農林水産省は、生産性の高い農業を促進し、地域農業の持続的発展及び農村の総合的な振興を図るために農道の整備を推進している。
農道には、農業生産活動等の農業用の利用を主体とし、農村の社会生活活動にも利用される基幹的農道、集落や基幹的農道等とほ場区域とを結ぶ幹線農道等があり、同省は、昭和40年代から広域営農団地農道整備事業等を創設するなどして、基幹的農道及び幹線農道(以下「広域農道等」という。)の整備、保全対策等を実施する都道府県、市町村等に対して国庫補助金等を交付している。
上記のうち保全対策について、農林水産省は、平成19年度に、農道の長寿命化及びライフサイクルコストの低減を考慮した保全対策を推進するために、農道保全対策事業(22年度以降は、農山漁村地域整備交付金事業)を創設するなどして、国庫補助金等を交付している。
そして、同省は、農道の適切な保全対策を推進するために、「農道保全対策の手引き(案)」(平成24年3月農林水産省農村振興局整備部。28年3月改訂。以下「手引」という。)を策定して、都道府県、農道の管理者である市町村等に示している。また、同省は、26年度から32年度までを計画期間とする「インフラ長寿命化計画(行動計画)」(平成26年8月農林水産省農村振興局策定)において、農道を構成する施設等を対象として、32年度までに、定期点検等の実施時期等を記載した個別施設計画を管理者に策定させることにしている。
手引によれば、農道の保全対策の実施に当たっては、管理者は、次のような方法により、計画的、効率的に取り組むことが必要であるとされている。
① 日常的な管理を実施するとともに、構造物ごとに、損傷の種類、原因、程度等の状況(以下「損傷状況」という。)を把握するための定期点検等を実施する。なお、定期点検の頻度については5年に1回の実施に努める。
② 定期点検等により把握された損傷状況等を基に、構造物の機能に支障が生ずる可能性があったり、支障が生じていたりなどしているものについて、補修等の措置の緊急性や規模等を判定する(以下、定期点検等と合わせて「点検診断」という。)。
③ 点検診断の結果を踏まえて、予防保全の観点から措置を講じたり、早期又は緊急に措置を講じたりするなど、補修等の方法、実施時期等を検討した保全対策計画を策定して、これに基づいて適切な保全対策を実施する(以下、保全対策計画と個別施設計画とを合わせて「保全対策計画等」という。)。
また、管理者は、点検診断を効率的に実施することが必要であるため、緊急輸送道路の指定の有無、第三者への影響等の構造物の重要度等を踏まえて、優先順位を配慮した上で点検の頻度又は時期、点検項目、点検方法等を定めた点検計画を策定することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
広域農道等は昭和40年代から整備されており、広域農道等を構成する主要構造物である橋りょう及びトンネル(以下「橋りょう等」という。)は老朽化が進んでいる。そして、橋りょう等の中には、緊急輸送道路を構成するものやこ道橋及びこ線橋(以下、これらを合わせて「重要施設」という。)もあることから、第三者被害の防止、防災機能の強化を図る上でも、その機能を適切に維持していく必要がある。また、農林水産省は、農道の保全対策について、損傷が深刻化してから対策を行う従来の事後保全から、保全対策費用の最小化と平準化を図り、計画的、効率的に実施する予防保全への転換を図っている。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、広域農道等における橋りょう等の保全対策に当たり、点検診断は適切に実施されているか、点検診断の結果は有効に活用されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、農林水産省の国庫補助事業により整備され、平成28年度末現在、21道県(注)管内の228管理者が管理する1,547橋及び134トンネル、計1,681施設並びに57事業主体が24年度から28年度までの間(以下「直近5年間」という。)に実施した橋りょう等の点検診断に係る業務委託契約172件(契約金額計14億2001万余円、国庫補助金額等計11億7905万余円)を対象として、農林水産省及び上記の21道県において、業務委託契約書等の関係書類及び管理者等から徴した調書等並びに現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記1,681施設のうち、建設後の経過年数が5年以上又は不明となっている1,669施設について、直近5年間における点検診断の実施状況をみると、図のとおり、631施設は点検診断が行われていた(1,669施設の37.8%。うち549施設は前記の業務委託契約により実施)が、1,038施設は点検診断が実施されておらず(1,669施設の62.2%)、いずれの経過年数の区分においても点検診断の実施割合が低調となっていた。
図 直近5年間における経過年数ごとの点検診断の実施状況(平成28年度末現在)
また、上記の631施設に係る点検診断の結果をみたところ、表のとおり、早期又は緊急に措置を講ずべき状態とされたものが、経過年数20年未満の施設については6.3%(300施設のうち19施設)となっているのに対して、経過年数20年以上の施設については16.9%(331施設のうち56施設)とより高い割合となっていた。
表 631施設に係る点検診断の結果
経過年数 | I(健全) | II(予防保全段階) | III及びIV計 | 合計 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
III(早期措置段階) | IV(緊急措置段階) | ||||||||||
橋りょう等数 | (A)に占める割合 | 橋りょう等数 | (A)に占める割合 | 橋りょう等数 | (A)に占める割合 | 橋りょう等数 | (A)に占める割合 | 橋りょう等数 | (A)に占める割合 | 橋りょう等数(A) | |
20年未満 | 118 | 39.3% | 163 | 54.3% | 17 | 5.7% | 2 | 0.7% | 19 | 6.3% | 300 |
20年以上 | 82 | 24.8% | 193 | 58.3% | 39 | 11.8% | 17 | 5.1% | 56 | 16.9% | 331 |
計 | 200 | 31.7% | 356 | 56.4% | 56 | 8.9% | 19 | 3.0% | 75 | 11.9% | 631 |
そして、直近5年間において点検診断が実施されていない1,038施設のうち935施設(1,669施設の56.0%)は、建設後1回も点検診断が実施されておらず、このうち経過年数が20年以上のものが471施設(935施設の50.4%)となっていた。
また、1,669施設のうち450施設が重要施設に該当していたが、このうち198施設(450施設の44.0%)は、建設後1回も点検診断が実施されておらず、さらに、経過年数が20年以上のものが98施設(198施設の49.5%)となっていた。なお、点検診断が実施されていない重要施設があるのに、それ以外の橋りょう等の点検診断を実施している管理者も見受けられた。
そこで、管理者における点検計画の策定状況等をみたところ、点検計画が策定されていたのは228管理者のうち、21管理者における109施設であったが、そのうち77施設が直近5年間において点検診断が実施されており、点検診断の実施割合は70.6%と全体の実施割合37.8%に比べて高い割合となっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
滋賀県管内の7管理者は、広域農道等を構成する橋りょう等65施設を管理しているが、65施設全てについて点検計画が策定されていなかった。そして、65施設は全て経過年数が5年以上又は不明となっており、65施設のうち1施設については、直近5年間において点検診断が実施されていたが、残りの64施設(98.5%)については、建設後1回も点検診断が実施されておらず、このうち28施設は経過年数が20年以上となっていた。また、点検診断が実施されていない64施設のうち13施設は重要施設に該当する橋りょう等であり、このうち7施設については経過年数が20年以上となっていた。
前記の業務委託契約において点検診断が実施された549施設について、保全対策計画等が策定されているか確認したところ、448施設(81.6%)については、保全対策計画等が策定されておらず、実施した点検診断の結果が保全対策に十分に活用されていなかった。
そして、上記の448施設に係る点検診断の結果をみたところ、構造物の機能に支障が生ずる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態となっていたものが42施設、構造物の機能に支障が生じている、又は生ずる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態となっていたものが11施設あった。これら53施設のうち45施設については、28年度末現在、補修、監視等の措置が講じられていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
島根県は、平成26年度に、1管理者が管理する橋りょう3橋についての点検診断を実施している(契約額1,854,360円、国庫補助金額1,851,000円)。
しかし、点検診断の結果が管理者に適切に伝わっていなかったため、当該3橋については、保全対策計画等は策定されておらず、実施した点検診断の結果が農道の保全対策に十分に活用されていなかった。
そして、点検診断の結果によると、3橋のうち1橋については、主桁に亀裂が発生しているなど緊急に措置を講ずべき状態となっていたが、点検診断が実施されてから2年以上が経過した会計実地検査時(29年6月)においても、利用者の安全を確保するための措置が講じられていなかった。
このように、いずれの経過年数の区分においても点検診断の実施割合が低調となっていて、建設後1回も点検診断が実施されていないものが過半を占めていたり、重要施設に該当する橋りょう等について、建設後1回も点検診断が実施されていないものが4割を超えていたりしていた事態、また、点検診断を実施した施設であっても、そのうち8割以上において保全対策計画等が策定されておらず、点検診断の結果が十分に活用されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、農林水産省において、点検診断を計画的、効率的に実施すること、点検診断の結果に基づいて保全対策計画等を策定することなどの重要性を周知する取組が十分でなかったことにもよるが、管理者において、施設の経過年数、重要度等を踏まえた点検計画を策定するなどして点検診断を計画的、効率的に実施すること、点検診断を実施した施設について、その結果に基づき保全対策計画等を策定して必要な措置を講ずることの重要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、29年9月に地方農政局等を通じるなどして、都道府県、管理者である市町村等に対して通知を発して、橋りょう等の保全対策が適切に実施されるよう、次のような処置を講じた。
ア 農道の保全対策の重要性を改めて周知徹底するとともに、施設の経過年数、重要度等を踏まえた点検計画を策定するなどして点検診断を計画的、効率的に実施するための方策を助言した。
イ 点検診断を実施した施設について、その結果に基づき保全対策計画等を策定して、必要な措置を適時適切に講ずることの重要性を改めて周知した。