総務省は、無線局の運用を妨害したり、放送の受信に障害を与えたりする不法無線局等を探査することを目的として、電波監視システムを整備している。同システムは、電波を受信して発射源の方位等を測定する設備を備えたセンサ局と、センサ局で受信した電波の発射源の位置を特定する設備を備えたセンタ局とで構成されており、センサ局は主要都市及びその周辺の鉄塔やビルの屋上等に、センタ局は全国11総合通信局等の庁舎内に、それぞれ設置されている。
そして、総務省は、人命又は財産の保護、治安の維持等に係る無線通信(以下「重要無線通信」という。)に対する妨害等が発生した場合に備え、電波監視システム等により迅速に電波の発射源の特定に努めるなどの監視体制を常時維持している。
大規模災害発生時においては、被災地域を中心に消防、警察、自衛隊等により人命に関わる緊急対応で重要無線通信が多用されることになる。そのため、各総合通信局等は、防災基本計画(昭和38年6月中央防災会議策定)等に基づき策定した業務継続計画において、非常事態発生時における重要無線通信への妨害に対処する業務を適切に遂行できるよう、電波監視システムの災害対策に必要な措置を講じておくことなどを定めている。また、震災時の重要無線通信への妨害に対処する方策を定めたマニュアルを作成している。
総務省は、平成23年3月に発生した東日本大震災の際にセンサ局17基が使用不能となったことを踏まえて、センサ局に障害が生じた場合の代替として活用するなどのために、総合通信局の職員が自ら搬送及び開設・撤収を容易に行えるように軽量化された小型可搬型多機能センサを、23年度以降、首都直下、東海、東南海、南海各地震等による被害が想定される地域を管轄する各総合通信局に配備することとしている。そして、総務省は、28年度末時点で、関東、東海、近畿各総合通信局に2台ずつ、信越、中国、四国、九州各総合通信局に1台ずつ計10台を配備している(以下、これらの総合通信局を合わせて「7総合通信局」という。)。
九州総合通信局は、配備された小型可搬型多機能センサを、固定するための特段の措置を講ずることなく扉等のないスチールラックに収納していたことから、28年4月に発生した熊本地震の際に、小型可搬型多機能センサが地震の振動によって棚から落下して、正常に作動するかどうかの確認ができない状態となった。このため、同局管内のセンサ局5基が地震の振動、停電等により使用不能となったにもかかわらず、同局は、小型可搬型多機能センサを活用することができない状態となった(以下、熊本地震発生時の九州総合通信局における上記の事態を「熊本地震における事態」という。)。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、熊本地震における事態を踏まえて、小型可搬型多機能センサは適切に保管されているか、震災時に活用するための方策は講じられているかなどに着眼して、7総合通信局に配備された計10台の小型可搬型多機能センサ(29年3月末現在の物品管理簿価格計4億5160万余円)を対象として検査した。
検査に当たっては、小型可搬型多機能センサを調達した総務本省において契約書等の関係書類を確認するなどするとともに、7総合通信局において小型可搬型多機能センサの保管状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
4総合通信局(注) 小型可搬型多機能センサ計7台の物品管理簿価格計3億2254万余円
九州総合通信局は、熊本地震における事態について総務本省に報告するとともに、再発防止のために、小型可搬型多機能センサを収納しているスチールラックの全段に落下防止ベルトを取り付けるなどの落下防止措置等を自主的に講じていた。一方、総務本省は、熊本地震における事態の報告の後も、他の総合通信局における小型可搬型多機能センサの保管状況を調査しておらず、また、保管方法について落下防止措置等の基準を定めるなどの対策を執っていなかった。
そこで、各総合通信局における小型可搬型多機能センサの保管状況をみたところ、東海、近畿、四国各総合通信局は、小型可搬型多機能センサを収納しているスチールラックに落下防止措置等を講じておらず、これらの小型可搬型多機能センサ計5台(物品管理簿価格計2億2066万余円)は、地震の振動によって棚から落下したり、壁等に衝突したりするおそれがある状態となっていた。
また、関東総合通信局は、スチールラックに落下防止措置を講じていたものの、最下段の棚には収納物を固定するための措置を講じておらず、小型可搬型多機能センサ2台(物品管理簿価格計1億0188万余円)のうち最下段の棚に保管していた受信部、制御処理部等は、地震の振動によって棚から飛び出して壁等に衝突するおそれがある状態となっていた。
7総合通信局 小型可搬型多機能センサ計10台の物品管理簿価格計4億5160万余円
7総合通信局は、前記の業務継続計画において電波監視システムの災害対策に必要な措置を講じておくことなどを定めるとともに、震災時にセンタ局及びセンサ局の動作状況を確認して報告する方策についてはマニュアルを作成していた。
しかし、小型可搬型多機能センサは、震災時等の電波監視業務のために、総合通信局の職員が自ら搬送及び開設・撤収を容易に行えるように軽量化された初めての電波監視用機器であることから、総務本省は、小型可搬型多機能センサを調達して各総合通信局に配備するに当たっては、これを活用するための方策を定めて、各総合通信局に周知しておく必要があったのに、これを行っていなかった。そして、7総合通信局は、震災時にセンサ局に障害が生じた場合の代替として活用するためには平時から設置場所の確保に向けた関係機関との連携、準備等を行ったり、多くのセンサ局に障害が生じて台数が不足した場合に他の総合通信局から迅速に貸与を受けられるように各総合通信局の配備状況等の情報を共有したりするなどの方策を講じておく必要があるが、これらの方策を講じていなかった。このため、小型可搬型多機能センサ計10台(物品管理簿価格計4億5160万余円)を震災時に活用することができないおそれがある状態となっていた。
このように、4総合通信局において適切な落下防止措置等が講じられていなかったり、7総合通信局において震災時に活用するための方策を講じていなかったりしていて、小型可搬型多機能センサを震災時に活用することができないおそれがある状態となっている事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、総務本省において、小型可搬型多機能センサの保管方法について各総合通信局に対する指導を行っていなかったこと、小型可搬型多機能センサを震災時に活用するための方策を定めていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、総務本省は、29年9月に各総合通信局等に対して通達等を発して、小型可搬型多機能センサを震災時に活用することができるよう、次のような処置を講じた。
ア 小型可搬型多機能センサ等の保管方法についての基準を定めてその内容を通知するなどして、落下防止策等を講ずるよう指導した。
イ 小型可搬型多機能センサ等を震災時に活用するための方策を定めたマニュアルを作成して周知した。