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  • 第11 全国健康保険協会|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

健康保険の傷病手当金の支給に当たり、日本年金機構から年金情報の提供を受ける対象者の範囲について見直しを行うことにより厚生年金保険の障害厚生年金との併給調整が適切に行われるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


科目
保険給付費
部局等
全国健康保険協会15支部
支給の根拠
健康保険法(大正11年法律第70号)
傷病手当金の概要
療養のため労務に服することができず、事業主から報酬の全部又は一部を受けることができない被保険者に対して支給するもの
併給調整の概要
傷病手当金の支給を受けている対象者が、同一の疾病等により障害厚生年金等の支給を受けることができるときに、傷病手当金を支給しないか、又は支給額を減額するもの
検査の対象とした傷病手当金の支給決定を行った対象者数
12,679人
上記のうち障害厚生年金が支給されている対象者数
1,783人
年金情報の提供を受けていないため併給調整が適切に行われていない対象者数
31人
上記の対象者に対する傷病手当金の支給額
1億2902万余円(平成21年度~28年度)
上記のうち併給調整が適切に行われていない傷病手当金の支給額
1761万円

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

健康保険の傷病手当金の支給における厚生年金保険の障害厚生年金との併給調整について

(平成29年10月11日付け 全国健康保険協会理事長宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 傷病手当金等の概要

(1) 健康保険法に基づき支給される傷病手当金の概要

貴協会は、健康保険法(大正11年法律第70号。以下「法」という。)に基づく保険給付の一環として、療養のため労務に服することができず、事業主から報酬の全部又は一部を受けることができない健康保険の被保険者(以下「対象者」という。)に対して傷病手当金を支給している。傷病手当金の支給期間は、対象者が労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日、すなわち4日目を初日として、それ以降労務に服することができなかった期間(以下「休業日数」という。)とすることとなっている。ただし、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病の場合は、その支給を始めた日から起算して1年6か月を超えない期間とすることとなっている。また、傷病手当金の支給額は、支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する額(以下「傷病手当金の支給日額」という。)に休業日数を乗ずるなどして算出することとなっている(注1)

対象者は、傷病手当金の支給を受けようとするときは、健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号。以下「規則」という。)に基づき、傷病名及びその原因並びに発病又は負傷の年月日、休業日数等を記載した「健康保険傷病手当金支給申請書」(以下「申請書」という。)等を貴協会に提出しなければならないこととなっている。そして、対象者は、通常、月ごとに申請書の提出を行っている。

傷病手当金の支給に係る申請書等の受付及び内容の審査、確認、支給決定等の事務は、貴協会の各支部が行っており、各支部による支給決定に基づき、貴協会本部は、対象者に傷病手当金を支給することとなっている。

(注1)
被保険者の標準報酬月額は、健康保険では第1級58,000円から第50級1,390,000円までの等級に区分され、実際に支給される報酬月額をこの等級のいずれかに当てはめて決定される。そして、傷病手当金の支給額は、平成27年度以前は、休業した日における標準報酬月額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する額に休業日数を乗じて算出することとなっていた。

(2) 厚生年金保険法に基づき支給される障害厚生年金の概要

厚生年金保険の被保険者は、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)に基づき、疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病につき初めて医師等の診療を受けた日(以下「初診日」という。)から起算して1年6か月を経過した日に障害厚生年金の受給権が発生し、その障害の程度に応じて支給を受けることができることとなっている。ただし、初診日から起算して1年6か月を経過しない場合であっても、症状が固定して治療の効果が期待できない状態に至った日があるときは、その日を障害厚生年金の受給権の発生日とし、支給を受けることができることとなっている。

障害厚生年金は、被保険者からの請求に基づいて、厚生労働大臣等の裁定(注2)により、受給権の発生日の翌月分から支給されることとなっている。このため、被保険者からの請求が受給権の発生日を過ぎてから行われるなどして、裁定が受給権の発生日の翌々月以降に行われたときは、障害厚生年金は受給権の発生日の翌月分から遡及して支給されることになる。

(注2)
裁定  年金の給付を受ける権利があることを確認すること

(3) 傷病手当金と障害厚生年金等との併給調整

法及び規則によれば、対象者が傷病手当金の傷病と同一の疾病等により障害厚生年金等の支給を受けることができるときは、傷病手当金を支給しないか、又はその支給額を減額することとされている(以下、この取扱いを「併給調整」という。)。具体的には、対象者に支給される障害厚生年金等の額(当該障害厚生年金と同一の事由により障害基礎年金の支給を受けることができるときはその合算額)を360で除して得た額が傷病手当金の支給日額よりも多い場合は、傷病手当金を支給せず、また、少ない場合は、その差額を傷病手当金の支給額とすることとされている。

なお、傷病手当金は、労務に服することができなくなった日から起算して4日目を初日として1年6か月を超えない期間支給されるのに対し、障害厚生年金は、初診日から起算して1年6か月を経過した日又はそれ以前に症状が固定した日の翌月から支給されることから、併給調整が必要となるのは、対象者が初診日から相当期間経過した後に労務に服することができなくなり傷病手当金の支給開始が遅れた場合や、症状が早期に固定して治療の効果が期待できない状態に至り初診日から起算して1年6か月を経過するより前に障害厚生年金の受給権が発生した場合となる。

そして、障害厚生年金は、前記のとおり、厚生労働大臣等の裁定が受給権の発生日より後に行われたときは、受給権の発生日の翌月分から遡及して支給されることになる。このため、傷病手当金の支給決定の時点では、併給調整の要否が必ずしも明らかとならず、一旦傷病手当金の支給決定を行った対象者についても、その後障害厚生年金の裁定が行われて遡及して支給される結果、傷病手当金との併給が生ずることとならないかを継続して確認する必要がある。

貴協会は、法に基づき、併給調整を行うために必要があると認めるときは、年金を支給する者に対し、障害厚生年金等の支給状況につき、必要な資料の提供を求めることができることとなっている。

すなわち、貴協会本部は、日本年金機構(以下「機構」という。)に対し、毎月、前月までの過去1年間(注3)に申請書の受付を行った対象者に係る障害厚生年金の年額、支給開始日、傷病名等に関する情報(以下「年金情報」という。)を照会(注4)してその提供を受けることとしており、提供を受けた年金情報を、各支部が貴協会内部のシステム上で確認できるようにしている。そして、各支部は、一旦傷病手当金の支給決定を行った対象者についても、支給決定後に障害厚生年金の裁定が行われて遡及して支給されていないかを継続して確認して、併給調整の要否を判断している。そして、当該対象者が同一の疾病等により障害厚生年金の支給を受けていることが判明した場合には併給調整を行って、既に支給した傷病手当金の全部又は一部を返還させることとしている。

(注3)
過去1年間  貴協会及び機構における毎月の年金情報の事務処理の関係で、1年(365日)未満となる場合がある。
(注4)
年金情報を照会  平成27年6月以前は、毎年9月に、前月までの過去1年間に申請書の受付を行った対象者に係る年金情報の提供を受けるとともに、毎月、前月に申請書の受付を行った対象者に係る年金情報の提供を受けていた。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

傷病手当金の支給額は年々増加しており、平成27年度において1694億余円(延べ申請件数941,187件)と多額に上っている。また、同年度の障害厚生年金の支給額は3003億余円(受給者数約41万人)となっており、傷病手当金との併給調整を適切に行うことが求められている。

そこで、本院は、合規性等の観点から、傷病手当金の併給調整が適切に行われているかなどに着眼して、貴協会本部及び33支部(注5)において、25年度から27年度までの間に傷病手当金の支給決定を行った対象者のうち12,679人に支給された傷病手当金を対象として、申請書等の書類を確認したり、貴協会を通じて機構に年金情報の照会をしたりするなどして会計実地検査を行った。

(注5)
33支部  北海道、岩手、宮城、秋田、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、富山、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、京都、大阪、兵庫、和歌山、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、宮崎、鹿児島各支部

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

前記の対象者12,679人のうち33支部に係る1,783人については、別途障害厚生年金の裁定が行われており、受給権が発生した日の翌月分から障害厚生年金が支給されることになっていた。したがって、この1,783人に対する傷病手当金の支給については、貴協会において併給調整の要否を判断する必要がある。

貴協会本部は、機構から対象者に係る年金情報の提供を受けて各支部が年金情報を確認して併給調整の要否を判断することができるようにしているが、前記のとおり、年金情報の提供を受ける対象者の範囲は過去1年間に申請書の受付を行った対象者に係るものに限定している。この理由について、貴協会本部は、傷病手当金の支給終了日と障害厚生年金の支給開始日とがおおむね一致することから、傷病手当金の支給終了後1年以上経過してから障害厚生年金の裁定が行われることは通常見込まれないと考えていたためなどとしている。

しかし、前記の1,783人について併給調整の状況をみたところ、申請書の受付から1年(注6)を超えた時期に障害厚生年金の裁定が行われていて、同一の疾病等により傷病手当金と障害厚生年金とを同じ期間を対象として支給しているのに併給調整が行われていないものが、15支部(注7)に係る31人の対象者(傷病手当金の支給期間:21年度から28年度まで、支給額計1億2902万余円)について見受けられた。これらの対象者については、貴協会本部は機構から年金情報の提供を受けていないため、15支部は、これらの対象者に係る年金情報を確認しておらず、併給調整の必要があることを把握していなかった。これら31人の対象者について、15支部は、適切に併給調整を行って、同一の疾病等により障害厚生年金の支給を受けている期間に支給された傷病手当金計1761万余円の返還を求める必要があったと認められる。

(注6)
1年  貴協会及び機構における毎月の年金情報の事務処理の関係で、1年(365日)未満となる場合を含む。
(注7)
15支部  栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫、和歌山、岡山、広島、山口、香川、愛媛、福岡各支部

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

神奈川支部は、管内の事業所に勤務していた対象者Aから同一の疾病等により計8回の申請書の提出を受け、平成25年12月5日から27年1月30日までの間の休業日数計422日分に係る傷病手当金計440万余円の支給決定を行い、貴協会本部は、これに基づきAに対して同額の傷病手当金を支給していた。

一方、28年5月26日にAに係る障害厚生年金の裁定が行われ、26年7月分以降の障害厚生年金が遡及して支給されることとなったことから、同支部は、障害厚生年金の支給開始後にAに係る年金情報を確認して、併給調整の要否を判断する必要があった。

しかし、Aに係る裁定が行われた28年5月26日は、同支部が8回目の申請書の受付を行った27年2月23日から1年を超えていたことから、貴協会本部は、機構からAに係る年金情報の提供を受けていなかった。その結果、同支部は、Aに係る年金情報を確認することができず、併給調整の要否を判断することができない状況となっていた。

そこで、Aに係る年金情報を確認したところ、Aは同一の疾病等により傷病手当金と障害厚生年金とを同じ期間を対象として支給されており、同支部は、適切に併給調整を行って、同一の疾病等により障害厚生年金の支給を受けている期間に支給された傷病手当金計153万余円の返還を求める必要があったと認められる。

(是正及び是正改善を必要とする事態)

貴協会において、申請書の受付から1年を超えた時期に障害厚生年金の裁定が行われている対象者について併給調整が適切に行われていない事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴協会本部において、過去1年間に申請書の受付を行った対象者に限定して機構から年金情報の提供を受けることとしていることなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

貴協会は、傷病手当金の支給に当たり、法及び規則の定めるところにより、今後とも併給調整を適切に行っていく必要がある。

ついては、貴協会において、併給調整が適切に行われていなかった15支部に係る31人の対象者に対して、支給済みの傷病手当金のうち併給調整により減額することとなる額の返還を求める処置を講ずるよう是正の処置を要求するとともに、併給調整を今後より適切に行うことができるよう、機構から年金情報の提供を受ける対象者の範囲について見直しを行うよう是正改善の処置を求める。