【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
防災拠点施設に整備する太陽光発電設備等の設計等について
(平成29年10月24日付け 環境大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴省は、東日本大震災による被災地域の復旧・復興や、原子力発電施設の事故を契機とした電力需給のひっ迫への対応の必要性等に鑑み、平成23年度から26年度までの各年度に、再生可能エネルギー等の地域資源を活用した災害に強い自立・分散型エネルギーシステムの導入等を支援することなどを目的として、各都道府県及び政令指定都市(以下「都道府県等」という。)に対して、地域環境保全対策費補助金又は二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金を交付し、再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金又は再生可能エネルギー等導入推進基金を造成させて、当該基金を造成させた都道府県等にその管理等を行わせている(以下、これらの基金を「基金」という。)(表1参照)。
また、貴省は、27年度に、再生可能エネルギー等を活用した災害に強い自立・分散型エネルギーシステムを導入し、「災害に強く、低炭素な地域づくり」を早期に実現することを目的として、一般財団法人環境イノベーション情報機構(以下「機構」という。)に対して、二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金を交付している(表1参照)。
表1 年度別の再生可能エネルギー等を活用した災害に強い自立・分散型エネルギーシステムに係る国庫補助金の概要
年度 | 国庫補助金の名称 | 交付要綱 | 国庫補助等の概要 |
---|---|---|---|
平成 23 |
平成23年度地域環境保全対策費補助金(再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金) | 平成23年度地域環境保全対策費補助金(再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金)及び災害廃棄物処理促進費補助金(災害等廃棄物処理基金)交付要綱(平成23年11月環境事務次官通知) | 都道府県等を対象として国が交付
交付を受けた都道府県等は基金を造成 |
24 | 平成24年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(再生可能エネルギー等導入推進基金) | 平成24年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(再生可能エネルギー等導入推進基金)交付要綱(平成24年5月環境事務次官通知) | |
25 | 平成25年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(再生可能エネルギー等導入推進基金事業) | 平成25年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(再生可能エネルギー等導入推進基金事業)交付要綱(平成25年5月環境事務次官通知) | |
26 | 平成26年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(再生可能エネルギー等導入推進基金事業) | 平成26年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(再生可能エネルギー等導入推進基金事業)交付要綱(平成26年6月環境事務次官通知) | |
27 | 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(防災拠点等への再生可能エネルギー等導入推進事業) | 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(防災拠点等への再生可能エネルギー等導入推進事業)交付要綱(平成27年4月環境大臣通知) | 機構に対して国が交付 |
都道府県等は、「再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金事業及び災害等廃棄物処理基金事業実施要領」(平成23年11月環境省総合環境政策局長及び大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長通知)等に基づき、災害時の避難所、災害対策本部等の防災拠点となる施設等(以下「防災拠点施設」という。)において、基金を活用して、太陽光等の再生可能エネルギーを利用した設備を整備する事業(以下「整備事業」という。)を自ら実施するほか、管内の市町村等が実施する整備事業に対して、補助金を交付している。
また、機構は、「防災拠点等への再生可能エネルギー等導入推進事業実施要領」(平成27年4月環境省総合環境政策局長通知)等に基づき、地方公共団体が実施する整備事業に対して、貴省から交付された国庫補助金の範囲内において補助金を交付している。
整備事業のうち、太陽光を利用した発電設備(以下「太陽光発電設備」という。)は、太陽光パネル、パワーコンディショナ(注1)等で構成され、太陽光パネルにより発電した電力を防災拠点施設内に供給する設備である。
「再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金事業の取扱いについて」(平成23年12月環境省総合環境政策局環境計画課通知)等によれば、整備事業により整備する設備については、災害等により電力会社から供給される商用電力が遮断された際(以下「災害等による停電時」という。)に、防災拠点施設において必要とされる最低限の機能を維持することを目的とすることとされている。
太陽光発電設備を整備する際には、災害等による停電時に、太陽光パネルで発電される電力だけでは天候により電力の供給が不安定になったり、夜間は太陽光パネルで発電できなかったりすることから、蓄電池からの電力をバックアップ電力(太陽光パネルからの電力が小さい、あるいは全くない場合に、これを補完する電力をいう。以下同じ。)とするなどのために、蓄電池設備の整備が必要となっている。
また、平常時には、商用電力をバックアップ電力として用いることにより、太陽光パネルにより発電した電力を利用することができるものとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、整備された太陽光発電設備等は、災害等による停電時に、発電した電力を防災拠点施設内に安定的に供給することができるよう適切に設計されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、24年度から28年度までの間に、整備事業を自ら実施した20府県市(注2)及び24道府県等(注3)から補助金の交付を受けた255市町村等、計275府県市町村等が実施した整備事業計726事業(事業費計394億1387万余円、国庫補助金相当額計219億5685万余円)を対象として、設計図書及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
整備事業を実施した275府県市町村等は、整備する太陽光パネルの発電規模が大きいなどの場合には、当該太陽光パネルからの電力を供給する系統を複数設ける設計を行い、それぞれの系統において電力を供給することにしている。そして、災害等による停電時には、それぞれの系統ごとに整備されている蓄電池設備からの電力をそれぞれの系統のバックアップ電力として、太陽光パネルからの電力を災害等による停電時に電力を供給するための専用回路に安定的に供給することとしていた。
しかし、上記275府県市町村等のうち、6県等(注4)における12県市町村等(注5)が、24年度から27年度までの間に実施した整備事業計36事業(事業費計11億5562万余円、国庫補助金相当額計8億8915万余円)において防災拠点施設に整備した太陽光発電設備等計36設備については、計88系統(太陽光パネル発電量計592.7kW)のうち計45系統(同計322.4kW)について、蓄電池設備及び専用回路(以下、蓄電池設備と専用回路を合わせて「蓄電池設備等」という。)を設ける設計とせずに整備していた(表2参照)。
表2 太陽光発電設備の一部の系統において蓄電池設備等を設ける設計としていなかった県市町村等の状況
補助事業者 | 整備事業を実施した県市町村等 |
整備事業実施年度 |
整備事業数 | 整備した系統数 | 左のうち蓄電池設備等が整備されていない系統数 |
---|---|---|---|---|---|
青森県 | 上北郡七戸町 | 25 | 2 | 7 | 3 |
秋田県 | 大館市 | 24、25 | 1 | 3 | 1 |
山本郡三種町 | 25、26 | 9 | 18 | 9 | |
山本郡八峰町 | 25、26 | 4 | 8 | 4 | |
南秋田郡五城目町 | 24、25、27 | 3 | 8 | 5 | |
南秋田郡大潟村 | 25 | 1 | 8 | 5 | |
秋田空港ターミナルビル株式会社 | 25 | 1 | 4 | 3 | |
栃木県 | 栃木県 | 25~27 | 10 | 20 | 10 |
和歌山県 | 田辺市 | 27 | 2 | 4 | 2 |
高知県 | 安芸郡安田町 | 26 | 1 | 2 | 1 |
幡多郡黒潮町 | 27 | 1 | 2 | 1 | |
一般財団法人環境イノベーション情報機構 | 南牟婁郡紀宝町 | 27 | 1 | 4 | 1 |
計 | 36 | 88 | 45 |
このため、蓄電池設備等が整備されていない系統(当該系統に係る太陽光パネル及びパワーコンディショナの事業費相当額計1億5258万余円、国庫補助金相当額計1億4448万余円)においては、平常時は、商用電力をバックアップ電力として用いることにより、発電した電力を供給することができる状態となっていたものの、災害等による停電時には、発電した電力を供給することができない状態となっていた(図参照)。
図 2系統のうち1系統(系統2)に蓄電池設備等を整備していなかったものの例
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
三重県南牟婁郡紀宝町は、平成27年度に、同町の地域防災計画において避難所として位置付けられている生涯学習センターの建物に、太陽光発電設備等を整備する事業を事業費64,692,000円で実施し、機構から補助金64,692,000円(国庫補助金相当額同額)の交付を受けていた。
そして、同町は、太陽光パネル計168枚(太陽光パネル発電量計40.3kW)を整備することとし、太陽光パネルからの電力の供給については、計42枚(同計10.0kW)を1系統として計4系統とする設計を行い、このうち3系統については蓄電池設備等を設けることとして、これに基づき整備を行っていた。しかし、上記4系統のうち、1系統(計42枚、太陽光パネル発電量計10.0kW)については、蓄電池設備等を設ける設計とせずに整備していた。このため、当該1系統(当該系統に係る太陽光パネル及びパワーコンディショナの事業費相当額5,971,570円、国庫補助金相当額同額)については、災害等による停電時に、発電した電力を同センター内に供給することができない状態となっていた。
(是正及び是正改善を必要とする事態)
防災拠点施設において整備された太陽光発電設備等のうち、一部の系統において、蓄電池設備等が整備されていないため、災害等による停電時に、発電した電力を供給することができない事態は適切でなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
太陽光発電設備等は、災害等による停電時に、発電した電力を防災拠点施設に供給することを目的としている。
ついては、貴省において、整備事業により整備した太陽光発電設備等について、災害等による停電時に、発電した電力を防災拠点施設内に安定的に供給することができるよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。