12件 不当と認める国庫補助金 580,006,000円
学校施設環境改善交付金(以下「交付金」という。)は、「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律」(昭和33年法律第81号。以下「国庫負担法」という。)等に基づき、地方公共団体が作成する公立の義務教育諸学校等の施設の整備に関する施設整備計画によって実施される施設整備事業に要する経費に充てるために、国が地方公共団体に対して交付するものである。
交付金の交付額は、学校施設環境改善交付金交付要綱(平成23年文部科学大臣裁定。以下「交付要綱」という。)等によれば、当該地方公共団体の施設整備計画に記載された事業のうち、算定の対象となる事業(以下「交付対象事業」という。)ごとに文部科学大臣が定める方法により算出した配分基礎額に交付対象事業の種別に応じて同大臣が定める割合(以下「算定割合」という。)を乗ずるなどして得た額の合計額と、交付対象事業に要する経費の額(以下「交付対象工事費」という。)に算定割合を乗じて得た額の合計額のうち、いずれか少ない額を基礎として算定することとされている。このうち、配分基礎額については、配分基礎額を算定する際の基礎となる面積(以下「配分基礎面積」という。)を算定して、これに交付対象事業の種別に応じて定められた単価を乗ずるなどの方法により算定することとされている。
交付要綱等によれば、交付対象事業のうち、小学校、中学校、幼稚園等の建物で構造上危険な状態にあるもの(危険建物)の改築事業(以下「危険改築事業」という。)及び教育を行うのに著しく不適当な小学校、中学校、幼稚園等の建物で特別の事情のあるもの(不適格建物)の改築事業(以下「不適格改築事業」という。)については、改築を行う年度の5月1日(以下「基準日」という。)における当該学校の学級数等に応ずる必要面積と、基準日における保有面積のうちいずれか少ない面積から、基準日における保有面積のうち、危険でない又は教育を行うのに著しく不適当でない部分の面積を控除して国庫補助を受ける資格のある面積(以下「資格面積」という。)を算定することとされている(次式参照)。
また、幼稚園の園舎の新増築事業(以下「幼稚園新増築事業」という。)については、新築又は増築後の当該幼稚園の予定学級数に応ずる必要面積から新築又は増築を行う年度の5月1日における保有面積を控除して資格面積を算定することとされている。
そして、上記の危険改築事業等3事業は、その資格面積を配分基礎面積とすることとされており、また、危険改築事業等3事業以外の交付対象事業は、それぞれの事業ごとに文部科学大臣が必要と認める面積等を配分基礎面積とすることとされている。
本院が、24都道県及び237市区町村、計261地方公共団体において会計実地検査を行ったところ、8都県の12市区町において、資格面積等の算定に当たり、交付要綱等に基づく算定式を適用していなかったなどしていたり、必要面積を算定する際に学級数の算定を誤っていたり、建物の構造による補正を行っていなかったりなどしていたため、配分基礎額及び交付対象工事費が過大に算定されており、交付金計580,006,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、12市区町において交付金の交付額の算定方法についての理解が十分でなかったこと、8都県において12市区町から提出された実績報告書等に対する審査及び確認が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、態様別に示すと次のとおりである。
4県の4市町において、危険改築事業、不適格改築事業及び幼稚園新増築事業の実施に当たり、交付要綱等に基づく算定式を適用せずに校舎の改築後の面積や屋内運動場の必要面積を資格面積としていたり、交付要綱等に基づく算定式の適用を誤り必要面積から保有面積とは異なる面積を控除していたりなどしていたため、資格面積が過大に算定されていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
青森県上北郡野辺地町は、平成24、25、27各年度に、若葉小学校校舎の不適格改築事業等を実施し、交付金計914,259,000円の交付を受けていた。
同町は、同校校舎が不適格改築事業の対象となるとした上で、改築後の校舎(渡り廊下棟)の面積に相当する49m2を資格面積としていた。
しかし、同町は、基準日における学級数に応ずる必要面積と保有面積のうちいずれか少ない面積から、教育を行うのに著しく不適当でない部分の面積を控除して資格面積を算定していなかった。
そこで、交付要綱等に基づく算定式を適用して資格面積を算定すると、学級数に応ずる必要面積より教育を行うのに著しく不適当でない部分の面積が大きくなるため、資格面積は生じないことになり、同校校舎は不適格改築事業の対象とはならないことになる。
したがって、同校校舎の不適格改築事業を交付対象から除外するなどして交付金の交付額を算定すると計826,470,000円となることから、交付金計87,789,000円(注)が過大に交付されていた。
国庫負担法等によれば、必要面積の算定に用いる学級数は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号)に規定する学級編制の標準により算定した学級の数(以下「標準学級数」という。)とすることとされている。
また、「公立学校施設費国庫負担金等に関する関係法令等の運用細目」(平成18年文部科学大臣裁定)によれば、不適格改築事業のうち全面改築の対象となる建物については、校地の有効利用等の教育条件の改善を図るために全面改築を行わなければならない建物で危険改築事業等の総資格面積が必要面積の50%以上を満たすことなどとされている。
3都県の4市区町において、危険改築事業及び不適格改築事業の実施に当たり、基準日における学級数ではなく改築を行うより前の年度の5月1日における学級数を用いて必要面積を算定していたり、標準学級数ではなく実際の学級数を用いて必要面積を算定していたりなどしていたため、資格面積が過大に算定されていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
長野県北佐久郡軽井沢町は、平成26、27両年度に、軽井沢中学校校舎の危険改築事業、不適格改築事業等を実施し、交付金計500,394,000円の交付を受けていた。
同町は、同校校舎の必要面積を7,052m2と算定し、危険改築事業の資格面積を3,564m2としていた。そして、当該資格面積が必要面積の50%(3,526m2)以上となることから同校校舎は不適格改築事業の対象となるとして、必要面積7,052m2から危険改築事業の資格面積3,564m2を控除して得た3,488m2を不適格改築事業の資格面積としていた。
しかし、同町は、危険改築事業の資格面積の算定に当たり、改築を行う前々年度の5月1日における実際の学級数を用いて必要面積を算定していた。
そこで、基準日における標準学級数を用いて必要面積を算定すると6,464m2となり、これを用いるなどして危険改築事業の資格面積を算定すると3,176m2となる。そして、当該資格面積が必要面積の50%(3,232m2)以上とならないことから、同校校舎は不適格改築事業の対象とならないことになる。
したがって、危険改築事業の資格面積を3,176m2に修正し、不適格改築事業を交付対象から除外するなどして交付金の交付額を算定すると計272,463,000円となることから、交付金計227,931,000円(注)が過大に交付されていた。
国庫負担法によれば、鉄筋コンクリート造以外の構造の建物に関しては、工事費を算定する場合の保有面積又は1m2当たりの建築の単価に乗ずべき面積について、政令で定めるところにより補正を行うこととされている。
そして、「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律施行令」(昭和33年政令第189号)等によれば、危険改築事業、不適格改築事業等により校舎等の整備を行う場合、建物の構造による補正として、1m2当たりの建築の単価に乗ずべき面積(新たに整備する校舎等の資格面積)のうち鉄筋コンクリート造以外の構造の校舎等に充てようとする部分の面積について、これを1.02で除して資格面積を補正することなどとされている。
3県の3市において、危険改築事業、不適格改築事業及び幼稚園新増築事業の実施に当たり、新たに整備する校舎等は鉄筋コンクリート造以外の校舎等であったのに、建物の構造による補正を行っていなかったため、資格面積が過大に算定されていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例3>
山形県鶴岡市は、平成26年度に、朝日中学校校舎の危険改築II期事業等を実施し、交付金286,122,000円の交付を受けていた。
同市は、同校校舎の必要面積を2,689m2と算定し、当該必要面積を危険改築事業の資格面積としていた。そして、この2,689m2を危険改築I期事業と危険改築II期事業に区分して、I期事業の資格面積を807m2、II期事業の資格面積を1,882m2とし、新たに整備する校舎が木造であることから、I期事業の資格面積については、建物の構造による補正を行っていた。
しかし、同市は、II期事業の資格面積については、建物の構造による補正を行っていなかった。
そこで、II期事業の資格面積を算定すると、1,882m2を1.02で除して得た面積1,845m2となる。
したがって、II期事業の資格面積を1,845m2に修正して交付金の交付額を算定すると282,433,000円となることから、交付金3,689,000円が過大に交付されていた。
ア、イ及びウ以外の事態で配分基礎額及び交付対象工事費が過大に算定されていた事態は次のとおりである。
以上を部局等別・補助事業者別に示すと次のとおりである。
部局等 | 補助事業者 (事業主体) |
交付対象事業の種別 | 年度 | 交付金の交付額 | 不当と認める交付金の交付額 | 摘要 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | ||||||
(77) | 青森県 | 上北郡野辺地町 | 危険改築事業、不適格改築事業 | 24、25、27 | 914,259 | 87,789 | 校舎の改築後の面積を資格面積としていたなどのもの(ア及びエ①の事態) |
(78) | 山形県 | 鶴岡市 | 危険改築事業 | 26 | 286,122 | 3,689 | 建物の構造による補正を行っていなかったもの(ウの事態) |
(79) | 同 | 新庄市 | 同 | 25、26 | 591,410 | 143,259 | 校舎の改築後の面積や屋内運動場の必要面積を資格面積としていたもの(アの事態) |
(80) | 同 | 天童市 | 危険改築事業、不適格改築事業 | 23、24 | 418,178 | 9,155 | 改築事業を実施する年度に施設の解体及び撤去を行っていないのに、配分基礎額に解体及び撤去費を加算していたもの(エ②の事態) |
(81) | 同 | 東置賜郡高畠町 | 中学校武道場新築事業 | 24、25 | 21,556 | 5,927 | 上限面積を超える面積分の工事費を事業全体の工事費から控除していなかったもの(エ①の事態) |
(82) | 茨城県 | 水戸市 | 不適格改築事業、幼稚園新増築事業 | 24~27 | 592,868 | 14,512 | 必要面積から保有面積とは異なる面積を控除して資格面積を算定していたり、建物の構造による補正を行っていなかったりしていたなどのもの(ア、ウ及びエ②の事態) |
(83) | 東京都 | 練馬区 | 危険改築事業 | 25 | 156,235 | 1,099 | 建築計画時点の推計学級数を用いるなどして必要面積を算定していたもの(イの事態) |
(84) | 長野県 | 長野市 | 危険改築事業、不適格改築事業 | 24~27 | 1,224,196 | 11,660 | 改築を行う前年度の標準学級数を用いて必要面積を算定していたり、建物の構造による補正を行っていなかったりしていたなどのもの(イ及びウの事態) |
(85) | 同 | 北佐久郡軽井沢町 | 危険改築事業、不適格改築事業、学校給食施設の改築事業 | 26、27 | 500,394 | 227,931 | 危険建物の面積を資格面積としていたり、改築を行う前々年度の実際の学級数を用いて必要面積を算定していたりしていたなどのもの(ア、イ及びエ②の事態) |
(86) | 奈良県 | 奈良市 | 危険改築事業、不適格改築事業、大規模改造(質的整備)事業 | 25~27 | 609,158 | 50,665 | 実際の学級数を用いるなどして必要面積を算定していたり、建物の構造による補正を行っていなかったりしていたなどのもの(イ、エ①及びエ③の事態) |
(87) | 福岡県 | 福岡市 | 学校給食施設の新増築事業 | 26 | 428,890 | 19,358 | 既存の学校給食施設の面積とすべき面積を誤ったため、配分基礎面積を過大に算定していたもの(エ④の事態) |
(88) | 熊本県 | 天草郡苓北町 | 太陽光発電等の整備に関する事業 | 24、25 | 133,405 | 4,962 | 誤った太陽光発電単価を用いて配分基礎額を算定していたもの(エ⑤の事態) |
(77)―(88)の計 | 5,876,671 | 580,006 |