【意見を表示したものの全文】
政府開発援助の効果の発現について
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。
そして、外務省は、援助政策の企画立案や政策全体の調整等を行っている一方、独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、開発途上にある海外の地域(以下「開発途上地域」という。)に対する技術協力の実施、有償及び無償の資金供与による協力の実施等を行っている。このほか、各府省庁がそれぞれの所掌に係る国際協力として技術協力を実施するなどしている。
無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、返済の義務を課さないで資金を贈与することにより行われるものである。無償資金協力は、平成20年9月までは外務省が実施し機構がその一部の実施の促進に必要な業務を行っていたが、同年10月以降は、外務省が実施する一部の無償資金協力を除き、機構が実施することとなっている。そして、外務省が実施する無償資金協力のうち、草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下「草の根無償」という。)は比較的小規模なプロジェクトに対して、在外公館が資金を贈与するものである。
技術協力は、開発途上地域からの技術研修員に対する技術の研修、開発途上地域に対する技術協力のための人員の派遣、機材の供与等を行うもので、機構や各府省庁が実施することとなっている。
有償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、資金供与の条件が開発途上地域にとって重い負担にならないように金利、償還期間等について緩やかな条件が付されている資金を供与することなどにより行われるもので、機構(11年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行。11年9月30日以前は海外経済協力基金)が実施することとなっている。
28年度におけるこれらの実績は、外務省及び機構が実施した無償資金協力1729億9813万余円、機構が実施した技術協力907億9960万余円及び有償資金協力9046億3132万余円となっている。
(検査及び現地調査の観点及び着眼点)
本院は、外務省又は機構が実施する無償資金協力、技術協力及び有償資金協力(以下、これらを合わせて「援助」という。)を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び現地調査を実施した。
① 外務省及び機構は、事前の調査、審査等において、援助の対象となる事業が、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、交換公文、借款契約等に則して援助を実施しているか、さらに、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。
② 相手国等において、援助の対象となった施設、機材等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国等によって順調に運営されているか、さらに、援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、は行等が生じないよう調整されているか。
(検査及び現地調査の対象及び方法)
本院は、外務本省及び機構本部において援助対象事業について協力準備調査報告書等を確認したり、説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行うとともに、在外公館及び機構の在外事務所において事業の実施状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
さらに、本院は、援助の効果が十分に発現しているかなどを確認するために、29年次に12か国(注)において、無償資金協力82事業(贈与額計312億7336万余円)、技術協力42事業(経費累計額59億5537万余円)、有償資金協力15事業(貸付実行累計額3408億9227万余円)、計139事業を対象として、外務省又は機構の職員の立会いの下に相手国等の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況を確認したりして現地調査を実施するなどした。また、相手国等の保有している資料で調査上必要なものがある場合は、外務省又は機構を通じて入手した。
(検査及び現地調査の結果)
検査及び現地調査を実施したところ、無償資金協力2事業(贈与額計2613万余円)については援助の効果が全く発現しておらず、また、無償資金協力1事業(贈与額847万余円)及び有償資金協力1事業(貸付実行累計額314億6768万余円)については援助の効果が十分に発現していなかった。
この事業は、マラウイ共和国のリロングウェ市郊外のビウィ地区において、住民が恒常的に無料の保健医療サービスを受けられるようにするために、公立無料診療所(以下「診療所」という。)を建設等するものである。
在マラウイ日本国大使館(以下「マラウイ大使館」という。)は、事業実施機関であるリロングウェ市との間で24年12月に贈与契約を締結して、25年1月に診療所の建設等を行うための資金として174,898米ドル(邦貨換算額1416万余円)を贈与している。
検査及び現地調査を実施したところ、診療所の建物は、25年5月の工事開始から2年10か月以上が経過した28年3月に正面玄関の柱が倒壊するなどして、建設工事は中断されたままとなっていて、贈与契約締結後4年を経過した現地調査実施時(29年5月)において、診療所の建設が完了していなかった。
同市がマラウイ大使館に提出した事業の中間報告書等によると、同市は、上記のように、建物が損壊して安全性が懸念されたことから、28年3月に第三者の評価機関であるマラウイ技術研究所に建物の簡易評価を依頼していた。そして、同研究所が同年4月に同市に提出した報告書によると、診療所の建物が損壊した原因は、建設業者の粗雑な工事によるほか、同市による適切でない設計、粗雑な工事を看過した同市の施工管理の欠如等にあるとされていた。さらに、同市は、同研究所の勧告に基づいて、29年2月にコンサルタント会社の技術者による詳細な構造評価を依頼するなどしていた。
マラウイ大使館は、事業計画策定時に、同市から診療所の設計図等の提出を受けて、診療所の建物の設計等に関する計画や同市の施工管理等の体制を確認したとしていた。
しかし、同市においては、公共の建物の設計及び施工管理は本来同市の建物検査部が担当することになっている一方で、この事業では、建物の設計を専門としない土木局に属する土木工事技術者に実施させていた。マラウイ大使館は、このことについて十分に把握していなかった。
この事業は、マラウイ共和国のドーワ県ドゥズール地区に所在するシンタラ村とングンダ村の間を雨季にのみ流れ洪水が多発するミティティ川において、同河川周辺で生活する住民が、雨季においても両村間で往来できるようにして、教育、医療、流通等の社会、経済サービスを恒常的に受けられるようにするために、橋りょうを建設するものである。
マラウイ大使館は、事業実施機関であるドーワ県との間で26年10月に贈与契約を締結して、27年3月に橋りょうを建設するための資金として71,245米ドル(邦貨換算額691万余円)を贈与している。また、マラウイ大使館は、同年11月に、上記の当初事業で既に工事に着手していた橋りょうの橋長を延長する必要が生じたとして、同県から追加事業の申請を受けて、28年2月、46,007米ドル(邦貨換算額506万余円)を更に贈与している。
そして、事業実施機関は、この事業の実施に当たって、橋台2基、橋脚6基等を築造するなどして、新たな橋りょうを建設することとしていた。
マラウイ大使館において検査したところ、事業実施機関は、27年1月の大雨によって同河川の川幅が当初設計よりも広がったため、同年4月にマラウイ大使館に橋りょうの建設計画の変更を申請し、当初事業の中で橋長を当初の32mから39mに延長する工事を行っていた。また、事業実施機関は、同年8月に再度、現場でのモニタリング調査を実施した結果、今後更に川幅が広がった場合に川岸に設置した管渠(きょ)が流失するおそれのあることが判明したことから、前記のとおり、同年11月に追加事業の申請を行い、橋長を39mから56mに延長する追加事業を実施していた。
そして、その後、橋りょうは29年1月におおむね完成状態となったが、同年2月に発生した濁流によって橋台及び橋脚の周辺の土壌が洗掘されたことから、橋台1基及び橋脚1基が崩壊し、橋桁が落下していた。
上記の橋りょうは、橋りょうの建設計画により過去に橋りょうの橋桁等が流失していた場所に建設されており、マラウイ大使館は、事業計画策定時に、事業実施機関から申請を受けた橋りょうの建設計画において、橋りょうの諸元、建設場所等を確認したとしていた。
しかし、マラウイ大使館は、橋りょうの建設場所が過去に橋りょうの橋桁等が流失した場所であることを建設計画により把握していたのに、当初の事業計画策定時に、橋りょうの建設場所等に関する建設計画の検証を十分に行っていなかった。
この事業は、ブラジル連邦共和国(以下「ブラジル」という。)の連邦区プラナウチーナ地区において、雇用の促進や収入の増加に貢献するよう若者や女性に対して飲食サービス業へ就労するための職業訓練を行うことを目的として、職業訓練施設(れんが造平屋建て)を新たに建設するとともに、コンロ、オーブン、冷凍庫等の調理用機材等を整備するものである(以下、この事業により整備された職業訓練施設、調理用機材等を「職業訓練施設等」という。)。
在ブラジル日本国大使館(以下「ブラジル大使館」という。)は、事業実施機関であるキリスト・ファミリー協会との間で23年3月に贈与契約を締結して、同月に職業訓練施設等の整備を行うための資金として90,112米ドル(邦貨換算額847万余円)を贈与している。
そして、事業実施機関は、事業計画において、若者や女性が職業訓練施設等を利用して飲食サービス業へ就労するための職業訓練を毎週5日間行うこととし、職業訓練の教員として近隣のレストランの調理師等によるボランティアの支援を得ることとしていた。
また、草の根無償については、草の根・人間の安全保障無償資金協力ガイドラインによると、在外公館が原則として事業完了から2年後にフォローアップ調査として現地視察を行い、その時点における現況を確認した上で、その現況を事業実施機関と共有し、有効に事業を継続させることが有用であるとされている。
ブラジル大使館において検査したところ、職業訓練施設等の整備は24年2月に完了しており、ブラジル大使館は26年2月及び3月にフォローアップ調査を行っていた。その調査報告書によると、職業訓練の実施に当たり、ボランティアの支援を得ることができなかったり、光熱費等の施設維持費、食材費等の事業運営に要する資金を確保できなかったりしたことなどから、事業が完了してからフォローアップ調査までの2年間において、職業訓練施設等が職業訓練のために使用された実績は2回のみとなっていた。
そして、その後、ブラジル大使館は、職業訓練施設等の使用状況を確認するための調査(以下「確認調査」という。)を26年5月に1回行い、その際に、職業訓練施設等が職業訓練のために使用されていないことから、事業実施機関に対して職業訓練のために使用するよう働きかけを行ったとしていた。
しかし、ブラジル大使館は、上記の確認調査後から会計実地検査の直前の29年3月まで再度の確認調査や目的に沿って使用するようにとの働きかけを行っていなかった。そして、同月にブラジル大使館が確認調査を行ったところ、職業訓練施設等は、同地区の生活困窮者に対して提供する食事を調理する目的で月4回程度使用されているのみで、事業の目的である職業訓練のためには全く使用されていない状態になっていた。
この事業は、ブラジルのリオデジャネイロ州において、下水処理施設が十分に整備されておらず、同州のグアナバラ湾に家庭からの生活排水(以下「汚水」という。)が未処理状態で流入しており水質汚濁の原因の一つとなっていることから、住民の衛生環境の改善及び同湾へ流入する汚濁物質の削減を目的として、同湾流域の西部地域に下水処理施設を建設するものである。
機構は、外務省がブラジル政府との間で5年3月に取り交わした交換公文に基づき、同州政府との間で6年3月に314億7500万円を貸付限度額とする貸付契約を締結し、下水処理施設を建設するための資金として8年度から18年度までの間に計314億6768万余円を貸し付けている。
そして、事業実施機関である同州の上下水道公社は、グアナバラ湾流域の4地区(アレグリア、パブナ、サラプイ、ペーニャ各地区)において、アレグリア、パブナ、サラプイ各下水処理場(以下、これらを合わせて「3下水処理場」という。)の建設及びペーニャ下水処理場(以下、3下水処理場と合わせて「4下水処理場」という。)での遠心脱水機の整備を、有償資金協力により行い、また、3下水処理場に接続する幹線管渠、下水管網等(以下「幹線管渠等」という。)の整備を、有償資金協力及び同州政府の負担により行っている。一方、ペーニャ地区においては、既存の幹線管渠等を引き続き使用しており、当該事業では、新たな幹線管渠等の整備を行っていない。
検査及び現地調査を実施したところ、有償資金協力で整備した3下水処理場の建設については、13年から21年までの間にそれぞれ完了していた。一方、事業実施機関は、3下水処理場に接続する幹線管渠等の整備については、10年までに完了させることとしていたが、表1のとおり、現地調査実施時(29年4月)においても完了していなかった。
表1 アレグリア地区他2地区の幹線管渠等の整備状況
地区 | 計画 (A) |
29年4月までの 実績(B) |
進捗率 (B/A) |
---|---|---|---|
アレグリア | 23.1 | 16.9 | 73.1 |
パブナ | 404.5 | 194.7 | 48.1 |
サラプイ | 302.2 | 227.9 | 75.4 |
計 | 729.8 | 439.5 | 60.2 |
また、ペーニャ下水処理場の遠心脱水機の整備については、13年に完了していたが、同下水処理場の他施設の老朽化により流入する汚水全ての処理が行えないことから、流入量を制限して他の下水処理場に汚水を回して処理していた。
これらのため、表2のとおり、28年の各下水処理場で処理した汚水の量(以下「処理量」という。)が各地区で発生する汚水の量を考慮して決定された処理能力量を大幅に下回っており、各下水処理場の処理能力量に対する28年の処理量の割合(以下「稼働率」という。)は平均25.7%となっていた。
表2 4下水処理場における汚水の処理状況
下水処理場 | 処理能力量 (A) |
28年の処理量(平均) (B) |
稼働率 (B/A) |
---|---|---|---|
アレグリア | 5,000 | 1,307 | 26.1 |
パブナ | 1,500 | 233 | 15.5 |
サラプイ | 1,500 | 327 | 21.8 |
ペーニャ | 1,600 | 605 | 37.8 |
計 | 9,600 | 2,472 | 25.7 |
そして、各下水処理場の処理能力量の一部に当たる汚水しか処理されていないことにより、未処理の汚水が引き続きグアナバラ湾へ流入していると推測され、住民の衛生環境の改善及び同湾へ流入する汚濁物質の削減効果が十分でない状況となっていた。
さらに、アレグリア下水処理場においては、表3のとおり21年1月の完成から現地調査実施時までの8年以上にわたり一度も使用されていない施設が見受けられた。また、アレグリア下水処理場及びペーニャ下水処理場においては、有償資金協力で整備されていた施設の一部について、経年劣化等により故障したのに、汚水の流入量を考慮すると同じ処理場内の他の施設で下水処理を行うことができるとして修理されずに使用されていなかった(表3参照)(以下、これらの使用されていない施設を合わせて「遊休施設」という。)。
表3 有償資金協力で整備した下水処理場の施設のうちの遊休施設
下水処理場 | 8年以上一度も使用されていない施設 | 故障したのに修理されずに使用されていない施設 |
---|---|---|
アレグリア | エアレーションタンク4基 沈殿槽4基 コンプレッサー2台 |
沈砂池2池 最初沈澱池3池 細目スクリーン1基 |
ペーニャ | ― | 遠心脱水機 2台 |
遊休施設については、今後、汚水の流入量が増加した場合等に使用するためには、点検又は修理が必要な状態となっており、機構は、遊休施設の維持管理を適切に行うことについて、事業実施機関と十分に協議・検討を行う必要があった。
機構は、4下水処理場が完成した直後の22年時点においては、稼働率の低迷等について、9年頃に発生した経済危機に端を発する同州政府における財政の資金不足により幹線管渠等の整備が遅れたためであるとしており、同州政府がブラジル政府等から資金を借り入れることなどにより、事業実施機関が、28年に同州で行われるオリンピックの開催に向けて、26年末までに幹線管渠等の整備を完了させる予定であることを確認しているとしていた。
しかし、同州政府は、金融機関からの融資を得ていたが、その後の同州政府の財政悪化のため、29年4月の現地調査実施時では金融機関からの融資が中断されていて、幹線管渠等の整備は滞っていた。
これに対して、機構は、事業実施機関と協議・検討を行い、同州政府に対する金融機関による融資の状況の把握や金融機関に対して同州政府と調整を行うよう申入れを行ったなどとしているものの、引き続き事業実施機関と資金確保に向けて協議・検討を行う必要があった。
そして、機構が確認しているとした同州政府による幹線管渠等の整備の完了予定である26年から2年以上が経過した現地調査実施時においても、前記のとおり事業は完了していなかった。
(改善を必要とする事態)
援助の効果が全く発現していない事態及び援助の効果が十分に発現していない事態は適切ではなく、外務省及び機構において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
援助の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。