国土交通省は、独立行政法人住宅金融支援機構(以下「機構」という。)に対して、機構が行う証券化支援事業、東日本大震災に係る被災地の復興を支援するための住宅金融に関する事業等に係る金利の負担軽減等の措置による機構の減収に対応するために、住宅金融円滑化緊急対策費補助金、優良住宅整備促進事業等補助金及び災害復興住宅融資等緊急対策費補助金を交付している(以下、これらの補助金を合わせて「3補助金」という。)。
国土交通省は、3補助金について、各年度の必要額を見込むことが難しく、弾力的な支出が必要であるなどとして、年度ごとに必要額を措置するのではなく、事業実施期間における必要額の総額を見込んで一括して交付している。そして、機構は、一定の期間(以下「措置対象期間」という。)内に行った融資、買取り等に係る金利の負担軽減等の措置による利息収入の減収を補てんするため、3補助金として交付された資金(以下「補助金残高」という。)の一部を毎月取り崩していることから、短期的な運用によって流動性を確保する必要がある資金が常時一定程度見込まれることになる。そして、平成28年度末の補助金残高は、表1のとおり、計5494億5844万余円となっている。
なお、措置対象期間が終了した後も、措置対象期間に機構が行った融資、買取り等に係る機構の利息収入の減収が長期にわたり発生するため、補助金残高は継続的に取り崩されることになる。
表1 3補助金の措置対象期間及び平成28年度末の補助金残高
区分 | 措置対象期間 | 平成28年度末残高 |
---|---|---|
住宅金融円滑化緊急対策費補助金 | 平成22年1月29日~24年10月31日 | 276,238,312 |
優良住宅整備促進事業等補助金 | 27年2月9日~28年1月29日 | 88,519,267 |
災害復興住宅融資等緊急対策費補助金 | 23年5月2日~33年3月31日 | 184,700,870 |
計 | / | 549,458,449 |
また、国土交通省は、住宅金融円滑化緊急対策費補助金交付要綱(平成22年国住民支第184号)、優良住宅整備促進事業等補助金交付要綱(平成22年国住民支第3号)及び災害復興住宅融資等緊急対策費補助金交付要綱(平成23年国住民支第24号)(以下、これらを合わせて「交付要綱」という。)において、補助金残高の全てについて、その管理方法を信託業務を営む金融機関への金銭の信託によって運用することに限定している。これについて、国土交通省は、機構が国民その他の利害関係者に対する説明を行うためには、補助金残高を機構の他の資産と明確に区分して管理するとともに、補助金残高の運用から生ずる利息収入を機構の収益と区分して会計処理する必要があるためとしている。
日本銀行は、世界的に金融市場の動きが不安定となっており、家計や企業のインフレ期待が消滅するリスクを回避する必要があるとして、消費者物価の対前年度上昇率を2%とする「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、28年2月から、いわゆるマイナス金利政策を導入している。これにより、金融機関等が相互の資金決済等のために日本銀行に保有している当座預金(以下「日銀当座預金」という。)残高のうち一定期間における各金融機関の平均残高である基礎残高及び法定準備預金額等により構成されるマクロ加算残高の合算額を上回る額である政策金利残高に対してはマイナス0.1%の金利(以下「マイナス金利」という。)が適用されている。
これに伴い、国内の一部の信託銀行は、同年4月から、日銀当座預金残高のうち政策金利残高に係るマイナス金利に要する費用を直接顧客に請求し、転嫁しているが、預金口座に資金を預け入れる顧客に対してこのような費用を請求せず、転嫁していない金融機関もある。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、補助金残高の管理方法は適切かなどに着眼して、28年度末の補助金残高計5494億5844万余円を対象として、国土交通本省及び機構本店において、運用に要した費用等に関する運用状況報告書等を徴するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構は、交付要綱に基づき、補助金残高について、三菱UFJ信託銀行株式会社及び野村信託銀行株式会社(以下、両者を合わせて「2銀行」という。)に金銭の信託をしている。そして、2銀行は、短期に取り崩される見込みがない資金については債券で、短期に取り崩される見込みがある資金については日銀当座預金への預託等でそれぞれ運用している。28年度末の運用方法別の補助金残高は、表2のとおりであり、このうち日銀当座預金に預託されている額は、計2163億5501万余円に上っている。
表2 平成28年度末の運用方法別の補助金残高
区分 | 債券 | 日銀当座預金 | 譲渡性預金等 | 計 |
---|---|---|---|---|
住宅金融円滑化緊急対策費補助金 | 139,848,802 | 4,982,751 | 136,087,000 | 280,918,553 |
優良住宅整備促進事業等補助金 | 29,619,241 | 59,628,588 | 1,065,000 | 90,312,830 |
災害復興住宅融資等緊急対策費補助金 | 31,036,704 | 151,743,675 | 2,709,000 | 185,489,379 |
計 | 200,504,748 | 216,355,014 | 139,861,000 | 556,720,763 |
金銭の信託において、短期に取り崩す見込みがない資金については、機構の2銀行に対する指図により、債券で運用されているが、短期的な運用によって流動性を確保することが必要となる資金については、2銀行の判断により、譲渡性預金等で運用されている。しかし、現下の金利状況において、譲渡性預金の預入先が減少していることなどにより、2銀行は、短期に取崩しが必要となる資金の一部を日銀当座預金に預託せざるを得ない状況となっている。このため、金銭の信託を受けた2銀行は、日銀当座預金残高のうち政策金利残高に係るマイナス金利相当分の費用を直接機構に請求し、機構は当該費用を補助金残高から取り崩して支払っていた。
そして、補助金残高の中には、上記のとおり、短期的な運用によって流動性を確保する必要がある資金が一定程度見込まれるが、機構は、28年度においても、交付要綱に基づき、このような流動性を確保する必要がある資金を含めて金銭の信託による運用を行っていた。そのため、日銀当座預金に預託されている資金のうち、マイナス金利の適用を受けている政策金利残高について、表3のとおり、マイナス金利相当分の費用は、計9627万余円に上っていた。
表3 補助金残高のうち平成28年度の日銀当座預金残高に係るマイナス金利相当分の費用
区分 | マイナス金利相当分の費用 |
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住宅金融円滑化緊急対策費補助金 | 6,095 |
優良住宅整備促進事業等補助金 | 27,721 |
災害復興住宅融資等緊急対策費補助金 | 62,456 |
計 | 96,272 |
国土交通省は、前記の理由により、交付要綱において、補助金残高の管理方法を金銭の信託による運用のみに限定していた。しかし、補助金残高について金銭の信託による運用以外の管理方法を採った場合、補助金残高に係る運用資産額及び収益額を機構の貸借対照表及び損益計算書上で明示できなくなるものの、機構が補助金残高の運用資産及び収益を明確に区分し、財務諸表上の附属明細書に適切に表示等することで補助金残高の分別管理が可能である。
したがって、補助金残高の管理方法を金銭の信託による運用に限定せず、金利状況、流動性の確保が必要な資金の状況等を勘案しながら、日銀当座預金残高に係るマイナス金利相当分の費用を請求せず、転嫁していない金融機関への預金等により管理することを可能とした上で機構が分別管理を適切に行い、財務諸表上適切に表示等することで、補助金残高の分別管理という趣旨を損なうことなく、日銀当座預金残高に係るマイナス金利相当分の費用負担を軽減できると認められた。なお、金融機関への預金等を行う場合は、金融機関の収益に対する影響の有無等も踏まえ、金融機関と適切に協議を行う必要がある。
このように、日銀当座預金残高の一部に対してマイナス金利が適用されて以降、金融機関や運用方法によっては顧客にマイナス金利相当分の費用を転嫁する場合がある中で、補助金残高の運用において機構がマイナス金利相当分の費用を負担し、結果として、当該費用が補助金残高から取り崩されていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、国土交通省において、補助金残高の分別管理を重視して、交付要綱によりその管理方法を金銭の信託による運用のみに限定していたことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、29年9月に、3補助金の交付要綱を改正して補助金残高の管理方法を金銭の信託による運用のみに限定しないこととし、金利状況、流動性の確保が必要な資金の状況等を勘案しながら管理することを可能とすることにより、日銀当座預金残高に係るマイナス金利相当分の費用負担を軽減できるよう処置を講じた。