雇用保険は、常時雇用される労働者等を被保険者として、被保険者が失業した場合、被保険者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合等に、その生活及び雇用の安定を図るなどのために失業等給付金の支給を行うほか、雇用安定事業等を行う保険である。
失業等給付金には、次の求職者給付及び就職促進給付のほか、教育訓練給付及び雇用継続給付の4種がある。
ア 求職者給付には基本手当、日雇労働求職者給付金(以下「日雇給付金」という。)等7種の手当等があり、このうち基本手当は、失業等給付金の支給額の大半を占めており、失業者の生活の安定を図る上で基本的な役割を担うもので、受給資格者(注)が失業している日について所定給付日数を限度として支給される。
イ 就職促進給付には6種の手当等があり、このうち再就職手当は、早期の再就職の促進を図るもので、受給資格者が基本手当を受給できる日数を所定給付日数の3分の1以上残して安定した職業に就いた場合に支給される。また、就業促進定着手当は、再就職手当の支給を受けた者が再就職先に6か月以上雇用され、かつ、再就職後の6か月間の賃金日額が離職前の6か月間の賃金日額を下回る場合に支給される。
ウ アの求職者給付の手当等のうち、日雇給付金は、日々雇用される者又は30日以内の期間を定めて雇用されるなどの者(以下「日雇労働被保険者」という。)であって、日雇労働被保険者手帳(以下「日雇手帳」という。)に雇用保険印紙(以下「印紙」という。)を貼付することにより、失業の日の属する月の前2月間に通算して26日分の雇用保険印紙保険料(以下「印紙保険料」という。)を納付しているなどの支給の要件を満たす者が失業した場合に支給される。なお、日雇手帳に貼付することとされている印紙は、賃金日額に応じて3種類ある。
上記の手当等は、公共職業安定所(以下「安定所」という。)が次のように支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省等が支給することとなっている。
ア 基本手当については、受給資格者から提出された失業認定申告書に記載されている就職又は就労(臨時的に短期間仕事に就くこと)の有無等の事実について確認して、失業の認定を行った上で、支給決定を行う。
イ 再就職手当及び就業促進定着手当については、受給資格者から提出された再就職手当支給申請書及び就業促進定着手当支給申請書に記載されている雇入年月日や賃金額等について調査し確認した上で、支給決定を行う。
ウ 日雇給付金については、失業の認定を行った日雇労働被保険者から提出された日雇手帳に賃金日額等実際の就労状況に応じた適切な印紙が貼付されているか確認した上で、当該失業の認定を行った日について日雇給付金の支給決定を行う。
また、偽りその他不正の行為により上記手当等の支給を受け、又は受けようとした者に対しては、その支給を受け、又は受けようとした日以後、当該手当等を支給しないことなどとなっており、安定所は、既に支給した手当等の返還等を命ずることができることとなっている。
本院は、合規性等の観点から、失業等給付金の支給を受けた者(以下「受給者」という。)に対する失業等給付金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、求職者給付(日雇給付金を除く。以下同じ。)及び就職促進給付については全国47都道府県労働局(以下、都道府県労働局を「労働局」という。)の436安定所(平成29年3月末現在)のうち、14労働局の146安定所において会計実地検査を行い、25年度から29年度までの間における受給者から5,603人を選定して、また、日雇給付金については28年次に会計実地検査を行った12労働局の58安定所管内の199事業所が26年度に雇用するなどした受給者のうち2,123人を本年次においても引き続き対象として、失業等給付金の支給の適否について検査した。
検査に当たっては、失業認定申告書、日雇手帳等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、他の年度分も含めて更に当該安定所に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、12労働局の48安定所管内における25年度から29年度までの間の求職者給付及び就職促進給付の受給者76人、及び6労働局の14安定所管内における26年度から28年度までの間の日雇給付金の受給者41人に対する失業等給付金の支給額計102,037,630円のうち計60,913,316円は、支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。
これを給付等の種別に示すと次のとおりである(下記ウの安定所、事業所及び受給者の数については、複数の態様に該当するものがある。)。
46安定所管内の受給者72人は、再就職した後も引き続き基本手当の支給を受けるなどしており、これらに対する基本手当の支給額計37,249,222円のうち計13,303,308円は、支給の要件を満たしていなかった。
16安定所管内の受給者18人は、事実と相違した雇入年月日により再就職手当の支給を受けるなどしており、これらに対する再就職手当等の支給額計10,497,508円(再就職手当計9,117,685円、就業促進定着手当計1,379,823円)の全額は、支給の要件を満たしていなかった。
ア及びイの事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
須崎安定所は、受給者Aから、平成27年8月25日に就職したとする失業認定申告書及び再就職手当支給申請書の提出を受けて、これに基づくなどして、基本手当151,500円、再就職手当980,473円及び就業促進定着手当581,024円、計1,712,997円の支給決定を行っていた。
しかし、実際には、受給者Aは27年8月2日に就職していたのに、上記のとおり27年8月25日に就職したと偽って申告したことから、受給者Aに対する基本手当124,453円、再就職手当980,473円及び就業促進定着手当581,024円、計1,685,950円が支給の要件を満たしていなかった。
(ア) 3安定所管内の受給者20人(当該受給者が雇用されていた事業所数5)は、実際には就労していない日について、事業主から日雇手帳に印紙の貼付を受け、その日を含めて失業の日の属する月の前2月間に通算して26日分以上の印紙保険料が納付されていることとして支給を受けており、これらに対する日雇給付金の支給額計17,177,700円は、支給の要件を満たしていなかった。
(イ) 14安定所管内の受給者30人(当該受給者が雇用されていた事業所数9)は、実際には就労していた日について、事業主から日雇手帳に印紙の貼付を受けないまま、後日、その日に就労していないこととして失業の認定を受けることで支給を受けており、これらに対する日雇給付金の支給額計14,872,300円は、支給の要件を満たしていなかった。
(ウ) 1安定所管内の受給者10人(当該受給者が雇用されていた事業所数1)は、就労していた日について、事業主から日雇手帳に賃金日額に対応しない種類の印紙の貼付を受け、所定の額よりも高額な日雇給付金の支給を受けるなどしており、これらに対する日雇給付金の支給額計5,062,500円は、支給の要件を満たしていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
名古屋中安定所は、名古屋南安定所管内の事業主Bに雇用されていた受給者16名が安定所に提出した日雇手帳等に基づき失業の認定を行うなどして、平成26年9月20日から28年8月26日までの間の2,718日分について、日雇給付金計20,385,000円の支給決定を行っていた。
しかし、受給者16名は、実際には就労していない日について、事業主Bから日雇手帳に印紙の貼付を受け、その日を含めて失業の日の属する月の前2月間に通算して26日分以上の印紙保険料が納付されていることとして日雇給付金の支給を受けるなどしており、当該2,718日分の日雇給付金計20,385,000円が支給の要件を満たしていなかった。
このような事態が生じていたのは、受給者が誠実でなかったなどのため、失業認定申告書等の記載内容が事実と相違するなどしていたり、日雇手帳の印紙の貼付状況が受給者の実際の就労状況と相違していたりしていたのに、ア及びイの事態に係る48安定所及びウの事態に係る14安定所において、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことなどによると認められる。
なお、これらの適正でなかった支給額は、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。
これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。
ア及びイの事態
労働局名 | 安定所 | 本院の調査に係る受給者数 | 不適正受給者数 | 左の受給者に支給した失業等給付金 | 左のうち不当と認める失業等給付金 | |
---|---|---|---|---|---|---|
人 | 人 | 千円 | 千円 | |||
北海道 | 函館 | 等5 | 184 | 8 | 8,699 | 1,234 |
― | ― | ― | ― | |||
小計 | 8,699 | 1,234 | ||||
山形 | 山形 | 等3 | 175 | 6 | 2,885 | 826 |
― | ― | ― | ― | |||
小計 | 2,885 | 826 | ||||
東京 | 大森 | 等3 | 137 | 4 | 2,372 | 1,106 |
― | ― | ― | ― | |||
小計 | 2,372 | 1,106 | ||||
山梨 | 富士吉田 | 等2 | 51 | 4 | 3,135 | 543 |
甲府 | 等2 | 85 | 2 | 1,292 | 1,292 | |
小計 | 4,428 | 1,835 | ||||
長野 | 上田 | 等5 | 176 | 9 | 4,748 | 2,035 |
篠ノ井 | 等3 | 58 | 3 | 1,289 | 1,289 | |
小計 | 6,038 | 3,325 | ||||
岐阜 | 多治見 | 等3 | 123 | 5 | 1,838 | 1,347 |
高山 | 等2 | 54 | 2 | 913 | 913 | |
小計 | 2,751 | 2,261 | ||||
愛知 | 半田 | 等5 | 170 | 7 | 2,977 | 1,665 |
瀬戸 | 等3 | 64 | 3 | 1,641 | 1,641 | |
小計 | 4,618 | 3,307 | ||||
大阪 | 梅田 | 等6 | 220 | 6 | 2,054 | 1,340 |
― | ― | ― | ― | |||
小計 | 2,054 | 1,340 | ||||
岡山 | 岡山 | 等4 | 199 | 8 | 3,698 | 314 |
津山 | 53 | 1 | 281 | 281 | ||
小計 | 3,980 | 596 | ||||
愛媛 | 八幡浜 | 等4 | 123 | 6 | 1,326 | 594 |
八幡浜 | 等3 | 75 | 3 | 1,939 | 1,939 | |
小計 | 3,266 | 2,533 | ||||
高知 | 高知 | 等3 | 145 | 6 | 1,376 | 1,011 |
須崎 | 38 | 3 | 2,404 | 2,404 | ||
小計 | 3,780 | 3,415 | ||||
福岡 | 福岡中央 | 等3 | 123 | 3 | 2,136 | 1,281 |
福岡中央 | 40 | 1 | 734 | 734 | ||
小計 | 2,870 | 2,016 | ||||
求職者給付計 | 46か所 | 1,826 | 72 | 37,249 | 13,303 | |
就職促進給付計 | 16か所 | 467 | 18 | 10,497 | 10,497 | |
合計 | 47,746 | 23,800 |
ウの事態
労働局名 | 安定所 | 本院の調査に係る受給者数 | 労働局管内に所在する事業所数 | 不適正受給者数 | 左の受給者に支給した日雇給付金 | 左のうち不当と認める日雇給付金 | |
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人 | 人 | 千円 | 千円 | ||||
愛知 | 名古屋中 | 95 | 2 | 17 | 21,480 | 20,655 | |
三重 | 伊賀 | ― | ― | 7(7) | 10,777 | 2,910 | |
京都 | 京都田辺 | ― | ― | 2(2) | 1,260 | 30 | |
大阪 | 大阪港 | 等7 | 476 | 4 | 9(2) | 15,440 | 10,060 |
奈良 | 奈良 | 等3 | 225 | 5 | 10 | 8,490 | 3,442 |
高知 | 安芸 | ― | ― | 1(1) | 765 | 15 | |
計 | 14か所 | 765 | 11 | 41 | 54,290 | 37,112 |
ア、イ及びウの事態の合計(純計)
不適正受給者数 | 左に支給した失業等給付金 | 左のうち不当と認める失業等給付金 | |||||
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人 | 千円 | 千円 | |||||
117 | 102,037 | 60,913 |