国は、経済のぜい弱な部分に的を絞り、かつスピード感をもって対応を行うことで、経済の好循環を確かなものとすることなどを目指し、「しごとづくり」など地方が直面する構造的な課題への実効ある取組を通じて地方の活性化を促すことなどを重点として取りまとめられた「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」(平成26年12月閣議決定)に対応した事業を実施するために、地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金に必要な経費4200億円を平成26年度一般会計補正予算に計上している。そして、内閣府は、上記4200億円のうち1700億円を使用して、まち・ひと・しごと創生総合戦略(平成26年12月閣議決定)で示された地方の創生に向けて講ずるべき施策を先行的に実施するために、地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地方創生先行型)(以下「先行型交付金」という。)を交付している。
先行型交付金は、内閣府が定めた地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地方創生先行型)制度要綱(平成27年府地創第21号。以下「制度要綱」という。)、地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地方創生先行型)交付要綱(平成27年府地創第48号。以下「交付要綱」という。)等によれば、都道府県まち・ひと・しごと創生総合戦略又は市町村まち・ひと・しごと創生総合戦略の円滑な策定とこれに関する優良施策の実施を支援することを目的として、地方公共団体が作成した「地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地方創生先行型)実施計画」(以下「実施計画」という。)に基づく事業に要する費用について、地方公共団体が負担する経費の全部又は一部を国が交付するものとされている。
そして、交付要綱等によれば、先行型交付金の交付対象となる事業(以下「交付対象事業」という。)については、実施計画に基づき実施される地方単独事業であることなどとされている。また、前記の閣議決定された総合戦略において、人口減少の克服と地方創生を確実に実現するために国の支援がなくとも地域・地方の事業が継続する状況を目指すとしていることから、内閣府は、観光振興、研究開発等のいわゆるソフト事業によりノウハウや知見を蓄積することが中長期的に地方創生に資することになるとして、「地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地方創生先行型)について」(平成27年2月事務連絡。以下「事務連絡」という。)等により、建設地方債対象事業には交付金を充当しないこと、ソフト事業と合わせて実施することなどの条件を満たした施設整備事業は対象とすることなどと、施設整備事業等のハード事業を交付対象事業とする際の取扱いを定めていて、ソフト事業が含まれている必要があるとしている。
内閣府は、地方公共団体から交付金を充当する経費の内容等が記載された実施計画の提出を受け、これを審査し、審査の結果を踏まえて実施計画における交付対象経費の額に基づく地方公共団体への配分計画を策定しており、この配分計画に基づき、交付対象事業を実施する1,786地方公共団体(47都道府県、1,718市町村及び21特別区)に先行型交付金計1636億7229万余円(27年度末現在)を交付している。
また、交付要綱等において、地方公共団体は、交付金事業が完了したときは、交付金事業の成果を記載した実績報告書を、都道府県は直接、市町村(特別区を含む。)は都道府県を経由して内閣府に提出することとなっている。そして、当該実績報告書の提出を受けた内閣府等は、実績報告書等の審査を行うなどして、交付すべき先行型交付金の額を確定することとなっている。
交付要綱によれば、地方公共団体は、交付金事業を行う一部事務組合、広域連合及びその他事業者(以下「間接交付金事業者」という。)に先行型交付金を財源とする補助金等(以下「間接交付金」という。)を交付する場合(以下、このように実施する事業を「間接交付金事業」という。)、地方公共団体に実績報告書を提出する期限等の条件を付して間接交付金を交付することとされている。このため、通常、地方公共団体は間接交付金事業者に間接交付金を交付するための補助要綱を定めている。
また、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)等によれば、補助事業者等は、補助事業等が完了したときは、補助事業等の実績を報告しなければならないこととされている。そして、「「実績に基づいて補助金等を交付する場合における精算額の解釈について」の照会について」(昭和30年大蔵省主計局法規課長通知。以下「昭和30年通知」という。)によれば、補助事業等の内容が、間接補助事業者等に対して間接補助金等を交付する事業の場合は、単に間接補助事業等が完了し補助事業者等の支出義務額が確定したとしても、間接補助金等の交付がなければ補助事業等が完了したとはいえないとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、間接交付金事業は法令や制度要綱等に基づき適正に実施されているかなどに着眼して、27年度に18県(注1)及び280市町村において実施された先行型交付金事業3,738事業(事業費計566億7989万余円、先行型交付金交付額計465億4334万余円)を対象として、内閣府本府、18県及び280市町村において、実施計画、実績報告書等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、5県及び7市(注2)が間接交付金事業者に間接交付金を交付して事業を実施した交付金事業23事業(先行型交付金計13億3918万余円)について、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、内閣府は、ソフト事業によりノウハウや知見を蓄積することが中長期的に地方創生に資することになるとして、交付対象事業にはソフト事業が含まれている必要があるとしており、交付対象事業となるソフト事業は、この趣旨に沿ったものである必要があった。
一方、4県及び2市(注3)は、間接交付金の交付を受けて実施する事業の内容がソフト事業に当たるか否かの検討を十分に行わず、間接交付金を交付することはハード事業には当たらずソフト事業に当たると判断していた。
しかし、これらの間接交付金の交付を受けて実施された事業の内容をみると、ハード事業であってソフト事業でないものが見受けられ、これらの間接交付金の交付を受けて実施された事業を含む交付金事業計8事業(事業費計13億2942万余円、先行型交付金交付額計11億3393万余円)は、ソフト事業を含まない事業に対して先行型交付金を充当するものとなっていた。
そして、内閣府は、これらの交付金事業に係る実施計画の審査に当たり、実施計画に記載された交付対象事業にソフト事業が含まれていないことを十分に審査できておらず、これらの交付金事業を含めて配分計画を策定していた。
3県及び5市(注4)は、交付金事業19事業(事業費計13億8427万余円、先行型交付金交付額計13億0457万余円)について、単に間接交付金事業が完了して間接交付金事業者の支出義務額が確定しただけであって間接交付金計9億1055万余円の交付が完了していないのに、交付金事業が完了したとして、内閣府等に実績報告書を提出していた。そして、実績報告書の提出から間接交付金の交付の完了までの期間は、最大2か月程度となっていた。
上記の19事業について、間接交付金の交付が完了していないのに実績報告書が提出されていた理由を確認したところ、内閣府等において、実績報告書等の審査を行う際に間接交付金の交付が完了していることの確認を十分に行っていなかったこと、また、3県及び5市において、昭和30年通知を踏まえずに間接交付金事業者に間接交付金を交付するための補助要綱を定めていたことによるものであった。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
宮城県は、平成27年度に、内閣府から地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地方創生先行型)の交付を受けて、農業法人等に対して設備等の整備を助成し、地域の活性化に向けた中核となる拠点を整備するために、「みやぎの農業地域活性化拠点整備モデル事業」を事業費193,950,932円(交付対象事業費同額)で実施している。同事業において実施した地域拠点モデル組織整備事業は、16農業法人等に対して冷蔵保管施設等を整備するための補助金を交付するものであり、同県は、同府に28年3月に交付金事業が全て完了したとして実績報告書を提出して交付金193,950,932円の交付を受けていた。
しかし、同県が本件補助金について定めた補助要綱には、年度末までに同補助金の交付を完了させなければならないことについて明確に定められておらず、このため、同県が11農業法人等に対して補助金計136,089,000円を交付したのは、28年4月14日から5月26日までの間となっていた。
前記のように、間接交付金の交付が完了していないのに実績報告書が提出され、これに基づき先行型交付金の交付を受けている事態は、昭和30年通知の趣旨に反する取扱いとなっている。そして、このような取扱いをした場合、間接交付金が交付されないまま先行型交付金が地方公共団体に滞留したり、先行型交付金の交付後に交付金事業の内容が変化して先行型交付金の減額を必要とする事態が生じても、既に実績報告がなされていることからこれに速やかに対応できなくなり、返納されるべき先行型交付金の効率的な使用が妨げられるおそれがあったりすると認められた。
このように、間接交付金事業の実施に当たり、ソフト事業を含まない交付金事業に先行型交付金を充当するものとなっていた事態及び間接交付金の交付が完了していないのに実績報告書が提出されていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のようなことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、内閣府は、先行型交付金と同種の交付金である地方創生推進交付金による事業及び今後、同種の交付金の交付による事業を実施する際に、同様の事態が生ずることのないよう、29年10月に地方公共団体に事務連絡を発するなどして次のような処置を講じた。
ア 地方創生推進交付金の交付対象となる事業にソフト事業が含まれている必要があるとした趣旨を明確にして周知するとともに、同交付金の実施計画の審査を十分に行えるようマニュアルを作成するなどして審査体制を整備した。
イ 地方公共団体に対して、地方創生推進交付金において昭和30年通知が適用されることなどを周知するとともに、同交付金を財源とする補助金等を交付する事業の交付対象とする場合は、同交付金の実績報告書等の審査において、当該補助金等の交付が完了していることを確実に確認することとした。
ウ 今後、同種の交付金の交付による事業を実施する際には、上記のア及びイと同様の処置を講ずるよう、関係部局に対して周知した。