国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(平成27年3月31日以前は独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構。以下「機構」という。)生物系特定産業技術研究支援センター(以下「センター」という。)は、毎年度、生物系特定産業技術に関する基礎的な試験及び研究を他に委託して行っている。そして、26、27両年度には、大幅なコスト低減等による農林水産業経営の収益増大等を目的として、国立研究開発法人等の構成員で構成される研究グループ等と委託契約を締結し、「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業(うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)」を実施している。
機構が制定した基礎的委託研究事業実施規程(平成15年15規程第73号)等によれば、センターは、委託事業に係る契約の締結に当たり、委託契約書において委託試験研究の委託費の額並びに支払の時期及び方法を定めるものとされ、委託費の額は、当該委託試験研究の実施に要すると認められる経費の額とされている。また、委託費の額の算定は、センターが26年10月に制定した委託試験研究事務処理マニュアル(以下「マニュアル」という。)等に基づいて行うこととされている。
マニュアルによれば、センターは、毎年度、受託者から当該年度の経費使用実績について委託試験研究実績報告書(以下「実績報告書」という。)を提出させた上で、実績報告書等に基づいて確定検査を実施して、その検査の結果に基づき委託費の額を確定することとされており、委託費の確定額は、委託事業に要した経費に係る適正な支出額又は委託契約書に記載された委託費の限度額のいずれか低い額とされている。
委託費の対象経費は、研究の遂行及び研究成果の取りまとめに直接必要な経費とされ、人件費、謝金、旅費、試験研究費等に区分して計上することとされている。このうち試験研究費については、更に機械・備品費、消耗品費、印刷製本費、借料及び損料等に区分して計上することとされている。
また、委託事業の実施期間を超える耐用年数を有する研究用機器等の物品については、原則として、リース又はレンタル方式により調達することとなっている。このうちリースは、リース会社が賃借しようとする者に代わって物品を購入して、当該物品の購入価格と諸経費を合わせた経費を、リース期間を通じてリース料により回収するものである。リース料については、マニュアルに基づき、委託契約締結日から、原則として委託事業の実施期間中に委託事業を行うに当たって発生し、かつ、支払われたリース料を、上記試験研究費のうちの借料及び損料の区分に計上することとされているが、リース料の算定に用いるリース期間の設定方法等は、マニュアル等では明示されていない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、委託費の対象経費に計上されている研究用機器等の物品のリース料が適切に算定されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、26、27両年度にセンターが実施した委託事業に係る契約のうち、物品に係るリース料等が借料及び損料として委託費の対象経費に計上されている、19研究グループ等(116構成員(以下、研究グループ等の構成員を「受託者」という。))との間で締結した19契約(契約金額計20億1469万余円、うち物品をリース等により調達した23受託者(注)が調達した54物品に係るリース料等計1億1672万余円)を対象として、センターにおいて、契約書、見積書、実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、センターからリース契約に関する調書の提出を受け、その内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記19契約のうち、8契約(契約金額計10億7944万余円)における31物品(契約金額のうちリース料計6756万余円)については、受託者が、委託事業の終了後も当該物品をリース会社から低額で再リースしたり低額で買い取ったりして、継続して使用していた。そして、上記31物品のリース料についてみると、受託者は委託費の対象経費の算定に当たり、委託事業の終了後も物品を継続して使用することを考慮することなく、物品の使用可能年数として一般的に認められている「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号)に定められた期間(以下「法定耐用年数」という。)等の合理的な基準に基づく期間(48か月から84か月)よりも短い期間となる当該委託事業の実施期間内における物品の使用期間等(4か月から24か月)をリース期間として設定してリース料を算定しており、この額を委託費の対象経費に計上していた。
リース料をこのように算定して委託費の対象経費に計上することは、センターが物品の総額に相当する額を受託者に支払うこととなり、委託事業の終了後に受託者が当該物品を継続して使用する場合は受託者自らが本来負担すべきリース料をセンターが負担していることになる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
センターは、平成26年度に、農業産業化ジャパンクオリティ・システム形成に向けた革新的生産技術体系の確立を行わせるための委託事業を、11受託者から構成される研究グループと委託契約(契約金額計1億4508万余円)を締結して実施している。契約において、受託者のうち国立大学法人三重大学は、当該委託事業を実施するために必要なポータブル光合成蒸散測定装置をリースにより調達していたが、同装置を継続して使用することを考慮することなく、法定耐用年数等の合理的な基準に基づく期間(60か月)よりも短い期間となる当該委託事業の実施期間内における当該装置の使用期間(20か月)をリース期間として設定してリース料を計478万余円と算定し、この額を委託費の対象経費に計上していた。そして、同法人は、当該委託事業の終了後、同装置をリース会社から5万余円で買い取って継続して使用していた。
このように、委託事業の実施に必要な物品を受託者がリースにより調達する場合において、受託者が、調達した物品を委託事業の終了後も継続して使用しているにもかかわらず、受託者自らが負担すべきリース料を含めて委託費の対象経費に計上していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(過大に算定されていたリース料)
リース料の総額を法定耐用年数で除して算出した月額単価に委託事業の実施期間内における物品の使用期間を乗じて算定した額のみを委託費の対象経費としたとすると、前記31物品のリース料は計2781万余円となり、受託者が委託費の対象経費として計上していたリース料計6756万余円は、これに比べて3975万余円過大に算定されていたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、センターにおいて、委託事業の実施に必要な物品を受託者がリースにより調達する場合において、委託事業の終了後も物品を継続して使用することを考慮してリース料を算定するのに用いるリース期間の設定方法をマニュアル等に明示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、センターは、委託事業の実施に必要な研究用機器等の物品に係るリース料の算定を適正なものとするよう、29年9月に委託業務研究実施要領を制定するなどして、受託者が物品をリースにより調達する場合に、法定耐用年数等の合理的な基準に基づいてリース期間を設定した上で、委託事業の実施期間内における当該物品の使用期間に発生した分のリース料のみを委託費の対象経費とすることを同要領に明示する処置を講じた。