独立行政法人は、独立行政法人の運営の基本その他の制度の基本となる共通の事項について定める独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)、各独立行政法人の名称、目的、業務の範囲等に関する事項を定める法律(以下「個別法」という。)等に基づき設立される法人であり、平成28年3月末現在における独立行政法人の数は98法人、25、26両年度における経常費用は、27年4月1日に設立された国立研究開発法人日本医療研究開発機構を除く97法人で計22兆4289億余円及び計21兆1516億余円となっている。そして、国は、通則法等に基づき、独立行政法人に対して、その資本金を出資したり、業務の財源に充てる資金として運営費交付金を交付したりするなどの財政上の措置を講じている。
各独立行政法人は、個別法等に定められた業務を効果的かつ効率的に実施するため、施設管理・運営、調査・研究、広報、データ入力作業等の定型的支援等の業務について、当該業務を自ら実施することが効率的でないと認められる場合等に、法人ごとに定める業務方法書及び会計に関する事項について定める規程(以下、この規程を「会計規程」という。)に基づくなどして、当該業務の全部又は一部を民間事業者に委託(請負を含み、工事に係るものを除く。以下「民間委託」という。)して実施している。
独立行政法人の契約事務については、通則法等によれば、競争入札等の契約に関する基本的な事項を業務方法書に定めて法人ごとに主務大臣の認可を受けること及び会計規程を定めて主務大臣に届け出ることとされている。また、独立行政法人の中には、会計規程に基づくなどして、契約事務に関する細則、要領、マニュアル等を独自に定めている法人もある。このように、独立行政法人の契約制度は、法人ごとに定める業務方法書、会計規程等により定められており、法人間で統一されているものではない。しかし、ほとんどの法人において、競争入札により契約の相手方を選定する場合には、原則として予定価格の制限の範囲内で最低の価格の入札者を自動的に落札者として決定する(以下、この落札方式を「自動落札方式」という。)ほか、情報システムの調達、調査・研究、広報等の技術的要素等の評価を行うことが重要である業務については、自動落札方式に代えて、価格と価格以外の技術的要素等を総合的に評価して、発注者にとって最も有利な申込みをした者を落札者として決定する方式(以下「総合評価落札方式」という。)によることができることとなっている。
総合評価落札方式による落札者の決定は、主として次の手順によることとなっている。
① 入札参加者は、具体的な業務の方法を記載した提案書を独立行政法人に提出する。
② 独立行政法人は、提案書の内容が業務の目的・趣旨に沿って実行可能なものであるかについての項目(以下「必須評価項目」という。)と提案書の内容が効果的なものであるかについて加点する項目(以下「加点評価項目」という。)について、あらかじめ独立行政法人が定めた評価基準により評価を行う。そして、必須評価項目及び加点評価項目に係る評価点の合計点(以下「提案書の得点」という。)を算出する。
③ 入札参加資格要件を全て満たし、必須評価項目の要件を全て満たした者は、入札価格を記載した入札書を独立行政法人に提出する。
④ 独立行政法人は、入札書に記載された入札価格が予定価格の制限の範囲内であった者のうち、提案書の得点に入札価格から算出した得点を加算したり、提案書の得点を入札価格で除したりするなどして総合評価点を算定して、総合評価点が最も高い者を落札者として決定する。
国においては、「公益法人等との随意契約の適正化について」(平成18年6月公共調達の適正化に関する関係省庁連絡会議)等を踏まえ、各府省において「随意契約見直し計画」を策定するなどして、随意契約の適正化に向けた取組が行われてきている。そして、入札及び契約の適正化を図るため、「公共調達の適正化について」(平成18年8月財計第2017号)において、研究開発、調査・研究、広報等の技術的要素等の評価を行うことが重要であるものについては、総合評価落札方式による一般競争入札を拡充することとされ、評価基準や実施要領の作成等円滑な実施に必要な措置を講じつつ、その導入に努めるものとされている。また、総合評価落札方式の実施に当たっては、発注者による提案の審査の透明性及び公正性の確保が重要であることから総合評価の結果の公表を徹底すること、評価方法の作成や落札者決定段階において、学識経験者等の第三者の意見を効率よく反映させるための方策を講ずるよう努めることとされている。
さらに、「調達改善の取組の強化について」(平成27年1月行政改革推進会議)において、各府省は、総合評価落札方式の実施に当たって、落札者の選定基準や選定手続を公正に定めるとともに、それらが手続にのっとって公正に実施されたことを示す透明性の高い開示の仕組みも必要であることから、公正性及び透明性の確保に留意した内規の整備等に取り組む必要があるとされている。
独立行政法人については、前記の国における取組を踏まえるなどして、「独立行政法人整理合理化計画の策定に係る基本方針」(平成19年8月閣議決定)に基づき、法人ごとに「随意契約見直し計画」を策定することとされたことから、各法人は、その中で、「総合評価方式の導入拡大」等の項目を設け、総合評価落札方式の導入拡大に向けた取組が行われてきている。
独立行政法人の契約等の状況について、会計検査院は、会計検査院法第30条の3の規定に基づき、20年11月及び21年9月に、「独立行政法人の業務、財務、入札、契約の状況に関する会計検査の結果について」を参議院に報告しており、独立行政法人の契約制度、契約全般における競争性の確保の状況、契約の適正化及び透明性の向上に向けた取組の状況等について記述している。そして、その中で、総合評価落札方式に係る会計規程、要領、マニュアル等の整備状況及び総合評価落札方式の導入状況に関する検査の結果を踏まえ、総合評価落札方式等、契約の適正性及び透明性の向上に効果があると認められる取組については、今後更なる導入を図るとともに、実施に当たっては、要領、マニュアル等の整備を行うことに留意する必要がある旨を記述している。総務省はこれを踏まえて「独立行政法人における契約の適正化について」(平成20年11月総務省行政管理局長事務連絡)を発出して、独立行政法人を所管する府省に対して、独立行政法人において、総合評価落札方式に関する規定について会計規程等に明確に定めること、総合評価落札方式を実施する場合は要領、マニュアル等の整備を行うことなどの具体的な措置を講ずるよう要請している。
また、「独立行政法人の契約状況の点検・見直しについて」(平成21年11月閣議決定)において、各独立行政法人に契約監視委員会を設置することとされ、計画的に独立行政法人の随意契約の見直しを行っていくため、主務大臣及び同委員会が契約の点検・見直しを行った上で、新たな随意契約等見直し計画を策定して、改善状況をフォローアップすることとされた。
そして、独立行政法人の組織・運営における自主性・自律性やインセンティブを最大限機能させ、国民向けサービスの質の向上、業務の成果の最大化を実現することなどを目的とした「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月閣議決定)に基づいて総務大臣が発出した「独立行政法人における調達等合理化の取組の推進について」(平成27年5月総務大臣決定)によれば、各法人は、透明性及び公正性を確保しつつ、自律的かつ継続的に調達等の合理化に取り組むことなどとされており、27年度以降は、各法人において「調達等合理化計画」が策定されるなどしている。
独立行政法人等が自ら実施する公共サービスについては、これを見直し、その実施に関して、透明かつ公正な競争の下で民間事業者の創意と工夫を適切に反映させることにより、より良質かつ低廉な公共サービスを実現することを目指して、18年7月に、「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(平成18年法律第51号。以下「公共サービス改革法」という。)が施行されている。
公共サービス改革法によれば、独立行政法人等の事務又は事業として行われる国民に対するサービスの提供その他の公共の利益の増進に資する業務(行政処分を除く。)のうち、①施設の設置、運営又は管理の業務、②研修の業務、③相談の業務、④調査又は研究の業務等であって、内閣府に設置(28年4月以降は総務省に設置)されている官民競争入札等監理委員会の議を経た上で閣議決定される公共サービス改革基本方針(注1)によって選定された公共サービス(以下「対象公共サービス」という。)を対象に、官民競争入札又は民間競争入札(以下、これらを合わせて「官民競争入札等」という。)を行うこととされている。
そして、各年度の公共サービス改革基本方針によれば、公共サービスの質の維持向上及び経費の削減が見込まれる場合には、既に民間委託が行われている業務であっても、透明かつ公正な競争の導入又は包括化(注2)、複数年化(注3)等の改善が必要と判断された場合には、公共サービス改革法に基づく官民競争入札等を実施することについて積極的に検討することとされている。
独立行政法人については、「独立行政法人整理合理化計画」(平成19年12月閣議決定)及び「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月閣議決定)において、公共サービス改革法に基づく官民競争入札等の積極的な導入を推進し、独立行政法人の提供するサービスの質の維持向上と経費削減を図ることとされている。
また、前記の「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」において、公共サービス改革基本方針(平成22年7月閣議決定)を受けて作成された「業務フロー・コスト分析に係る手引き」(平成24年4月官民競争入札等監理委員会策定)に示された手法等により、業務フローやコストの分析を行い、その結果に基づき、民間委託等を含めた自主的な業務改善を図ることとなっている。
公共サービス改革法によれば、独立行政法人の長等は、対象公共サービスごとに、公共サービス改革基本方針に従って、官民競争入札実施要項又は民間競争入札実施要項(以下、これらを合わせて「実施要項」という。)を定めることとされ、実施要項には、対象公共サービスの実施に当たり確保されるべき対象公共サービスの質に関する事項、対象公共サービスを実施する者を決定するための評価の基準等に関する事項、対象公共サービスに関する従来の実施状況に関する情報の開示に関する事項等を定めることとされている。
「官民競争入札及び民間競争入札の実施要項に関する指針」(平成18年9月官民競争入札等監理委員会決定。以下「実施要項に関する指針」という。)によれば、対象公共サービスの質は、民間事業者に要求する対象公共サービスの達成目標として定めるものであり、当該事業の政策目的を具体化するような客観的・定量的な指標によって表すことが望ましいとされ、その設定に当たっては、利用者にとっての利便性や、当該対象公共サービスが生み出す性能や成果をサービスの質と捉えることを基本とするなどとされている。そして、事業実施中のサービスの質の達成水準を計測するためのモニタリングの方法についても定めることとされている。
また、対象公共サービスに関する従来の実施状況について、より一層のサービスの質の維持向上及び経費の削減につながる提案を行うことを可能にするなどのために、従来の実施に要した経費(以下「従来経費」という。)、従来の実施に要した人員、従来の実施における目的の達成の程度等の情報を開示することとされている。そして、この内容を具体的に示した「実施要項における従来の実施状況に関する情報の開示に関する指針」(平成18年12月官民競争入札等監理委員会決定)によれば、従来経費として、人件費、物件費、委託費、退職給付費用、減価償却費等の各項目を直接部門費として開示するほか、間接部門費を併せて開示すること、業務の全部又は一部を委託により実施している場合の経費については、委託費の支払額を開示することなどとされている。
公共サービス改革法によれば、官民競争入札等の実施において、独立行政法人の長等は、民間事業者から提出を受けた対象公共サービスの具体的な実施体制及び実施方法並びに入札金額を記載した書類について、実施要項に定めた対象公共サービスを実施する者を決定するための評価の基準に従って評価を行い、対象公共サービスの質の維持向上及び経費の削減を実現する上で最も有利な申込みをした者を落札者として決定することとされている。そして、対象公共サービスに係る官民競争入札等における落札者決定方式には原則として総合評価落札方式が適用されている。
内閣総理大臣(28年4月以降は総務大臣)は、毎年度、公共サービス改革基本方針を見直すこととされており、必要が生じたときは、独立行政法人の長等と協議して同方針の変更の案を作成し、閣議の決定を求めなければならないとされている。そして、見直しに当たっては、対象公共サービスの実施期間の終了に合わせて対象公共サービスを継続させる必要性その他その業務の全般にわたる評価を行うこととされている。
各年度の公共サービス改革基本方針によれば、上記の評価は、対象公共サービスの確保されるべき質に係る目標を達成しているか、従来経費と対象公共サービスの実施に係る契約金額等(以下「実施経費」という。)を比較した場合、経費の削減の点で効果を上げているか、発注者側のモニタリング及び監督の状況は適切であったかなどについて、効率性、有効性、妥当性、必要性等の観点から行うこととされている。