前記のとおり、国立大学附属病院は、国立大学の法人化以降、収支の企業的管理が必要となり、個々の国立大学附属病院がその経営について独自に責任を負うこととなった。そして、附属病院収入が国立大学法人の自己収入に占める割合は6割を超えており、国立大学附属病院の経営状況が国立大学法人の運営に与える影響は大きいものとなっている。
また、医療制度改革等では、国立大学附属病院を含めた病院の役割分担による医療提供体制の再構築が求められている。さらに、医療事故等を契機として、特定機能病院の承認要件が見直されたり、国立大学附属病院における医療安全管理体制等に対する国民の関心がより一層高くなったりしている。
以上のとおり、国立大学附属病院を取り巻く環境は大きく変化しており、安心、安全で高度の医療の提供等が急務の課題となっている中、国立大学附属病院は、その機能・役割を果たしていくことが求められている。そして、国立大学附属病院が今後も安定して継続的にその機能・役割を果たしていくためには、医療安全を確保した上で、損失が生じないように適切な運営により健全な財務基盤を構築していくことが重要である。
そこで、会計検査院は、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査を実施した。
ア 国立大学附属病院の経営状況等について、業務損益や収支はどのように推移しているか、医薬品等の調達は会計規程等に基づき適正に実施されているか、医療機器等の更新等は採算性を検討するなどして実施されているか、監査等は適切に実施されているか。
イ 国立大学附属病院は、教育、研究、診療、地域貢献・社会貢献の機能を十分に果たしているか。
ウ 国立大学附属病院の医療安全管理体制等について、群馬大学医学部附属病院の医療事故は経営等にどのような影響を与えているか、群馬大学医学部附属病院を除く国立大学附属病院の医療安全 に対する取組状況はどのようになっているか。
45国立大学附属病院のうち、26年度末現在において特定機能病院として承認されていた42国立大学附属病院(注8)(以下、26年度末現在において特定機能病院として承認されていた国立大学附属病院を単に「附属病院」という。)を設置している42国立大学法人の22年度から26年度までの間(群馬大学医学部附属病院の医療事故に伴う経営等への影響等については27年度までの間)の会計を対象として、37国立大学法人(注9)において附属病院に係る財務関係書類を確認したり関係者から説明を聴取したりなどして会計実地検査を行うとともに、42国立大学法人から、附属病院に係る業務運営、経営等に関する調書等の提出を求めて、その内容を分析するなどして検査を行った。
なお、附属病院の取組状況等の分析に資するために、病院を設置している厚生労働省所管の3独立行政法人(注10)においても会計実地検査を行うとともに、病院を大学の附属施設として設置している2学校法人(注11)において調査を実施した。
(以下、各附属病院の名称中、「大学医学部附属病院」、「大学附属病院」、「大学医歯学総合病院」又は「大学医学部・歯学部附属病院」は「大学病院」と記載した。)