【是正改善の処置を求めたものの全文】
除染工事等に適用される共通仮設費率及び現場管理費率について
(平成29年10月30日付け 環境大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
国は、東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「特措法」という。)を制定している。特措法によれば、環境大臣は、国が除染等の措置等(注1)を実施する必要がある地域を除染特別地域(注2)に指定することができ、国は同地域について除染等の措置等を実施しなければならないこととされている(以下、この事業を「直轄除染事業」という。)。
また、特措法等によれば、環境大臣は、除染特別地域を除いた地域のうち環境の汚染の状況について重点的に調査測定をすることが必要な地域を汚染状況重点調査地域(以下「重点地域」という。)として指定することとされている。そして、都道府県知事及び市町村長は、重点地域内の環境汚染の状況について調査測定をした結果等により、空間線量率が一定以上となる区域について除染実施計画を定めることとされ、都道府県、市町村等は、除染実施計画に従って、除染等の措置等を実施しなければならないこととされている(以下、この事業を「市町村等除染事業」といい、直轄除染事業と合わせて「除染事業」という。)。
そして、貴省は、福島県内における市町村等除染事業を行うために、同県に対して、放射線量低減対策特別緊急事業費補助金を交付し、同県は、同補助金により福島県民健康管理基金を造成し、同基金を取り崩して、自ら除染等の措置等を実施するほか、除染実施計画に従って除染等の措置等を実施する管内市町村等に対して、実施に要した費用の全額を交付金として交付している。
除染事業では、放射線量の低減を図るために、住宅屋根、路面等の清掃や、除草、表土等の除去等の作業を行う除染工事が実施され、また、除染工事において除去した汚染土壌等を中間貯蔵施設に搬出するまでの間、これを一時保管するために必要となる仮置場の造成工事(以下、これらの工事を「除染工事等」という。)が実施されている。
貴省は、貴省制定の「除染特別地域における除染等工事暫定積算基準」(以下「直轄除染積算基準」という。)に基づき除染工事等の工事費を積算しており、福島県及び管内市町村等は、直轄除染積算基準に準拠して福島県が制定した「福島県除染作業暫定積算基準」(以下、これらの積算基準を「除染積算基準」という。)等に基づき除染工事等の工事費を積算している。
除染積算基準によれば、工事費は、図のとおり、直接工事費と間接工事費を合算した工事原価に一般管理費等を加算して、工事価格を算定し、これに消費税及び地方消費税相当額を加算して算定することとされている。
図 工事費の積算体系図
間接工事費のうち、共通仮設費は、作業上必要となる資機材等の運搬費、作業地域内の安全管理上の監視、連絡等に要する安全費、営繕費等の費用に充てられるものであり、また、現場管理費は、現場において作業を実施するために必要な労務管理費、安全訓練費等の費用に充てられるものである。そして、共通仮設費の算定に当たっては直接工事費を算定対象額として、現場管理費の算定に当たっては純工事費を算定対象額として、それぞれの算定対象額に所定の共通仮設費率又は現場管理費率を乗ずるなどして算定することとされている。
そして、貴省は、除染工事等の開始に際して、除染工事等の工事実績がないため、直轄除染積算基準における共通仮設費率及び現場管理費率の決定のための実態調査を実施することができなかったことなどから、除染工事等の内容が、国土交通省の実施する道路維持工事における除草や道路清掃等に類似しているなどとして、直轄除染積算基準における共通仮設費率及び現場管理費率について、国土交通省制定の「土木工事標準積算基準書」(以下「国交省積算基準」という。)における道路維持工事の共通仮設費率及び現場管理費率を準用している。
国交省積算基準における道路維持工事では、共通仮設費率及び現場管理費率は、算定対象額が増加するに従って逓減しているが、算定対象額が1億円を超えると、共通仮設費率及び現場管理費率は逓減せずに下限となる一定の率(以下「下限率」という。)とされている(表1参照)。
表1 除染工事等及び道路維持工事における算定対象額と共通仮設費率及び現場管理費率
共通仮設費率 | 現場管理費率 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
算定対象額
\
適用区分
\
工種区分 |
200万円以下 | 200万円を超え1億円以下 | 1億円を超えるもの | 200万円以下 | 200万円を超え1億円以下 | 1億円を超えるもの | |||
下記の率とする | 下記の算定式により算出された率とする。ただし、変数値は下記による | 下記の率とする | 下記の率とする | 下記の算定式により算出された率とする。ただし、変数値は下記による | 下記の率とする | ||||
A | b | A | b | ||||||
道路維持工事 | 26年度 | 28.49 | 34596.3 | -0.4895 | 4.20 | 47.02 | 264.7 | -0.1191 | 29.51 |
27年度 | 28.49 | 34596.3 | -0.4895 | 4.20 | 51.14 | 316.8 | -0.1257 | 31.27 | |
28年度 | 23.94 | 4118.1 | -0.3548 | 5.97 | 58.61 | 605.1 | -0.1609 | 31.23 | |
算定式 Kr=A・Pb ただし、Kr:共通仮設費率(%) P:対象額(円) A・b:変数値 Jo=A・Pb ただし、Jo:現場管理費率(%) P:対象額(円) A・b:変数値 |
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
除染工事等が開始されてから3年以上が経過しその実績が積み重ねられたこと、また、除染工事等は、今後も実施されることが見込まれ、その規模も大きいことから、本院は、経済性等の観点から、除染工事等の工事費の積算が工事の実績を踏まえた適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、除染特別地域及び福島県内の重点地域において、除染工事等が開始されて3年以上が経過した平成27年4月から28年12月末までの間にしゅん功した除染工事等のうち、直轄除染事業の一環として貴省が実施した除染工事等(以下「直轄除染工事」という。)11工事(契約金額計3090億2076万円)並びに市町村等除染事業の一環として福島県及び管内24市町村(注3)が実施した除染工事等(以下「市町村等除染工事」という。)674工事(契約金額計2716億1775万余円、国庫補助金交付額2715億9313万余円)を対象として、貴省本省及び貴省福島環境再生事務所(29年7月14日以降は福島地方環境事務所)並びに福島県及び同県管内の24市町村において、契約書、設計書、積算基準等の関係書類及び現地の状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
検査した直轄除染工事11工事及び市町村等除染工事674工事計685工事について、間接工事費の算定対象額を確認したところ、共通仮設費に対する算定対象額が1億円を超えるものは、直轄除染工事において11工事(契約金額計3090億2076万円)、市町村等除染工事において228工事(契約金額計2474億7390万余円、国庫補助金同額)計239工事(契約金額計5564億9466万余円)となっていた。また、現場管理費に対する算定対象額が1億円を超えるものは直轄除染工事において上記の11工事(契約金額計3090億2076万円)、市町村等除染工事において上記の228工事に16工事を加えた244工事(契約金額計2511億2986万余円、国庫補助金同額)計255工事(契約金額計5601億5062万余円)となっていて、契約金額は全体685工事計5806億3851万余円の約96%を占めている状況であった。そして、上記239工事の共通仮設費及び上記255工事の現場管理費は、それぞれの算定対象額が1億円を超えることから、共通仮設費率及び現場管理費率の下限率を用いて、これに、被災地に係る補正係数を乗ずるなどして算定されていた。
一方、上記の共通仮設費率及び現場管理費率は、前記のとおり、国交省積算基準の共通仮設費率及び現場管理費率を準用しており、国交省積算基準において、国土交通省は、実態調査の結果を踏まえて、工事の規模等に応じて逓減する共通仮設費率及び現場管理費率を設定している。これは現場事務所の営繕費等の共通仮設費や現場従業員の給与等の現場管理費は工事の規模が大きくなると増加するものの、必ずしも工事の規模に比例して増加はしないことなどから、共通仮設費率及び現場管理費率は算定対象額の増加に伴って逓減することとなるためである。また、同省は、国交省積算基準における道路維持工事の共通仮設費率及び現場管理費率の設定において算定対象額が1億円を超えると共通仮設費率及び現場管理費率を一定としているのは、算定対象額が1億円を超える道路維持工事の実態が少ないためとしている。
これに対して、国土交通省が実施する道路維持工事よりも規模の大きな道路維持工事を実施している東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社及び西日本高速道路株式会社は、実態調査の結果を踏まえて、国交省積算基準における道路維持工事と同様の共通仮設費率及び現場管理費率を用いているが、算定対象額が1億円を超える工事が多数あることなどから、工事の実態に応じて、算定対象額が1億円を超えても逓減する率を適用することとしている。
貴省及び郡山市、白河市、本宮市、桑折町、国見町の5市町は、除染工事等の実施に当たり、契約時に請負工事契約書に基づいて当該工事を実施するために必要となる費用の見積額を記載した工事費内訳書を施工業者から提出させている。そこで、本院は、算定対象額が1億円を超えている除染工事等で、工事費内訳書において共通仮設費及び現場管理費の詳細が確認できるなどの32工事について、工事費内訳書における直接工事費に対する共通仮設費の割合、純工事費に対する現場管理費の割合等により共通仮設費率及び現場管理費率を推計した。その結果、表2のとおり、32工事において、工事費内訳書から推計した共通仮設費率が除染積算基準上の共通仮設費率(4.44%~9.30%)より低いものが16工事に対して高いものは8工事となっていた。そして、32工事における共通仮設費率の差の平均値は工事費内訳書から推計した共通仮設費率の方が0.33ポイント低いものとなっていた。また、32工事において、工事費内訳書から推計した現場管理費率が除染積算基準上の現場管理費率(29.66%~38.72%)より低いものが23工事に対して高いものは8工事となっていた。そして、32工事における現場管理費率の差の平均値は工事費内訳書から推計した現場管理費率の方が4.46ポイント低いものとなっていた。
表2 工事費内訳書から推計した共通仮設費率及び現場管理費率と除染積算基準上用いている共通仮設費率及び現場管理費率との比較等
\ | 工事費内訳書から推計した率と除染積算基準上用いている率との比較 | 工事件数計 | |||
---|---|---|---|---|---|
推計した率の方が低いものとなっていた工事件数 | 推計した率と同率のものとなっていた工事件数 | 推計した率の方が高いものとなっていた工事件数 | |||
直轄除染事業 |
共通仮設費率 | 2件 | 4件 | 2件 | 8件 |
現場管理費率 | 5件 | 1件 | 2件 | 8件 | |
市町村等除染事業 |
共通仮設費率 | 14件 | 4件 | 6件 | 24件 |
現場管理費率 | 18件 | 0件 | 6件 | 24件 | |
全体 |
共通仮設費率 | 16件 | 8件 | 8件 | 32件 |
現場管理費率 | 23件 | 1件 | 8件 | 32件 | |
工事費内訳書から推計した共通仮設費率と除染積算基準上用いている共通仮設費率の差 | -4.61ポイント~ -0.01ポイント |
― | 0.01ポイント~ 2.66ポイント |
32件における共通仮設費率の差の平均値 | |
-0.33ポイント | |||||
工事費内訳書から推計した現場管理費率と除染積算基準上用いている現場管理費率の差 | -26.22ポイント~ -0.01ポイント |
― | 0.06ポイント~ 3.77ポイント |
32件における現場管理費率の差の平均値 | |
-4.46ポイント |
このように、除染工事等は、国土交通省における道路維持工事とは異なり、間接工事費に対する算定対象額が1億円を超える工事が多数ある状況となっており、また、上記の32工事においては、工事費内訳書から推計した共通仮設費率及び現場管理費率が除染積算基準上の共通仮設費率及び現場管理費率より低い工事が、高い工事よりも多く見受けられ、それぞれの共通仮設費率及び現場管理費率の差の平均値は工事費内訳書から推計した共通仮設費率及び現場管理費率の方が低い状況となっている。
したがって、除染工事等の積算に当たっては、算定対象額が1億円を超える場合に、共通仮設費率及び現場管理費率の下限率を一律に用いて間接工事費を算定するのではなく、除染工事等における工事規模の実態に即した共通仮設費率及び現場管理費率を調査の上、設定し、これを用いて算定すれば、共通仮設費及び現場管理費を相当額低減できたと認められる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
貴省福島環境再生事務所は、平成26年度に福島県南相馬市において「平成25年度南相馬市除染等工事(その3)」を契約金額32,724,000,000円で実施している。同事務所は本件工事費の積算を直轄除染積算基準に基づき実施しており、間接工事費については、共通仮設費に対する算定対象額を15,285,045,106円、現場管理費に対する算定対象額を20,533,128,049円として、それぞれ1億円を超えることから、共通仮設費率及び現場管理費率の下限率を用いるなどして算定していた。
しかし、本院が、本件工事を実施するに当たり施工業者から提出された工事費内訳書から共通仮設費率及び現場管理費率を推計したところ、工事費内訳書における共通仮設費は1,400,408,000円とされており、直接工事費が24,610,819,875円であることから、共通仮設費率は5.69%となり、除染積算基準上の共通仮設費率6.3%(下限率の4.2%に被災地に係る補正係数を乗じたもの)に対して0.61ポイント低くなっていた。また、工事費内訳書における現場管理費は9,324,115,000円とされており、直接工事費と共通仮設費とを合算した純工事費が27,617,217,052円であることから、現場管理費率は33.76%となり、除染積算基準上の現場管理費率35.41%(下限率の29.51%に被災地に係る補正係数を乗じたもの)に対して1.65ポイント低くなっていた。
(是正改善を必要とする事態)
除染工事等における工事費の積算について、除染工事等の実績が積み重ねられ、その実態を把握することが可能となっている中で、実態調査を行わずに、算定対象額が1億円を超える場合に、共通仮設費率及び現場管理費率の下限率を一律に用いて算定していて、工事規模の実態に即した共通仮設費率及び現場管理費率に基づいた共通仮設費及び現場管理費の算定がなされていない事態は適切でなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、工事規模の実態に即した共通仮設費率及び現場管理費率を適切に設定する必要があることについての認識が欠けていることなどによると認められる。
除染事業等においては、今後も除染特別地域における除染工事、重点地域におけるフォローアップ除染、仮置場の整備等が見込まれている。
ついては、貴省において、除染工事等に係る工事費の積算が工事規模の実態に即したものとなるよう、実態調査を行うなどして適切な共通仮設費率及び現場管理費率を設定するとともに、事業の実施主体に対してこれを周知するよう是正改善の処置を求める。