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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(5) 労働移動支援助成金のうち再就職支援奨励金の支給に当たり、対象労働者における紹介事業者の再就職支援を受ける意思、対象労働者に対する紹介事業者の再就職支援の状況等を確認するなどして、同奨励金に係る制度の運用を制度の趣旨に沿った効果的なものとするよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)地域雇用機会創出等対策費
部局等
厚生労働本省、14労働局
再就職支援奨励金の概要
事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者の早期の再就職を実現するために民間の職業紹介事業者に再就職支援を委託してその費用を負担した事業主に対して助成するもの
検査対象とした再就職支援奨励金の額(1)
28億2588万余円(平成26年度~28年度)
(1)のうち、中小企業の事業主に係る委託開始分の支給金額(2)
2,054人 2億0535万円(平成26、27両年度)
(2)のうち、助成対象期限内に再就職していなかった者を対象として支給された額(3)
943人 9425万円(背景金額)
(3)のうち、助成対象期限内に再就職するための紹介事業者の再就職支援を受ける意思がなかったと認められる者を対象として支給された額(4)
62人 620万円
(1)のうち、再就職実現分の支給金額(5)
4,139人 12億6693万余円
(5)のうち、紹介事業者の再就職のための職業相談、面接指導等の支援を受けずに再就職している者を対象として支給された額(6)
146人 4395万円
(4)及び(6)の計
208人 5015万円

【改善の処置を要求したものの全文】

労働移動支援助成金のうち再就職支援奨励金に係る制度の運用について

(平成29年10月17日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 制度の概要

(1) 再就職援助の概要

雇用対策法(昭和41年法律第132号)等によれば、事業主は、事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者について、当該労働者が行う求職活動に対する援助その他の再就職の援助を行うことにより、その職業の安定を図るように努めなければならないこととされている。そして、事業主が相当数の労働者が離職を余儀なくされることが見込まれる事業規模の縮小等を行おうとする場合には、縮小等の理由、離職予定時期、再就職援助のための措置内容、対象者名等を記載した再就職援助計画を公共職業安定所(以下「安定所」という。)に提出しなければならないこととされている。

再就職援助計画の対象者に対する援助のための措置には、取引先企業等への再就職のあっせん、安定所等の求人情報の提供、再就職支援の民間の職業紹介事業者(以下「紹介事業者」という。)への委託等があり、どのような措置を講ずるかは事業主の任意となっている。

(2) 労働移動支援助成金の概要

貴省は、雇用保険で行う事業のうち雇用安定事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)、雇用対策法等に基づき、再就職援助計画の対象となる労働者の円滑な再就職を促進するために必要な措置を講ずる事業主に対して、労働移動支援助成金を支給しており、同助成金の支給に関する事務は都道府県労働局(以下「労働局」という。)が行っている。

(3) 再就職支援奨励金の概要

労働移動支援助成金のうち、再就職支援奨励金は、事業主が紹介事業者に再就職支援を委託し、離職を余儀なくされる労働者にその支援を受けさせることにより早期の再就職を実現させることを目的としている。そして、同奨励金は、再就職援助計画を提出した事業主が、当該計画の対象者に対する援助のための措置として、紹介事業者への委託を行い、その費用を負担した場合に当該事業主に支給されるもので、委託開始申請分(以下「委託開始分」という。)と再就職実現申請分(以下「再就職実現分」という。)から構成されている。

委託開始分は、事業主に対して離職を余儀なくされる労働者の再就職支援を紹介事業者に委託することを促す目的で支給されるものである。その支給要件は、支給を受けようとする事業主が、再就職援助計画を安定所に提出して、その認定を受けた後に、再就職援助を承諾した労働者の再就職支援のための委託契約を紹介事業者との間で締結して当該契約に係る費用を負担することなどとなっている。

また、再就職実現分は、事業主が、上記の委託契約を締結した後、当該契約に基づく再就職支援の対象となる労働者の再就職が実現した場合に当該事業主に支給されるものである。その支給要件は、当該労働者が離職の日の翌日から起算して6か月以内(当該労働者が45歳以上の場合は9か月以内。以下「助成対象期限」という。)に、雇用保険の一般被保険者等として再就職したことなどとなっている。

そして、事業主からの委託を受けた紹介事業者は、当該労働者が再就職できるよう、職業相談、面接指導、履歴書等の作成支援、職業紹介等の再就職支援を実施することになる。

再就職支援奨励金の支給対象となる労働者(以下「対象労働者」という。)1人当たりの支給額は、平成28年7月31日までに提出された再就職援助計画に基づく委託契約に係るものについては、原則として、委託開始分が10万円、再就職実現分が、事業主が紹介事業者に対して支払った委託額に、事業主が中小企業の場合は3分の2(対象労働者が45歳以上の場合は5分の4)、中小企業以外の場合は2分の1(同3分の2)を乗ずるなどした額から委託開始分の支給額を減じた額となっている。

なお、貴省は、28年8月1日以降に提出された再就職援助計画の対象者については委託開始分の支給を中小企業の事業主のみとしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、再就職支援奨励金に係る制度の運用は適切なものとなっているかなどに着眼して、26年度から28年度(注1)までの間に14労働局(注2)が支給した再就職支援奨励金計28億2588万余円を対象として、14労働局において、支給申請書、対象労働者の再就職状況等に関する書類、紹介事業者が事業主に毎月提出している対象労働者の再就職支援に関する報告書(以下「報告書」という。)等を確認するとともに、貴省本省において、再就職支援奨励金の支給要件、支給対象についての考え方等を聴取するなどして会計実地検査を行った。また、14労働局から対象労働者の再就職の状況等に関する調書の作成及び提出を求めるなどして検査した。

(注1)
平成28年度支給分については、28年7月31日までに提出された再就職援助計画に係る対象労働者に係るものを対象とした。
(注2)
14労働局  北海道、宮城、山形、東京、神奈川、山梨、長野、岐阜、愛知、大阪、岡山、愛媛、高知、福岡各労働局

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 委託開始分の対象労働者に助成対象期限内に再就職していない者が多数見受けられ、その中に再就職支援を受ける意思がなかったと認められる者が含まれていた事態

14労働局において、26、27両年度に支給された委託開始分の対象労働者に占める助成対象期限内に再就職した対象労働者の割合を、28年8月1日以降も委託開始分の支給対象となっている中小企業の事業主についてみると、のとおり、対象労働者計2,054人(委託開始分の支給金額計2億0535万円)の54.0%を占める1,111人となっており、助成対象期限内に再就職していない対象労働者は、45.9%を占める943人(委託開始分の支給金額計9425万円)と多数見受けられる状況となっていた。

表 委託開始分の対象労働者に係る再就職の実現状況

(単位:人)
年度 当該年度中の委託開始分の対象労働者数 Aのうち再就職実現分の対象労働者数 助成対象期限内に再就職していない対象労働者数
A B A-B
平成26年度 494 320(64.7) 174(35.2)
27年度 1,560 791(50.7) 769(49.2)
2,054 1,111(54.0) 943(45.9)
注(1)
「Aのうち再就職実現分の対象労働者数欄」及び「助成対象期限内に再就職していない対象労働者数欄」の( )内は、「当該年度中の委託開始分の対象労働者数」に占める比率(%)を示す。
注(2)
比率については、小数点以下第2位を切り捨てている。

このような状況を踏まえて、上記943人のうち、報告書により対象労働者の再就職に対する取組の状況等が把握できた817人について、対象労働者の再就職支援を受ける意思等の状況をみたところ、報告書において、離職後6か月又は9か月以上の期間について再就職支援を受ける意思がないことが記載されているなどしていて助成対象期限内に再就職するための紹介事業者の再就職支援を受ける意思がなかったと認められる者が、8労働局(注3)において62人(委託開始分の支給金額計620万円)見受けられた。

このように、再就職支援奨励金が離職を余儀なくされる労働者の早期の再就職を実現させることを目的としたものであるのに、委託開始分の対象労働者のうち、助成対象期限内に再就職していない者が多数見受けられ、これらの中に、助成対象期限内に再就職するための紹介事業者の再就職支援を受ける意思を有していないと認められ、再就職を支援する必要性が必ずしも認められない者が相当数含まれていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

長野労働局管内に所在する中小企業の事業主Aは、平成26年4月18日に、対象労働者Bの再就職支援を紹介事業者Cに委託したことから、対象労働者Bに係る委託開始分100,000円を受給していた。

しかし、同年5月31日に離職した対象労働者Bは、報告書によると、紹介事業者Cとの最初の面談日である同年7月14日に、対象労働者B本人の事情により同日以降2年間は再就職支援を受けない旨を申告し、以後紹介事業者の支援を受けていなかった。

(注3)
8労働局  北海道、宮城、東京、神奈川、山梨、長野、愛知、大阪各労働局

(2) 再就職実現分の対象労働者に紹介事業者の支援を受けずに再就職している者が含まれていた事態

14労働局において、26年度から28年度までの間に中小企業及び中小企業以外の事業主に対して支給された再就職実現分の対象労働者4,139人(再就職実現分の支給金額計12億6693万余円)のうち、再就職における紹介等の経路が判明した3,692人についてみたところ、このうちの48%を占める1,777人は、紹介事業者による紹介ではなく、当該対象労働者の自己開拓、安定所の紹介等により再就職していた。

そこで、報告書等により上記の1,777人における紹介事業者の再就職支援の状況についてみたところ、このうち13労働局(注4)における146人(再就職実現分の支給金額計4395万余円)については、紹介事業者による再就職のための職業相談、面接指導等の支援を受けていない状況となっていた。

このように、再就職実現分の支給額は、事業主が紹介事業者に対して支払った委託額を基に算定されるものとなっているのに、再就職実現分の対象労働者の中に紹介事業者の再就職支援を受けずに再就職している者が相当数含まれていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

神奈川労働局管内に所在する中小企業以外の事業主Dは、平成26年6月30日に離職した対象労働者Eが同年7月3日に再就職したことから、対象労働者Eに係る再就職実現分296,000円を受給していた。

しかし、対象労働者Eは、報告書によると、自己開拓により同年7月3日から再就職することが既に決定していたことから、紹介事業者Fとの最初の面談日の同月2日にその旨を申告し、紹介事業者Fによる再就職支援を受けることなく再就職していた。

(注4)
13労働局  北海道、宮城、山形、東京、神奈川、山梨、長野、岐阜、愛知、大阪、岡山、愛媛、福岡各労働局

(改善を必要とする事態)

再就職支援奨励金が、離職を余儀なくされる労働者に紹介事業者による再就職支援を受けさせることにより早期の再就職を実現させることを目的としたものであるのに、委託開始分の対象労働者のうち助成対象期限内に再就職していない者の中に、助成対象期限内に再就職するための紹介事業者の再就職支援を受ける意思を有していないと認められ、再就職を支援する必要性が必ずしも認められない者が相当数含まれている事態及び再就職実現分の対象労働者の中に、紹介事業者の再就職支援を受けずに再就職している者が相当数含まれている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省本省において、再就職支援奨励金に係る制度の運用に当たり、事業主が紹介事業者に再就職支援を委託し、離職を余儀なくされる労働者にその支援を受けさせることにより早期の再就職を実現させるという制度の趣旨を踏まえた委託開始分及び再就職実現分の対象労働者の範囲等の検討が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

政府は、「日本再興戦略」(平成25年6月閣議決定)において、失業なき労働移動の実現を進め、従来の雇用維持型の政策を改め、労働移動支援型の政策に転換するなどとしており、貴省は、労働移動支援型の助成金である再就職支援奨励金による再就職支援を今後も実施していくこととしている。

ついては、貴省本省において、再就職支援奨励金に係る制度の運用を、離職を余儀なくされる労働者に紹介事業者による支援を受けさせることにより早期の再就職を実現させるという制度の趣旨に沿った効果的なものとするよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 労働局における委託開始分の支給に当たり、対象労働者における紹介事業者の再就職支援を受ける意思等を確認して、再就職を支援する必要性が認められない者を委託開始分の支給対象としないこととするなど、対象労働者の範囲等について見直しを行うこと
  • イ 労働局における再就職実現分の支給に当たり、対象労働者に対する紹介事業者の再就職支援の状況等を確認して、紹介事業者の再就職支援を受けずに再就職している者を再就職実現分の支給対象としないこととするなど、対象労働者の範囲等について見直しを行うこと