陸上、海上、航空各自衛隊(以下「各自衛隊」という。)は、効率的な部隊、艦艇及び航空機の運用と安全の確保を目的として、平成25年3月から統合気象システム(Joint Weather System。以下「JWS」という。)を運用している。JWSは、各自衛隊の駐屯地、基地及び分屯基地(以下「基地等」という。)計73基地等に整備されており、航空自衛隊は、各自衛隊の上記目的のためにJWSを継続的かつ安定的に運用等することに努めている。
また、航空幕僚監部は、各自衛隊からのJWSの整備に関する要望を取りまとめるなどして、JWSを30年度に新たなシステム(以下「次期JWS」という。)に換装する予定としている。
JWSは、サーバ、ネットワーク機器、端末等(以下、これらを合わせて「運用機器」という。)で構成され、気象情報の収集、気象図の作成等を行う機能を有するシステムである。航空自衛隊府中基地航空気象群及び各基地等の気象部隊は、JWSを活用して業務を行っており、同航空気象群は、収集した情報の解析等を行い、収集、解析した情報等を各基地等の気象部隊に設置された中継機器を介して、気象部隊のサーバ及び端末並びに気象部隊と同一の基地等に所在する他の部隊に設置された端末に配信するなどしている(図1参照)。
図1 JWSにおける航空自衛隊府中基地航空気象群と各自衛隊の基地等の気象部隊の関係
中継機器とこれら端末等との間は、直接LANケーブルで接続されたり、各基地等内に整備された通信回線(以下「基地内回線」という。)を経由して接続されたりしている(図2参照)。
図2 JWSにおける情報等の伝送経路
各自衛隊は、基地内回線として、既存のメタルケーブルの構内回線(以下「メタル回線」という。)を使用しているほか、大容量で高速のデータ通信を行うことができるノード(注1)や光ファイバーケーブル等から構成される基地内光伝送路等(以下「光伝送路」という。)を計画的に整備して使用している。
陸上、海上、航空各幕僚監部(以下「各幕僚監部」という。)には、それぞれJWSの整備計画を担当する部署(以下「JWS担当部署」という。)と基地内回線の整備計画を担当する部署(以下「回線担当部署」という。)があり、JWSの整備に当たっては、各幕僚監部のJWS担当部署が、それぞれの回線担当部署に基地内回線の整備状況を確認するなどしてJWSの運用機器の品目及び数量を検討している。そして、各幕僚監部のJWS担当部署は、当該検討結果を踏まえて必要に応じてそれぞれの回線担当部署との間で再度調整するなどして運用機器の品目及び数量をそれぞれ決定している。
この決定に基づき、航空幕僚監部は、各幕僚監部分を取りまとめて、防衛装備庁(27年9月30日以前は装備施設本部。以下「装備庁」という。)に運用機器の調達を要求している。そして、装備庁は、24年12月に、実際に運用機器の供給等を行う日本電気株式会社(以下「NEC」という。)、NECが供給する運用機器を装備庁に賃貸する株式会社JECC(25年6月30日以前は日本電子計算機株式会社)及び装備庁の三者間で25年1月から29年2月までの間を賃貸借期間とした賃貸借契約を、29年2月に、同年3月から30年2月までの間を賃貸借期間とした上記の契約を継続する賃貸借契約をそれぞれ締結(24年度契約額80億6560万余円、28年度契約額18億9669万余円、計99億6230万余円)して運用機器を借り上げ、基本使用料金を毎月支払っている。
前記73基地等のうち27基地等においては、上記の2契約により装備庁が借り上げている運用機器のうち、中継機器と端末との間を基地内回線を経由して接続する場合の接続機器として、光コンバータ計140個、DSLモデム及び構内回線モデム(以下「DSLモデム等」という。)計366個、合計506個(契約額相当額計1億1248万余円)が設置されている。
光コンバータは、LANケーブルと光伝送路のケーブルとを接続して通信を可能にする機器であり、中継機器と端末との間を光伝送路を経由して接続する場合に使用されるものである。
また、DSLモデム等は、LANケーブルとメタル回線のケーブルとを接続して通信を可能にする機器であり、中継機器と端末との間をメタル回線を経由して接続する場合などに使用されるものである。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
航空幕僚監部は、前記のとおり、JWSを30年度に次期JWSに換装する予定であり、その整備に当たっても接続機器を借り上げることにしている。そして、接続機器の借り上げに当たっては、次期JWSの運用機器の設置場所や基地内回線の整備状況を踏まえて、接続機器の品目及び数量を適切に決定することが重要である。
そこで、本院は、経済性等の観点から、前記24、28両年度の契約において借り上げた運用機器の品目、数量等は設置場所や基地内回線の整備状況に応じて適切に決定されているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、各幕僚監部、航空自衛隊補給本部及び装備庁において、契約書、基地内回線の整備状況に関する書類等を確認したり、JWSが整備されている73基地等のうち航空自衛隊の15基地(注2)において、接続機器の設置状況等を実地に確認したりするなどして会計実地検査を行った。また、残りの58基地等については、各幕僚監部を通じて、接続機器の設置状況等に関する報告を求めてその内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記27基地等のうち航空自衛隊の18基地等(注3)においては、中継機器と端末とを接続するために、光コンバータ計136個、DSLモデム等計317個、合計453個の接続機器が設置されていた。
日本工業規格の「構内情報配線システム(JISX5150:2004)」(以下「JIS規格」という。)によれば、LANケーブルを敷設する際の伝送経路の最大長は100mとされていることなどから、中継機器と端末との間の伝送経路の距離が比較的短く、JIS規格に定めるLANケーブルで直接接続できるとされる範囲内であれば、光コンバータやDSLモデム等の接続機器を使用せずに中継機器と端末とをLANケーブルで直接接続することができることとなる。
そこで、実際の中継機器と端末との間の伝送経路の距離を確認したところ、前記の18基地等において、中継機器と端末とが同一執務室内等に設置されていて、伝送経路の距離がJIS規格に定めるLANケーブルで直接接続できるとされる範囲内となっているものが33か所見受けられるなどした。このため、これらの光コンバータ計6個、DSLモデム等計66個、合計72個(契約額相当額2025万余円)の接続機器を借り上げる必要はなかったと認められた(図3参照)。
図3 LANケーブルで直接接続できるとされる範囲内となっていたもの
また、光伝送路が整備されてJWS用のLANケーブルの差込口(以下「JWS用差込口」という。)があるノードが設置された場合、光コンバータを使用せずに、ノードにLANケーブルを接続することができる。
前記航空自衛隊の18基地等のうち5基地においては、借り上げる接続機器を決定する時点では光伝送路が整備中であり、JWS担当部署は、ノードにはJWS用差込口がないものとして、光コンバータを借り上げることにしていた。
そこで、上記の5基地(注4)においてノードの差込口の有無等を確認したところ、JWSの運用開始時点までに整備された光伝送路のノードにはJWS用差込口があり、現にノードにLANケーブルを接続していたことから、光コンバータ計100個(契約額相当額315万余円)は気象部隊等でダンボール箱に保管されるなどしていて使用されておらず、これを借り上げる必要はなかったと認められた(図4参照)。
図4 ノードにLANケーブルを接続していたもの
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
航空自衛隊新田原基地においては、中継機器と端末とを接続するためにDSLモデム等4個が設置されていた。しかし、中継機器と端末とが同一執務室内に設置されていて、伝送経路の距離がJIS規格に定めるLANケーブルで直接接続できるとされる範囲内となっていたため、DSLモデム等4個は借り上げる必要はなかった。
また、光伝送路が平成25年2月までに整備される計画となっていたが、航空幕僚監部のJWS担当部署は、借り上げる接続機器を決定する際に、回線担当部署にノードの差込口の状況を十分に確認しないまま、ノードにはJWS用差込口がないものとして光コンバータ22個を借り上げることとしていた。しかし、実際は同月に計画どおり整備された光伝送路のノードにはJWS用差込口があり、同基地は、ノードにLANケーブルを接続していて、借り上げた光コンバータを同年3月の借上開始時点から全く使用していなかった。
このように、JWSの整備に当たり、必要のない接続機器を借り上げていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
なお、陸上、海上両自衛隊の各基地等においては、航空自衛隊と同様の事態は見受けられなかった。
(節減できた契約額相当額)
JWSの運用機器に係る契約に当たり、中継機器と端末との間の伝送経路や光伝送路の整備状況を適切に把握するなどして借り上げる接続機器の品目及び数量を決定すれば、接続機器計172個を借り上げる必要はなく、契約額相当額計2340万余円が節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、航空幕僚監部のJWS担当部署において、必要となる接続機器の品目及び数量を決定するに当たり、運用機器の設置場所に応じて中継機器と端末とを経済的に接続する方法についての検討が十分でなかったこと、光伝送路の整備状況に応じて必要となる接続機器の確認を行う際に回線担当部署との連携が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、航空幕僚監部のJWS担当部署は、29年7月に、回線担当部署等に対して通知を発して、次期JWSで借り上げる接続機器の品目及び数量を適切に決定するよう、運用機器の設置場所に応じて中継機器と端末とを経済的に接続する方法やJWS担当部署と回線担当部署との間で借上品目や光伝送路の整備に変更が生ずる場合の情報の共有等に関して留意事項を策定して周知した。また、JWS担当部署は、各基地等における光伝送路の整備の現況と今後の中継機器と端末との間の接続方法を整理した一覧表を作成して、回線担当部署との間において情報を共有するなどの連携を図った。さらに、JWS担当部署は、回線担当部署のほか関係部署が出席した次期JWSに関する検討会議において、これらを周知するなどの処置を講じた。