警察庁は、犯人を特定する捜査活動等に用いる目的でDNA型鑑定(以下「鑑定」という。)を行っており、鑑定による個人識別を行うために用いる抽出装置、定量装置、増幅装置等(以下、これらを合わせて「鑑定装置」という。)を調達の上、国の物品として警察法(昭和29年法律第162号)等に基づき都道府県警察に無償で使用させている。そして、都道府県警察は、警察庁から配分を受けた鑑定装置を各都道府県警察に置かれた科学捜査研究所(以下「科捜研」という。)に配備し、科捜研では、警察署等から鑑定の嘱託を受けて鑑定装置を用いて鑑定を行っている。
鑑定を行う対象物には、犯行現場、その他の場所に犯人が遺留したと認められる資料(以下「遺留資料」という。)と、被疑者等の口くう内等から採取した資料(以下「被疑者等資料」という。)等があり、遺留資料から判明したDNA型と被疑者等資料から判明したDNA型との突合が行われるなどしている。また、鑑定の工程は、①抽出工程(抽出装置を用いて多様な資料からDNAを抽出して精製する工程)、②定量工程(定量装置を用いて抽出及び精製されたDNA量を計測して一定のDNA量となるよう調整する工程)、③増幅工程(DNAを鑑定に足りる量まで増幅する工程)、④検出工程(電圧によりDNAを泳動させて検出する工程)及び⑤解析工程(データ解析コンピュータを用いて検出されたDNA型を解析する工程)となっている。
そして、遺留資料については、一般的に多種多様な状態の資料が存在することから、鑑定の各工程において、個々の資料ごとに抽出装置、定量装置等を用いて個別に処理を行う必要がある一方で、被疑者等資料のうち口くう内から採取した資料は一般的に均質であり、抽出工程及び定量工程において、多数の資料を一括して処理する機能を有する鑑定装置を用いて効率的に処理することが可能である。
警察庁においては、従来、鑑定装置を調達し、47都道府県警察に配分してきていたが、全国の科捜研で行われた鑑定数は平成19年には7万件であったものが、20年には12万件に増加するなどしており、その後において見込まれた鑑定数の更なる増加に対応する必要がある状況となっていたことを踏まえて、21年度に、科捜研における被疑者等の口くう内から採取した資料に対する鑑定に要する業務の負担を軽減することにより、遺留資料等について更に充実した鑑定が行えるよう、抽出装置及び定量装置に加えて、抽出工程に用いる分注機及び定量工程に用いる一括定量装置を調達している。分注機及び一括定量装置は、両装置とも最大で96資料を一括して処理する機能を有する鑑定装置である。
そして、警察庁は、21年度に、埼玉県警察には分注機及び一括定量装置各2台を、埼玉県警察を除く46都道府県警察には両装置各1台をそれぞれ配分している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性、有効性等の観点から、各都道府県警察に配分された鑑定装置のうち分注機及び一括定量装置は適切に管理され有効に活用されているかなどについて着眼して検査した。
検査に当たっては、21年度に47都道府県警察に配分された分注機計48台(取得価格相当額計4億1882万余円)及び一括定量装置計48台(取得価格相当額計2億5200万円)、合計96台(取得価格相当額合計6億7082万余円)のうち、26都道府県警察(注1)に係る分注機計27台(取得価格相当額計2億3558万余円)及び一括定量装置計27台(取得価格相当額計1億4175万円)、合計54台(取得価格相当額合計3億7733万余円)を対象として、26都道府県警察において配分後の使用状況を確認するとともに、警察庁において当該使用状況の確認状況を聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、7県警察(注2)に配分された分注機計7台(取得価格相当額計6107万余円)及び一括定量装置計7台(取得価格相当額計3675万円)、合計14台(取得価格相当額合計9782万余円)は、21年度の配分から会計実地検査時点(27年11月)までの間、鑑定に全く使用されていなかった。
そして、7県警察において分注機及び一括定量装置を鑑定に使用していなかった理由を確認するなどしたところ、鑑定数が少ないため両装置はいずれも使用の必要性に乏しく、抽出装置、定量装置等を用いて個別に処理を行っていたこと、分注機及び一括定量装置を管理するソフトウェアは、資料の取違え防止機能等の各種の機能を有するものとなっていて、使用の際には事件名、氏名等の各種の情報を初めに入力する必要があり、これが煩雑であることなどによるものであった。
しかし、警察庁は、本院による会計実地検査が実施されるまで、都道府県警察における分注機及び一括定量装置の使用状況を把握しておらず、使用されていない両装置の活用に向けた対応を執っていなかった。
このように、7県警察において分注機及び一括定量装置が21年度の配分後、鑑定に全く使用されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、7県警察において、配分を受けた分注機及び一括定量装置の使用に向けた検討が十分でなかったことにもよるが、警察庁において、都道府県警察に配分後の鑑定装置の使用状況を把握しておらず、使用が低調である場合の積極的な活用の促進に向けた検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、警察庁は、分注機及び一括定量装置の有効な活用に向けて、次のような処置を講じた。
ア 28年12月に、各都道府県警察に対して、操作性を改善した新ソフトウェアの導入希望等に関する調査を行い、鑑定に全く使用されていなかった7県警察の分注機及び一括定量装置のうち5県警察(注3)の両装置については、新ソフトウェアを導入した。さらに、29年7月に各都道府県警察に対して通達を発して、新ソフトウェアを導入した両装置を積極的に活用するよう指示した。また、2県警察(注4)の両装置については、鑑定数が少なく今後も使用の必要性に乏しいことなどから、29年7月以降順次、他県警察等に管理換を行うこととした。
イ 29年8月に、鑑定装置を活用するための管理要領を制定するなどして、各都道府県警察の科捜研に対して、鑑定装置の使用状況等について四半期ごとに所要の報告を行わせることなどにより、使用が低調である場合にその原因を把握して改善の方策を検討する態勢を整えた。