沖縄総合事務局宮古伊良部農業水利事業所(以下「事業所」という。)は、平成25年度に、国営かんがい排水事業の一環として、沖縄県宮古島市内に設置する宮古吐水槽及び伊良部導水路の工事を実施するために、これらの実施設計に係る請負契約(以下「実施設計業務」という。)を、一般競争契約により、サンスイコンサルタント株式会社との間で契約額26,250,000円で締結している。
沖縄総合事務局が定めた事業計画書等によると、伊良部島内の受益地への送配水計画は、図のとおり、地下ダムから、揚水ポンプにより農業用水を取水して、宮古島内に設置する吐水槽(注1)へ送水し、ここから自然流下により、受益地の一部に直接配水するとともに、ファームポンド(注2)に送水するものとなっていた。
図 伊良部島内の受益地への送配水計画の概念図
事業所は、25年度に、実施設計業務の特別仕様書の作成に当たり、吐水槽の設計容量について「土地改良事業設計指針「ファームポンド」」(農林水産省構造改善局建設部制定。以下「指針」という。)等に基づくなどして、受益地への円滑な配水に必要な水量を確保するために、揚水ポンプの運転制御容量として560m3、バルブの開閉に係る運転制御容量等として4,530m3、計5,090m3と算定していた。
指針によれば、吐水槽の設計容量のうち運転制御容量は、揚水ポンプの操作、バルブの開閉等の間における水の流れの制御に必要な水量を一時的に貯水するための容量とされ、揚水ポンプの操作等に要する時間に単位時間当たりの揚水量を乗ずるなどして算定される。
一方、ファームポンドの設計容量については、揚水ポンプ等で取水した農業用水はかんがい作業時間外(本件事業の場合8時間)にも送水されることから、かんがい作業時間外に送水される水量を貯水するために必要な容量である時間差調整容量等が用いられている。
本院は、合規性、有効性等の観点から、実施設計業務の前提となる設計容量が適切に算定されているかなどに着眼して、事業所において、実施設計業務等を対象として、契約書、特別仕様書、成果物等の書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
事業所は、前記のとおり、25年度に、特別仕様書の作成に当たり吐水槽の設計容量を5,090m3と算定し、これに基づき実施設計業務で吐水槽の設計を行わせ、図面等の成果物を受領していた。そして、その後改めて吐水槽の設計容量の検討を行ったところ適正な設計容量は3,136m3と算定されたため、事業所は、26年度に、適正な設計容量3,136m3に基づき再度吐水槽に係る実施設計を実施しており、25年度の実施設計業務の成果物は実際の工事には使われなかった。
そこで、25年度に発注した実施設計業務の前提となった吐水槽の設計容量の算定方法を確認したところ、このうちバルブの開閉に係る運転制御容量等として算定した前記の4,530m3については、算定方法を十分に検討しないまま、吐水槽ではなくファームポンドに適用される時間差調整容量の算定方法を用いて算定したものとなっていた。
しかし、時間差調整容量は、前記のとおり比較的長時間であるかんがい作業時間外に送水される水量を貯水するために必要な容量であり、運転制御容量とは目的や算定方法が全く異なるものであり、一般的に運転制御容量を大幅に上回る容量となることなどから、バルブの開閉に係る運転制御容量等の算定に当たり、時間差調整容量の算定方法を用いたことは適切とは認められない。
したがって、実施設計業務の前提となる設計容量の算定において検討が十分でなかったため、これに基づく実施設計業務の成果物のうち吐水槽に係る部分は設計容量の規模が過大であり工事に使用できないものとなっていて、契約の目的を達成しておらず、これに係る契約額相当額20,581,721円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業所において、指針等の理解が十分でなかったこと、吐水槽の設計容量の算定方法に係る検討が十分でなかったことなどによると認められる。