厚生労働省は、健康保険及び厚生年金保険の事業に関する事務を所掌しており、当該事業に関する事務の一部を日本年金機構(以下「機構」という。)に委任し、又は委託している。そして、機構は、同省の監督の下に、本部、312年金事務所等において、当該委任され、又は委託された事務を実施している。
健康保険は、業務外の疾病、負傷等に関して医療、療養費、傷病手当金等の給付を行う保険であり、常時従業員を使用する事業所の従業員が被保険者となる。また、厚生年金保険は、老齢、死亡等に関して年金等の給付を行う保険であり、常時従業員を使用する事業所の70歳未満の従業員が被保険者となる。
そして、事業所に使用される従業員のうち、いわゆるパートタイム労働者等の短時間就労者については、労働時間、労働日数等からみて当該事業所に常用的に使用されている場合には被保険者とすることとなっている。
保険料は、被保険者と事業所の事業主とが折半して負担し、事業主が納付することとなっている。
そして、事業主は、年金事務所に対して、健康保険及び厚生年金保険に係る次の届け書を提出することとなっている。
これらの届け書の提出を受けた年金事務所は、その記載内容を審査するとともに、届け書に記載された被保険者の報酬月額に基づいて標準報酬月額(注1)を、また、被保険者の賞与額に基づいて標準賞与額(注2)を、それぞれ決定してこれらに保険料率を乗じて得た額を保険料として算定している。厚生労働本省(以下「本省」という。)は、その算定した額を保険料として調査し決定するなどして徴収している。
保険料の平成28年度の収納済額は、健康保険保険料9兆1217億余円、厚生年金保険保険料29兆4753億余円、計38兆5971億余円に上っている。
本院は、合規性等の観点から、健康保険及び厚生年金保険に係る届け書の提出が適正になされているかなどに着眼して、14地域部(注3)の管轄区域内に所在する206年金事務所が管轄する事業所の事業主のうち、短時間就労者を多数使用していると見込まれるなどの1,470事業主を選定するなどして、26年度から28年度までの間における保険料の徴収の適否について検査した。
検査に当たっては、本省において機構本部から提出された保険料の調査決定等の基礎となる書類により、また、上記の206年金事務所において事業主から提出された健康保険及び厚生年金保険に係る届け書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に年金事務所に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査したところ、事業主が、被保険者資格取得届等を提出していなかったり、被保険者資格取得届の資格取得年月日について事実と相違した年月日を記載したりなどしている事態が見受けられた。
このため、前記1,470事業主のうち、14地域部の管轄区域内に所在する156年金事務所が管轄する500事業主について、徴収額が625,188,105円(健康保険保険料236,352,665円、厚生年金保険保険料388,835,440円)不足していて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業主が制度を十分に理解していなかったり誠実でなかったりして、届出を適正に行っていなかったのに、上記の156年金事務所においてこれについての指導及び調査確認が十分でなかったこと、また、本省において機構に対する監督が十分でなかったことによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
A会社は、娯楽業の業務に従事する従業員263人を使用していた。同会社の事業主は、これらの従業員のうち98人については勤務時間が短く常用的な使用でないなどとして、年金事務所に対して被保険者資格取得届を提出していなかった。
しかし、上記の98人について調査したところ、同会社はこのうち34人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。
このため、健康保険保険料15,239,099円、厚生年金保険保険料25,012,638円、計40,251,737円が徴収不足となっていた。
なお、これらの徴収不足額については、本院の指摘により、全て徴収決定の処置が執られた。
これらの徴収不足額を地域部ごとに示すと次のとおりである。
地域部名 | 年金事務所 | 本院の調査に係る事業主数 | 徴収不足があった事業主数 | 徴収不足額 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
健康保険 保険料 |
厚生年金 保険保険料 |
計 | ||||||
千円 | 千円 | 千円 | ||||||
北海道 | 札幌西 | 等7 | 43 | 21 | 1,788 | 2,051 | 3,840 | |
東北第一 | 仙台東 | 等6 | 53 | 36 | 31,378 | 43,667 | 75,046 | |
東北第二 | 青森 | 等12 | 130 | 49 | 16,140 | 27,269 | 43,409 | |
北関東・信越第一 | 浦和 | 等8 | 62 | 15 | 9,285 | 11,577 | 20,862 | |
北関東・信越第二 | 前橋 | 等5 | 79 | 26 | 4,634 | 8,209 | 12,844 | |
南関東 第一 |
千代田 | 等15 | 34 | 21 | 33,524 | 88,216 | 121,740 | |
南関東 第二 |
千葉 | 等21 | 171 | 62 | 45,291 | 73,097 | 118,389 | |
中部第一 | 中村 | 等12 | 87 | 40 | 10,227 | 15,063 | 25,290 | |
中部第二 | 岡崎 | 等5 | 54 | 22 | 19,039 | 23,436 | 42,475 | |
近畿第一 | 堀江 | 等9 | 51 | 22 | 5,761 | 9,232 | 14,994 | |
近畿第二 | 堺東 | 等18 | 146 | 46 | 13,968 | 22,577 | 36,546 | |
中国 | 岡山東 | 等18 | 189 | 62 | 10,737 | 14,618 | 25,355 | |
四国 | 徳島南 | 等11 | 136 | 44 | 11,840 | 15,510 | 27,350 | |
九州第一 | 東福岡 | 等9 | 69 | 34 | 22,733 | 34,307 | 57,040 | |
計 | 156か所 | 1,304 | 500 | 236,352 | 388,835 | 625,188 |