独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人国際協力機構法(平成14年法律第136号)に基づき開発途上にある海外の地域に対して無償資金協力及び技術協力を行っている。そして、過去に実施した無償資金協力又は技術協力(以下「過去の協力」という。)を通じて整備等した資機材や施設の機能が、予期せぬ自然災害や財政上の理由による維持管理の不備等で損なわれた場合において、本来これらの資機材や施設は過去の協力の相手となった国又は地域(以下「相手国」という。)側の自助努力により機能の回復が行われるべきものであるが、相手国側の努力、工夫にもかかわらず機能の回復が困難な状況が発生したときには、比較的少額の資金を投入することにより、機能の回復を支援することを目的として、フォローアップ協力を実施している。
機構本部は、フォローアップ協力を実施するに当たり、同協力の対象、選定基準、手続等を定めた、フォローアップ協力実施要領(平成25年12月改定。以下「実施要領」という。)を作成している。
実施要領によれば、フォローアップ協力には、同協力の円滑、適正な実施のための計画策定等に関する調査を行う「フォローアップ調査」(以下、同調査による調査結果の報告書を「フォローアップ調査報告書」という。)、過去の協力で整備した資機材に不具合が生じた場合に、修理部品等の供与等を通じて機能の回復を支援する「資機材供与・修理」等の実施種別があるとされている。
また、フォローアップ協力を実施する事業を選定するための基準として、①過去の協力以降の経緯や現状の問題点等が十分に明確であり、追加的な支援である同協力により行うことの妥当性が認められること、②同協力の実施による成果が明確であり、同協力後の持続性も十分見込めること、③自助努力により対応できない理由が明確であることなどとされている。そして、自助努力については、相手国側の自主性を確保するために、相手国側の関係者と十分に協議して相手国側に費用等の相応の負担を求めていくことが望ましいとされている。
フォローアップ協力の実施までの手続は、次のとおりとなっている。
① 機構在外事務所及び支所(以下「在外事務所等」という。)は、相手国政府等からフォローアップ協力の依頼があったなどの場合は、同協力の対象となり得る当該案件について、現時点における状況を把握するなどして同協力の必要性を確認した上で相手国政府等と協議を行い、事業実施機関等へのヒアリング等により内容、概算必要経費等が実施要領に適合しているかを確認して、適合していると認められた場合には同協力を実施する事業として選定を行う。そして、同協力の目的、内容、概算必要経費等を実施要領に定められているフォローアップ協力申請フォーム(以下「申請フォーム」という。)に記載して、機構本部に申請する。
② 機構本部は、申請された事業の内容について、実施要領に適合しているかの審査を行い、適合していると認められた場合にはフォローアップ協力を実施する事業として決定するとともに、担当する業務主管部門を決定する。
③ 業務主管部門は、フォローアップ協力の実施計画書を作成した後、同協力の内容等について、事業実施機関との間で合意した上で同協力を実施する。
(検査及び現地調査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、機構はフォローアップ協力を実施する事業の選定に当たり、同協力後の持続性の有無、自助努力での対応の可否等の確認を十分に行い、同協力の目的に沿って事業を適切に選定しているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、機構本部において、フォローアップ協力の制度等について説明を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、平成22年度から26年度までの間に実施された同協力で支出額が3000万円以上の37か国1地域(注1)の50事業(支出額計43億4020万余円)を対象として、機構から申請フォーム、実施計画書、フォローアップ調査報告書等の書類の提出を受けて、その内容を分析するなどして検査した。また、14か国(注2)に所在する在外事務所等において、22年度から27年度までの間に実施された同協力28事業(支出額計15億5045万余円)を対象として、申請フォーム等によりその内容を分析するなどして検査するとともに、機構の職員の立会いの下に相手国の事業実施機関等の協力が得られた範囲内で、事業実施機関の責任者等から説明を受けたり、事業実施現場の状況を確認したりするなどして現地調査を実施した。これらにより、計47か国1地域の78事業(支出額計58億9066万余円)について会計実地検査又は現地調査を実施した。
(検査及び現地調査の結果)
検査及び現地調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。
機構は、3か国(注3)において過去の協力によって整備された発電設備内のディーゼルエンジン又は医療機材の一部に故障等による不具合が見受けられたことから、フォローアップ協力計3事業(支出額計1億9249万余円)により、ディーゼルエンジン又は医療機材の修理等を行っていた(以下、同協力により修理等を行ったディーゼルエンジン又は医療機材を「対象機器」という。)。
機構は、これらの事業について、対象機器の部品を交換するなどの修理を行うことにより修理後5年から10年程度の使用可能な期間の延長の見込みがあることなどから、実施要領で示されているフォローアップ協力後の持続性が十分見込めることという条件を満たしているとして、同協力を実施する事業として選定していた。
しかし、対象機器については、フォローアップ協力による修理時点で老朽化が進行するなどしていたため、修理の対象外であった部品が故障するなどして、早いもので修理等の翌年に故障して使用できない状況となっており、機構は、同協力後の持続性の有無に関して、対象機器の老朽化の程度、耐用年数等を踏まえた修理後の使用可能な期間についての確認を十分に行っていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
機構は、ミクロネシア連邦において、無償資金協力によって平成6年に整備された発電設備に機能低下が見受けられたことから、機能の回復を目的として、23年度にフォローアップ協力(支出額5950万円)により、発電機を動かすためのディーゼルエンジンの修理を行っていた。
検査及び現地調査を実施したところ、機構は、ディーゼルエンジンの状況を調査した結果、修理を行うことにより修理後10年程度は使用できるとしてフォローアップ協力を実施する事業として選定していた。
しかし、ディーゼルエンジンは、フォローアップ協力による修理時点で設置後17年が経過し、耐用年数の15年を超過するなどしていた。そして、修理の対象外であったディーゼルエンジンの部品の一つであるクランクシャフトが故障したため、修理後3年で、ディーゼルエンジンは稼働を停止していた。
機構は、6か国(注4)において、事業実施機関が保有する医療機材、職業訓練用機材等(以下、これらを合わせて「機材等」という。)のうち、過去の協力によって整備された機材等の一部に故障等による不具合が見受けられたことから、フォローアップ協力計6事業(支出額計3億0298万余円)により修理等を行っていた(以下、同協力により修理等を行った機材等を「対象機材等」という。)。
機構は、これらの事業について、事業実施機関において対象機材等の修理等に係る費用の確保が困難であることから、実施要領で示されている自助努力により対応できないという条件を満たしているとして、フォローアップ協力を実施する事業として選定していた。
しかし、機構は、前記6事業のうち1事業については、フォローアップ調査報告書等により事業実施機関がこの事業に係る費用(支出額計4737万余円)の約9割に相当する額の、対象機材等を含む事業実施機関が保有する全ての機材等を維持管理するための予算(邦貨換算額計4119万余円)を有していることを把握していた。また、機構は、この事業以外の5事業についても同様に事業実施機関が全ての機材等を維持管理するための予算を有していることを把握していたが、これら6事業全てにおいて、自助努力での対応の可否に関して、事業実施機関の維持管理するための予算の中に対象機材等の修理等に充てることが可能な費用を確保しているかの確認を十分に行っていなかった。このため、6事業については、事業実施機関の自助努力により対応できないことの確認が十分に行われないまま、事業実施機関において対象機材等の修理等に係る費用の確保が困難であるとしてフォローアップ協力の対象事業となっていた。
このように、フォローアップ協力を実施する事業の選定に当たり、同協力後の持続性の有無に関して対象機器の老朽化の程度等を踏まえた修理後の使用可能な期間の確認や、事業実施機関による自助努力での対応の可否に関して事業実施機関が全ての機材等を維持管理するための予算の中に対象機材等の修理等に充てることが可能な費用を確保しているかの確認が十分に行われていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構本部において、在外事務所等が行うフォローアップ協力を実施する事業の選定に当たり、同協力後の持続性の有無及び事業実施機関による自助努力での対応の可否を判断するための確認項目や留意点を実施要領に明確に示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構本部は、フォローアップ協力の目的に沿って事業が適切に選定されるよう、29年9月に実施要領を改定して、同協力後の持続性の有無及び事業実施機関による自助努力での対応の可否を判断するための確認項目や留意点を実施要領に具体的に明示するとともに、同月に関係部署及び在外事務所等に対して通知を発して周知徹底を図る処置を講じた。