国土交通省は、道路法(昭和27年法律第180号)等に基づいて、国が行う直轄事業又は地方公共団体が行う国庫補助事業等(以下「補助事業」という。)として、トンネル工事を毎年度多数実施している。そして、国道事務所等及び地方公共団体(以下、これらを合わせて「事業主体」という。)は、トンネル工事期間中、掘削機械のせん孔水や油分等を含む建設機械の洗浄水(以下「工事使用水」という。)による濁水と、トンネル内の湧水に地山の掘削によって発生する粉じんや吹付コンクリートのセメント等が混入して発生する濁水とをトンネル外に排水している。事業主体は、これらの濁水を都道府県が定めた排水基準値以下に処理して河川等に放流する必要があるため、濁水処理設備を設置して処理することとしている。
事業主体は、工事使用水量については、各トンネル工事に使用する掘削機械や建設機械の種類等に基づき、単位時間当たりに一定量が発生するとして算出している。一方、トンネル内の湧水は、トンネルの坑口から掘削先端部までの延長(以下「掘削延長」という。)の全区間にわたって生じ、トンネルの掘削が進捗するのに伴い増加することとしていることから、トンネル内の湧水の量については、一般的に、掘削するトンネルの地質分類から推定するなどした単位時間当たりのトンネル1km当たりの湧水量(以下「単位湧水量」という。)に各トンネル工事における最長の掘削延長を乗じて算出している(以下、このように算出した湧水の量を「最大湧水量」という。)。そして、濁水処理設備の規格については、工事使用水量と最大湧水量とを合算した水量(以下「設計濁水量」という。)に基づくなどして選定している。
国土交通省制定の「土木工事標準積算基準書」及びこれを基に都道府県等がそれぞれ制定している積算基準(以下、これらを合わせて「積算基準等」という。)には、処理能力30m3/h又は60m3/hの規格の濁水処理設備を使用する場合の設置、撤去及び保守点検に係る歩掛かりが掲載されている。また、同省制定の「建設機械等損料算定表」(以下「損料算定表」という。)には、表1のとおり、処理能力20m3/h、30m3/h、60m3/h、100m3/h及び150m3/hの各規格の濁水処理設備の損料が掲載されている。
表1 損料算定表に掲載されている濁水処理設備の規格及び損料
規格 (処理能力) |
運転1日当たり損料(円/日) | |
---|---|---|
平成27年度 | 28年度 | |
20m3/h | 55,700 | 69,000 |
30m3/h | 67,100 | 83,000 |
60m3/h | 97,900 | 121,000 |
100m3/h | 113,000 | 139,000 |
150m3/h | 121,000 | 150,000 |
そして、事業主体は、設計濁水量を処理するための濁水処理費のうち、濁水処理設備の運転経費については、損料算定表に規格別に掲載されている運転1日当たりの損料に運転日数を乗ずるなどして算出している。また、設置撤去費及び保守点検費については、処理能力30m3/hの規格又は処理能力60m3/hの規格を選定した場合は積算基準等に基づき、処理能力30m3/h及び60m3/h以外の規格を選定した場合は見積りを徴するなどして算出している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、濁水処理設備の規格が、設計上処理すべき濁水量に応じて適切に選定されているかなどに着眼して、9地方整備局等(注1)管内の15国道事務所等(注2)、18道府県(注3)及び8市町(注4)の計41事業主体が平成27、28両年度に実施したトンネル工事計137工事(直轄事業60工事(契約金額計2535億7786万余円、濁水処理費の積算額計24億7344万余円)、補助事業77工事(契約金額計1715億8505万余円、国庫補助金等相当額計994億9300万余円、濁水処理費の積算額計18億5968万余円、国庫補助金等相当額計11億1911万余円))を対象として、国道事務所等において設計計算書、設計図面、施工計画書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記の137工事で施行している144トンネルの事業主体が当初設計で設置することとした濁水処理設備の規格についてみると、設計濁水量が20m3/h以下の54トンネルの事業主体のうち51トンネルの事業主体は、積算基準等に歩掛かりが掲載されている規格のうち処理能力30m3/hの規格を選定していた。しかし、損料算定表には、前記のとおり処理能力20m3/hの規格も掲載されていることから、設計濁水量が20m3/h以下の場合は処理能力20m3/hの規格を選定することにより、より経済的な設計となったと認められた(表2参照)。
また、設計濁水量が20m3/hを超える90トンネルの事業主体が選定した濁水処理設備の規格についてみると、63トンネルの事業主体は、工事の当初から設計濁水量に基づく規格の濁水処理設備を選定していた。しかし、前記のとおり、設計濁水量は単位湧水量に各トンネル工事における最長の掘削延長を乗ずるなどして算出していることから設計上処理すべき最大の濁水量であり、濁水処理設備の規格については、工事の当初は設計濁水量に基づき選定するのではなく、当面必要となる規格を選定することとして、トンネルの掘削の進捗により処理すべき濁水量が増加するのに伴い、現場条件等を考慮した上で設備を段階的に入れ替えるなどすることが可能であった。そして、上記63トンネルのうち8事業主体が施行した12トンネルは、入替えに係る設置撤去費を考慮しても、入れ替えることでより経済的な設計となったと認められた。現に、27トンネルの事業主体は、濁水処理設備を段階的に入れ替えるなどする経済的な設計を行っていた(表2参照)。
表2 設計濁水量と事業主体が当初設計で設置することとした濁水処理設備の規格
設計濁水量 | 事業主体が当初設計で設置することとした濁水処理設備の規格 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
20m3/h | 30m3/h | 60m3/h | 100m3/h | |||||
20m3/h以下 | 54 | 3 | 注(1) | 51 | 0 | 0 | ||
20m3/h超 30m3/h以下 |
51 | 0 | 51 | 0 | 0 | |||
30m3/h超 60m3/h以下 |
33 | 0 | 注(3) | 23 | 注(2) | 10 | 0 | |
60m3/h超 | 6 | 0 | 注(3) | 2 | 注(3) | 2 | 注(2) | 2 |
計 | 144 | 3 | 127 | 12 | 2 |
上記の事態について、濁水処理設備を段階的に入れ替えることでより経済的な設計とすることが可能であった事例を示すと次のとおりである。
<事例>
栃木県は、平成27年度に施行したトンネル工事(延長1,458.0m)で使用する濁水処理設備の規格について、設計濁水量が42.6m3/hであることから60m3/hの規格を選定して、運転1日当たり損料に運転日数461日を乗じて運転経費を算出し、これに設置撤去費を加えて、濁水処理費の積算額を5061万余円(交付金相当額2783万余円)と算定していた。
しかし、トンネルの掘削に応じて設備を段階的に入れ替えることとして、濁水量が30m3/hを下回る掘削延長600mまでの運転日数163日については処理能力30m3/hの規格で処理することとして、それ以降の運転日数298日については処理能力60m3/hの規格に入れ替えることとしていれば、濁水処理費の積算額は、入替えに係る設置撤去費を考慮しても4623万余円(交付金相当額2542万余円)となり、上記濁水処理費の積算額が437万余円(交付金相当額240万余円)低減されることから、より経済的な設計とすることが可能であった。
このように、濁水処理設備の規格の選定に当たり、設計濁水量が20m3/h以下の場合に処理能力20m3/hの規格を選定していなかったり、工事の当初から設計濁水量に基づく規格を選定していて、トンネルの掘削が進捗するのに伴い設備を段階的に入れ替えるなどしていなかったりしていたため、経済的な設計となっていない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた濁水処理費の積算額)
設計濁水量が20m3/h以下の場合に処理能力30m3/hの規格を選定した20事業主体が施行した51トンネル及び濁水処理設備を段階的に入れ替えるなどしていなかった8事業主体が施行した12トンネル、計63トンネル(濁水処理費の積算額計17億3351万余円(直轄事業24工事計9億4111万余円、補助事業36工事計7億9240万余円(国庫補助金等相当額計4億7410万余円)))の濁水処理設備について、処理能力20m3/hの規格を選定することとしたり、入替えに係る設置撤去費を考慮した上で濁水処理設備を段階的に入れ替えたりして濁水処理費の積算額を修正計算すると、濁水処理費の積算額は計15億1718万余円(直轄事業計8億2551万余円、補助事業計6億9167万余円)となり、上記濁水処理費の積算額を直轄事業で約1億1550万円、補助事業で約1億0070万円(国庫補助金等相当額6031万余円)低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、事業主体において、濁水処理設備の規格の選定に当たり、より経済的な設計とすることを検討していなかったことにもよるが、国土交通省において、事業主体に対して、設計濁水量に応じた適切な処理能力の規格を選定したり、トンネルの掘削が進捗するのに伴い設備を段階的に入れ替えるなどしたりすることを検討する必要性についての周知又は助言が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、29年9月に地方整備局等に対して通知を発して、濁水処理設備の規格の選定に当たっては、設計濁水量に応じた適切な処理能力の規格を選定したり、トンネルの掘削が進捗するのに伴い、現場条件等を考慮した上で設備を段階的に入れ替えるなどしたりすることを検討することにより、より経済的な設計となるよう、国道事務所等に対して周知するとともに、地方整備局等を通じて都道府県等に対しても同様に助言する処置を講じた。