附属病院を設置する国立大学法人に交付している。
病院長会議提言によれば、16年度の国立大学の法人化前は、国が全ての国立大学附属病院の病院収入並びに人件費、教育・研究・診療に係る経費及び病院の再開発に伴う経費の支出を一元的に管理していたが、法人化以降は、各国立大学法人が個々に収支管理を行っており、病院収入を経営のベースとしている国立大学附属病院は、診療報酬の影響を強く受けることから、収支の企業的管理が必要となり、国や地域の医療に対して責任を負いながらも、その経営について独自に責任を負うこととなったとされている。
国立大学附属病院を設置している42国立大学法人における授業料等収入、附属病院収入等の自己収入は、25年度は1兆5409億円、26年度は1兆5749億円であり、このうち、附属病院収入はそれぞれ9614億円、9835億円に上り、法人全体の自己収入の62.3%、62.4%となるなど重要な位置を占めており、国立大学附属病院の経営状況が国立大学法人の運営に与える影響は大きいものとなっている。
また、国立大学法人会計基準(平成16年文部科学省告示第37号。国立大学法人会計基準注解等を含む。)によれば、国立大学法人は、公共的な性格を有しており、利益の獲得を目的とせず、中期計画に沿って通常の運営を行った場合、運営費交付金等の財源措置が行われる業務についてはその範囲において損益が均衡する制度設計となっている。同様に、国立大学附属病院も利益の獲得を目的としておらず、診療報酬制度が実費支弁を前提としているなどのため、前記のとおり、診療経費は、原則として附属病院収入で賄われることとなっている。そして、国立大学附属病院が、教育、研究、診療、地域貢献・社会貢献及び国際化という機能・役割を今後も安定して継続的に果たしていくためには、医療安全を確保した上で、損失が生じないように適切な運営により健全な財務基盤を構築していくことが重要である。
24年2月に閣議決定された「社会保障・税一体改革大綱」によれば、政府は、急性期をはじめとする医療機能の強化や病院・病床機能の役割分担・連携の推進等を内容とする医療サービス提供体制の制度改革に取り組むこととされている。そして、25年8月に社会保障制度改革国民会議(注2)が取りまとめた報告書によれば、高齢化の進展により、疾病構造の変化を通じて、必要とされる医療の内容は「病院完結型」から、地域全体で治し、支える「地域完結型」に変わらざるを得ないなどとされている。また、検討会・報告書によれば、医療制度改革においては、国立大学附属病院を含む病院の病床を高度急性期機能(注3)から急性期機能(注4)、回復期機能(注5)、慢性期機能(注6)まで機能分化した上で、当該機能に特化した医療の提供や外来医療の役割分担等、医療提供体制を再構築することにより、「病院完結型」医療から「地域完結型」医療への転換を図ることが求められているとされている。
上記社会保障制度改革国民会議の報告書を踏まえ、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」(平成25年法律第112号)において、医療制度を含む社会保障制度改革の全体像及び進め方が明らかにされるとともに、医療制度改革等について講ずべき法制上の措置が定められた。そして、これに伴う法律改正により追加された医療法第30条の13の規定に基づき、地域における病床の機能分化及び連携の推進を目的として、26年に病床機能報告制度(注7)が創設された。
学校法人東京女子医科大学が大学の附属施設として設置する東京女子医科大学病院では、26年2月に小児の集中治療における人工呼吸中の鎮静に使用することが禁忌とされている薬剤を継続投与された小児が死亡した。また、国立大学附属病院の一つである群馬大学医学部附属病院において、22年から26年にかけて肝臓の腹腔(くう)鏡手術で術後4か月以内に患者8人が死亡した。これらを受けて、厚生労働省は、これらの事案に関連した医療安全管理体制等について審議した社会保障審議会医療分科会の意見を踏まえて、27年5月、両病院の特定機能病院の承認を同年6月1日付けで取り消す旨を両病院に通知した。
そして、同省は、大学附属病院等において医療安全に関する重大な事案が相次いで発生したことを踏まえて、同年4月に「大学附属病院等の医療安全確保に関するタスクフォース」を設置した。同タスクフォースは、特定機能病院に対する集中立入検査等を実施し、同年11月に、医療安全確保のための改善策等を報告した。
上記の報告を踏まえ、同省に設置された「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」は、特定機能病院の承認要件の見直しなどを検討し、28年2月に結果を取りまとめ、同省は、同年6月に、医療法施行規則を改正するなどして、医療安全を確保する観点から、特定機能病院の承認要件の見直しを行った。