【改善の処置を要求したものの全文】
農林水産物・食品の輸出促進事業の評価等について
(平成29年10月30日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、平成22年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」により、農林水産物・食品の輸出額を32年(後に31年に前倒し)までに1兆円水準とすることを目指すため、輸出環境の整備、輸出を目指す農林漁業者・食品事業者の取組を促すなどの各種の施策を実施している。そして、貴省は、25年8月に農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略(以下「品目別輸出戦略」という。)を公表し、コメ・コメ加工品、青果物、茶等を重点品目に位置付けて、重点品目ごとに1兆円の内訳となる輸出額の目標額や輸出先の重点国・地域を定め、輸出環境の整備や商流の確立・拡大を図っていくこととしている。
貴省は、25年度以降、品目別輸出戦略等に沿った輸出促進の取組を強化する必要があるとして、農山漁村6次産業化対策事業実施要綱(平成27年26食産第3801号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、輸出に取り組む事業者向け対策事業(以下「輸出対策事業」という。)を実施している。輸出対策事業は、品目別輸出戦略に掲げる重点品目に係るジャパン・ブランドの確立を目的とする取組、地域の特産品の輸出に取り組む都道府県の協議会等による地域活性化を目的とする取組等として行われる、海外マーケット調査、海外におけるセミナーの実施、商談会の開催、見本市への出展、輸出を行う対象国等が求める検疫条件への対応、ハラール認証等の国際的に通用する認証の取得等を支援する事業である。貴省は、表のとおり、25年度から27年度までの間に、109事業実施主体に対して、農山漁村6次産業化対策事業費補助金等計16億9067万余円を交付している。
表 平成25年度から27年度までの輸出対策事業の実施状況
年度 | 補助事業名 | 事業実施主体数 | 国庫補助金交付額(千円) |
---|---|---|---|
25 | 日本の食を広げるプロジェクト事業 | 76 | 455,767 |
26 | 農山漁村6次産業化対策事業 | 69 | 503,382 |
27 | 農山漁村6次産業化対策事業 | 31 | 731,523 |
計 | 109 | 1,690,673 |
貴省は、貴省が定めた公募要領に基づき、公募に応募した者の中から、事業実施主体となり得る候補者を選定し、これらの候補者が実施要綱等に基づき提出した交付申請書及び事業実施計画書を審査した上で事業実施主体を選定している。
実施要綱等によれば、事業実施主体は、輸出対策事業の実施に当たり、事業実施計画書に事業の目的、活動内容等のほか、輸出を行う対象国又は地域、対象品目、事業実施年度を含む3か年分の輸出額の目標値、目標値達成のための考え方等を記載して、食料産業局長、地方農政局長等の事業承認者から承認を受けることとされている。また、事業実施主体は、事業終了後に、事業実施年度の輸出額の実績値、輸出拡大の課題に対して事業の実施により得られた結果等を記載した実績報告書を提出するとともに、事業実施年度から3年間、輸出額の実績値等を含む事業の成果について記載した事業成果報告書を、毎年度終了後1か月以内に事業承認者に提出することとされている。そして、事業実施計画書、実績報告書及び事業成果報告書に記載する輸出額の目標値及び実績値は、原則として事業実施主体が輸出に取り組む品目の対象国又は地域向け輸出額を記載することとされており、事業実施主体自らは輸出を行わない場合は、取組に直接参加する者(以下「事業参加者」という。)の輸出額を記載することとなっている。
実施要綱等によれば、事業成果報告書には、報告対象年度の輸出額及び輸出数量の目標値及び実績値、目標値に対する実績値の比率である目標達成率、目標達成率の背景として商談会における商談件数、成約件数等の定量的な指標等を盛り込んだ要因分析等を記載することとされている。そして、貴省は、事業実施主体から提出された事業成果報告書に記載された目標達成率の背景としての要因分析等によって事業成果を評価するとしており、これを後年度の事業実施主体の選定等に活用するとしているほか、当該事業実施主体が輸出対策事業の実施に当たって設定した輸出額の目標値を達成していないことを把握した場合は、必要に応じて、事業実施主体に対して、改善に向けた活動方針を作成させたり、貴省が輸出対策事業とは別に実施している商談会への参加を促したり、輸出実務の専門家を紹介したり、輸出向けの農林水産物の生産・集荷体制の強化等に向けた助言をしたりするなど、輸出額の増加に向けた指導等を行うとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、輸出対策事業の実施に当たり、輸出額の目標値の設定及び実績値の把握が適切なものとなっているか、目標達成率の背景としての要因分析が適切に行われているか、事業成果報告書による事業成果の評価に基づく指導等を行っているかなどに着眼して、51事業実施主体が25年度から27年度までの間に実施した94事業(事業費計15億2471万余円、国庫補助金交付額計10億9474万余円)を対象として、貴省本省、水産庁、8農政局等(注)及び51事業実施主体において、事業実施計画書、実績報告書、事業成果報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
事業実施主体が事業成果報告書に記載して報告した輸出額の目標値及び実績値についてみたところ、51事業実施主体は、事業の実施に当たり、事業の目的に応じて事業参加者や事業参加者以外の者等による輸出額を対象範囲として輸出額の目標値を自ら設定していたが、このうち16事業実施主体において、輸出額の目標値の設定又は実績値の把握に当たり、事業参加者等から輸出額の実績を口頭で聞き取ったのみで客観的な資料に基づく数値を把握していなかったり、9事業実施主体において、事業実施主体自らは輸出を行わない場合は事業参加者の輸出額の実績値を把握することとなっているのに、それを把握することなく貿易統計等の統計資料から算出した推計値等を実績値としていたり、21事業実施主体において、目標値の設定の際に前提とした期間や事業参加者等の範囲とは異なる期間や対象範囲の輸出額を集計した実績値及び目標値から目標達成率を算出していたりなどしていた。
また、事業実施主体が事業成果報告書に記載した要因分析の内容をみたところ、5事業実施主体は、報告対象年度の輸出額及び輸出数量の目標値及び実績値、目標達成率等を記載するとともに、目標達成率の背景として、商談会、見本市等における商談件数、成約件数等の定量的な指標を用いたり、事業参加者の輸出に対する取組の状況を含めたりするなどして事業の取組や成果による要因分析を行っていたが、44事業実施主体において、定量的な指標を盛り込んだ要因分析を行っていなかったり、14事業実施主体において、自然災害や為替相場等の外的要因の影響との区分が困難であることなどを理由として輸出対策事業とは直接関係がない事項についての要因分析を行っていたりしていた。
このように、上記事業実施主体のうち重複分を除いた計50事業実施主体(事業費計15億1406万余円、国庫補助金交付額計10億8942万余円)については、輸出額の目標値の設定又は実績値の把握が適切でなかったり、要因分析が適切に行われていなかったりしていて、貴省において、事業成果報告書に記載された目標達成率の背景としての要因分析によって事業成果の評価を適切に行うことができない状況になっていると認められる。
<事例1>
四国経済連合会は、平成25年度に台湾及びタイ王国を対象国又は地域として、海外からバイヤーを招へいして国内商談会を開催する輸出対策事業(事業費214万余円、国庫補助金交付額107万余円)を実施している。同連合会は、事業成果報告書において、輸出額の目標値及び実績値について、事業参加者ではない一部の大手会員企業から聞き取った額をそのまま用いていて、事業参加者である企業が商談成約により輸出につながったことは把握していたものの、当該企業に輸出額の実績値等の報告を求めるなどしていなかったため、同輸出対策事業の事業参加者に係る目標値及び実績値が把握されておらず、目標達成率の背景としてこれらの数値に基づく要因分析等が適切に行われていなかった。
<事例2>
青森県農林水産物輸出促進協議会は、平成25、26両年度に香港、台湾、アメリカ合衆国等を対象国又は地域として、りんご、水産物、ながいも及びりんごジュースを対象品目とする輸出対策事業(事業費計2837万余円、国庫補助金交付額計1418万余円)を実施している。同協議会は、対象品目のうちながいもについて、収穫販売期間に合わせて事業実施年度の11月から翌年度の10月までの1年間の輸出額を輸出額の目標値として設定していたが、実施要綱等において事業成果報告書の提出期限が毎年度終了後1か月以内とされていることから、報告時点で把握できる11月から4月までの6か月間の実績値を報告していた。そして、1年間の目標値に対する6か月間の実績値による誤った目標達成率に基づいて、目標が達成されていないとして、国内の他産地のブランド力及び供給力や安価な外国産に押されているためとの要因分析を記載していた。また、翌年度に報告した前年11月から当年10月までの1年間の実績では輸出額及び輸出数量の目標値を実績値が上回り目標が達成できているとしていたものの、現地でのPR等の輸出対策事業の成果を正しく把握していなかったため、目標達成率の背景としての要因分析等が適切に行われていなかった。
輸出対策事業の内容には、海外のスーパー等での試食販売、見本市等におけるレストランシェフ等に対する調理セミナー及び商談会の開催等を行う販売促進活動等のようにその活動の成果が直接輸出額に反映される取組がある一方、国内の主要な産地が連携した輸出振興体制の構築を図る取組として共同輸送、鮮度保持技術の研究・開発等をテーマに掲げて行う国内検討会、海外市場調査、輸出環境整備を図るための輸出を行う対象国等の検疫条件への対応、国際的に通用する認証の取得等(以下、これらを合わせて「産地間連携等の取組」という。)のように輸出額の増加を目的としているものの、その活動の成果が輸出額に反映されるのに長期間を要するなどの取組がある。
前記の51事業実施主体が実施した事業のうち、産地間連携等の取組を実施しているものは、28事業実施主体が25年度から27年度までの間に実施した45事業(事業費計11億3140万余円、国庫補助金交付額計9億0296万余円)であり、これらの45事業の事業成果報告書における目標達成率及び要因分析の記載状況についてみたところ、13事業実施主体が実施した18事業(事業費計6億5696万余円、国庫補助金交付額計5億4472万余円)においては、事業に係る輸出額の実績値が把握できないとして目標達成率を記載していなかったり、産地間連携等の取組と輸出額との関連性の把握が困難であるとして要因分析を記載していなかったりしていた。これらは、輸出額が事業成果を把握する指標として適切とはいえないのに、輸出額により事業成果を評価することとなっているため、産地間連携等の取組に係る事業成果の評価ができない状況になっていると認められる。また、上記18事業のうち6事業は、輸出に当たっての対象国の検疫条件への対応や国際的に通用する認証の取得等のための取組を事業の内容としているが、これらの取組等が成果を生ずるまでには、事業成果報告書の提出期間である3年を超える長期間を要するものとなっており、事業成果を十分に把握することができない状況になっていると認められる。
<事例3>
日本茶輸出促進協議会は、平成27年度にアメリカ合衆国、香港、台湾、シンガポール共和国、欧州連合(EU)及びロシア連邦を対象国又は地域として、抹茶等の輸出を拡大するために、海外マーケットの調査、残留農薬検査等の産地間連携等の取組を内容とする輸出対策事業(事業費7875万余円、国庫補助金交付額7748万余円)を実施している。そして、事業成果報告書に記載された目標達成率の背景としての要因分析には、対象国又は地域において残留農薬基準が設定されるまでに長期間を要しており、輸出数量の大きい国又は地域について近年注目されている抹茶の輸出は好調であることなどの現況報告となっていて、産地間連携等の取組に関する進捗状況は記載されていなかった。貴省においては、後年度の事業実施主体の選定等に活用するなどのため、事業の成果としてその経過状況を把握する必要があると認められるにもかかわらず、その状況を把握することができず、また、事業成果報告書の提出期間である3年を超える経過状況については把握することができない状況となっていた。
前記のとおり、貴省は、事業成果報告書において輸出額の目標値が達成されていないことを把握した場合は、事業実施主体に対して輸出額の増加に向けた指導等を行うこととしている。
51事業実施主体が25年度から27年度までの間に実施した92事業の事業成果報告書に記載された目標達成率についてみたところ、28事業実施主体が実施した35事業においては、事業実施年度における目標達成率が100%を下回っており、各事業実施主体が事業の実施に当たって設定した目標値を達成していないこととなっていた。
上記は、事業実施主体の多くが対象品目を複数選定しており、その輸出額の合計による目標達成率の状況であることから、各事業実施主体が選定した品目ごとの事業実施年度における目標達成率等についてもみたところ、51事業実施主体が各年度の事業において選定した品目数は年度別・国別の累計で509品目あるが、25年度95品目のうち44品目、26年度237品目のうち130品目、27年度177品目のうち94品目、計268品目は、事業成果報告書に記載された目標達成率が100%を下回っており、輸出額の目標を達成していないこととなっていた。そして、貴省本省、地方農政局等は、目標を達成していないこととなっている268品目に係る46事業実施主体から、これらの品目の輸出額の目標値及び実績値等が記載されている事業成果報告書の提出を受けていたが、これらに係る事業成果の評価を適切に実施していないなどのため、事業成果報告書を提出している者が後年度の候補者となっている場合における事業実施主体の選定に活用しておらず、上記46事業実施主体のうち28事業実施主体(事業費計8億5752万余円、国庫補助金交付額計5億3540万余円)に対しては、輸出対策事業とは別に実施している商談会への参加を促すなどの輸出額の増加に向けた指導等を行っていなかった。
<事例4>
甲州ワインEU輸出促進協議会は、平成25、26両年度に、ロンドンにおける甲州ワインのプロモーション活動等を内容とする輸出対策事業(25年度事業費1675万余円、国庫補助金交付額837万余円、26年度事業費1558万余円、国庫補助金交付額779万余円)を実施している。事業成果報告書によれば、同協議会における事業実施前後の輸出の実績額は24年度616万余円、25年度833万余円、26年度1649万余円、27年度1426万余円、28年度1185万余円で、26年度以降輸出額が減少しており、26年度を除いては、事業成果報告書に記載された目標達成率が100%を下回る状況となっていた。しかし、貴省は、事業成果報告書に記載された目標達成率等により事業成果を適切に評価していなかったなどのため、同協議会に対して、輸出額の増加に向けた具体的な指導等を行っていなかった。
なお、(1)から(3)までの事態について、重複分を除くと、51事業実施主体(事業費計15億2471万余円、国庫補助金交付額計10億9474万余円)となる。
(改善を必要とする事態)
輸出額の目標値の設定及び実績値の把握が適切でなかったり、要因分析が適切に行われていなかったりしている事態、産地間連携等の取組に係る事業成果を把握する指標として適切とはいえない指標により事業成果を評価することとなっているなどの事態並びに事業成果報告書による事業成果の評価を適切に実施していないなどのため、目標を達成していないこととなっている品目があるのに指導等を行っていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、事業実施主体において、事業成果報告書に適切な目標達成率を記載するために必要となる輸出額等の数値を正しく把握し、目標達成率の背景としての要因分析を適切に行うことの理解が十分でないことなどにもよるが、貴省において、次のことなどによると認められる。
貴省は、31年までに農林水産物・食品の輸出額を1兆円水準とする目標の達成に向けて、引き続き農林水産物・食品の輸出促進を図ることを目的として、輸出に取り組む事業者への支援を実施することとしている。そして、輸出対策事業は29年度に終了することとしているものの、輸出に取り組む事業者への支援は、同様の仕組みにより引き続き実施するとしている。
ついては、貴省において、輸出対策事業及び30年度以降に同様の仕組みにより実施する事業に係る事業成果の評価等が適切に行われるよう、次のとおり改善の処置を要求する。