この工事は、海上自衛隊佐世保地方総監部(以下「佐世保地方総監部」という。)が、平成26、27両年度に、沖縄基地隊(以下「基地隊」という。)が所在する沖縄県うるま市勝連平敷屋地先において、えい船(注1)を係留する浮桟橋を更新するために、浮桟橋に係る設計図面、施工計画書等(以下「設計図書等」という。)の作成や浮函(かん)(注2)、係留アンカー等の製作及び施工を一体とした工事を随意契約により、ゼニヤ海洋サービス株式会社(以下「会社」という。)に工事費計142,765,200円で請け負わせて実施したものである。そして、佐世保地方総監部は、会社が作成した設計図書等の承諾や出来形等の確認を基地隊に行わせている。
浮桟橋は、潮位の干満に合わせて上下する特徴を有しており、浮函、浮函と岸壁を結ぶ連絡橋、係留アンカー、係留アンカーに浮函を係留する係留チェーン等で構成されている。
浮桟橋の整備については、前記契約の仕様書において、「港湾の施設の技術上の基準を定める省令」(平成19年国土交通省令第15号。以下「省令」という。)に基づき、船舶の安全かつ円滑な係留、人の安全かつ円滑な乗降及び貨物の安全かつ円滑な荷役が行えるよう、国土交通大臣が定める要件を満たすこととなっている。そして、省令の「国土交通大臣が定める要件」とは、「港湾の施設の技術上の基準の細目を定める告示」(平成19年国土交通省告示第395号)及び「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(国土交通省港湾局監修。以下「技術基準」という。)によれば、浮桟橋を整備する際の所要の水深は、対象船舶の利用に支障を及ぼさない適切な値とするために、対象船舶の満載喫水等の最大喫水に対象船舶に応じた余裕水深(対象船舶の最大喫水のおおむね10%)を加えた値として設定することなどとされている。
会社は、係留アンカーの設計に当たり、当該浮桟橋に係留する4隻のえい船の最大喫水が2.9m又は2.3mであることから、技術基準に基づき、所要の水深を、対象船舶の最大喫水2.9mに余裕水深0.3mを加えた3.2mと設定していた。
また、会社は、浮函(長さ46.0m、幅10.0m、高さ2.5m)を係留するために、コンクリートブロック製の係留アンカー(縦3.0m、横3.0m、高さ2.0m、計4基)を岸壁側の浅瀬の海底に2基及び沖側の海底に2基(以下「沖側係留アンカー」という。)設置し、4本の係留チェーンを使用して浮函と係留アンカー4基をつなぐこととしていた。このうち、沖側係留アンカーについては、会社は、海面から沖側係留アンカーを設置する海底面までの水深を5.5mとしていた。そして、会社は、沖側係留アンカーの直上をえい船が航行する位置に設置することになるが、高さ2.0mの沖側係留アンカーを海底に直置きしたとしても、海面から沖側係留アンカーの上端部までの水深は3.5mとなり、所要の水深3.2mを確保できるとして、沖側係留アンカーを海底に直置きする設計としていた。その後、会社は、設計図書等の承諾願を基地隊に提出し、基地隊の承諾を得た上で、これにより施工していた。
本院は、合規性等の観点から、浮桟橋の設計が省令等に基づいた適切なものとなっているかなどに着眼して、本件工事を対象として、佐世保地方総監部及び基地隊において、設計図書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
会社は、本件契約後、基地隊から浮桟橋を設置する海面の水深が5.5mであるとの説明を受けていた。その後、27年4月に、浮桟橋を設置する海面の水深を計測したところ、その水深が4.3mであることを把握していたにもかかわらず、海面から沖側係留アンカーを設置する海底面までの水深を誤って5.5mとした設計図書等の承諾願を、同年7月に基地隊に提出していた。そして、基地隊は、提出された設計図書等を十分に確認しないままこれを承諾していた。
そして、上記の設計図書等に基づき、高さ2.0mの沖側係留アンカーを海底に直置きしたことにより、海面から沖側係留アンカーの上端部までの水深は、前記の3.5mではなく2.3mとなり、前記所要の水深3.2mが確保されていない状況となっていた。そのため、当該浮桟橋に係留するえい船(最大喫水2.9m又は2.3m)が、沖側係留アンカーの直上を航行すると、潮位によっては高さ2.0mの沖側係留アンカーと船底が接触する状態となっていた(参考図参照)。
したがって、本件沖側係留アンカー及び沖側係留アンカーに浮函を係留する係留チェーンは、沖側係留アンカーの設計が適切でなかったため、船舶を安全かつ円滑に係留することができない状態となっており、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額8,985,076円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、基地隊において、会社から提出された設計図書等に誤りがあったのに、これに対する確認等が十分でなかったことなどによると認められる。
(参考図)
浮桟橋の概念図