防衛省沖縄防衛局(以下「局」という。)は、我が国に駐留するアメリカ合衆国軍隊に対して我が国政府が提供している沖縄県宜野湾市の市街地に隣接する普天間飛行場の我が国政府への返還に際して、同飛行場の代替施設を同県名護市及び国頭郡宜野座村にまたがるキャンプ・シュワブ区域に設置することとして、必要な建設工事を実施している。
そして、局は、同区域沿岸の海上部における工事の適正かつ円滑な実施の確保に必要な海上警備業務を請け負わせるために、平成27年7月から28年10月までの間に、株式会社ライジングサンセキュリティーサービス(以下「ライジングサン」という。)と3件の契約を締結している(以下、これら3件の契約を合わせて「海上警備業務3契約」という。)。
予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)によれば、予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況等を考慮して適正に定めなければならないとされている。
また、防衛省は、毎年度、防衛省整備計画局長から地方防衛局長等に対して、公共工事の労務費の予定価格に適用する労務単価についての通知を発出しており、同通知によれば、農林水産省及び国土交通省が定めている「公共工事設計労務単価」を労務単価として適用することとされている。
局は、海上警備業務3契約の予定価格の積算に当たり、警備艇等に乗船して海上警備業務に従事する警備員の労務費(以下「警備員労務費」という。)を、警備艇等ごとに、海上警備業務に従事する船長、船員等の職種ごとの労務単価に配置人員や従事日数を乗ずるなどして算定している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、海上警備業務3契約の予定価格の積算に当たり、警備員労務費の算定に採用されている労務単価は取引の実例価格等を考慮して適正に定められているかなどに着眼して、局が締結した海上警備業務3契約(契約金額計46億1190万余円)を対象として、防衛省内部部局及び局において、契約書、特記仕様書、積算価格内訳明細書等の関係資料を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
局は、警備員労務費の算定に当たり、業務内容の特殊性を考慮すると、海上警備業務に従事する船長、船員等の職種ごとの労務単価については前記の「公共工事設計労務単価」に記載されている高級船員及び普通船員の各労務単価(以下「船員等単価」という。)のうちの27年度の沖縄県に係る単価22,680円から25,440円(1日9時間当たりの換算単価)等を採用できないとして、ライジングサンを含む複数の警備業者へ参考見積書の提出を依頼していた。そして、局は、ライジングサン1者のみから参考見積書の提出を受けて、当該参考見積書に記載された船長、船員等の職種ごとの労務単価である39,000円から59,400円(1日9時間当たり)等をそのまま採用して、警備員労務費を計12億1223万余円と算定していた。
しかし、海上警備業務3契約の特記仕様書を基に海上警備業務の内容等を確認したところ、警備の実施場所、実施期間、海上警備業務に従事する船員等の配置人員及び配置時間のほか、警備等に必要とされている小型船舶操縦等の免許資格等が定められているだけで、警備員に特別な技能等を要求するものとなっていなかった。また、特記仕様書に基づきライジングサンが局に提出した海上警備計画書においても、制限区域内に接近する船舶等に対して立ち入らないよう注意喚起を図る広報・警告を行うなど、海上警備業務の内容は一般的なものとなっていた。
現に、局は海上警備業務3契約を締結する前の26年度に、キャンプ・シュワブ区域沿岸の海上部における海上警備業務を含む工事契約を締結し、その予定価格の積算における警備員労務費の算定の際、海上警備業務3契約と同様に、ライジングサンから徴した参考見積書の労務単価を採用していたが、船長、船員等の職種ごとの労務単価は21,937円から33,412円(1日9時間当たりの換算単価)等となっており、船員等単価のうちの同年度の沖縄県に係る単価21,480円から25,200円(1日9時間当たりの換算単価)とおおむね同額となっていた。そして、上記の海上警備業務を含む工事契約の特記仕様書の記載内容をみたところ、海上警備業務3契約と同様の内容となっていたが、海上警備業務の実施に何ら支障は生じていなかった。
また、他の機関についてみたところ、国土交通省東京航空局が警備業者に請け負わせている東京国際空港の周辺海上部における海上警備業務契約の特記仕様書によると、業務内容は、航空機の安全運航を阻害する海上警備区域内への船舶等の不法侵入等の未然防止を図るなどのため、警備艇等を活用して警戒・監視等の業務を実施するなどとなっていた。これらは、海上警備業務3契約とおおむね同様の業務内容となっているが、当該契約に係る予定価格の積算において、警備員労務費の算定では船員等単価のうちの東京都に係る単価を採用していた。
なお、局を通じてライジングサン等から提出を受けた賃金台帳を基に、実際に海上警備業務3契約に従事した警備員に支払われた賃金を確認したところ、1日当たり9,000円から10,000円程度となっていた。
このように、警備員労務費の算定に当たり、契約上海上警備業務に従事する警備員について特別な技能等を要求していないのに、同種の海上警備業務契約に係る他の機関を含めた取引の実例価格又は船員等単価によることなく、警備業者から提出を受けた参考見積書に記載された見積単価をそのまま労務単価として採用している事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた積算額)
警備員労務費の積算額計12億1223万余円について、海上警備業務に従事する警備員の労務単価に前記の船員等単価を採用するなどして修正計算すると、計10億2339万余円となり、積算額を約1億8880万円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、局において海上警備業務3契約の業務内容を十分精査した上で労務単価を決定することや同種の海上警備業務に係る他の機関を含めた積算単価等の情報を収集することの必要性についての理解が十分でなかったこと、防衛省内部部局において上記の必要性に関する局への周知が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、防衛省内部部局は、29年9月に局を含む地方防衛局等に通知を発して、労務単価について、業者から提出された見積単価をそのまま採用するのではなく、業務内容を十分精査した上で、同種の業務に係る他の機関を含めた取引の実例価格又は官公庁の定める労務単価によることができるものについてはこれらを採用するなどして、労務費の算定を適切なものとするよう周知徹底する処置を講じた。