陸上自衛隊は、装備品等を常に良好な状態に維持するなどのために、エンジン油、潤滑用グリース等の油脂や不凍液(以下「油脂等」という。)を交換するなどの整備を実施している。
これらの油脂等については、原則として、8燃料支処等(注1)が、駐屯地業務隊等を経由して当該駐屯地等に所在する油脂等を使用する部隊等(以下「使用部隊等」という。)に払い出している。
そして、陸上幕僚監部(以下「陸幕」という。)は、燃料支処等から駐屯地業務隊等への油脂等の払出しを支障なく継続するために、燃料支処等が保有する油脂等の数量の目標となる基準を設定している。この基準は、予想外の所要量の増加等に対応するための数量及び次回の納品までの間の払出しを継続するための数量からなっている。また、陸上自衛隊補給統制本部(以下「補給統制本部」という。)は、燃料支処等の在庫数量を適正に維持するために、必要に応じて、在庫調整(注2)をするなどしている。
補給統制本部は、定期整備で使用するなど年間の調達数量が多い油脂等について、毎年度1回、品目ごとに、防衛装備庁(平成27年9月30日以前は装備施設本部。以下「装備庁」という。)に調達要求を行っている。調達要求を行うに当たって、補給統制本部は、各燃料支処等が当該年度に調達を必要とする数量(以下「調達所要量」という。)について補給処から報告を受けてこれを集計するなどして、調達数量を算定することとしている。補給統制本部によれば、各燃料支処等の調達所要量は、使用部隊等が当該年度に必要とする数量から前年度末の保有数量を差し引くなどして算出するものであるとしている。
補給統制本部から調達要求を受けた装備庁は、油脂等の品目及び納期ごとに分けて売買契約を締結しており、27年度又は28年度において契約金額が年間150万円を超えるなどしている油脂等は32品目となっている。この32品目に係る契約件数及び契約金額は、27年度32品目分で56件、3億8615万余円、28年度30品目分で59件、3億3831万余円、計115件、7億2447万余円となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、効率性等の観点から、油脂等の調達数量は適切なものとなっているかなどに着眼して、上記32品目の油脂等及びこれに係る売買契約計115件を対象として、陸幕、補給統制本部、燃料支処等や使用部隊等が所在する48駐屯地等(注3)及び装備庁において、契約書、仕様書、調達数量の算定根拠資料等を確認するなどして会計実地検査を行った。また、8燃料支処等における油脂等の保有状況、受払状況等について、陸幕に調書の作成及び提出を求めるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
8燃料支処等における27、28両年度の油脂等の保有状況、受払状況等をみたところ、前年度末の保有数量のみで当該年度分の払出しは賄えるのに新たに調達した油脂等の納品を受けるなどしていて、全ての燃料支処等において、年度末の保有数量が次回の納品までの間の払出しを支障なく継続するために必要と認められた数量(以下「目標保有数量」という。)を上回っていた油脂等が見受けられた。そして、全32品目の油脂等は、8燃料支処等のいずれかにおいて保有数量が目標保有数量を上回っており、このうち23品目は、保有数量が目標保有数量の3倍以上となっていた。
そこで、各燃料支処等が保有している油脂等を燃料支処等の間で相互に管理換して活用することを念頭に置いた上で、27年度末の保有数量が目標保有数量を上回らないこととして、27年度分の適正な調達数量を試算すると、同年度に調達した油脂等全32品目に係る調達数量がこれを上回っていることから、同年度に実際に調達した数量に係る契約金額3億8615万余円のうち調達価格相当額1億0377万余円分の油脂等は新たに調達する必要はなかったと認められた。
27年度において新たに調達する必要はなかったと認められた油脂等について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
東北補給処多賀城燃料支処(多賀城駐屯地所在)は、自動車、火砲等の整備に使用する油脂「はん(汎)用グリース」を平成26年度末時点で4,640kg保有していた。そして、27年度分として3,264kg(調達価格相当額141万余円)の納品を受けていた。
しかし、多賀城燃料支処における目標保有数量は1,968kgであることから、27年度分として適正な調達数量を試算すると、同年度の払出数量1,632kgと同年度末の目標保有数量1,968kgの計3,600kgは、26年度末の保有数量4,640kgのみで賄えるため、27年度分として納品を受けた3,264kg(調達価格相当額141万余円)分は新たに調達する必要はなかったと認められた。
また、多賀城燃料支処は、上記3,264kgの調達がなかったとしても、同年度末で3,008kgを保有していることになることから、目標保有数量1,968kgを上回る分の1,040kgを、同年度中に調達が必要な分として1,936kgの納品を受けていた北海道補給処早来燃料支処(早来分屯地所在)に管理換することとすれば、同年度の早来燃料支処分として調達した1,936kgのうち1,040kg(調達価格相当額45万余円)分についても、新たに調達する必要はなかったと認められた。
そして、前記の調達価格相当額1億0377万余円分の油脂等32品目を、27年度中に調達しなかったとして同年度末の保有数量を試算し、これに基づき28年度分の適正な調達数量を27年度と同様に試算すると、調達価格相当額4565万余円分の油脂等29品目は、28年度において新たに調達する必要はなかったと認められた。
こうした事態を踏まえて、補給統制本部における調達数量の算定方法をみたところ、次のとおりであった。
補給統制本部は、前記のとおり、各燃料支処等の調達所要量について各補給処から報告を受けてこれを集計するなどして、調達数量を算定することとしている。そして、補給統制本部は、27、28両年度の調達要求を行うに当たって、調達数量を算定する必要から、使用部隊等が当該年度に必要とする数量から前年度末の保有数量を差し引くなどして算出する調達所要量を把握することを想定して、実務上は各補給処に対して「年間所要量」の報告を求めていた。
しかし、補給統制本部は、「年間所要量」が上記のような調達所要量を意味することを明示しておらず、また、調達所要量の具体的な算出方法も示していなかった。
このため、各補給処から補給統制本部に報告された各燃料支処等の「年間所要量」は前年度末の保有数量等を勘案していないものとなっているなどしていたのに、補給統制本部は、各燃料支処等の「年間所要量」の内容を十分に確認することなく、これらを基に調達数量を算定して、装備庁に調達要求を行っていた。
このように、油脂等の調達に当たり、調達数量の算定根拠となる調達所要量が適切に算出されておらず、新たに調達する必要がない油脂等を調達していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた調達価格相当額)
27、28両年度に調達した油脂等32品目に係る契約金額計7億2447万余円(27年度32品目分で3億8615万余円、28年度30品目分で3億3831万余円)は、表のとおり、調達価格相当額計1億4942万余円(27年度同計1億0377万余円、28年度同計4565万余円)を節減できたと認められた。
表 節減できた油脂等の品目数及び調達価格相当額
年度 | 調達した油脂等 | 節減できた油脂等 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年度末の保有数量が目標保有数量を上回っていて新たに調達する必要はなかったと認められた油脂等 | 左のほか管理換を活用することにより新たに調達する必要はなかったと認められた油脂等 | |||||||
A=B+C | B | C | ||||||
品目数 | 契約金額 | 品目数 | 調達価格相当額 | 品目数 | 調達価格相当額 | 品目数 | 調達価格相当額 | |
平成27年度 | 32 | 386,156 | 32 | 103,774 | 32 | 68,465 | 24 | 35,309 |
28年度 | 30 | 338,318 | 29 | 45,653 | 29 | 36,803 | 10 | 8,850 |
計 | 32 | 724,475 | 32 | 149,428 | 32 | 105,269 | 25 | 44,159 |
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、補給統制本部において、油脂等の調達数量を適切に算定するために、各補給処に対して調達数量の算定根拠となる調達所要量の算出方法等を具体的に示していなかったこと、各補給処から報告された各燃料支処等の調達所要量の妥当性について確認が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸幕は、29年9月に補給統制本部等に対して通達を発して、調達数量の算定根拠となる調達所要量の算出方法等を具体的に示すなどして、調達所要量の妥当性を確保する態勢を整備することなどにより、適切な調達数量を算定することとする処置を講じた。