この工事は、小笠原国立公園特別保護地区である東京都小笠原村兄島において、特定外来生物(注)に指定されているトカゲの一種であるグリーンアノールが島内の未生息域に侵入して、島内在来種である希少昆虫を捕食することを最小限にとどめるために、関東地方環境事務所(以下「事務所」という。)が、平成26年度に、生息域と未生息域とを遮断するための柵(高さ0.8m、1.0m及び1.8m。延長計2,703.8m。以下「防止柵」という。)の設置等を工事費389,806,560円で実施したものである。
防止柵は、樹脂ネット及びフッ素加工パネル等を支えるために、ステンレス異形鉄筋又はガラス繊維強化プラスチック製の主支柱を設置して、それぞれの主支柱に異形鉄筋の控え支柱を結合させたものである(参考図参照)。
事務所は、防止柵の設計を「自然公園等施設技術指針」(環境省自然環境局自然環境整備担当参事官室制定。以下「技術指針」という。)等に基づき行うこととしており、設置目的等を踏まえ、グリーンアノールが防止柵を跳び越えないよう、防止柵を設置する周囲に草木等がない場合は高さ0.8m又は1.0mの柵(延長計2,211.5m。以下「柵A」という。)を、草木等がある場合は高さ1.8mの柵(延長492.3m。以下「柵B」という。)を、それぞれ設置することとして、これにより施工していた。
本院は、合規性等の観点から、防止柵の設計が技術指針等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、事務所において、本件工事を対象に、設計図面、設計計算書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
技術指針等によれば、防止柵を含む自然公園等施設の設置に当たっては、当該施設の構造等の安全性について検討を行うことなどとされている。しかし、事務所は、柵A及び柵Bの設計に当たり、風荷重による転倒に対する安定計算を行っていなかった。
そこで、技術指針等に基づき、柵A及び柵Bの転倒に対する安定計算を行ったところ、柵Bにおいて、風荷重により控え支柱の基礎に作用する押込み力1.8kNが許容押込み支持力0.9kNを大幅に上回っていて、安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
したがって、本件工事のうち、柵B(延長492.3m)は設計が適切でなかったため、転倒するおそれがある状態になっており、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額74,189,832円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事務所において、防止柵の設計における風荷重による転倒に対する安定計算の必要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められる。
(参考図)
防止柵の概念図(地上部)
防止柵の断面概念図