厚生労働省は、ハンセン病療養所費補助金交付要綱(平成8年厚生省発健医第116号。以下「交付要綱」という。)に基づき、私立ハンセン病療養所(以下「療養所」という。)に入所している者(以下「入所者」という。)の福祉の増進を図ることを目的として、療養所が入所者の医療及び福祉を図るために行う療養所の運営に要する費用についてハンセン病療養所費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。
交付要綱によれば、補助金の交付対象経費は、療養所の運営に必要な人件費(職員基本給、職員諸手当、法定福利費等)及び事務費とされている。また、補助金の交付額は、厚生労働大臣が認めた基準額と上記補助金の交付対象経費の実支出額(以下「対象経費の実支出額」という。)とを比較して、少ない方の額とすることとされている。
そして、厚生労働省は、療養所を運営している病院(以下「病院」という。)に対して平成27年度1億2421万余円、28年度1億1888万余円、計2億4309万余円の補助金を交付している。
病院は、外来診療のほか、療養病棟3棟及び緩和ケア病棟1棟の計4棟の病棟において医療の提供を行っており、療養病棟3棟のうち1棟が入所者の病棟、残りの2棟が入所者以外の入院患者の病棟となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、補助金の交付額の算定は適切なものとなっているかなどに着眼して、27、28両年度に交付された補助金計2億4309万余円を対象として、厚生労働本省及び病院において、事業実績報告書等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、病院から調書の提出を受けてその内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
厚生労働省は、対象経費の実支出額を27年度は人件費8032万余円及び事務費4388万余円の計1億2421万余円、28年度は人件費8202万余円及び事務費3686万余円の計1億1888万余円などとする病院から提出された事業実績報告書に基づいて、それぞれ対象経費の実支出額と同額の補助金を交付していた。
上記の事業実績報告書によると、病院に勤務する医師、看護師等の職員のうち、人件費が補助金の交付対象となる職員(以下「補助対象職員」という。)は、27年度18人、28年度19人となっており、これらの補助対象職員に係る職員基本給、職員諸手当、法定福利費等の額の全部又は一部の額の合計額がそれぞれの年度の対象経費の実支出額に計上されていた。
しかし、補助対象職員の従事する業務の実態を確認したところ、看護師が療養病棟3棟において各病棟を交替で勤務するなどしており、補助対象職員はいずれも入所者に関する業務以外の業務にも従事していて、入所者に関する業務のみを担当していた者は見受けられなかった。
また、補助対象職員以外にも、実際には、入所者に関する業務に従事していた医師、看護師等の職員が27、28両年度にそれぞれ28人、34人いたが、その入所者に関する業務に係る人件費の額は対象経費の実支出額に計上されていなかった。
そこで、上記人件費の額が対象経費の実支出額に計上されていなかった28人、34人を含む病院において実際に入所者に関する業務に従事していた職員全員(27年度46人、28年度53人)について、当該職員の業務全体に対する入所者に関する業務の占める割合を算出して、これに基づいて入所者に関する業務に従事していた分に係る人件費の額を算定すると、27年度5821万余円、28年度6197万余円であった。
したがって、上記人件費の額により対象経費の実支出額を修正計算すると、27年度1億0210万余円、28年度9883万余円、計2億0094万余円となることから、補助金の交付額はこれと同額となり、前記補助金の交付額計2億4309万余円と比べて計4215万余円の開差額が生じていた。
このように、補助金の交付額の算定に当たり、人件費が病院の職員が従事する入所者に関する業務の実態に即して算定されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、厚生労働省において、補助金の交付額の算定に当たり、人件費の算定が病院の職員が従事した入所者に関する業務の実態に即して行われるよう、人件費の範囲及び算定方法を具体的に明示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、29年9月に、補助金の交付額の算定が病院の職員が従事した入所者に関する業務の実態に即して行われるよう、人件費の範囲及び算定方法を具体的に明示した通知を発して、29年度の補助金に係る交付額の算定から適用することとする処置を講じた。