国有財産台帳は、国有財産法(昭和23年法律第73号)に基づき各省各庁及びその国有財産に関する事務を分掌している部局等に備え付けられるものとされ、また、各省各庁の長又は部局等の長は、その所管又は所属に属する国有財産につき、取得、所管換、処分その他の理由に基づく変動があった場合には、それらの事実を直ちに国有財産台帳に記録する必要があるとされている。そして、各省各庁の長は、国有財産法施行令(昭和23年政令第246号)に基づき、その所管に属する国有財産につき、毎会計年度、当該年度末の現況において、財務大臣の定めるところにより評価し、その評価額により国有財産台帳価格を改定しなければならないこととされている。
国土交通省では、国土交通本省の大臣官房会計課長が国土交通省所管の国有財産に関する管理及び処分に関する事務(以下「国有財産に関する事務」という。)を総括しており、同省の外局である海上保安庁では、海上保安庁長官、管区海上保安本部長等の部局の長が、海上保安庁本庁(以下「本庁」という。)、管区海上保安本部(以下「管区本部」という。)等に所属する国有財産に関する事務を分掌している。また、同庁では、国有財産に関する事務について、本庁、管区本部等が国有財産取扱規則(以下「取扱規則」という。)等をそれぞれ定めている。
国有財産法等によれば、国有財産の価格に増減が生じた場合には、価格の増減事由及びその増減等を国有財産台帳に記録することとされている。そして、国有財産法施行細則(昭和23年大蔵省令第92号。以下「細則」という。)等によれば、船舶工事に係る国有財産の価格の増減事由には、主要構造を変更することなく改良した際の「模様替」、船舶の全面的改装等を行った際の「改造」、通信装置等の属具を新たに又は追加して取り付けた際の「属具取付」等があり、国有財産台帳に、当該価格の増減事由及びその増減等を記録することとされている一方、減耗、老朽化等を回復する修繕に該当する場合は価格を増減させないこととされている。
海上保安庁が保有する船舶のうち巡視船は、各管区本部に属する各海上保安部等に配属されていて、当該管区本部所属の国有財産とされており、各管区本部は、巡視船の工事を実施するに当たり、各管区本部において仕様書作成等の契約事務を実施している。そして、当該巡視船が配属されている海上保安部等の職員が給付の完了の確認を行う検査職員として任命されている。検査職員は、取扱規則によれば、給付の完了の確認を行った後、工事に伴う国有財産の価格の増減事由及びその増減等を記載した営繕工事等明細書(以下「明細書」という。)を当該海上保安部等が属する管区本部の経理補給部長(第四、八、九、十各管区本部においては総務部長。以下同じ。)に提出することとされている。
検査職員が明細書に記載する価格の増減事由及びその増減については、当該工事の予定価格調書の内訳書(以下「予定価格内訳書」という。)等に示された工事の項目(以下「工事項目」という。)から、増減事由に該当するものを選定してその増減事由を記載するとともに、当該工事項目の直接工事費の金額に諸経費を加え落札率を乗ずるなどして算出した価格を記載している。そして、経理補給部長は、明細書に基づき、価格の増減事由及びその増減等を国有財産台帳に記録することになっている。
海上保安庁は、就役後、長期間が経過して船体等の老朽化が進んでいるなどの巡視船については、船体腐食部の修繕、電気機器等の換装、船橋(せんきょう)区画の拡張、近年の国際情勢を踏まえた領海警備等の業務にも対応できる装置の設置等の多岐にわたる工事項目を内容とする延命・機能向上工事(以下「延命工事」という。)を実施している。これらの延命工事については、通常の巡視船の工事と異なり本庁が仕様書作成等の契約事務を実施し、巡視船が配属されている海上保安部等の職員が検査職員として任命されている。そして、平成25年度から28年度までの間に、第十一管区本部所属の「うるま」(26年6月29日までは第十管区本部に「はやと」として所属。以下「うるま(はやと)」という。)及び「おきなわ」並びに第一管区本部所属の「つがる」の計3隻の巡視船について延命工事を実施している。
国有財産法によれば、各省各庁の長は、その所管に属する国有財産について、国有財産台帳を基に毎会計年度間における増減及び毎会計年度末現在における現在額を集計して「国有財産増減及び現在額報告書」(以下「現在額報告書」という。)を作成し、翌年度の7月31日までに財務大臣に送付することとされている。そして、財務大臣は、各省各庁の長から送付された現在額報告書に基づき「国有財産増減及び現在額総計算書」(以下「総計算書」という。)を作成することとされている。また、内閣は、総計算書を現在額報告書とともに本院に送付し、本院の検査を経た総計算書を国会に報告することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、正確性、合規性等の観点から、国有財産台帳に巡視船の価格の増減事由及びその増減が適正に記録されているかなどに着眼して、25年度から28年度までの間に延命工事を実施した前記3隻の巡視船(28年度末の国有財産台帳価格計21億0829万余円)を対象として、本庁において、巡視船に係る延命工事の仕様書、予定価格内訳書等の国有財産の価格の増減に関する資料を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、第一、第十、第十一各管区本部から、国有財産台帳等の書類の提出を受けて、その内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
前記3隻の巡視船に係る延命工事の仕様書等によれば、延命工事の工事項目には、3隻とも細則等に基づく増減事由のうち「改造」に該当する船橋区画の拡張が含まれていたが、3隻の巡視船のいずれについても、国有財産台帳に「改造」による価格の増は記録されていなかった。また、各海上保安部等の検査職員が作成した明細書には、「改造」に該当する船橋区画の拡張工事に係る金額が記載されていなかった。そして、延命工事は工事項目が多岐にわたるため、工事項目には国有財産の価格の増減を伴うものと伴わないものとが混在しており、価格の増減事由に該当する工事項目の選定等が容易ではないものとなっていた。
そこで、本院が、延命工事を実施した前記の3隻について、改めて、予定価格内訳書等により、国有財産の価格の増減事由に該当する工事項目を選定するなどして適正な価格の増減事由及びその増減を検査したところ、表1のとおり、3隻とも価格の増減事由の記載が誤っており、価格の増減事由及びその増減等を記録すべき時点において、「うるま(はやと)」及び「おきなわ」はそれぞれ3億6115万余円、4億0424万余円過大、「つがる」は4億3127万余円過小となっていた。
表1 延命工事に伴う国有財産台帳価格の増減
巡視船名 | 国有財産台帳に記録されていた延命工事に伴う価格の増減 | 延命工事に伴う適正な価格の増減 | 差額 (A)―(B) |
||
---|---|---|---|---|---|
増減事由 | 増減(A) | 増減事由 | 増減(B) | ||
うるま(はやと) | 模様替 | 1,176,219 | 改造 | 116,066 | / |
/ | 属具取付 | 698,998 | |||
計 | 1,176,219 | 計 | 815,065 | 361,153 | |
おきなわ | 模様替 | 1,214,676 | 改造 | 151,523 | / |
/ | 属具取付 | 658,908 | |||
計 | 1,214,676 | 計 | 810,432 | 404,243 | |
つがる | 模様替 | 66,062 | 改造 | 157,057 | / |
属具取付 | 454,741 | 属具取付 | 795,020 | ||
計 | 520,803 | 計 | 952,078 | △431,275 |
そして、上記の3隻について延命工事に伴う適正な価格の増減を反映するなどして28年度末の適正な国有財産台帳価格を算定すると、表2のとおり、「うるま(はやと)」及び「おきなわ」はそれぞれ2億1669万余円、3億2339万余円、計5億4008万余円過大、「つがる」は3億4427万余円過小になっていた。
表2 過大又は過小となっていた平成28年度末の国有財産台帳価格
巡視船名 | 態様 | 平成28年度末の国有財産台帳価格
(A) |
延命工事に伴う増減の修正を反映した28年度末の国有財産台帳価格
(B) |
過大又は過小となっていた国有財産台帳価格
(A)―(B) |
---|---|---|---|---|
うるま(はやと) | 過大 | 712,714 | 496,021 | 216,692 |
おきなわ | 過大 | 971,740 | 648,345 | 323,395 |
つがる | 過小 | 423,844 | 768,118 | △344,273 |
計 | 過大 | / | / | 540,087 |
過小 | / | / | △344,273 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
第十一管区本部は、平成27年5月、延命工事が完了した「おきなわ」について、国有財産台帳に「模様替」による価格の増として12億1467万余円を記録していた。しかし、当該延命工事の予定価格内訳書等を確認したところ、「模様替」に該当する工事項目を含まないものであったことから、改めて、当該予定価格内訳書等により適正な価格の増減を算定すると、「改造」1億5152万余円の増、「属具取付」6億5890万余円の増、計8億1043万余円の増となり、国有財産台帳に延命工事に伴う価格の増減が4億0424万余円過大に記録されていた。そして、延命工事に伴う適正な価格の増減を反映するとともに、毎年度の台帳価格の改定を踏まえて算定すると、28年度末の適正な国有財産台帳価格は6億4834万余円となり、同年度末の国有財産台帳価格9億7174万余円は3億2339万余円過大になっていた。
このように、延命工事を実施した巡視船について国有財産台帳に適正な増減事由及びその増減が記録されておらず、その結果、現在額報告書等が国有財産の増減等を正確に反映したものとなっていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、仕様書作成等の契約事務を実施している本庁において、延命工事に係る価格の増減事由に該当する工事項目の選定等が容易ではないものとなっていたにもかかわらず、細則等に基づく価格の増減事由に該当する工事項目の選定方法や価格の算定方法等についての管区本部等に対する指導等がなされていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、海上保安庁は、29年8月に、前記の3隻について、国有財産台帳に適正な増減事由及びその増減を記録した。また、同庁は、同年9月に、延命工事を実施した巡視船について、国有財産台帳に適正な増減事由及びその増減を記録することができるよう、次のような処置を講じた。
ア 本庁において細則等に基づく価格の増減事由に該当する工事項目の選定方法や価格の算定方法を明確に示した指針を定めて、各管区本部に対して事務連絡を発して周知した。
イ 巡視船の延命工事を実施した際には、本庁が明細書に記載する価格の増減事由及びその増減を示した資料を作成して、これを管区本部に示すことで当該巡視船が所属する管区本部において国有財産台帳に適正な増減事由及びその増減が記録される体制を整備した。