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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(3) 国民健康保険等における第三者行為に係る求償事務の適切な実施を推進するために、第三者に対し直接行う求償事務を適切に行うための具体的な方策について検討して、都道府県を通じて国民健康保険の保険者等及び国民健康保険団体連合会に対する指導等を行うなどするよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)医療保険給付諸費
部局等
厚生労働本省
国の負担の根拠
国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)
第三者行為に係る求償事務の概要
保険給付事由が第三者行為によって生じた場合、被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を、国保保険者等が給付の価額の限度において代位取得し、損害賠償請求に係る債権額を確定させ、当該債権の管理及び行使に関する事務を行うもの
平成25、26両年度に傷病届の提出があった事案に係る求償事務を国保連合会に委託して実施する国保保険者等のうち、27年11月末時点で第三者直接求償事務を行っていない事案が見受けられた国保保険者等及びその事案の件数
74国保保険者等 815件
上記の事案に係る保険給付額
10億0276万余円(平成27年11月末現在)
上記に係る国庫負担金等相当額(1)
2億7660万円
平成25、26両年度に傷病届の提出があった事案に係る求償事務を国保連合会に委託せず自ら実施する国保保険者等のうち、27年11月末時点で第三者直接求償事務を行っていない事案が見受けられた国保保険者等及びその事案の件数
3国保保険者等 19件
上記の事案に係る保険給付額
2925万余円(平成27年11月末現在)
上記に係る国庫負担金等相当額(2)
796万円
(1)及び(2)の計
2億8456万円(背景金額)

【意見を表示したものの全文】

国民健康保険等における第三者行為に係る求償事務の実施について

(平成29年3月24日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度の概要

(1) 国民健康保険等の概要

貴省は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)等に基づく医療保険制度及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号。以下「高齢者医療確保法」という。)に基づく後期高齢者医療制度を所管している。このうち、国民健康保険法及び高齢者医療確保法に基づく医療保険制度等においては、国民健康保険法に規定する保険者(以下「国保保険者」という。)又は後期高齢者医療広域連合(以下「広域連合」といい、国保保険者と合わせて「国保保険者等」という。)が、被保険者に対して行う療養の給付等の保険給付(後期高齢者医療給付を含む。以下同じ。)を行っている。

そして、上記の保険給付に係る診療報酬及び調剤報酬の請求等の手続は、次のとおりとなっている。

① 被保険者が医療機関で診察、治療等の診療を受け、又は薬局で薬剤の支給等を受けた場合、医療機関又は薬局は、これらの費用を診療報酬又は調剤報酬(以下、これらを合わせて「診療報酬等」という。)として、このうち患者負担分を被保険者である患者に請求して支払を受け、残りの診療報酬等を各都道府県単位で設立されている国民健康保険団体連合会(以下「国保連合会」という。)を通じて国保保険者等に請求する。

② 請求を受けた国保保険者等は、被保険者資格、金額等の点検を行った上で、患者負担分を控除した残りの診療報酬等を国保連合会を通じて医療機関等に支払う。

(2) 保険給付に要する費用の額に対する国庫負担金等の概要

貴省は、保険給付に要する費用の額(以下「保険給付額」という。)について、国民健康保険法第70条及び第73条の規定に基づき、国保保険者である市町村(特別区等を含む。)及び国民健康保険組合に対して療養給付費負担金等を交付することとなっている。療養給付費負担金等の交付額は、「国民健康保険の国庫負担金等の算定に関する政令」(昭和34年政令第41号)等に基づき、療養の給付等に要した費用の額等を基に算定することとなっている。また、貴省は、高齢者医療確保法第93条の規定に基づき、広域連合に対して後期高齢者医療給付費負担金(以下、療養給付費負担金等と後期高齢者医療給付費負担金を合わせて「国庫負担金等」という。)を交付することとなっている。後期高齢者医療給付費負担金の交付額は、「前期高齢者交付金及び後期高齢者医療の国庫負担金の算定等に関する政令」(平成19年政令第325号)等に基づき、療養の給付等に要した費用の額等を基に算定することとなっている。

そして、貴省が国庫負担金等を交付するに当たり、都道府県は、国保保険者等が提出した交付申請書及び事業実績報告書の内容を審査した上で、当該交付申請書及び事業実績報告書を貴省に提出することとなっている。

(3) 保険給付を行うことにより代位取得した第三者行為に伴う損害賠償請求権に係る事務の概要

ア 第三者行為に伴う損害賠償請求権の代位取得

国保保険者等は、国民健康保険法第64条第1項及び高齢者医療確保法第58条第1項の規定に基づき、交通事故による負傷等、給付事由が第三者の行為(以下「第三者行為」という。)によって生じた場合において、療養の給付等の保険給付を行ったときは、その給付の価額の限度において、被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得することとなっている(図1参照)。

図1 損害賠償請求権の代位取得

図1 損害賠償請求権の代位取得 画像

イ 第三者行為に伴う損害賠償請求に係る債権額の確定

国保保険者等は、代位取得する損害賠償請求権について、調定の手続を行い債務者である第三者及び損害賠償請求に係る債権額を確定させ、これを管理することとなっている(以下、確定させた損害賠償請求に係る債権額を「求償債権額」という。)。

そして、健康保険法(大正11年法律第70号)等に規定する保険者は、「第三者行為により生じた保険事故の取扱いについて」(昭和54年保険発第24号・庁保険発第6号厚生省保険局保険・社会保険庁医療保険部健康保険・船員保険課長連名通知)に基づき、求償債権額の算定に当たっては、被保険者の過失割合について調査して、代位取得した損害賠償請求権の額を当該過失割合に応じて減額し算定して差し支えないこととなっており、国保保険者等においても減額し算定する取扱いを行っている。

ウ 代位取得した損害賠償請求権の行使等に係る事務処理手続

国保保険者等は、被保険者から第三者行為による傷病届(以下「傷病届」という。)の提出を受けたときは、前記のとおり被保険者の過失割合について調査するなどして求償債権額を算定して、請求すべき求償債権額がある場合には、当該債権の管理及び行使に関する事務を行うこととしている(以下、これらの事務を「求償事務」という。)。

そして、国保保険者等は、第三者が自動車損害賠償責任保険又は自動車損害賠償責任共済(以下、これらを合わせて「自賠責保険」という。)や、自動車保険又は自動車共済(以下、これらを合わせて「任意保険」という。)に加入している場合には、自賠責保険又は任意保険を取り扱う保険会社等を通じて事案の内容、被保険者の過失割合の調査等を行うなどして求償事務を実施している。

また、第三者行為が自動車事故(第三者が自動車又は原動機付自転車を運行したことにより生じた事故をいう。以下同じ。)により生じた場合であって、求償債権額が自賠責保険の支払限度額(傷害による損害の場合は120万円)を超えるなどしており、かつ、第三者が任意保険に加入していない事案、第三者が自賠責保険に加入していない事案及び自動車事故以外の事案については、国保保険者等は、求償事務を実施するに当たり、自ら事案の内容の調査を行うなどした上で、直接、第三者との間で過失割合についての協議等を行う必要がある(以下、この第三者に対して直接行う求償事務を「第三者直接求償事務」という。)。

エ 国保連合会に対する求償事務の委託

国保保険者等は、求償事務について、自らこれを実施するほか、国民健康保険法第64条第3項、高齢者医療確保法第58条第3項等の規定に基づき、第三者行為に係る損害賠償金の徴収又は収納の事務に関し専門的知識を有する職員を配置している国保連合会に委託することができることとなっている。そして、貴省は、47都道府県に設立されている各国保連合会の全てに「専門的知識を有する職員」が配置されているとしている。

ただし、国保連合会は、事案の内容によっては、受託できる求償事務(以下「受託事務」という。)の範囲外であるとして、受託後において国保保険者等に事案の差戻しを行うことがあり、この場合には、国保保険者等は自らこの事案の求償事務を実施することになる(図2参照)。

図2 国保連合会に対する求償事務の委託の概念図

図2 国保連合会に対する求償事務の委託の概念図 画像

オ 求償債権額がある場合における国庫負担金等の算定方法

 「第三者行為に伴う損害賠償金等に係る療養に要した費用の取扱いについて」(昭和40年保険発第124号厚生省保険局国民健康保険課長通知)等によれば、国保保険者等は、国庫負担金等の交付額の算定に当たり、求償債権額がある場合には、国庫負担金等の対象費用の額から調定した当該求償債権額を控除することなどとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

第三者行為に係る保険給付は、本来、国保保険者等として負担する必要のないものであり、代位取得した損害賠償請求権を行使しない場合には、国民健康保険等に加入している被保険者等がその負担をすることになるほか、第三者の損害賠償責任を免責することになり、適当でないと考えられる。

そこで、本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、国保保険者等による求償事務は適切に実施されて、国庫負担金等の交付額の算定が適切なものとなっているかなどに着眼して、貴省本省、22都道府県(注1)の156市区町、3国民健康保険組合、22広域連合、計181国保保険者等において、傷病届等の関係書類により会計実地検査を行った。検査に当たっては、平成25、26両年度に被保険者から傷病届が提出された自動車事故の事案41,155件に係る保険給付を対象として、27年11月末現在における求償事務の実施状況に関する資料の提出を求めた。また、国保保険者等から求償事務の実施を受託している22国保連合会において、25、26両年度の受託状況等を確認するなどして調査した。

(注1)
22都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、茨城、埼玉、千葉、神奈川、山梨、静岡、愛知、滋賀、兵庫、奈良、島根、岡山、香川、高知、福岡、長崎、宮崎、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

前記の181国保保険者等における求償事務の実施方法について確認したところ、このうち160国保保険者等は、求償事務を国保連合会に委託して実施することとしていた。

そこで、上記の160国保保険者等から求償事務の実施を受託している22国保連合会における受託事務の範囲について確認したところ、いずれの国保連合会も、自賠責保険又は任意保険を取り扱う保険会社等に対して実施する求償事務は受託事務の範囲内であるとしていた。一方、22国保連合会のうち19国保連合会は、実施体制が十分に整備されていないことなどを理由に、第三者直接求償事務については全て受託事務の範囲外としたり、第三者が国保保険者等に損害賠償金を支払う旨の誓約書が提出されていない事案等に係る第三者直接求償事務を受託事務の範囲外としたりしていた。

19国保連合会に求償事務の実施を委託することとしている143国保保険者等における第三者直接求償事務の実施状況についてみたところ、①国保保険者等は国保連合会に求償事務の実施を委託しているものの、国保連合会が第三者直接求償事務については受託事務の範囲外であるとしてこれを行わず、国保保険者等に差戻しを行っている事案や、②差戻しが行われることがあらかじめ想定されるとして、国保保険者等が当初から国保連合会に求償事務の実施を委託していない事案が、88国保保険者等において計874件(①に係るもの791件、②に係るもの83件)見受けられた。

そして、これらの事案のうち、第三者との間で過失割合についての協議等を行うに当たり専門的知識が不足していることなどを理由に、国保保険者等が自ら第三者直接求償事務を行っていない事案が、74国保保険者等(注2)において計815件(①に係るもの762件、②に係るもの53件)見受けられた。当該事案に支給された保険給付額は計10億0276万余円、これに係る国庫負担金等相当額は計2億7660万余円となっている。

(注2)
74国保保険者等  水戸、日立、土浦、古河、つくば、ひたちなか、筑西、さいたま、熊谷、深谷、上尾、越谷、八王子、町田、清瀬、相模原、横須賀、藤沢、春日井、豊田、大津、向日、大阪、豊中、吹田、高槻、守口、枚方、松原、東大阪、泉南、神戸、姫路、西宮、加古川、奈良、天理、桜井、香芝、岡山、倉敷、津山、玉野、総社、備前、赤磐、美作、高松、丸亀、坂出、観音寺、さぬき、東かがわ、三豊、宮崎、延岡、鹿児島各市、中央、墨田、杉並、足立各区、北海道、茨城県、埼玉県、東京都、神奈川県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、岡山県、香川県、宮崎県各後期高齢者医療広域連合

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

大阪府後期高齢者医療広域連合(以下「大阪府広域連合」という。)は、被保険者Aが平成25年3月に自動車事故に遭ったことから、当該事故に起因する傷病の治療のために、被保険者Aに対して352万余円の保険給付を行った。そして、大阪府広域連合は、同年5月、当該事故に係る被保険者Aの傷病届を受理して、求償事務の実施を大阪府国民健康保険団体連合会(以下「大阪府国保連合会」という。)に委託した。これを受けて、大阪府国保連合会は、当該事故の第三者Bが加入する自賠責保険に対して代位取得した損害賠償請求権を行使したが、自賠責保険から既に支払限度額まで支払が行われていたことから、支払を受けることができなかった。また、第三者Bは任意保険に加入していなかったことから、大阪府国保連合会は、第三者直接求償事務については受託事務の範囲外であるとして、26年5月、大阪府広域連合にこの事案の差戻しを行った。そして、大阪府広域連合は、自ら第三者直接求償事務を行っていなかった。

このように、大阪府広域連合において、第三者直接求償事務を行っていなかった事案が66件見受けられた。そして、この66件について支給された保険給付額は計1億0190万余円、これに係る国庫負担金等相当額は計2547万余円となっている。

また、前記の181国保保険者等のうち21国保保険者等は、求償事務を国保連合会に委託せず自ら実施することとしていたのに、第三者直接求償事務を行っていない事案が、3国保保険者等(注3)において計19件見受けられた。当該事案に支給された保険給付額は計2925万余円、これに係る国庫負担金等相当額は計796万余円となっている。

(注3)
3国保保険者等  帯広、京都両市、山梨県後期高齢者医療広域連合

(改善を必要とする事態)

国保保険者等による求償事務の実施に当たり、第三者直接求償事務が国保連合会の受託事務の範囲外であるとして差し戻された事案等について、国保保険者等が自ら第三者直接求償事務を行っていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、第三者直接求償事務を行うには専門的知識を要することなどから国保保険者等が自らこれを行うことが困難であるとしている事案が多数見受けられるのに、貴省において、国保保険者等による求償事務の適切な実施を推進するために、第三者直接求償事務を適切に行うための具体的な方策についての検討等が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

国民健康保険制度及び後期高齢者医療制度が我が国の社会保障制度において重要な役割を果たしていること、毎年度、国保保険者等には多額の国庫負担金等が交付されていることなどを踏まえると、国保保険者等による求償事務が適切に実施され、国庫負担金等の交付額が適切に算定される必要がある。そして、第三者直接求償事務を行うには専門的知識を要することなどを考慮すると、第三者直接求償事務を適切に行うためには、国民健康保険法第64条第3項等の規定に基づき、第三者直接求償事務についても国保連合会に委託して行うことができるようにするなどの必要がある。

ついては、貴省において、国保保険者等による求償事務の適切な実施を推進するために、国保連合会における受託事務の範囲の見直しなど第三者直接求償事務を適切に行うための具体的な方策について検討して、都道府県を通じて国保保険者等及び国保連合会に対する指導等を行うなどするよう意見を表示する。