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  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(2) 円借款の実施に当たり、協力準備調査及び貸付審査時において事業の採算性及び効率性を確認するための指標である内部収益率が、事業分野ごとの費用及び便益の範囲や算出方法等を整理して算出マニュアルを改訂することなどにより、適切に算出されるよう改善させたもの


科目
有償資金協力勘定(平成11年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行 海外経済協力勘定、11年9月30日以前は海外経済協力基金)
部局等
独立行政法人国際協力機構(平成11年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行、11年9月30日以前は海外経済協力基金)本部
内部収益率の概要
円借款の協力準備調査及び貸付審査時に、事業の採算性及び効率性を確認するための指標
検査の対象とした円借款事業の事業数及び貸付実行額の合計
95事業 1兆5531億4308万余円(平成元年度~23年度)
協力準備調査又は事後評価で内部収益率が算出されていない円借款事業の事業数及び貸付実行額(1)
60事業 9548億2949万円(平成5年度~23年度)
内部収益率の算出を誤っていたり、算出結果の妥当性が確認できなかったりなどしていた円借款事業の事業数及び貸付実行額(2)
12事業 3701億6071万円(平成7年度~23年度)
(1)及び(2)の純計
66事業 1兆2262億5939万円(背景金額)

1 円借款の概要等

(1) 円借款の概要

独立行政法人国際協力機構(平成11年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行、11年9月30日以前は海外経済協力基金。以下「機構」という。)は、政府開発援助の一環として、開発途上地域の政府等又は国際機関(以下「被援助国政府等」という。)が実施する事業に対して、資金供与の条件が開発途上地域にとって重い負担にならないように金利、償還期間等について緩やかな条件が付されている資金を被援助国政府等に供与することにより行われる円借款を実施している。

(2) 円借款の採択から貸付実行までの手順等

円借款の対象として被援助国政府等が実施する事業(以下「事業」という。)が採択され、貸付けが実行されるまでの手順は、おおむね次のとおりとなっている。

① 機構は、被援助国政府等の支援ニーズに係る妥当性、有効性等を確認するための調査(以下「協力準備調査」という。)をコンサルタント業者に委託して実施し、協力準備調査報告書を作成する。

② 機構は、協力準備調査報告書等に基づき、貸付審査を行い、事業を実施する必要性が認められれば、案件計画調書を作成して、外務省等に対して審査結果を報告する。

③ 日本政府及び被援助国政府等の間で交換公文を締結するとともに、機構は被援助国政府等との間で、借款契約を締結して、機構から被援助国政府等の機関(以下「実施機関」という。)に対する貸付けが実行される。

また、機構は、事業に対して事業評価である事前評価及び事後評価を実施しており、事後評価については、機構自ら又は第三者に委託することにより実施している(以下、事後評価を行う者を「事後評価者」という。)。

(3) 内部収益率の概要

機構は、事業の採算性及び効率性を測定するための指標として、「円借款事業の内部収益率(IRR)算出マニュアル」(平成19年国際協力銀行作成。以下「算出マニュアル」という。)に基づき、事業範囲等が事前に特定できないなどの事業を除き、内部収益率を算出することとしている。

内部収益率は、事業効果が見込まれる期間(以下「分析期間」という。)に発生するであろう便益の現在価値の総額と費用の現在価値の総額が等しくなるような割引率であり、事業の採算性を測定するために算出される財務的内部収益率(以下「財務的収益率」という。)と、国民経済における資源配分上の効率性の程度を測定するために算出される経済的内部収益率(以下「経済的収益率」という。)とがある。財務的収益率の算出に当たり、費用として計上する項目は、分析期間において発生する事業の建設費、運営費、維持費、修繕費等であり、便益として計上する項目は、事業を実施することにより分析期間に得られる収入となっている。また、経済的収益率の算出に当たり、費用として計上する項目は、分析期間において国民所得を減少させるもの、便益として計上する項目は、分析期間において国民所得を増加させるものとなっていて、例えば、道路を建設する事業の場合には、費用として建設費、運営費、維持費等を、便益として走行時間の削減、交通事故の減少等の事象をそれぞれ金銭価値に換算した額を計上することになっている。

また、算出マニュアルによれば、料金徴収等を通じて単独で事業の採算性の維持・確保が求められている鉄道、空港、港湾等の事業(以下「独立採算型事業」という。)については、財務的収益率と経済的収益率の両方を算出することとされており、一方、単独で事業の採算性の維持・確保が求められていない防災等の事業(以下「非独立採算型事業」という。)については、経済的収益率のみを算出することとされている。さらに、財務的収益率については被援助国の長期金利を上回っていること、経済的収益率については被援助国の社会的割引率(10%~12%)を上回っていることが一般的な投資指標であるとされている。

機構は、協力準備調査時、貸付審査時及び事後評価時の各時点において内部収益率を算出することとしており、貸付審査時においては、協力準備調査等で算出された内部収益率を確認した上で使用している(以下、協力準備調査等で算出されて貸付審査時において確認された内部収益率を「審査時内部収益率」という。)。

(4) 協力準備調査及び貸付審査時における内部収益率の重要性

機構は、協力準備調査を実施する過程で、事業の内部収益率の数値が前記の一般的な投資指標を下回ることが予想された場合には、実施機関やコンサルタント業者と協議を行い、事業内容や対象地域を再検討するなどの事業計画の見直しを行うことにしている。そして、事業計画の見直しを行ったとしても内部収益率の数値が前記の一般的な投資指標を極端に下回るなど事業の採算性や効率性が低いと認められる場合で、これに対して被援助国政府等の適切な措置が期待できず事業の持続性や効率的な実施が見込めないときは、協力準備調査の実施をもって案件を終了し、事業が実施されないこともあるとしている。

そして、機構は、審査時内部収益率を参考に貸付審査を行うこととしており、これにより、原則として、事業の採算性や効率性が見込まれる事業が採択されることになる。したがって、協力準備調査において内部収益率が算出されず、審査時内部収益率を用いた貸付審査がなされない場合には、採択された事業の採算性の正確な把握や効率性の確認が必ずしも十分でなくなる可能性があり、必ずしも効率的ではない事業が採択されるなどするおそれがある。

(5) 事後評価における内部収益率の位置付けについて

機構は、事後評価における内部収益率の算出に当たり、推計値を用いて算出した審査時内部収益率と同一の算出方法及び条件により実績値を用いて再計算することとしており、事後評価者に対して外部事後評価レファレンス(以下「レファレンス」という。)を配布して、その旨を指示している。

また、算出マニュアルによれば、事後評価において内部収益率を算出することにより、貸付審査時において推計値を用いて算出した内部収益率を構成する便益等が事後評価において実績値を用いて算出した便益等とどの点において、どの程度の差異があるかについて把握することで、貸付審査時における推計内容の適切性を評価することが可能となるとされており、ひいては、このような推計内容の整合性の確認を重ねることにより、今後の内部収益率の算出における教訓を得ることも可能となるとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、効率性等の観点から、機構において協力準備調査及び貸付審査を実施するに当たり、内部収益率が算出マニュアル等に従って適切に算出されて事業の採算性及び効率性が確認されているかなどに着眼して会計実地検査を行った。検査に当たっては、会計実地検査を実施した5在外事務所(注1)に係る18年度から28年度までの間に完了するなどした16事業及び機構本部において25年度から27年度までの間に事後評価が実施された事業のうち事業範囲等が事前に特定できないなどの事業を除いた79事業の計95事業(貸付実行額計1兆5531億4308万余円)を対象として、協力準備調査報告書、案件計画調書、事後評価報告書等の関係書類により検査した。

(注1)
5在外事務所  ラオス、インド、スリランカ、ブラジル、ウガンダ各事務所

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた

(1) 協力準備調査及び事後評価における内部収益率の算出状況等

検査の対象とした95事業の協力準備調査及び事後評価における内部収益率の算出状況は、表1のとおり、協力準備調査において、財務的収益率が算出されていないものは14事業(独立採算型事業64事業に占める割合は21.8%)、経済的収益率が算出されていないものは29事業(95事業に占める割合は30.5%)、また、事後評価において、財務的収益率が算出されていないものは12事業(協力準備調査で内部収益率を算出しており、かつ、事後評価を実施している44事業に占める割合は27.2%)、経済的収益率が算出されていないものは25事業(同53事業に占める割合は47.1%)となっていた(注2)。これらの結果、95事業のうち協力準備調査又は事後評価で内部収益率が算出されていない事業は60事業(貸付実行額計9548億2949万余円)となっていた。

(注2)
事後評価における内部収益率の算出割合については、機構は、審査時内部収益率を算出している場合に事後評価時の内部収益率を算出することにしているため、協力準備調査において内部収益率を算出しているもののうち事後評価を実施している事業を対象として算出している。

表1 協力準備調査及び事後評価における内部収益率の算出状況

(単位:事業、%)
事業
区分
事業分野 協力準備調査(A) (A)で内部収益率を算出しており、かつ(B)を実施している事業数 事後評価(B)
事業数 財務的収益率 経済的収益率 財務的収益率 経済的収益率 財務的収益率 経済的収益率
独立採算型事業 有料道路 4 3
(75.0)
1
(25.0)
4
(100.0)
0
(0.0)
3 4 2
(66.6)
1
(33.3)
2
(50.0)
2
(50.0)
鉄道 4 4
(100.0)
0
(0.0)
4
(100.0)
0
(0.0)
4 4 2
(50.0)
2
(50.0)
2
(50.0)
2
(50.0)
電力 24 15
(62.5)
9
(37.5)
12
(50.0)
12
(50.0)
11 5 9
(81.8)
2
(18.1)
1
(20.0)
4
(80.0)
上水道 9 6
(66.6)
3
(33.3)
6
(66.6)
3
(33.3)
4 2 3
(75.0)
1
(25.0)
2
(100.0)
0
(0.0)
下水道 6 6
(100.0)
0
(0.0)
2
(33.3)
4
(66.6)
6 2 4
(66.6)
2
(33.3)
1
(50.0)
1
(50.0)
上下水道 9 9
(100.0)
0
(0.0)
2
(22.2)
7
(77.7)
9 2 8
(88.8)
1
(11.1)
1
(50.0)
1
(50.0)
その他 8 7
(87.5)
1
(12.5)
7
(87.5)
1
(12.5)
7 7 4
(57.1)
3
(42.8)
2
(28.5)
5
(71.4)
小計 64 50
(78.1)
14
(21.8)
37
(57.8)
27
(42.1)
44 26 32
(72.7)
12
(27.2)
11
(42.3)
15
(57.6)
非独立採算型事業 道路 13 13
(100.0)
0
(0.0)
11 7
(63.6)
4
(36.3)
河川 3 2
(66.6)
1
(33.3)
2 2
(100.0)
0
(0.0)
農業 7 6
(85.7)
1
(14.2)
6 3
(50.0)
3
(50.0)
その他 8 8
(100.0)
0
(0.0)
8 5
(62.5)
3
(37.5)
小計 31 29
(93.5)
2
(6.4)
27 17
(62.9)
10
(37.0)
95 50
(78.1)
14
(21.8)
66
(69.4)
29
(30.5)
44 53 32
(72.7)
12
(27.2)
28
(52.8)
25
(47.1)
注(1)
上下水道事業については、上水道事業と下水道事業を合わせて内部収益率を算出している。
注(2)
その他の事業には、独立採算型事業においては、空港、港湾等の事業があり、非独立採算型事業においては、水産、水資源開発等の事業がある。

そして、これらの内部収益率を算出していない理由については、協力準備調査では、内部収益率を算出しない場合の理由を協力準備調査報告書に記載することになっていないことから当該理由を把握できない状況となっていた。一方、事後評価では、内部収益率を算出しない場合は、レファレンスに基づき、事後評価者は算出しない理由を事後評価報告書等に必ず記載することになっており、内部収益率が算出されていない30事業においては、表2のとおりとなっていた。

表2 事後評価において内部収益率を算出していない理由

(単位:事業、%)
事業区分 算出の区分 算出していない事業数 算出していない理由 注(1)
被援助国政府等からのデータ入手が困難 審査時内部収益率の計算式等の根拠が不明 データの定量化が困難 事業内容が算出になじまない 計画と実績が大幅に異なる その他
独立採算型事業 財務的収益率を算出していないもの 12 9 3 0 0 2 3
(75.0) (25.0) (0.0) (0.0) (16.6) (25.0)
経済的収益率を算出していないもの 15 10 3 2 2 2 1
(66.6) (20.0) (13.3) (13.3) (13.3) (6.6)
非独立採算型事業 経済的収益率を算出していないもの 10 8 2 1 0 1 1
(80.0) (20.0) (10.0) (0.0) (10.0) (10.0)
計 注(2) 30 21 6 3 2 4 5
(70.0) (20.0) (10.0) (6.6) (13.3) (16.6)
注(1)
同一事業で算出していない理由が複数あるものがあるため、合計しても算出していない事業数とは一致しない。
注(2)
独立採算型事業において、同一事業で財務的収益率と経済的収益率のどちらも算出していないものがあるため、算出していない事業数を合計しても計とは一致しない。

そして、上記30事業のうち、計画と実績が大幅に異なるためなど内部収益率を算出していない理由が妥当と認められるものを除いて、内部収益率を算出していない主な理由については、次のとおりであった。

ア 被援助国政府等からのデータ入手が困難であるため算出できないとしているもの

被援助国政府等からのデータ入手が困難であるため算出できないとしている事業は、被援助国政府等において、データの提供の必要性を十分認識していないことなどのため、内部収益率の算出に必要なデータを入手することができないものと考えられる。

イ 審査時内部収益率の計算式等の根拠が不明であるため算出できないとしているもの

審査時内部収益率の計算式等の根拠が不明であるため算出できないとしている事業は、機構において算出根拠資料が適切に管理されていなかったことから事後評価者に提出されなかったため、貸付審査時と同じ算出方法で算出することができないとしているものである。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

機構は、スリランカ民主社会主義共和国が、かんがい施設の改修等を通じて、農村の開発復興、貧困削減、持続的な農業開発等に寄与することを目的として実施する農村経済開発復興事業に対して、円借款(貸付実行額59億7874万余円)を実施している。
本事業については、平成12年度に協力準備調査が実施されており、審査時内部収益率は、経済的収益率について、事業費及び維持管理費を費用として、また、かんがい施設の改修に伴う用水の安定的供給による単位面積当たり収穫高の増加及び作付面積の増加による農業収入の増加を便益として、13.7%となっていた。

しかし、協力準備調査から15年が経過した27年度に実施した事後評価においては、審査時内部収益率の算出方法等が不明であったことから、再計算を行うことができないとして内部収益率は算出されていなかった。

ウ データの定量化が困難である又は事業内容が算出になじまないため算出できないとしているもの

データの定量化が困難である又は事業内容が算出になじまないため算出できないとしている事業は、経済的収益率を算出するに当たって必要となる、事業を実施することにより得られる便益の範囲や算出方法等が不明であるため、便益の金銭価値への換算ができないなどとしているものである。これらの事業の中には、同一の事業分野で内部収益率を算出している事業における便益等の範囲の設定や算出方法等を参考にすることで、内部収益率の算出が可能となるものもあると考えられる。

(2) 審査時内部収益率と事後評価時の内部収益率の比較

審査時内部収益率と事後評価時の内部収益率の両方を算出している50事業のうち、事業の規模が大幅に変更になるなどして単純に比較することが困難である7事業を除く43事業について、審査時内部収益率に対する事後評価時の内部収益率の比率についてみたところ、表3のとおり、50%以下のものが、財務的収益率においては9事業(32.1%)、経済的収益率においては3事業(12.5%)となっていた。また、150%超のものが、財務的収益率においては4事業(14.3%)、経済的収益率においては6事業(25.0%)となっていた。このように、事後評価時における内部収益率は、審査時内部収益率と比べて大幅に差異が生じているものも見受けられた。しかし、事後評価において、これら内部収益率の差異を踏まえて、貸付審査時における推計内容が適切であったかの評価に向けて推計内容の分析が実施されているか確認したところ、1事業を除いては実施されていなかった。

また、推計内容の整合性の確認を重ねることにより内部収益率の算出に係る精度を上げるためには、協力準備調査及び事後評価における内部収益率の算出方法について比較する必要があるため、両者の算出根拠資料が必要となる。しかし、機構は、協力準備調査の内部収益率の算出根拠資料については委託するコンサルタント業者に対して提出を求めることにしていたが、事後評価の内部収益率の算出根拠資料については事後評価者に対して提出を求めることとしていなかった。

表3 審査時内部収益率に対する事後評価時の内部収益率の比率

(単位:事業、%)
審査時内部収益率に対する事後評価時の内部収益率の比率 財務的収益率 経済的収益率
貸付審査時と比べた事後評価時の内部収益率の数値 低くなっている事業 0%以下(数値が0又は負) 4 (14.3) 0 (0.0)
0%超50%以下 5 (17.9) 3 (12.5)
50%超100%未満 9 (32.1) 7 (29.2)
小計 18 (64.3) 10 (41.7)
高くなっている事業 100%超150%以下 6 (21.4) 8 (33.3)
150%超200%以下 1 (3.6) 2 (8.3)
200%超 3 (10.7) 4 (16.7)
小計 10 (35.7) 14 (58.3)
28 (100.0) 24 (100.0)
(注)
貸付審査時と事後評価時で内部収益率の数値が一致しているものはない。

(3) 内部収益率の算出誤りなど

検査の対象とした95事業のうち、内部収益率の算出根拠資料が確認できたのは50事業となっていた。そこで、これらの事業について、内部収益率が適切に算出されているか、算出根拠資料で確認したところ、費用の一部が計上されていなかったり、便益が二重に計上されていたりしていたため、内部収益率が本来算出されるべき数値よりも高く算出されているものが2事業、高く算出されている可能性があるものが5事業、データが欠損するなどしていて内部収益率の算出結果の妥当性が確認できなかったものが6事業見受けられた(これらの12事業(純計)に係る貸付実行額計3701億6071万余円)。

このように、協力準備調査及び貸付審査時に内部収益率による事業の採算性及び効率性の確認がされていなかったり、事後評価において貸付審査時における推計内容が適切であったかの評価に向けて推計内容の分析が行われていなかったり、内部収益率の算出を誤るなどしていたりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、機構において、次のことなどによると認められた。

  • ア 協力準備調査において内部収益率が算出されていない理由を把握する仕組みがなかったこと
  • イ 内部収益率の算出に必要なデータの提供に向けた実施機関に対する働きかけが十分でなかったり、協力準備調査において算出された内部収益率の算出根拠資料を事後評価まで適切に管理する体制が整備されていなかったり、内部収益率を事業分野別に分析して算出マニュアルに記載するなど内部収益率の算出が可能となる方策について十分に検討していなかったりしていたこと
  • ウ 事後評価において算出した内部収益率により貸付審査時における推計内容が適切であったかを評価することの重要性に対する認識が欠けていたこと
  • エ 協力準備調査等において算出された内部収益率の検証が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、機構は、29年9月に算出マニュアル等を改訂するなどして、円借款の実施に当たり、協力準備調査及び貸付審査時における事業の採算性及び効率性を確認するために内部収益率を適切に算出することができるよう次のような処置を講じた。

ア 協力準備調査において、内部収益率を算出していない場合は、その理由を案件計画調書に記載することとした。

イ 協力準備調査又は事後評価を実施する際に実施機関から内部収益率の算出に必要なデータを入手することができるよう、協力準備調査又は円借款の実施前に、実施機関と文書等でデータの提供について合意しておくこととしたり、協力準備調査において算出された内部収益率の算出根拠資料を事後評価者に確実に提供するために、当該資料を事後評価が実施されるまで機構において保管することとしたり、過去に算出された内部収益率について、その算出方法等を分析し、事業分野ごとの費用及び便益の範囲や算出方法等を整理するなどして算出マニュアルを改訂し、コンサルタント業者等に周知したりなどした。

ウ レファレンスを改正するなどして、事後評価において、審査時内部収益率の推計内容が適切であったかの評価に向けて推計内容の分析に努めるよう事後評価者に対して指示するとともに、事後評価者から内部収益率の算出根拠資料を提出させることとした。

エ 内部収益率を検証する体制を強化するために、関係部署において、改訂した算出マニュアルに沿って研修を実施するとともに、算出された内部収益率の妥当性を確認するよう周知徹底した。