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  • 平成28年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • (2) 補助金により造成した基金の使用が適切でなかったもの

再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金等により実施した事業において、設備の設計が適切でなかったり基金事業の対象とならない経費を含めていたりしていたもの[環境本省](286)―(290)


(5件 不当と認める国庫補助金 47,561,734円)

再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金及び再生可能エネルギー等導入推進基金は、環境省が東日本大震災による被災地域の復旧・復興や、原子力発電施設の事故を契機とした電力需要のひっ迫への対応の必要性に鑑み、再生可能エネルギー等を活用したエネルギーシステムの導入等を支援し、環境先進地域の構築に資する事業を実施することなどを目的として、都道府県及び政令指定都市(以下「事業主体」という。)に対して、平成23年度に地域環境保全対策費補助金(前者の基金に係るもの)を、24年度から26年度までの各年度に二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(後者の基金に係るもの)をそれぞれ交付して造成させたものである(以下、両基金を合わせて「基金」という。)。

事業主体は、「平成23年度地域環境保全対策費補助金(再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金)及び災害廃棄物処理促進費補助金(災害等廃棄物処理基金)交付要綱」(平成23年11月環境事務次官通知)、「再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金事業及び災害等廃棄物処理基金事業実施要領」(平成23年11月環境省総合環境政策局長及び大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長通知)、「平成23年度再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金事業の取扱いについて」(平成23年12月環境省総合環境政策局環境計画課通知)等(以下、これらを合わせて「要綱等」という。)に基づき、基金を財源として、地震等の災害時に避難所、災害対策本部等の防災拠点となる施設等において、太陽光発電設備、バイオマスボイラー(注1)、LED外灯等を設置するなどする事業(以下「基金事業」という。)を自ら実施するほか、基金事業を実施する市町村等に対して、基金を取り崩して補助金(以下、事業主体からの補助金を「県補助金」という。)を交付している。

(注1)
バイオマスボイラー  バイオマス(未利用間伐材等の再生可能な生物由来の有機性資源で化石燃料を除いたもの)を燃料とするボイラー

要綱等によれば、基金事業により設置される太陽光発電設備等は、地震等の災害が発生して電力会社からの電力供給が遮断された際に、上記の防災拠点となる施設等において必要な機能を確保するためのものであるとされている。また、基金事業の対象となる経費(以下「基金事業対象経費」という。)は、太陽光、バイオマス等の再生可能エネルギーに係る設備及びこれに附帯する蓄電池設備等の設備を導入する事業を実施するために必要な設計費、工事費等とされており、当該設備を設置するための建屋の建築工事に係る経費は基金事業の対象とならないとされている。

本院が事業主体である23道府県及び3政令指定都市並びに県補助金の交付を受けた251市町村等において会計実地検査を行ったところ、青森、島根、岡山、山口各県の4市町(注2)において、基金事業により実施した設備の設置工事において設計が適切でなく所要の安全度が確保されていなかったり、山形県において、基金事業の対象とならない経費を基金事業対象経費に含めていたりしていたため、取り崩された基金計47,561,734円(国庫補助金相当額同額)の使用が適切でなく、不当と認められる。

(注2)
4市町  青森、井原、長門各市、邑智郡川本町

このような事態が生じていたのは、4市町において設備の設計に当たり所要の安全度についての検討が十分でなかったこと、青森、島根、岡山、山口各県において市町に対する助言が十分でなかったこと、山形県において要綱等における基金事業対象経費についての理解が十分でなかったことなどによると認められる。

以上を事業主体別に示すと次のとおりである。

  部局等 補助事業者等
(事業主体)
補助事業等 実施年度 基金使用
左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める基金使用額 不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(286) 環境本省 青森県 再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金 25 18,251 18,251 18,251 18,251

青森県は、青森市に対して県補助金を交付しており、同市は、地震等の災害時に災害拠点病院となる青森市民病院の駐車場に、太陽光発電式蓄電池内蔵LED外灯(以下「ソーラーLED外灯」という。)10基を設置する工事を工事費18,270,000円(県補助金18,251,369円、国庫補助金相当額同額)で実施していた。

同市は、上記ソーラーLED外灯10基の設計を「照明用ポール強度計算基準JIL1003」(社団法人日本照明器具工業会編)、「道路標識ハンドブック2012年度版」(一般社団法人全国道路標識・標示業協会編)等に基づいて行っており、これらの基準等によれば、風荷重の算定の基となる設計風速は60m/sとすることとされており、ソーラーLED外灯の基礎の設計に当たっては、風荷重により基礎に加わる外力に対する抵抗力の比率(以下「外力に対する抵抗力の比率」という。)が、許容値である1.1以上となることなどを確認することとされている。

そして、同市は、前記ソーラーLED外灯10基の基礎の設計に当たり、土中への埋込み長さを1.5mとするなどして安定計算を行った結果、外力に対する抵抗力の比率が上記の許容値を上回ることから、安定計算上安全であるとして、これにより工事を発注していた。

しかし、同市は、本件工事の発注後に、請負人から、前記ソーラーLED外灯10基のうち4基の基礎について、設置予定箇所に埋設物があるため土中への埋込み長さを1.5mとすることが困難であるとの報告を受けたため、10基全ての基礎について、土中への埋込み長さを0.9mとする設計に変更していたのに、この設計変更に当たり、設計風速60m/sとして安定計算を行っていなかった(参考図1参照)。

そこで、基礎の安定計算を行ったところ、ソーラーLED外灯10基全てについて、外力に対する抵抗力の比率が0.50となり、許容値である1.1を大幅に下回っていて、安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

したがって、本件ソーラーLED外灯10基(工事費18,270,000円、国庫補助金相当額18,251,369円)は、基礎の設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっていた。

(参考図1)

ソーラーLED外灯の概念図

ソーラーLED外灯の概念図 画像

(287) 環境本省 山形県 再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金 25 13,020 13,020 3,958 3,958

山形県は、地震等の災害時に災害対策本部が設置される山形県庄内総合支庁に、空調設備の熱源としてバイオマスボイラー等を設置する工事の設計を設計費13,020,000円(基金事業対象経費同額、国庫補助金相当額同額)で実施していた。

しかし、上記の設計費には、基金事業の対象とならないバイオマスボイラー等を設置する建屋の建築工事に係る設計費3,958,941円が含まれていた。

したがって、上記建屋の建築工事に係る設計費は、基金事業の対象とは認められず、これに係る国庫補助金相当額3,958,941円が基金から過大に取り崩されて使用されていた。

(288) 環境本省 島根県 再生可能エネルギー等導入推進基金 25 27,180 27,180 7,509 7,509

島根県は、邑智郡川本町に対して県補助金を交付しており、同町は、地震等の災害時に避難所となる川本中学校校舎屋上等に、太陽光発電設備等を設置する工事を工事費27,457,500円(県補助金27,180,000円、国庫補助金相当額同額)で実施していた。このうち、太陽光発電設備は、校舎屋上の床面にコンクリート基礎を据え置いた上に、架台及び太陽光パネルを設置するものである。

同町は、上記太陽光発電設備の設計を「太陽電池アレイ用支持物設計標準」(財団法人日本規格協会発行)等に基づいて行っており、これらの基準等によれば、太陽光発電設備の基礎の設計に当たっては、地震時、暴風時等において基礎底面に作用する水平力が、基礎底面と床面との摩擦により生ずる滑動抵抗力を下回ることなどを確認することとされている。

そして、同町は、前記太陽光発電設備の基礎としてコンクリート基礎(縦0.45m、横0.45m、高さ0.60m)12基を築造することとし、当該基礎を校舎屋上の床面コンクリート(厚さ0.10m)及び防水層を削り取った部分に設置して、削り取られていない周りの床面コンクリートが押さえコンクリートになることによって当該基礎を固定することとする設計を行っており、これにより安定計算上安全であるとして工事を実施することとしていた(参考図2参照)。

しかし、同町は、本件工事の発注後に、請負人から、上記の設計に基づくコンクリート基礎の施工方法では、防水層の一部を削り取ることにより漏水するおそれがあることなどから、床面コンクリート及び防水層の撤去を行わず、校舎屋上の床面にコンクリート基礎(縦0.25m、横8.27m、高さ0.50m)4基を固定せずに据え置くこととする施工方法に変更したいとの協議を受け、これを承認して設計を変更していたが、設計変更後の安定計算を行っていなかった(参考図3参照)。

そこで、改めて太陽光発電設備の基礎の安定計算を行ったところ、地震時において基礎底面に作用する水平力は112.18kNとなり、基礎底面と床面との摩擦により生ずる滑動抵抗力35.56kNを大幅に上回っていて、安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

したがって、本件太陽光発電設備(工事費相当額7,786,604円、国庫補助金相当額7,509,452円)は、基礎の設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっていた。

(参考図2)

(当初設計)

(当初設計) 画像

(参考図3)

(変更設計)

(変更設計) 画像

(289) 環境本省 岡山県 再生可能エネルギー等導入推進基金 28 26,503 26,503 10,756 10,756

岡山県は、井原市に対して県補助金を交付しており、同市は、地震等の災害時に避難所となる芳井生涯学習センター(鉄筋コンクリート造り2階建て)に、太陽光発電設備、蓄電池設備等を設置する工事を工事費26,936,280円(県補助金26,503,317円、国庫補助金相当額同額)で実施していた。このうち、蓄電池設備(高さ185cm、幅100cm、奥行き94cm、重さ750㎏)は、同センター2階の床面にアンカーボルトで固定して設置するものである。

同市は、上記蓄電池設備の設計を「建築設備耐震設計・施工指針2014年版」(独立行政法人建築研究所監修。以下「耐震設計指針」という。)等に基づいて行っており、耐震設計指針等によれば、設備機器を固定するアンカーボルトの設計に当たっては、地震時に作用する引抜力(注3)が許容引抜力(注3)を上回らないようにすることとされており、設備機器を設置する施設等の種類、設備機器の設置場所等に応じて定められている係数である設計用標準震度を用いるなどして引抜力を算出することなどとされている。

そして、同市は、前記蓄電池設備の設計に当たり、設計用標準震度を1.5とするなどして耐震設計計算を行い、アンカーボルト4本(径12㎜、埋込み長さ60㎜)で床に固定すれば、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力5.91kN/本が許容引抜力6.70kN/本を上回らないことから、耐震設計上安全であるとして、これにより施工していた。

しかし、耐震設計指針によれば、2階建て建築物の2階に設備機器を設置する場合等に用いる設計用標準震度は1.5ではなく、2.0とすることとされている。

そこで、設計用標準震度を2.0として改めて耐震設計計算を行ったところ、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力は8.42kN/本となり、許容引抜力6.70kN/本を大幅に上回っていて、耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

したがって、本件蓄電池設備(工事費相当額10,756,843円、国庫補助金相当額同額)は、アンカーボルトの設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっていた。

(注3)
引抜力・許容引抜力  「引抜力」とは、機器等に地震力が作用する場合に、ボルトを引き抜こうとする力が作用するが、このときのボルト1本当たりに作用する力をいう。また、当該ボルトに作用することが許容される引抜力の上限を「許容引抜力」という。
(290) 環境本省 山口県 再生可能エネルギー等導入推進基金 27 17,820 17,820 7,085 7,085

山口県は、長門市に対して県補助金を交付しており、同市は、地震等の災害時に災害情報発信拠点となる長門市ケーブルテレビ放送センター屋上等に、太陽光発電設備等を設置する工事を工事費17,820,000円(県補助金同額、国庫補助金相当額同額)で実施していた。このうち、太陽光発電設備は、同センター屋上の床面にコンクリート基礎を据え置いた上に、架台及び太陽光パネルを設置するものである。

同市は、上記太陽光発電設備の設計を「太陽電池アレイ用支持物設計標準」(財団法人日本規格協会発行)等に基づいて行い、これにより同設備を設置していた。

しかし、上記の基準等によれば、太陽光発電設備の基礎の設計に当たっては、地震時、暴風時等において基礎底面に作用する水平力が、基礎底面と床面との摩擦により生ずる滑動抵抗力を下回ることなどを確認することとされているのに、同市は、この確認を行っていなかった。

そこで、前記の基準等に基づき太陽光発電設備の基礎の安定計算を行ったところ、地震時において基礎底面に作用する水平力は150.52kNとなり、基礎底面と床面との摩擦により生ずる滑動抵抗力37.63kNを大幅に上回っていて、安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

したがって、本件太陽光発電設備(工事費相当額7,085,129円、国庫補助金相当額同額)は、基礎の設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっていた。

(286)―(290)の計 102,774 102,774 47,561 47,561