キャリア形成促進助成金(平成29年4月以降は人材開発支援助成金。以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業のうちの能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、企業内における労働者のキャリア形成の効果的な促進に資するために、労働者に対して職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための職業訓練(以下「訓練」という。)を実施するなど職業能力開発に係る支援を実施した事業主に対して訓練等に要する経費等を国が助成するものである。
助成金の支給要件は、事業主が、雇用している短時間労働者等に対して訓練を実施し、当該訓練等に要する経費等の負担の状況を明らかにする領収書、振込通知書等の書類を整備していることなどとなっている。
助成金の支給を受けようとする事業主は、訓練の実施前に訓練実施計画届及び訓練の内容が分かる訓練カリキュラム等の添付書類を都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出して、その内容の確認を受けることとなっている。そして、事業主は、訓練の終了後、支給申請書に、訓練の実施内容及び訓練受講者の出欠状況を確認するための書類、事業主が訓練に係る経費を全て負担していることを確認するための書類等の関係書類を添えて、労働局に提出することとなっている。
支給申請書等の提出を受けた労働局は、訓練に係る経費の負担状況等を関係書類等に基づき調査確認するなどして、事業主やその申請内容が助成金の支給要件を満たしているか審査をした上で支給決定を行い、助成金の支給を行うこととなっている。
本院は、合規性等の観点から、事業主に対する助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、全国47労働局のうち、9労働局において会計実地検査を行い、25年度から28年度までの間に助成金の支給を受けた事業主から43事業主を選定して、助成金の支給の適否について検査した。
検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査したところ、大阪労働局管内の1事業主(注)において、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
大阪労働局は、事業主Aから、25年3月及び27年4月に訓練実施計画届の提出を受けて、その後、当該訓練実施計画に沿って訓練を実施したとする支給申請書及び訓練に係る経費の領収書等の添付書類が提出されたことから、25年12月、26年4月及び28年2月に、これらの書類に基づき、助成金計8,743,630円を事業主Aに支給していた。
しかし、事業主Aの訓練等に要する経費等の負担の状況を確認するなどしたところ、事業主Aが訓練等に要する経費等の負担の状況を明らかにする書類として同労働局に提出した訓練に係る経費の領収書は、事業主Aの総勘定元帳には対応する支払の記帳がないなどとなっており、支払の事実を証明するものとは認められなかった。また、領収書以外の訓練等に要する経費等の負担の状況を明らかにする書類もなかった。
このように、事業主Aは、支給要件を満たしておらず、事業主Aに対する助成金の支給額計8,743,630円の全額の支給が適正でなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業主Aが制度を十分に理解していなかったため、訓練等に要する経費等の負担の状況を明らかにする書類を整備していなかったのに、大阪労働局において、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことによると認められる。
なお、この適正でなかった支給額については、本院の指摘により、返還の処置が執られた。