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  • 平成28年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第11 国土交通省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(2) 地域間幹線系統確保事業において、運送収入に計上できる市町村からの運賃補填額は輸送実態を伴うことが必要であることを具体的に示したり、市町村が発券を受けた回数券等の利用実態を把握したりなどすることにより、同事業が輸送実態を反映した適切な生活交通計画に基づき実施されて、地域の特性、実状に応じた最適な交通手段の提供に資するものとなるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省
(項)地域公共交通維持・活性化推進費
部局等
国土交通本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
事業主体
16一般乗合旅客自動車運送事業者
補助事業
地域間幹線系統確保事業
補助事業の概要
複数の市町村にまたがる幹線系統を定期的に運行して不特定多数の旅客を運送する路線バスの運行に係る経費の一部を補助するもの
輸送実態を伴っていない市町村補填額を運送収入から除いて輸送量を算定すると15人未満となる補助系統
61補助系統(15補助事業者)(平成26年度)
64補助系統(15補助事業者)(平成27年度)
上記に対する国庫補助金交付額
4億7714万円

【改善の処置を要求したものの全文】

地域間幹線系統確保事業における輸送量の算定について

(平成29年10月30日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(1) 地域公共交通確保維持事業及び生活交通計画の概要

貴省は、地域公共交通の存続が危機にひんしている地域において、地域の特性、実状に最適な交通手段を確保、維持することを目的として、路線バスの運行支援等の地域公共交通確保維持事業(以下「地域公共交通事業」という。)を実施している。地域公共交通事業の実施に当たっては、地域公共交通に係わる都道府県、市区町村、交通事業者、地方運輸局等、地域の関係者は協議会を組織して、当該地域において地域の特性、実状に応じた最適な交通手段の提供等が図られることになるように、地域の生活交通の実状を的確に把握しつつ、当該地域公共交通事業の必要性、目標、効果等を議論することとなっている。そして、協議会、都道府県又は市区町村(以下「協議会等」という。)は、生活交通確保維持改善計画(平成26年度以前は生活交通ネットワーク計画。以下「生活交通計画」という。)を策定し、貴省に対して生活交通計画を申請し認定を受けることとなっている。

貴省は、生活交通計画に基づき実施される地域公共交通事業として、複数の市町村にまたがる地域間の交通ネットワークを確保、維持するために、幹線となる路線バス系統(以下「幹線系統」という。)の運行等に対する支援を行っているほか、幹線を補完する地域内交通を確保、維持するために、別途デマンドバス(注1)や乗合タクシー等の運行等に対する支援等も行っている。

(注1)
デマンドバス  利用者の需要に応じて、あらかじめ定めた路線以外の経路を運行するバス

(2) 地域間幹線系統確保事業の概要

貴省は、地域公共交通事業のうち、地域間の交通ネットワークを確保、維持するために複数の市町村にまたがる幹線系統を定期的に運行して不特定多数の旅客を運送する一般乗合旅客自動車運送事業者等(以下「補助事業者」という。)に対して、幹線系統の運行(以下「補助対象事業」という。)に係る収支の赤字額を対象として、地域公共交通確保維持改善事業費補助金交付要綱(平成23年国総計第97号ほか。以下「交付要綱」という。)に基づき地域間幹線系統確保維持費国庫補助金(以下、「補助金」といい、補助金を交付する事業を「地域間幹線系統確保事業」という。)を交付している(図参照)。

図 地域間幹線系統確保事業の事務の流れ

図 地域間幹線系統確保事業の事務の流れ 画像

交付要綱によれば、地域間幹線系統確保事業の実施に当たって策定する生活交通計画には、事業に係る目的及び必要性のほか、補助対象期間の前々年度(以下「基準期間」という。)の実績に基づき補助事業者が算定した1日当たりの幹線系統ごとの平均乗車人数(以下「輸送量」という。)等を記載することとされている。そして、交付要綱によれば、補助対象となる幹線系統(以下「補助系統」という。)は輸送量が15人以上150人以下の範囲内であることなどとされている。

これについて、貴省は、補助系統については、地域間の幹線系統の運行を支援する趣旨から、最低限、15人(1日当たりの運行回数3回に普通乗用車では輸送できない1回当たりの乗車人数である5人を乗じたもの)以上の輸送量であることが必要としている。そして、輸送量が15人を下回る場合は、地域間の交通ネットワークとして確保、維持することが適切であるのか協議会により議論を行った上で地域の特性、実状に応じて、運行系統の再編やデマンドバス、乗合タクシー等の路線バスの代替移動手段等の最適な交通手段を検討すべきであるとしており、貴省においても、これらの最適な交通手段の提供が行われるよう、前記のとおり様々な支援を実施している。

(3) 輸送量の算定方法

交付要綱によれば、地域間幹線系統確保事業における輸送量については次のとおり、計画平均乗車密度に基づき算定することとされている。

輸送量の算定方法 画像

計画平均乗車密度については、実際の乗車人数を調査することが難しいことなどから、次のとおり計画運送収入を基に算定されることとされており、この計画運送収入は基準期間の運送収入の実績値等を用いることとされている。

計画運送収入を基に算定 画像

また、「旅客自動車運送事業等報告規則に基づく報告書類の記載等に際しての留意点等について」(平成14年国自旅第31号)によれば、上記の運送収入は、補助事業者が営業収益として計上する旅客運賃等とされており、旅客運賃には地方公共団体からの運賃補填額を含むとされているが、貴省では、運賃補填額が旅客運賃に含まれるためには、地方公共団体が地域振興政策及び福祉政策の一環として住民等に配布した回数券等を実際に住民等が使用するなどして、住民等が実際にバスを利用するという輸送実態を伴うことが必要であるとしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

交付要綱によれば、生活交通計画に記載される補助系統の輸送量について、運送収入等を用いて算定することとされており、前記のとおり、運送収入には地方公共団体からの運賃補填額も含むとされている。

そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、地域間幹線系統確保事業が輸送実態を反映した適切な生活交通計画に基づき実施されて、地域の特性、実状に応じた最適な交通手段の提供に資するものとなっているかなどに着眼して、26、27両年度に補助金の交付を受けている230補助事業者が実施した補助対象事業(補助金交付額26年度80億3190万余円、27年度81億8050万余円、計162億1240万余円)を対象として検査した。

検査に当たっては、貴省及び6地方運輸局(注2)管内の17補助事業者(注3)において、補助金に係る交付申請書、事業完了実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、2地方運輸局(注4)管内の7補助事業者(注5)から関係書類の提出を受けるなどして検査した。

(注2)
6地方運輸局  北海道、北陸信越、中部、近畿、中国、四国各運輸局
(注3)
17補助事業者  網走バス株式会社、宗谷バス株式会社、網走観光交通株式会社、加越能バス株式会社、福井鉄道株式会社、京阪京都交通株式会社、京都交通株式会社、奈良交通株式会社、御坊南海バス株式会社、龍神自動車株式会社、日ノ丸自動車株式会社、日本交通株式会社、中鉄北部バス株式会社、備北バス株式会社、琴参バス株式会社、小豆島オリーブバス株式会社、有限会社下段モータース
(注4)
2地方運輸局  近畿、中国両運輸局
(注5)
7補助事業者  丹後海陸交通株式会社、和歌山バス那賀株式会社、中紀バス株式会社、株式会社美作共同バス、中国ジェイアールバス株式会社、株式会社中国バス、鞆鉄道株式会社

(検査の結果)

検査したところ、26年度20補助事業者が運行する79補助系統(補助金交付額3億2988万円)、27年度20補助事業者が運行する82補助系統(補助金交付額3億4466万余円)、計21補助事業者が運行する161補助系統(補助金交付額計6億7454万余円)において、市町村が運賃補填の目的で回数券等を購入しており、運送収入に市町村からの運賃補填額(以下「市町村補填額」という。)が計上されていた。そこで、これらの市町村の補填が輸送実態を伴っているか確認したところ、次のとおり、回数券等を利用した住民等のバス利用がないなど、市町村の補填が輸送実態を伴っていない事態が見受けられた(27年度の2補助系統については(1)、(2)の事態が重複している。)。

(1) 市町村の補填を受けた補助事業者が回数券等を発券していなかったもの

26年度12補助事業者が運行する54補助系統(補助事業者に対して運賃補填を行っていた地方公共団体数46市町村)、27年度10補助事業者が運行する55補助系統(同43市町村)においては、補助事業者は、市町村補填額を回数券等の売上げとして運送収入に計上していた。しかし、いずれの補助事業者も、運賃補填を行った市町村から回数券等の管理が困難であるとの申出を受けたことなどから、実際には、市町村補填額に相当する回数券等を発券していなかった。このため、回数券等の売上げとして運送収入に計上された市町村補填額については、住民等のバス利用は全くなく、市町村補填額に対応した輸送実態はなかった。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

富山県高岡市の加越能バス株式会社は、平成26年度20補助系統で補助金6456万余円、27年度23補助系統で補助金6771万余円の交付を受けていた。このうち、26年度15補助系統(補助金交付額3879万余円)、27年度15補助系統(補助金交付額3623万余円)について、同会社は、補助系統が経由する富山県富山、高岡、氷見、砺波、小矢部、南砺、射水各市及び岐阜県大野郡白川村からの依頼等により、補助対象となる15人以上の輸送量を確保するために必要となる運送収入をあらかじめ算定し、不足する金額を24年度計5110万余円、25年度計5501万余円と通知して、各市村は同額を市町村補填額として支払っていた。そして、同会社は同額を団体乗車券等の売上げとして運送収入に計上していたが、実際には団体乗車券等は発券しておらず、市町村補填額に対応した輸送実態はなかった。

(2) 市町村が発券を受けた回数券等を配布していなかったもの

26年度8補助事業者が運行する25補助系統(同19市町)、27年度11補助事業者が運行する29補助系統(同23市町村)においては、補助事業者は、回数券等を市町村に発券するなどしていた。しかし、このうち26年度3補助事業者が運行する18補助系統(同12市町)、27年度7補助事業者が運行する23補助系統(同16市町村)においては、回数券等を住民に配布すると実際に運賃を支払ってバスを利用する住民が回数券等を使用することになり、運送収入が減少するおそれがあることから、運賃補填を行った市町村は回数券等を配布していなかった。このため、回数券等の売上げとして運送収入に計上された市町村補填額についても、住民等のバス利用は全くなく、市町村補填額に対応した輸送実態はなかった。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

北海道網走市の網走バス株式会社は、平成26年度6補助系統で補助金2933万余円、27年度6補助系統で補助金2997万余円の交付を受けていた。このうち26年度5補助系統(補助金交付額2327万余円)、27年度5補助系統(補助金交付額2357万余円)について、同会社は、補助系統が経由する北海道北見、網走両市、網走郡美幌、大空、斜里郡斜里、小清水各町からの依頼等により、補助対象となる15人以上の輸送量を確保するために必要となる運送収入をあらかじめ算定し、不足する金額を24年度2591万余円、25年度2706万余円と通知して、各市町は同額の回数券を購入していた。そして、同会社は同額を発券して回数券の売上げとして運送収入に計上していたが、各市町ではこれらの回数券を住民に配布すると、住民からの旅客運賃が回数券と置き換わり、配布しない場合と比べて運送収入が減少するおそれがあるため、回数券は使用しないこととしており、運送収入に計上された回数券による輸送実態はなかった。なお、北見、網走両市、美幌、大空、斜里各町では、回数券は配布せず保管しており、小清水町では、管理が煩雑であるため購入して1年間保管した後、廃棄処分としていた。

そして、輸送実態を伴っていない市町村補填額を運送収入から除いて輸送量を算定すると、市町村補填額が計上されていた26年度79補助系統、27年度82補助系統のうち、のとおり、それぞれ15補助事業者が運行する61補助系統(補助金交付額2億3641万余円)、15補助事業者が運行する64補助系統(補助金交付額2億4072万余円)、計16補助事業者が運行する125補助系統(補助金交付額計4億7714万余円)において15人未満となり、地域間幹線系統確保事業が輸送実態を反映していない生活交通計画に基づき実施されていて、地域の特性、実状に応じた最適な交通手段の提供に資するものとなっていなかった。

表 輸送実態を伴っていない市町村補填額を運送収入から除いて輸送量を算定すると15人未満となる補助系統

補助事業者 年度 補助系統 補助金交付額 運賃補填を行っていた市町村
  平成      
網走バス株式会社 26 5 2327万円 北海道北見、網走両市、網走郡美幌、大空、斜里郡斜里、小清水各町
27 5 2357万円
宗谷バス株式会社 26 7 6072万円 北海道稚内市、枝幸郡浜頓別、中頓別、枝幸、利尻郡利尻、利尻富士、紋別郡雄武各町、中川郡音威子府、宗谷郡猿払両村
27 7 6374万円
網走観光交通株式会社 26 北海道網走市、網走郡大空町
27 1 59万円
加越能バス株式会社 26 15 3879万円 富山県富山、高岡、氷見、砺波、小矢部、南砺、射水各市、岐阜県大野郡白川村
27 15 3623万円
京阪京都交通株式会社 26 2 501万円 京都府京都、亀岡、南丹各市
27 2 514万円
丹後海陸交通株式会社 26 5 1980万円 京都府福知山、宮津、京丹後各市、与謝郡伊根、与謝野両町
27 5 2436万円
京都交通株式会社 26 3 785万円 京都府福知山、舞鶴両市、福井県大飯郡高浜町
27 3 748万円
奈良交通株式会社 26 4 2520万円 奈良県桜井、五條、宇陀各市、吉野郡下市町、黒滝、天川、十津川、東吉野各村
27 5 2788万円
御坊南海バス株式会社 26 2 615万円 和歌山県御坊市、有田郡広川、日高郡印南両町
27 2 647万円
龍神自動車株式会社 26 2 732万円 和歌山県田辺市、日高郡みなべ町
27
中紀バス株式会社 26 1 191万円 和歌山県有田郡広川、日高郡由良両町
27 1 141万円
日ノ丸自動車株式会社 26 2 344万円 鳥取県鳥取、倉吉両市、東伯郡三朝町
27 2 414万円
日本交通株式会社 26 1 127万円 鳥取県鳥取、米子、倉吉各市、八頭郡若桜、八頭、東伯郡湯梨浜各町、西伯郡日吉津村
27 5 815万円
中鉄北部バス株式会社 26 3 922万円 岡山県津山市、苫田郡鏡野、久米郡美咲両町
27 3 1040万円
備北バス株式会社 26 1 261万円 岡山県新見市
27 1 271万円
琴参バス株式会社 26 8 2379万円 香川県丸亀、坂出両市、仲多度郡まんのう町
27 7 1839万円
26 61 2億3641万円
27 64 2億4072万円
合計 125 4億7714万円
(注)
表示単位未満を切り捨てているため、補助金交付額の合計は、計欄及び合計欄と一致しない。

また、協議会等は、前記回数券等の配布及び利用の状況について十分把握しないまま、生活交通計画を策定していた。

(改善を必要とする事態)

市町村補填額に対応した輸送実態がないにもかかわらず運送収入に計上され、この運送収入に基づく輸送量が生活交通計画に記載された結果、地域間幹線系統確保事業が地域の輸送実態を反映していない生活交通計画に基づき実施されていて、地域の特性、実状に応じた最適な交通手段の提供に資するものとなっていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

  • ア 補助事業者に対して、運送収入に計上できる市町村補填額は輸送実態を伴うことが必要であることを具体的に示していないこと
  • イ 協議会等に対して、市町村が発券を受けた回数券等の利用状況を把握するなどして、輸送量が地域の輸送実態を反映したものとなるよう求めていないこと

3 本院が要求する改善の処置

貴省は、人口減少や少子高齢化に伴い地域の生活交通の維持が年々困難となる中で、日常生活を営むに当たって必要不可欠な交通手段を確保、維持するために、様々な支援を実施している。

ついては、貴省において、地域間幹線系統確保事業が輸送実態を反映した適切な生活交通計画に基づき実施されることにより、地域の特性、実状に応じた最適な交通手段の提供に資するものとなるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 補助事業者に対して、運送収入に計上できる市町村補填額は輸送実態を伴うことが必要であることを具体的に示すこと
  • イ 協議会等に対して、市町村が発券を受けた回数券等の利用状況を把握するなどして、輸送量が地域の輸送実態を反映したものとなるよう指導すること