【是正改善の処置を求めたものの全文】
事務用品等の調達について
(平成29年10月30日付け 国立研究開発法人産業技術総合研究所理事長宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴研究所は、国立研究開発法人産業技術総合研究所法(平成11年法律第203号)に基づき、鉱工業の科学技術に関する研究及び開発等の業務を総合的に行うことにより、産業技術の向上及びその成果の普及を図り、もって経済及び産業の発展並びに鉱物資源及びエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保に資することを目的として、東京、つくば両本部のほか、国内10か所に研究拠点(注1)を設置するなどして研究を実施している。
貴研究所は、平成13年度から、調達業務のコスト削減を図るため、これらの研究拠点等に分散していた調達機能をつくば本部に集約して調達に係る担当職員数を削減し、研究拠点等で使用する文具・事務用品、理化学用品、試薬、電子部品、書籍及び雑貨用品(以下「事務用品等」という。)の6種類の調達を順次インターネットを利用して行っている。そして、つくば本部は、27年度に、インターネット上で購買サイトを運営する運営業者11者と事務用品等の種類ごとに14件の調達契約(契約期間は27年4月から31年3月まで)を締結している。この契約により、購買サイトに登録した研究者等の職員が貴研究所の財務会計システムを通じて購買サイトにアクセスして事務用品等の発注を行い、購買サイトの運営業者が発注に応じて研究拠点等に納品し、つくば本部が調達契約ごとに1か月分の金額をまとめて支払うことになっている。
貴研究所は、契約や支払等の調達に係る事務を国立研究開発法人産業技術総合研究所会計規程(平成13年13規程第5号。以下「会計規程」という。)等の内部規程等に基づいて行うこととしている。会計規程等によれば、売買、賃貸、請負その他の契約を締結する場合は、予定価格を作成した上で、公告して申込みをさせることにより一般競争に付さなければならないこととされている。ただし、概算見積額が100万円を超えない契約を締結するときは、予定価格の作成を省略できることとされており、予定価格が160万円を超えない財産を買い入れるときなどは、随意契約によることができることとされている。
また、予定価格は、競争入札に付する事項の価格の総額について定めなければならないとされている一方で、一定期間継続してする製造、売買等の契約の場合においては、単価についてその予定価格を定めることができることとされている。
そして、貴研究所は、単価契約(単価についてのみ約定し、支払額については購入額の実績に基づき決定する契約。以下同じ。)を締結する場合に予定価格の作成を省略できるかどうかは、1品目当たりの単価ではなく、当該単価に調達すべき数量を乗じて算定した概算見積額が100万円を超えていないかにより判断するとしている。また、単価契約を締結する場合に随意契約によることができるかどうかは、1品目当たりの単価の予定価格ではなく、当該単価の予定価格に調達すべき数量を乗じて算定した支払予定総額が160万円を超えていないかにより判断するとしている。
「政府調達に関する協定」(平成7年条約第23号。以下「協定」という。)は、世界貿易機関(WTO)の下で運用されている協定の一つで、各加盟国の中央政府、地方政府及び協定が定める機関による調達の分野における内外無差別原則の確立と手続の透明性等の確保を目的として、各国が遵守すべき調達手続上の義務等を規定している。そして、我が国政府は、「政府調達手続に関する運用指針等について」(平成26年関係省庁申合せ)等を我が国の自主的措置として決定している(以下、協定及び我が国の自主的措置を合わせて「協定等」という。)。また、協定等の対象となる機関が、協定等の対象となる調達契約を締結する場合には、内部規程等に加えて、協定等に基づき事務を行う必要がある。
協定等によれば、貴研究所は、協定の適用対象となる機関とされており、また、物品については、全ての物品の調達を適用対象とすることとされている。そして、物品の調達契約における評価の基礎となる額(予定価格等)は、我が国の政府調達に関する自主的措置により10万SDR(注2)以上の場合が協定等の適用対象となっており(以下、協定等の適用対象となる調達を「特定調達」という。)、その邦貨は、「国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」(昭和55年政令第300号)に基づく告示によれば、26年4月1日から28年3月31日までの間は1300万円(以下、この額を「基準額」という。)とするとされている。
協定の適用対象となる機関は、特定調達を行うに当たり、協定等に基づき、原則として一般競争に付することとなっており、一般競争に付する際には、協定等で定める公告期間を設け、また、契約期間等に関する情報等を官報に公告することなどとなっている。
そして、貴研究所は、協定等を遵守して契約事務を行うため、「政府調達事務取扱要領」(平成13年13要領第14号)を定めており、物品等の調達に当たり、予定価格が基準額以上の物品等の調達契約が特定調達の適用対象となることを定めるとともに、適用対象となる基準額以上となるかどうかは、単価についてその予定価格が定められる場合、当該単価の予定価格に当該調達契約により調達すべき数量を乗じて算定した支払予定総額により判断することなどを定めている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、事務用品等の調達に当たり、協定等や会計規程等に従って契約手続が適正に行われ、公正性及び透明性が確保されているかなどに着眼して、貴研究所が27年度に締結した事務用品等の調達契約(14件、27、28両年度の支払額計20億9650万余円)を対象として、つくば本部において、契約書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴研究所は、インターネットを利用した事務用品等の調達を行う場合、1回当たりの調達額を原則10万円未満に制限していることなどから、概算見積額が100万円を超えておらず、予定価格の作成を省略できるとして、単価の予定価格を作成したり、調達すべき数量を算出したりなどしないまま、前記14件の調達契約について少額を理由とする随意契約によることとしていた。
また、貴研究所は、事務用品等の調達契約を締結するに当たり、企画競争によっていて、貴研究所の財務会計システムと購買サイトとの連携が図られること、研究拠点等に配送可能であること、通常価格からの一定の値引き率が提示できることなどの条件を付し、事務用品等の種類ごとに公募を行うなどして、点数を付けているが、応募した者のうち条件を満たす者が複数ある場合は、最も高い点数の運営業者だけでなく条件を満たす全ての運営業者(事務用品等の種類ごとに2者から4者)と契約を締結していた。そして、購買サイトに登録した研究者等の職員が事務用品等を発注するに当たって、それらの運営業者の中から発注先を任意に選択できることになっていて、購入しようとする品目について各運営業者が提示する価格の比較はしていないため、必ずしも最低価格で当該品目を提供することになる運営業者に対して発注することにはなっていなかった。
しかし、前記のとおり、貴研究所は、会計規程等において、単価契約を締結する場合に予定価格の作成を省略できるかどうかは、単価に調達すべき数量を乗じて算定した概算見積額により判断することとしており、また、随意契約によることができるかどうかや、特定調達の適用対象となる基準額以上となるかどうかは、単価の予定価格に調達すべき数量を乗じて算定した支払予定総額により判断するとしている。
そこで、27年度の事務用品等の調達契約を締結するに当たり、支払予定総額に当たるものとして参考となる前年度(26年度)における事務用品等の契約の支払額をみると、292万余円から2億4017万余円となっており、いずれの契約の額も160万円を超えていて、中には基準額の1300万円を超えているものがあったにもかかわらず、貴研究所は、協定等や会計規程等に基づき予定価格を作成して一般競争に付するなどの契約手続を行っていなかった。現に、14件の事務用品等の調達契約の支払額のうち27、28両年度の2か年分の支払額計20億9650万余円についてみたところ、27年度の各調達契約における支払額は252万余円から2億4291万余円、28年度の各調達契約における支払額は384万余円から2億7399万余円となっており、いずれも160万円を超えていて、中には基準額の1300万円を超えているものも見受けられた。そして、前記14件の調達契約のうち文具・事務用品の調達契約について、支払額が多額な品目の中には、同一規格で大量に購入されていて一般競争に付するなどすれば競争による利益の享受が見込まれるトナーカートリッジ、コピー用紙等の品目が複数見受けられた。
したがって、単価に調達すべき数量を乗じて算定した概算見積額が100万円を超えるときは、単価について予定価格を定めて、これに調達すべき数量を乗ずるなどして契約期間における支払予定総額を算定し、これが160万円を超えたり、基準額の1300万円以上となっていたりしている場合は、協定等や会計規程等に基づき一般競争に付するなどの契約手続を行うべきであった。
(是正改善を必要とする事態)
事務用品等の調達契約において、協定等や会計規程等に基づくことなく、予定価格の作成を省略したり、一般競争に付するなどの契約手続を行っていなかったりしている事態は、契約手続の公正性及び透明性が確保されておらず、競争による利益を十分に享受できないものとなっていて適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴研究所において、事務用品等の調達契約を締結する場合において、契約手続を協定等や会計規程等に基づいて適切に行う必要があることについての担当職員に対する周知徹底が十分でないこと、契約手続の公正性及び透明性を確保することについての必要性の認識が欠けていることなどによると認められる。
貴研究所は、31年4月以降の事務用品等の調達に当たっては、前記のような事務用品等の種類ごとの調達は行わないとしているものの、今後も調達業務の効率化のためにインターネットを利用するなどして事務用品等の調達を行う予定としていることから、これらの調達に当たっては、協定等や会計規程等に基づく適正な契約手続を行って、公正性及び透明性を確保して、競争による利益を十分享受できるようにする必要がある。
ついては、貴研究所において、契約手続を協定等や会計規程等に基づいて適切に行うよう担当職員に周知徹底し、事務用品等の調達契約について、公正性及び透明性を確保して、競争の利益を享受できるよう、同一規格で大量に購入することが見込まれる品目であって単価に調達すべき数量を乗じて算定した概算見積額が100万円を超えるときは、単価について予定価格を定めて、これに調達すべき数量を乗ずるなどして契約期間における支払予定総額を算定し、これが160万円を超える場合は、一般競争に付するなどの協定等や会計規程等に基づく適正な契約手続を行うよう、是正改善の処置を求める。