独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「機構」という。)、北海道旅客鉄道株式会社(以下「JR北海道」という。)及び四国旅客鉄道株式会社(以下「JR四国」という。また、これらの会社を合わせて「2会社」という。)は、新幹線鉄道建設事業又は在来線鉄道施設の防災対策事業として、トンネル坑口部周辺等の法面表層部の崩落や岩盤剥落の防止等を目的とした法面工を多数施工している。
機構及び2会社は、法面工について、「鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物」(国土交通省鉄道局監修、公益財団法人鉄道総合技術研究所編)、「のり枠工の設計・施工指針」(一般社団法人全国特定法面保護協会編。以下「指針」という。)等に基づき、法面の規模・形状、環境条件、施工条件等に応じて張りブロック工、現場吹付法枠工等の工種の中から最も適切な工種を選択することとしている。そして、これらの工種のうち現場吹付法枠工は、法面に型枠を格子状に設置して施工することなどにより法面の形状に合わせて施工することができることから、機構及び2会社では、従来、法面工としてこれを選択して多数施工してきている(参考図1参照)。
機構及び2会社は、現場吹付法枠工の縦枠及び横枠(以下「法枠本体」という。)に囲まれる部分(以下「枠内」という。)に、法面の勾配等を考慮し、雨水、湧水等(以下「雨水等」という。)による浸食や崩落防止等の目的に応じて、モルタル等を吹き付けるなどの工事(以下「中詰工」という。)を施工している。
そして、機構及び2会社は、雨水等が枠内に滞留すると横枠が劣化するおそれがあることなどから、雨水等を速やかに排水すること(以下「枠内排水」という。)を目的として、①横枠の内部に径50㎜程度の塩化ビニル製の水抜きパイプを設置する方式(以下「パイプ方式」という。)又は②横枠の上面に三角形断面となるようモルタルを吹き付ける方式(以下、三角形断面に吹き付けられたモルタルを「水切り」といい、これにより枠内排水を行う方式を「水切り方式」という。)のいずれかを選択して枠内排水の設計を行っている(参考図2参照)。
法枠本体の表面仕上げは、モルタル等を吹き付けて法枠本体を形成した後に、その表面に残った細かな凹凸をコテにより平滑に仕上げる作業であり、指針では、法枠の景観を重視する必要がある場合を除き原則としてこれを行わないこととなっている。
現場吹付法枠工の工事費の積算に当たって機構及び2会社が準用している「国土交通省土木工事標準積算基準書(共通編)」等によれば、法枠本体については、機械経費、労務費及び材料費が一体となって構成されている市場単価により積算することとされている。そして、水切り方式により設計する場合には、法枠本体の市場単価に水切りの工事費を別途加算することとされている。一方、パイプ方式により設計する場合には、枠内排水に必要となる工事費が法枠本体の市場単価に含まれており、別途加算が不要とされている。また、法枠本体の表面仕上げを行う場合は、法枠本体の市場単価に表面仕上げの工事費を別途加算することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、機構及び2会社が実施している現場吹付法枠工について、枠内排水は経済性に配慮して適切に設計されているか、法枠本体の表面仕上げは指針等に沿って適切に設計されているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、機構6支社局等(注)、JR北海道本社及び釧路支社並びにJR四国本社において、平成25年度から28年度までの間に契約した現場吹付法枠工を含むトンネル本体工等の工事(機構25件、契約金額計1015億4242万余円(現場吹付法枠工に係る直接工事費計12億8161万余円)、JR北海道12件、契約金額計48億5230万余円(同計3億7530万余円)、JR四国17件、契約金額計4億5236万余円(同計1億9212万余円))を対象として、設計図書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構及び2会社は、枠内排水の設計においてパイプ方式又は水切り方式いずれを選択すべきかの基準を明確にしていなかった。
そして、検査の対象とした機構25件、JR北海道12件及びJR四国17件の工事における枠内排水の方式をみたところ、表1のとおり、パイプ方式を選択していたものは機構7件及びJR北海道3件、また、水切り方式を選択していたものは機構18件、JR北海道9件及びJR四国17件となっていた。
表1 枠内排水の方式
法人名 | パイプ方式 | 水切り方式 | ||
---|---|---|---|---|
件数 | 現場吹付法枠工に係る直接工事費 | 件数 | 現場吹付法枠工に係る直接工事費 | |
機構 | 7件 | 2億3463万余円 | 18件 | 10億4698万余円 |
JR北海道 | 3件 | 3209万余円 | 9件 | 3億4321万余円 |
JR四国 | ― | ― | 17件 | 1億9212万余円 |
枠内排水の積算について、前記のとおり、水切り方式の場合には、法枠本体の市場単価に水切りの工事費を別途加算することとされているのに対し、パイプ方式の場合には、枠内排水に必要となる工事費が法枠本体の市場単価に含まれていて別途加算が不要であることから、水切り方式よりもパイプ方式の方が経済的な方法である。
また、中詰工にモルタルが用いられる場合は、同様の枠内排水機能を有するパイプ方式を選択したとしても、水抜きパイプが詰まるなどの問題が生じる可能性は低いと考えられる。現に、パイプ方式を選択していた工事についてみたところ、その全てにおいて、問題は生じていなかった。
そこで、水切り方式を選択していた工事に係る中詰工を確認したところ、全ての工事においてモルタルが用いられていたことから、これらの工事についても、水切り方式に代えてパイプ方式を選択して設計することが可能であったと認められた。
検査の対象とした機構25件、JR北海道12件及びJR四国17件の工事のうち、法枠本体の表面仕上げを行っていたものは、表2のとおり、機構11件及びJR北海道4件となっていた。
これらの工事における現場の状況等を確認したところ、いずれの施工箇所もトンネル坑口部周辺等であって、通常、沿線住民等の目に触れる場所ではないことから、指針による法枠の景観を重視する必要がある場合に当たるとは認められず、法枠本体の表面仕上げを行う必要はなかったと認められた。
このように、現場吹付法枠工において、中詰工に水抜きパイプが詰まる可能性が低いモルタルが用いられていたのに枠内排水の設計に水切り方式を選択していた事態及び法枠の景観を重視する場合に当たるとは認められないのに法枠本体の表面仕上げを行っていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた積算額)
枠内排水については、表3のとおり、機構18件、JR北海道9件及びJR四国17件の工事について水切り方式に代えてパイプ方式により設計したとして工事費を積算すると、機構で約3210万円、JR北海道で約210万円、JR四国で約670万円の直接工事費が低減でき、また、法枠本体の表面仕上げについては、表4のとおり、機構11件及びJR北海道4件の工事についてこれを行わなかったものとして工事費を積算すると、機構で約1050万円、JR北海道で約370万円の直接工事費が低減できることから、現場吹付法枠工に係る直接工事費について、機構で計4260万円、JR北海道で計580万円、JR四国で670万円が低減できたと認められた。
表3 枠内排水の方式に係る積算額
法人名 | 件数 | 直接工事費 | (本院修正)直接工事費 | 低減額 |
---|---|---|---|---|
機構 | 18件 | 10億4698万余円 | 10億1487万余円 | 3210万円 |
JR北海道 | 9件 | 3億4321万余円 | 3億4102万余円 | 210万円 |
JR四国 | 17件 | 1億9212万余円 | 1億8537万余円 | 670万円 |
表4 表面仕上げに係る積算額
法人名 | 件数 | 直接工事費 | (本院修正)直接工事費 | 低減額 |
---|---|---|---|---|
機構 | 11件 | 3億7901万余円 | 3億6849万余円 | 1050万円 |
JR北海道 | 4件 | 8023万余円 | 7650万余円 | 370万円 |
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構及び2会社において、現場吹付法枠工の設計について、より経済的な設計方法を明確にしていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は29年3月に各支社局等に対して、JR北海道は同年8月に会社内にそれぞれ通知を発して、枠内排水の設計について、経済性、維持管理等を考慮した上で中詰工にモルタルが用いられる場合はパイプ方式を選択することを基本としたり、法枠本体の表面仕上げについて、法枠の景観を重視する必要がある場合を除き原則として行わないこととしたりするよう、また、JR四国は同年8月に会社内に通知を発して、枠内排水について、経済性、維持管理等を考慮した上で中詰工にモルタルが用いられる場合はパイプ方式を選択することを基本とするよう、周知徹底する処置を講じた。
(参考図1)
現場吹付法枠工の概念図
(参考図2)
枠内排水の設計の概念図