【改善の処置を要求したものの全文】
地域公共ネットワーク等強じん化事業費補助金及び無線システム普及支援事業費等補助金により防災を目的として通信設備等を整備する事業における設備機器等の耐震性の確保について
(平成29年10月24日付け 総務大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、東日本大震災の経験を踏まえるなどして策定された国土強靭化基本計画(平成26年6月閣議決定)等に基づき、地震等の大規模自然災害発生時において情報伝達の不備等による避難行動の遅れなどで多数の死傷者が発生することのないよう、情報提供手段の多様化等を推進している。
そして、貴省は、地方公共団体、放送事業者等の事業主体が防災を目的として実施する事業のうち、災害発生時の情報提供のための通信設備等を整備するなどの事業に対しては地域公共ネットワーク等強じん化事業費補助金を、防災行政無線等のデジタル化のための通信設備等を整備するなどの事業に対しては無線システム普及支援事業費等補助金を、それぞれ交付している。
両補助金の対象となる防災を目的として整備される通信設備等は、サーバ、無線装置、直流電源設備等の多様な設備機器で構成されており、複数の設備機器を収容架に収容するなどして設置されている(以下、設備機器と収容架を合わせて「設備機器等」という。)。
貴省は、補助金交付要綱等において、設備機器等の耐震性については明確に示していない。そして、設備機器等には、事業主体ごとの実情に応じた多様な形式、形状等のものがあることなどから、事業主体自らが、関係法令、補助金交付要綱等の趣旨を踏まえて、その耐震性を確保する必要性や設置工法等について検討した上で設置すべきとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、両補助金による補助事業の実施において、防災を目的として整備された通信設備等を構成する設備機器等は、地震時に機能を発揮できるよう適切に設置されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、18道府県(注1)に所在する68事業主体が平成24年度から27年度までの間に実施した78事業(事業費計87億2027万余円、補助対象事業費計73億6889万余円、国庫補助金交付額計33億8188万余円)を対象として、68事業主体において設計図書及び現地の状況を確認するとともに、貴省本省において補助事業の目的や整備された設備が地震時に機能を発揮する必要性について見解を聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省は、前記のとおり、設備機器等の耐震性については、補助金交付要綱等において明確に示していない。一方、前記の事業主体はいずれも、設備機器等の設置に当たっては、地震時に機能を発揮できるように耐震性を確保する必要があるとして、設置工事の請負契約の際にその設置工法等について請負会社等に検討させて、その検討結果に基づく設置工法等を承認するなどとしている。
しかし、請負会社等に対する指示については、事業主体により、特記仕様書等において耐震性を検討した耐震設計計算書の提出を求めるなど明確に指示しているものがある一方、口頭や簡易な打合せによって指示しているものがあるなど、その取扱いが区々となっている。
このため、請負会社等に対して耐震設計計算書の提出を求めておらず、耐震性を確保する設置工法等の検討が十分に行われたのか確認できなかったり、耐震設計に必要となる床のコンクリートの強度等を示しておらず耐震設計計算を行うことができなかったりなどしている事態が見受けられた。
そして、防災を目的として整備される通信設備等を構成する設備機器等は、地震時にも有効に機能するよう、耐震性を確保して設置される必要があることから、本院は、前記の68事業主体が78事業において建物の床に設置した設備機器等224基(注2)について、国、地方公共団体等が実施する設備機器等の設置工事における技術上の指針として広く使用されている「建築設備耐震設計・施工指針」(独立行政法人建築研究所監修)、「各種合成構造設計指針・同解説」(一般社団法人日本建築学会編集)等(以下「耐震設計指針等」という。)に示された計算方法に基づき耐震設計計算を行い、耐震性が確保されているか確認した。
その結果、設備機器等がアンカーボルト等で固定されていなかったり、アンカーボルトで固定されてはいたものの地震時にアンカーボルトに作用する引抜力(注3)が許容引抜力(注3)を上回っていたりなどしていて、耐震設計指針等に沿った所要の耐震性が確保されていないと認められるものが、15道府県の28事業主体が28事業において設置した設備機器等計57基(工事費相当額計5億1307万余円、国庫補助金相当額計2億4936万余円。表参照)において見受けられた。
表 耐震設計指針等に沿った所要の耐震性が確保されていない設備機器等に係る工事費相当額等
事業主体 | 対象事業 | 耐震性が確保されていない設備機器等 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
所在する道府県名 | 事業主体名 | 年度 | 事業名 | 設備機器等数 | 左に係る工事費相当額 | 左に係る国庫補助金相当額 |
北海道 | 士別市 | 平成27 | 周波数有効利用促進事業 | 2 | 9,669 | 4,834 |
新ひだか町 | 26 | 観光・防災Wi-Fiステーション整備事業 | 1 | 49,491 | 24,745 | |
小清水町 | 26 | 観光・防災Wi-Fiステーション整備事業 | 1 | 1,919 | 959 | |
青森県 | 中泊町 | 26 | 周波数有効利用促進事業 | 2 | 19,556 | 9,778 |
岩手県 | 北上ケーブルテレビ株式会社 | 24 | 地域ケーブルテレビネットワーク整備事業 | 5 | 11,004 | 3,668 |
福島県 | 只見町 | 25 | 地域公共ネットワーク整備事業 | 1 | 22,449 | 11,224 |
神奈川県 | 横浜エフエム放送株式会社 | 26 | 民放ラジオ難聴解消支援事業 | 1 | 30,000 | 20,000 |
株式会社ジェイコム小田原注(1) | 25 | 地域ケーブルテレビネットワーク整備事業 | 2 | 15,875 | 5,291 | |
石川県 | 輪島市 | 26 | 観光・防災Wi-Fiステーション整備事業 | 1 | 13,986 | 6,993 |
長野県 | 阿南町 | 27 | 周波数有効利用促進事業 | 4 | 29,473 | 14,736 |
阿智村 | 25 | 地域ケーブルテレビネットワーク整備事業 | 4 | 30,369 | 15,184 | |
株式会社インフォメーション・ネットワーク・コミュニティ | 24 | 地域ケーブルテレビネットワーク整備事業 | 1 | 3,021 | 1,007 | |
三重県 | 明和町 | 27 | 観光・防災Wi-Fiステーション整備事業 | 1 | 5,945 | 2,972 |
京都府 | 南丹市 | 26 | 観光・防災Wi-Fiステーション整備事業 | 3 | 1,908 | 954 |
京丹波町 | 27 | 周波数有効利用促進事業 | 1 | 3,337 | 1,668 | |
奈良県 | 宇陀市 | 27 | 周波数有効利用促進事業 | 2 | 20,443 | 10,221 |
岡山県 | 新庄村 | 25 | 防災情報ステーション等整備事業 | 1 | 2,695 | 1,347 |
東備消防組合 | 25 | 周波数有効利用促進事業 | 6 | 83,243 | 41,621 | |
広島県 | 安芸高田市 | 24 | 地域公共ネットワーク整備事業 | 2 | 3,577 | 1,788 |
株式会社中国放送 | 26 | 民放ラジオ難聴解消支援事業 | 5 | 57,335 | 28,667 | |
長崎県 | 五島市 | 26 | 観光・防災Wi-Fiステーション整備事業 | 1 | 10,077 | 5,038 |
大分県 | 大分県 | 24 | 地域公共ネットワーク整備事業 | 1 | 6,726 | 3,363 |
臼杵市 | 24 | 地域ケーブルテレビネットワーク整備事業 | 1 | 2,887 | 1,443 | |
宇佐市 | 24 | 地域公共ネットワーク整備事業 | 2 | 2,764 | 1,382 | |
由布市 | 26 | 民放ラジオ難聴解消支援事業 | 1 | 4,990 | 2,495 | |
株式会社大分放送 | 27 | 民放ラジオ難聴解消支援事業 | 1 | 27,217 | 13,608 | |
宮崎県 | 株式会社宮崎放送 | 27 | 地上基幹放送ネットワーク整備事業 | 1 | 17,887 | 5,962 |
株式会社ケーブルメディアワイワイ | 24 | 地域ケーブルテレビネットワーク整備事業 | 3 | 25,217 | 8,405 | |
計 | 28事業主体 | 24~27 | 28事業 | 57 | 513,075 | 249,369 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
長野県下伊那郡阿智村は、平成26年度に、地域公共ネットワーク等強じん化事業費補助金により、既存のケーブルテレビネットワークの通信状況の監視制御機能を強化するために、同村の振興室局舎等の床にアンカーボルトで固定されている既設の収容架5基に光送信機、監視装置等を収容して設置するなどの設置工事を工事費3042万余円(国庫補助金交付額1521万余円)で実施している。
同村は、設置工事の実施に当たり、耐震性を確保する必要があるとしていたものの、既存の収容架を用いることなどから、請負会社に対して、耐震性を確保する設置工法等を検討することを指示しておらず、請負会社に十分検討させないまま設備機器等を設置していた。そこで、耐震設計指針等に基づき耐震設計計算を行ったところ、設備機器等4基(工事費相当額計3036万余円、国庫補助金相当額計1518万余円)について、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力は1.53kN/本から4.15kN/本となり、いずれも使用されたアンカーボルトの許容引抜力0.75kN/本を上回っていて、耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
(改善を必要とする事態)
設備機器等の設置に当たり、耐震性を確保する設置工法等について請負会社等に十分検討させないまま設置工事を実施したことにより、事業主体が必要としている設備機器等の耐震性が確保されていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、設備機器等の耐震性を確保するための検討を行う方法等を事業主体に対して明確に示していないことなどによると認められる。
国土強靭化基本計画等に基づく大規模地震等の自然災害の発生に備えた取組として、防災を目的とした通信設備等の整備等の事業は、引き続き実施されることが見込まれている。
ついては、貴省において、事業主体に対して、防災を目的として整備する通信設備等を構成する設備機器等の耐震性を確保するための検討事例や耐震設計上の留意点等を示すなどして、事業主体にこれらに基づくなどして耐震性を確保するための検討を行わせるよう改善の処置を要求する。