国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「機構」という。)は、平成28年4月1日の旧独立行政法人種苗管理センター等との組織統合に伴い、組織統合以降の情報機器の資産管理、ソフトウェアライセンスの管理と把握、セキュリティ対策の向上等に資するために、27年11月に、利用者端末装置管理システム(以下「管理システム」という。)の構築及び28年4月からの5年間の保守に係る契約を、NECフィールディング株式会社(以下「会社」という。)と契約額83,061,391円で締結し、28年4月に構築費として58,273,470円、29年4月に28年度分の保守費として4,957,585円を支払っている。
管理システムは、管理対象とする利用者端末(以下「端末」という。)のハードウェア・ソフトウェア情報の収集、ソフトウェアの更新プログラムの自動適用、ソフトウェアの稼働状況の把握等を行う「インベントリ収集システム」、端末にウイルス対策ソフトウェアの導入等を行う「ウイルス対策集中監視システム」及び端末とソフトウェア(以下、これらを合わせて「端末等」という。)の台帳管理等を行う「台帳システム」の三つのサブシステムから構成されている。
上記三つのサブシステムのうち、台帳システムは、端末の利用者が行うソフトウェア等の導入等の各種申請をシステム上で処理する機能(以下「申請機能」という。)を設けて、利用者からの申請の一元集約と、管理者が行う利用者からの申請に対する承認等の負担の軽減を図るとともに、機構で管理している全ての端末が登録されたハードウェア台帳や全てのソフトウェアライセンスが登録されたライセンス台帳等の台帳データと、インベントリ収集システムにより収集したデータとを突合させるなどして、端末等の適切な管理を行うシステムである。
機構は、本件契約に先立つ27年10月までの時点で、台帳システムについては、運用に先立って組織統合後の新たな管理者権限を有する者及び管理者権限の範囲等の端末等を管理する体制(以下「端末等の管理体制」という。)を定めたり、既存の台帳データを台帳システムに移行したりなどすること、28年4月から運用することを前提として構築することを計画していた。
本院は、有効性等の観点から、管理システムが業務に利用されているかなどに着眼して、本件契約を対象として、機構本部において、契約関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
機構は、台帳システムの構築を計画する際に、端末等の管理体制について検討を十分に行っていなかったが、28年4月の組織統合に合わせて管理システムを稼働させる必要があるとして、台帳システムにおける管理者権限の範囲等を明確にしないまま、27年11月に本件契約を締結していた。そして、台帳システムの申請機能に係る管理者権限の範囲については、組織統合後の新たな組織における部局ごとに配置された管理者が所属する部局とすれば十分であるなどと想定して、会社に台帳システムを構築させて、28年3月に納品を受けていた。
しかし、機構は、台帳システムを28年4月から稼働させる予定であったものの、29年6月時点においても、端末等の管理体制を定めておらず、端末等の管理に台帳システムを利用していなかった。そして、機構が構築させた台帳システムは、上記の想定に基づいて申請機能に係る設計が行われていたが、機構は、組織統合に当たり、一部の部局には管理者を配置しないこととしたことから、申請機能に係る管理者権限の範囲が組織統合後の管理者の配置に対応したものとなっていなかった。このため、台帳システムは、管理者権限の範囲等を修正するなどの改修をしなければ、端末等の管理に利用できない状況となっていた。
台帳システムへの台帳データの移行に当たっては、台帳データには、機構が管理している全ての端末等の使用者名や管理番号等が登録されている必要があるが、機構は、台帳システムの構築を計画する際に、既存の台帳データに必要な情報が適切に登録されているかについて十分に把握しないまま、当該台帳データを台帳システムに移行できるものと想定していた。
しかし、既存の台帳データは、部局によって端末等の管理方法等が大きく異なっており、管理番号が付与されていない端末や使用者のみがソフトウェアライセンスを管理しているソフトウェアがあるなどしていたことから、必要な情報が十分に登録されておらず、29年6月時点においても、台帳システムに当該台帳データを移行することができないものとなっていた。
したがって、台帳システムは、納品された28年4月以降、端末等の管理に利用されておらず、また、台帳システムの改修等を行わなければ端末等の管理に利用できない状況となっていて、台帳システムの構築費相当額10,390,491円及び台帳システムの保守費相当額366,298円、計10,756,789円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、機構において、組織統合に伴う大きな不確定要因があったにもかかわらず、台帳システムの構築を計画する際に、組織統合後の端末等の管理体制の検討や台帳データの状況についての把握が十分でなかったことなどによると認められる。